百合ヶ丘の熾天使   作:ゼノアplus+

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「レギオン結成おめでとう梅」

「ありがとう蒼空。意外だな、『僕との時間が減っちゃうじゃないか!!』とか言うと思ったぞ」

「梅はどうやら僕のことをタラシか何かだと思ってるみたいだね?」

「違うのか!?」

「よし、一度お互いの認識について語り合おうじゃないか。訓練場に行こうか」

「絶対嫌だぞ!!『縮地』」

「そこまで……?」


8話

8話

 

 

「ノインヴェルト戦術の見学?ふぅん……努力してるねぇ」

 

 

久方ぶりの非番となった蒼空は散歩をしていた途中、パラソルを差し優雅に休息を取っていた一柳隊に合流した。

 

話を聞く限り、レギオンとしての結束を固めるためノインヴェルト戦術についてアールヴヘイムの戦闘を見学しようとしているらしい。

 

 

「百合ヶ丘のリリィの癖に、蒼空はノインヴェルト戦術に興味が無いからなー」

 

「えぇ!?そうなんですか!?」

 

「あはは……あの程度の火力なら1人で出来るし」

 

「せ、世界最強の『熾天使』様は言うことが違いますわね……」

 

 

梅の呆れたようなツッコミに、楓は少し引いている。

 

 

「お初にお目にかかります、郭神琳と申します。お会いできて本当に光栄です」

 

「わ、王雨嘉です……!!あのっ、サインお願いしても良いですか!?」

 

「改めまして天宮蒼空だよ。そこまでかしこまられるような人間でもないから。あとサインはどこに書けばいいかな?」

 

「はわっ!?あ、ありがとうございますぅ!!」

 

 

なんか二水ちゃんと似てるなー、と思いつつ蒼空は雨嘉が差し出してきた色紙にペンでサラサラっとサインを書いた。一体どこから色紙を出したのだろうか。

 

 

「安藤鶴紗です。一柳隊に所属してます」

 

「よろしく鶴紗ちゃん。はいこれ連絡先……死にたくなったらいつでも連絡してきてね。これでも何人か、ヴァルハラへと送ってるから」

 

「ッ……なるほど、結構です」

 

 

最後に小声でとんでもないことを言った蒼空だが、鶴紗を思いやってのことだ。ブーステッドリリィとして人工的にスキルを植え付けられている彼女は面倒なスキルを持っている。リジェネレーターという、傷を負った瞬間からそれらが治っていく……というブーステッドスキルだ。もちろん痛みは発生するため無限の地獄を味わう可能性もある。

 

 

「へぇ?……うん、今の君ならそう言うと思ったよ。良かった、幸せそうで」

 

「……お陰様で」

 

 

どうやら鶴紗は蒼空のことが苦手なようだ。目も合わせなくなった。蒼空は自分は猫っぽい子には好かれないなぁ……亜羅椰は別として、などと普通に失礼なことを考えている。

 

 

「あら、ミリアムさんは蒼空様と面識があるんですの?」

 

「儂は百由様の付き添いで何度かの」

 

「今度は僕からお菓子を持っていくさ」

 

「ほほう!!かの『熾天使』様のお土産となれば期待せずにはいられんなぁ!!」

 

 

一通りの顔合わせが終わり特に難なくその場に受け入れられた。

 

 

「二水ちゃんは博識だし問題なさそうだけど、梨璃ちゃんはノインヴェルト戦術についてどれくらい知ってるの?」

 

「さっきお姉様に大体教えて頂きました!!」

 

「おー……ちゃんとシュッツエンゲルしてるんだねぇ夢結。感心感心っ」

 

「褒めてないわね?」

 

「あれ?私今蒼空様に褒められました……?うっ、鼻血が……」

 

 

蒼空から二水への評価は地味に高い。レアスキル『鷹の目』を使いこなしているのもそうだが、高校からの編入生にしては知識量で中等部からいる生徒に劣っていない。これで戦闘スキルも高まれば立派なリリィとなることは間違いないだろうと、考えている。

 

 

「時に、梨璃。貴女レアスキルがなんなのか分かったの?」

 

「え〜……私にレアスキルなんてないんじゃないですか?」

 

「…………」

 

 

ふとした夢結の問いかけに、蒼空は一瞬顔をこわばらせた。推測の域を出ないが……梨璃のレアスキルであろうものは蒼空に対して特効性能があるかも知れないのだから。

 

 

「そろそろ来るみたいだよ?」

 

「「「「「「ッッ」」」」」」

 

 

蒼空の感知範囲にヒュージが現れた。それを一柳隊に伝えれば、今までとは一転真剣な表情で見学に移る。

 

 

「へぇ……レストアのギガント級か。それに小賢しい。強いね」

 

「ああ、押されてるな。アールヴヘイム……」

 

「ええ……それにあの個体、まるでリリィを恐れていないわ」

 

 

蒼空と梅、夢結が戦闘の実況をしている。

 

 

「こりゃ、僕の出番も考えておくべきかな」

 

「蒼空がそこまで言うなんて……」

 

「アールヴヘイムだけでも倒せるさ。今回はノインヴェルト戦術込みだし尚更ね」

 

 

蒼空がそう言った直後、ノインヴェルト戦術が開始されようとしていた。

 

 

「……あのギガント級の傷、見覚えがあるような」

 

「おいおい、それって蒼空が逃したヒュージがいるってことだぞ」

 

「そんなはずは……ないと思うけど……?」

 

 

蒼空が謎の既視感に苛まれている最中、マギスフィアが9人分のパスを成功させ亜羅椰によるフィニッシュショットが放たれた。

 

しかし、それはヒュージのマギ障壁で受け止められることとなる。

 

 

「ッ……総員退避、ここから僕がやる」

 

「蒼空……様?」

 

「ええ、アールヴヘイムが倒しきれないヒュージならば蒼空に任せるべきよ」

 

 

ノインヴェルト戦術を防ぐマギ障壁を展開できるギガント級ヒュージなど、蒼空は初めてみた。故に、危機感を覚え既にその右手にはグラトニーを握っている。

 

蒼空が飛び出そうとした時、天葉が受け止められたマギスフィアに自身のCHARMを叩きつけ無理やり障壁を突破した。結果、目標はきのこ雲を上げながら爆発している……しかし健在。

 

 

「アールヴヘイムの救助を最優先に、ノインヴェルト戦術後の可動でCHARMも限界が来ている……合ってる、二水ちゃん?」

 

「え、あっ、はい!!特に天葉様のCHARMは全損とも言える被害です!!」

 

 

レアスキル『鷹の目』によって視点を上空に飛ばすことができる二水は蒼空の予想を事実へと変えた。

 

 

「ッ!!」

 

「え、梨璃さん!?」

 

 

そして梨璃がCHARMを持って飛び出した。

 

 

「あのヒュージ、まだ動いてます!!黙ってみてたりしたらお姉様に突っつかれちゃいますから!!」

 

「……あの子、夢結に似てきたね。悪い所の影響受けてるんじゃない?」

 

「それでも支えるのが、シュッツエンゲルの役目よ」

 

 

夢結はそれだけ言うと、他のメンバーを伴ってヒュージへと肉薄をしかけに行った。

 

 

「……ほんと、美鈴様の良い影響を受けてるね。さて、救助に向かいますか」

 

 

蒼空も飛び出し、ヒュージに向かった一柳隊の代わりにアールヴヘイムの救助に向かった。

 

 

「やぁ、無事かい?」

 

「……蒼空、なんとかね」

 

「とっておきを使うから早く離脱しよっか」

 

「蒼空様の……とっておき?」

 

 

アールヴヘイムのメンバー全員は同じ場所に居た。蒼空はマギ反応を見て辿り着くと、グラトニーの切先で円を描きマギを込める。

 

 

「さっ、入って」

 

「ちょっと、これ!!」

 

「「「「「「ケイブ!?」」」」」」

 

 

奥の見えないワームホールのような穴、ヒュージの出現方法の一つにこの『ケイブ』と呼ばれる異次元空間を通って現れると言う方法がある。蒼空は人の力でそれを展開した。

 

 

「出口は一柳隊の見学してた場所に繋がってる、時期にここも戦闘領域になるから早く。後これナイショでね」

 

「……はぁ、蒼空のトンデモにいちいち驚くのも疲れたわ。私が先に行くわ」

 

 

天葉は先導し、亜羅椰の殿でアールヴヘイムの退避が完了した。出口を確認すれば全員が異常無く通り過ぎていることも確認できた。

 

 

「一柳隊はっ、『熾天使』」

 

 

翼を広げ大きく跳躍、飛行して戦闘領域に辿り着くと驚くべき光景が広がっていた。

 

 

「真っ二つ…いや、修復しきれていない!?あのアルトラ級が完治させずに送り出すはずが……!!」

 

「蒼空様、どうしたのじゃ!?」

 

「夢結様の動きが止まっちゃいましたぁ!!」

 

 

蒼空はしっかりとヒュージを見て、目を見開いた。見間違えるはずもない……あのヒュージの中心で光を発している物体……ダインスレイフのCHARMだ。

 

 

「ウソだ……まさか、そんな」

 

「蒼空様?どうしたのですか?」

 

「そ、蒼空様……?」

 

 

神琳と雨嘉が蒼空に問いかける。この場にいない夢結と梨璃を除いた全員が、最高戦力であるはずの蒼空の反応を待っている。

 

 

「『掌握』……!!あぁ……アイツ……あの時の……!?」

 

 

右掌をヒュージに向けてマギを練る。

 

 

「間違いなく……美鈴様のマギ反応……仇ッッ!!!!」

 

「「「「「「ッ!?!?!!」」」」」」

 

 

轟音と共に蒼空の姿が掻き消えた。初速でトップスピードをだし飛び出したのだ。一柳隊の面々はその音や突風以上に、普段の蒼空からは分からないようなとても低い声と、憤怒に染まった表情に驚きを隠せなかった。

 

 

「仇って……まさか、あのダインスレイフ、夢結の!?」

 

「梅様、何かご存じで?」

 

「今は説明している暇がない!!早くあの2人を連れ戻すぞ!!」

 

「どう言うことだよ!?」

 

「あのヒュージ、夢結と蒼空が親しかったリリィの仇なんだよ!!蒼空、めちゃくちゃ怒ってる!!巻き込まれるぞ!!蒼空……まさかあれを使うんじゃ」

 

 

蒼空の全力。今まででも相当凄まじい能力を見せていると言うのにこれ以上があるのか、誰しもがそんなことを思ったがあの蒼空だ。底知れぬ何かを秘めていてもおかしくないと全員が悟った。

 

 

 

「グラトニー!!」

 

 

蒼空がヒュージに向かってグラトニーを投げつける。直線的で読みやすいその軌道はヒュージに容易く受け止められグラトニーが弾かれる。

 

 

「マギはあげる、誰にも邪魔をさせるな」

 

 

あらぬ方向に飛んでいったグラトニーは蒼空の言葉を聞くと、待っていたかのようにその場にピタリと停止する。

 

 

「『アルケミートレース』最大出力……完全再現『ブリューナク』」

 

 

蒼空の右腕が鮮血に包まれる。もはや使い物にならないとまで言える出血から生み出されるのは、血の色ではない本物としか思えないような第二世代CHARM『ブリューナク』だ。

 

蒼空は『熾天使』をオフにすると大地に降り立ち、剣を構えた。

 

 

「覚えているだろうヒュージ。この構え……この髪型……この口調……」

 

 

ギリギリと歯が軋む音が聞こえる、誰のだ?自分のだ。ああなるほど、どうやら自分が思っていた以上に復讐心というものを持っていたらしい。

 

 

「楽に死ねると思うなよドブカスがッ」

 

 

狂気が、戦場を支配する。

 

 

 

 

 

 

 

 

「夢結ー、梨璃ー!!無事かー!!」

 

 

梅が先導する一柳隊の面々は、蒼空の指示に従って戦場から離れるため残りの2人を探しにきていた。

 

 

「あっ、梅様!!」

 

「梨璃か!?夢結はどこなんだ、早く離脱するぞ」

 

「そうだ、夢結様を助けてください!!」

 

「どう言う意味だ?まさか別のヒュージが……」

 

「違います!!それが……ッ、きゃっ!?」

 

 

すぐ隣で何かがぶつかった音が聞こえた。それは土煙をあげ何か分からない。

 

 

「総員警戒……ッ!!夢結様!?」

 

「ウッ……アァ……!!」

 

「何か来ます!!離れてぇ!!」

 

 

二水が全力で叫んだことで全員の意識が夢結から回避へと覚醒した。

 

 

ギャリンッ!!

 

 

金属同士のぶつかる音が聞こえる。全員がCHARMを構えながらその正体を見て、驚愕する。

 

 

「CHARM!?」

 

「アァァァァァァァァァ!!!!!!」

 

 

ルナティックトランサーを発動し理性のタガが外れている夢結と打ち合っているものの正体……ひとりでに浮遊している蒼空のグラトニーである。

 

 

「どういうこと……ですの?」

 

「そういえば、リリィは類稀なるマギ保有量と実力を用いればCHARMを浮遊させての戦闘も可能であると聞いたことがあります」

 

「じゃがそれは所詮、理論上可能というだけで実例はないぞ!?」

 

 

楓の疑問に神琳が答え、ミリアムが否定する。しかし目の前で起こっている戦闘はまさしく彼女の言った通りのものとしか思えない。

 

 

「じゃ、じゃあ蒼空様は今CHARM無しで戦っているということ……?」

 

「いえ!!あれは……ブリューナク!?蒼空様は今ブリューナクで戦っています!!」

 

「ブリューナクだって?夢結様は今使ってるし……まさか、『アルケミートレース』?」

 

「蒼空がブーステッドだって言いたいのか?」

 

 

『アルケミートレース』とは人工的に強化されたブーステッドリリィが持つブーステッドスキルの一つだ。自身の血液を媒介にして武器を作り出すスキルだ。

 

鶴紗の呟きに梅が反応した。

 

 

「ブーステッドだから、何が問題が?」

 

「ッ……なんでもない。とりあえず夢結を援護するぞ」

 

「援護って、近寄ったら切られちゃいますよ!?」

 

 

これからの対応を決めあぐねていると、夢結に弾き飛ばされたであろうグラトニーが一柳隊の近くで停止した。

 

 

『…………ケッ』

 

 

 

グラトニーは武器を構えて警戒する8人を一瞥すると、夢結の元に飛んでいった。

 

 

「どういうことだ?」

 

「私達に敵意がない……いえ、敵意がある者を選別して攻撃しているように見えます」

 

「それって、ルナティックトランサーを発動してるお姉様が危ないじゃないですか!?」

 

「蒼空に限って夢結を傷つけることは無いと思うが……」

 

「あのCHARMに協力しましょう!!」

 

 

梨璃の言葉に全員が言葉を失う。何を言っているのか、と。

 

 

「蒼空様が操っているのなら、夢結様を助けようとしてるはずです!!」

 

「そうだとしても、ヒュージと戦闘中の蒼空様は戦闘中じゃ。こっちにまで気を配れるかどうか分からぬぞ」

 

「でもお姉様を止めないと、蒼空様がヒュージとの戦闘に全力が出せません!!」

 

 

梨璃はもう完全にやる気のようだ。

 

 

「梨璃さん、貴女は隊長ですのよ?命令を下さればどんなものでもこなして見せますわ」

 

「楓さん……うん!!お姉様を止めます。命令です!!」

 

 

楓の後押しで梨璃は語気を強くして宣言した。少しの沈黙の後、全員が苦笑しながら武器を構える。

 

 

「命令なら仕方ない」

 

「人使いが荒い隊長よのー」

 

「さて、行きましょうか」

 

「ええ!?私もですか!!……うぅ、頑張ります」

 

「二水は鷹の目で状況を知らせてくれ」

 

「梨璃、行くよっ」

 

「梨璃さんのためにっ!!」

 

 

一柳隊の決意が固まり、夢結とグラトニーの戦闘に参加するためその場を飛び出した。




特型ブーステッドリリィ 1号

保持レアスキル無し

ブーステッドスキル『アルケミートレース』
         『ドレイン』

スキラー数値22

【右腕の破損、及び狂化を確認。処分を執行】削除

廃棄済み試作人工ヒュージ搭載型CHARMとの融合を確認。現在CHARMは欠如した右腕に擬態し共生関係にあると推察される。CHARMによるヒュージの捕食機能の再現に成功、『ドレイン』との相乗効果によるマギ吸収率が格段に上昇。カリスマのレアスキルを保有していないにも関わらず狂化の傾向が見られないため隔離実験室より移動を検討する
実験中に1号が『ケイブ』を発生させ逃走。『ケイブ』から今まで実験用に捕獲していたヒュージが現れ対処している間に1号逃走。百合ヶ丘女学院に保護されたことにより計画は凍結。想定以上の成果だが研究成果のほとんどが『ケイブ』より発生したヒュージによって失われた。幸い1号の遺伝子データとCHARMのゲノムの回収に成功、他所の研究所への送信を実行。

リリィとして戦力外のスキラー数値の低さを外的要因での向上に成功。後天的なレアスキルの発現に期待する。しかし高すぎる能力値を備えた実験体では制御が困難であると推察。よって性能を抑えた()()()計画を提案する。


ーG.E.H.E.N.A研究所跡地より回収された資料ー
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