7話
「このっ……!!無駄に多いですよ!!」
蒼空の周りからマギスフィアが展開され、100を超えるであろうヒュージが瞬く間に殲滅されていく。
時は甲州撤退戦、一柳梨璃が白井夢結と出会うきっかけになった……運命的な会戦である。既に『熾天使』として名を馳せていた蒼空は、とある一帯の防衛を1人で担当していた。
「グラトニー!!一つたりとも食べ残しは許しません!!蹂躙を、虐殺を、ヒュージ共に絶望をプレゼントしなさいッ!!」
蒼空の命令口調に、第一世代CHARMとして登録されているグラトニーは、その醜悪な口を惜しげなく開き吠えた。自分の献身で他のリリィの負担が軽くなり、その分民間人の避難が早くなる。その一心で、ヒュージを倒しグラトニーに食わせることでマギを無限に補給し続けている。無論、体を流れるエネルギーを一方通行のように取り込み放出することでその疲労は既に限界を迎えている。顔色を悪くしながらも一心不乱にヒュージを倒している蒼空の姿は、まさしく殿と呼ぶに相応しいだろう。
『$£^〆{※々&€!!!!!!』
「ギガント……級……ですって?こんな時に……!!」
咆哮とも機械音とも呼べる歪な音が大音量で発せられる。その正体はギガント級ヒュージ、仮にも1人で相手をするような相手ではない。
「私は、早く美鈴様と夢結の支援に行かねばというのに……!!」
苦言を呈しながらも逃げるような愚か者ではない。しっかりとグラトニーを構え、美鈴直伝の剣戟を繰り出していく。
触腕をグラトニーで弾き、マギスフィアにて本体を攻撃……否、蹂躙する。
「はぁぁぁぁ!!!!」
ギガント級の片足を砕き、体勢を崩したところでありったけとも言える量のマギを込めたグラトニーで一刀両断。完全に沈黙したヒュージをグラトニーに食わせながらも、際限なくさらに進行してくるミディアム級達を睨みつける。
「ジュリエットへの道を進む、ロミオだと思えば……これくらいの戦闘、なんのこれしきッ!!」
口調とは裏腹に、血の滲んだ唾を下品に吐き捨て突撃を再開した。
◆
「あはははははッ!!消費量より供給量の方が多くなってくるなんて!!ねぇ、グラトニー!!すっっっっごくいい気分ですねっ!!」
戦闘を開始して悠に4時間を超えた。一度も休息を挟むことのなかった蒼空は少し様子がおかしくなってきている。共に戦うグラトニーは無限にやってくる餌に本能剥き出して応戦し続けていた。
「埒が空きませんねぇ!!何か良い方法はないでしょうか!?」
眼前に広がるヒュージはマギで刀身の伸びたグラトニーで、さらに奥に広がるヒュージ達には放物線を描くマギスフィアによる絨毯爆撃で抗戦をしている。これくらいの規模ならば、いつも通りにやればとっくの昔にヒュージ達が後退を開始し始めているはずだ。それほどまでにヒュージ側の損害が大きい、9割方が蒼空の戦果だ。
『こちら最終防衛ライン、防衛軍より入電!!別ルートからヒュージが流れ込んできている!!幸いミドル級までが主戦力であるため我々で防衛可能な状況だが数が多すぎる!!誰かっ、リリィの増援をたのm……ぐぁぁぁぁぁ!?!?!?
「また犠牲者がッ……!!『熾天使』なんて……最高位天使の名までいただいてこの程度だなんて……嫌……嫌ですッ!!」
自分の非力さを嘆く蒼空の心が激情に燃える。自由意志を持つグラトニーですら蒼空の心に影響されて激しい怒りに包まれている。
「私は……
蒼空の許容量を超えるほどのマギが体が空溢れ出す。それらはまるで意思を持つように再び蒼空の体に纏わりつくと、3対6枚の翼となり彼女の背中で顕現した。
『熾天使』
彼女の2つ名を冠する、彼女だけのレアスキル……いや、魔法。それが今発現した。
「すごい!!私、今飛んでる!!憧れの蒼空を、私が!!蒼空が!!飛んでる!!」
飛行タイプのヒュージが一世に逃げ始めた。優位だったはずの自分達の領域に、圧倒的な力を伴った敵が侵入した。その事実だけで全ての飛行方ヒュージが恐怖を抱いた。
「逃げるんですか……?いえ、逃がしませんとも」
『掌握』
『陵辱』
『支配』
『
眼下のヒュージに手を翳し広範囲に手中のマギを散布させ狂わせる。
3つのプロセスを経て、マギを収束させるだけの電池と化したヒュージは蒼空へとマギを送り続ける。そして放たれるは断罪の一撃。天に轟くマギの奔流が、襲いくる全てのヒュージを飲み込み連鎖的に爆ぜる。
戦略級魔法『極光』
後にそう名付けられ、世界中から封印指定されることとなる彼女だけの
「はぁ……はぁ………………ッ、美鈴様!!!!」
焦土と化した大地を見下し、取りこぼしのない事を確認。想定以上の体力を使ってしまい息を整えている最中、弾かれたようにある一点を見つめ飛翔を開始した。
全ては、愛するたった1人のために。
◆
翔ける、翔ける、翔ける……
飛行という慣れないはずのマギ操作を胸にたぎる激情のみで成功させている蒼空だが、その瞳は焦燥で揺れている。『極光』を放った途端、後続がピタリと止んだのだ。
そして先ほどの通信、別ルートからのヒュージが最終防衛ラインにまで達しているという。それからの通信が一切無いため、防衛軍はほぼ全滅したと考えるべきだろうが……その方向には美鈴と夢結がいたはずだ。
「もっと……もっと、もっと速くッ!!」
さらに加速する。Gで体にとんでもない負荷がかかるが無意識にマギで体をコーティングすることでそれを防ぐ。そして、到着した。
「あっ、美鈴様、夢結!!」
上空にいるため2人は蒼空に気づかない。抱き合っているのか2人に距離がとても近く見えるが、距離が開き過ぎてぎりぎり2人であるということしか確認できない。
「ヒュージ……!!今行きます!!」
2人のそばにはギガント級と思われるヒュージが居る。気づいているはずではあるがなぜか2人は反撃しない。
緊急事態であるということにいち早く気づいた蒼空は降下を開始、そしてマギスフィアを展開しようとしたところで……体を守る最低限以外のマギが枯渇した。
「うそっ、こんな時に……きゃっ!?」
降下中の落下で地面に叩きつけられた衝撃で体が凄まじい痛みを発する。体が動かせない。
「うぐっ……美鈴様……………えっ」
痛みに悶えながらも本来の目的を忘れることなく愛する人に視線を向け……絶句する。
「ゆ………ゆ……なに、やって……」
抱き合っていたのかと思っていた。シュッツエンゲルの契りを結んでいる2人なら当然で……仕方のないことだとこんな状況だが嫉妬の感情が生まれたはずだった。
「うそ……そんな……」
では2人の真下に滴る大量の血液は何なのだろうか。ヒュージとの戦闘で傷を負ってしまったのかと思った。しかし……
「あぁ……あぁ……!!」
なぜ、夢結のCHARMが美鈴を貫いているのか。
「グラトニー!!殺せッ!!」
力の限り叫んだ。実際には声が掠れほとんど発声出来ていないだろう。しかし主人の声を聞いたグラトニーは動き出そうし……出来なかった。マギが枯渇しているからである。
「美鈴……様……」
何もできない、『熾天使』などと謳われ、リリィ最強と祭り上げられようが……今この瞬間、何もすることができない。
「ッ……蒼空か。ごめん」
夢結のダインスレイフを奪い、腹から致死量レベルの血液をこぼしながら美鈴は蒼空の側まで歩いてきた。夢結は茫然自失しているようにその場にへたり込んでいる。
「どう……して……」
「ルナティックトランサー」
「っ……夢結が」
「うん、でももう大丈夫。後は……僕があのヒュージを倒すよ」
「その怪我じゃ無理です!!そうだっ、私にエンハンスメントをっ、カリスマをっ……マギさえあればあんなヒュージ、すぐにッ!!」
蒼空の唇が塞がれる。何に?美鈴の顔が近い?キスされているのだと自覚した頃には、もう美鈴は歩き出していた。
「なんでこんな時に……遅いんですよ!!貴女にはもう……シルトがいるじゃないですか……私は、美鈴様と……もっと」
「いくら壊そうとしても……笑って許してくれた蒼空のこと、好きだったよ」
「そんな言葉聞きたくありません!!」
「今から僕はエンハンスメントで強化したユーバーザインで夢結の……御前の記憶を消す。賢い蒼空なら……後のこと任せられるから」
「ッッッ……美鈴様はずるいです」
「それでも、嫌いとは言ってくれないんだね」
「私がどれだけ貴女のことを……想っているのか、知ってるくせに……今更ッ……」
「……夢結には時が来るまで何も伝えないでくれ」
「…………はい」
「じゃあ僕は行くよ。もう……限界が近くてね」
「…はい」
「さよならだ、蒼空」
「はい……お世話に、なりました」
「ああ……グラトニーも元気でね。蒼空のこと、困らせちゃダメだよ?これからは、君だけが蒼空の理解者なんだから」
『……グルゥ』
ほぼ全ての事情を知っている美鈴はグラトニーを優しく諭す。相性の悪い上位カリスマ持つから強気に出れないのか、それともグラトニーが悲しんでいるのか……素直に返事をした。
美鈴は座り込んだ夢結の正面から手を翳し、スキルを発動させた。それが終わると、一度だけ蒼空に振り向き微笑む。
「蒼空」
「ッ……はい」
「君の指輪に誓おう……永遠に愛してる」
それだけ言うと、美鈴はヒュージに向かって跳躍した。
「…………私もッ!!美鈴様……美鈴様あぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
蒼空は、美鈴の最後の一振りを……決して見逃すことなく目に焼き付けた。命の灯火が消えるその瞬間まで……ずっと……ずっと。
甲州撤退戦は、非戦闘員の被害を最小限にとどめ完了した。犠牲になったのは防衛軍の一個大隊、そして……一名のリリィ。
そして……世界最強のリリィが、覚醒する。
◆
川添美鈴の葬式は身近だった人物だけで行われた。最前列には理事長代行、生徒会長の3人を始めシルトの夢結、そして蒼空が並んでいる。
「……では、私はこれで失礼します。理事長代行、例の件……お任せください」
「ああ、このような時で申し訳ない」
「いえ、それが『熾天使』の役目ですので……では」
時計を確認し、蒼空は席を立つ。理事長代行と挨拶を交わし……その場を後にしようとする。
「待って!!」
「……どうしました夢結、葬式の場であまり大きい声を出すものではありませんよ」
「私に……何も聞かないの?」
「さて、今の貴女に話すことは特にありませんが」
「ッ」
誰がどう聞いても言葉がキツい。夢結のルームメイトである秦祀だけはその険悪な雰囲気に耐えられず口を挟もうとしたが……口が開かない。祀が周りを見れば、他の参列者も同じような状況だ。だとすれば犯人は1人しかいない。蒼空だろう。
「半年ほど休学させて頂きます……夢結、次会う時にはもう以前の私ではありません」
「それは、どういう……」
「では、ごきげんよう……さよなら」
「蒼空ッ!!」
夢結が悲痛な顔で蒼空を追いかけようとした。
「『熾天使』」
蒼空の背中から多量のマギが可視化され放出、3対6枚の翼となり空へ羽ばたく。夢結はその風で前に進むことができず、終ぞ蒼空に追いつけなかった。
「ごめんなさい……いや、ごめんね夢結。私は……
高高度に達した蒼空はその場で止まり、眼下に広がる大地と青すぎる空を堪能している。
「貴女と同じ景色を見てみたくなった。だからまずは……喋り方から、次は……在り方を」
そう言うと蒼空は長かった髪をバッサリと切り捨てた。丈はだいたい……美鈴と同じくらいである。
「ローファーは……薄茶色で」
指を鳴らせば、靴が変色した。
「ソックスは……うん、これだったね」
共通点があると嬉しくなった。
「髪色は……いや、美鈴様になりたいわけじゃない」
前髪を触りながらマギを使うのをやめた。
「貴女がくれた指輪に誓おう……永遠に愛してる、美鈴様」
「G.E.H.E.N.Aは嫌いなのに……どうして美鈴様にはリジェネレーターがないんだろうって、たまに考えちゃうんだ」