百合ヶ丘の熾天使   作:ゼノアplus+

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「ふむ……見るに君は『狂化』を意のままに制御できるということだね」

「いえ、どちらかと言えばこれが本来の姿です。私は本来、負のマギを体に巡らせているので通常のリリィのような暖かい光は出ないのです」

「なるほど。普段の姿と戦闘力に差はあるのかい?」

「無いと言ったら嘘になります。普段は普通に見せるためにそれ相応にマギを使いますしこの姿の方がグラトニーの本来の力を引き出せます。むしろ私がグラトニーの足枷かも知れません」

「すごいね、今までですら全力じゃなかったとは。さすが僕の妹分」

「……気持ち悪いでしょう?醜いでしょう?」

「蒼空、君は僕が君のような姿をしていたら気味が悪い?」

「そんなわけありません!!どのような姿をしていても、美鈴様は美鈴様です!!……あっ」

「ふふっ、ありがとう。そういうことだよ。それにね蒼空、僕は君のそれ……好きだよ」


9話

9話

 

 

 

「はぁ……はぁ……ああ、どうしてこんな時に思い出すんだろう」

 

 

美鈴の仇であるギガント級と、蒼空は正面から向き合っている。美鈴のように構え、美鈴のように戦い、美鈴のように()()()()()使()()()。しかし、いややはり限界があった。本来の美鈴の力ならば倒し切れたはずだが、レストアとなり経験を積んだヒュージは強い。

少し離れた場所のグラトニーから一柳隊と協力して夢結を食い止めているとテレパシーで聞いた時は正気を疑った蒼空だが、グラトニーなりに自分を気遣ってくれているのだと理解し内心苦笑を浮かべた。

 

 

「やっぱり……美鈴様のスキルの影響かな。最近、由比ヶ浜ネストの()()()が忙しないと思ってたけど、結局そこに行き着くんだね」

 

 

何度か打ち合いヒュージ側の異常を理解した蒼空は、『アルケミートレース』によって作られたブリューナクを血に戻し体内に納めた。

 

 

「美鈴様の力で、リリィを殺させやしない。グラトニー!!」

 

 

大声を上げずともグラトニーには聞こえている。主人が呼んでいると気づいたグラトニーは、夢結の剣技を弾くと高速で蒼空の手に収まった。

 

 

「君も……アイツには腹が立ってるだろう?いいよ、少し任せる」

 

『!!』

 

 

空気が変わる。

 

 

蒼空からマギが溢れ出し『熾天使』のように可視化されていく。しかしそれはいつもの白く輝くマギではない。

 

青く、蒼く、そして黒く染まった正真正銘の負のマギだ。

 

 

「貴女が好きだと言ってくれた……だから今は自分に誇れるようになった」

 

 

ヒュージを通して美鈴を思い浮かべる蒼空。右目から一筋の涙が溢れ……弾ける。全身に蒼く光るマギの線が浮かび上がり一瞬蒼空が苦痛の表情を浮かべた。

 

それに伴いグラトニーが右腕に沈むように消えていく。完全にグラトニーがその姿を隠した時、右腕が変色し膨張していく。人の肌とは思えない、まるでヒュージのような無機質な物質へと置き換わり大きく開いた手からは醜悪な怪物の口のようなものがピキピキと音を立てながら現れる。制服の右腕部分はとうに破れている。

 

許容量を超えたマギは行き場を探し蒼空の額に2本の角として固形化された。

 

頭の上には蒼く輝くリングが浮かんでいる。

 

 

「うぐぁ…………え、なに?」

 

 

一瞬鈍い痛みが走り右目を抑えた。特に視界に問題はない。念のため鏡を取り出すと右の瞳が黄色に変わっている。

 

 

「……美鈴様と同じ色。嬉しいなぁ」

 

 

蒼空ははしたなくにやけてしまったが直ぐに表情を戻すとヒュージに向き直る。

 

ヒュージは()()()目の前の敵だったはずのモノが同じヒュージの信号を発している事に疑問を覚えた。しかし脅威であった敵が居なくなった。ならば元々の目的を果たせばいい。

再度百合ヶ丘に向かって侵攻を開始したその瞬間。体に衝撃が走り地面に叩きつけられた。

 

 

「逃すわけないじゃないか……ああ、僕をヒュージだと認識してるんだね」

 

 

飛んでいる、いや浮いている。『熾天使』のように翼を出していないにも関わらず蒼空はそこに足場でもあるかのように空中で静止している。

 

 

「『堕天使(ルキフェル)』」

 

 

声高らかに蒼空が宣言する。そして作られるは漆黒の翼。『熾天使』の時のような3対6枚の全身を包み込んでも尚余るような大きさの翼だ。

 

 

「ん?」

 

 

術が完了した直後、右方向から何かが飛んでくる。

 

 

「アアアァアァ!!!!!」

 

「夢結……流石に対人じゃ一柳隊には荷が重いか」

 

 

ルナティックトランサーを発動したままの夢結が突撃してきた。どうやら仲間達の足止めを振り切って来るほどその心は負の面に侵されているらしい。

 

 

「今の僕じゃ劇毒にしかならないしなぁ……」

 

 

夢結の剣を右腕で受け止める。夢結は意識がはっきりしていないのか蒼空を認識出来ず全力を込めているが、蒼空は特に力を入れていない。

 

 

「んー……あっ、没収しようか」

 

 

蒼空はふと思いつき右腕の口で夢結のCHARMを咥えさせると、右翼を丸め腹部を殴打した。衝撃で夢結は力を抜いてしまいCHARMを手放してしまう。そして支えるものがなくなった事で後ろへと吹き飛ばされ、すぐ近くの梅がキャッチした。

 

 

「梨璃ちゃんに任せなよ。きっと……いや絶対なんとかなるから」

 

 

マギに音を載せて一柳隊に声を届けた。もちろん距離が離れているのであちら側からの声は聞こえない。蒼空は夢結から奪ったCHARMを一瞬眺めると同じように一柳隊の近くの地面に突き刺した。

 

 

「この姿じゃ行動がいつもより暴力的になってしまうからね。早く片付けて『熾天使』に戻らせてもらうよ」

 

 

立ち上がったヒュージに右腕を振るう。そしてヒュージの半身が掻き消えた……否、グラトニーに喰われた。グラトニーはギガント級の半身という巨躯を一瞬にして口内に収め満足そうに咀嚼する。これだけ見ればいつもの光景だが今回は規模が違う。

 

 

「美鈴様のマギを感じる……あぁ……お久しゅうございます……!!」

 

 

ふとした瞬間に流れ込んでくる、よく知ったマギ。美鈴のそれが身体中を駆け巡るその感覚は蒼空を身悶えさせるには十分な快感だった。

 

 

「アハァ……おっとと、危なかった。とりあえずダインスレイフだけ回収しないと……って、どこに行った?」

 

 

ヒュージの中心に刺さっていたダインスレイフが見当たらない。ヒュージが半身を失ったため自然に抜け落ち地面に転がっていると思っていたが、どこにもない。

 

 

「蒼空、こんな状況だから詳しく聞かないけど!!これは貰っておくぞ!?」

 

「……梅か、よろしく」

 

 

姿は見えない、しかし何処からか聞こえてきた梅の声に蒼空は安堵した。おそらく『縮地』を使った梅が回収したのだろう。

 

 

「じゃあもういいよね」

 

 

片足を失いバランスを取ることができずヒュージは地に伏せもがくのみ。そんなヒュージに向けて蒼空は右腕を向けた。

 

 

「僕が……他の誰でもなく、この僕がコイツに終止符を打つことで……一つの誓いとしよう」

 

 

口元にマギが収束していく。

 

 

「楽園創造を目指す僕が……君達の楽園を壊そう」

 

 

一切の澱みなく、一切の躊躇なし。ヒュージの危険度など微塵も関係なく全てを滅ぼす最凶の一撃。

 

 

「『失楽園』」

 

 

蒼空の体をゆうに超える極大の閃光がヒュージを飲み込んだ。しかしヒュージは健在し溶けるか溶けないの瀬戸際で音にならない悲鳴をあげている。しかし閃光は止まることを知らず背後の地面を抉り取りながら海まで到達、そのまま大量の海水が蒸発していった。

 

 

「言っただろう?楽に死ねると思うなよ」

 

 

そして耐久力が限界を迎えてきたのかジワジワとその体が崩壊を始める。痛覚でもあるのかさらに大きく声を上げているが蒼空は一才止める気配がない。

 

……やがて発声すら出来なくなったのかヒュージは残った触腕を一度だけ限界まで伸ばし、力尽きた。

 

 

「…………2年」

 

 

シュー、と音と煙を上げながら沈黙する高温のヒュージの上になんてことなく着地した蒼空は小さく呟いた。

 

 

「やっと、仇をとりました」

 

 

感慨深く、そして悲しげに声をあげる蒼空は何処か遠くを見つめていた。

 

 

「蒼空ッ!!」

 

 

一呼吸置いて声が聞こえる。想い人に対して祈っていた最中に声をかけられて少しイラッと来たが、それも『堕天使』の影響……『狂化』を術式として無理やり置き換えた弊害で暴力的な思考になってしまっているから仕方のないことだ。

 

蒼空が声の方を向くと、ルナティックトランサーから解除されたのか正気に戻ったらしい夢結を含めた一柳隊全員が蒼空を心配そうな目で見つめていた。

 

 

「あぁ……戻れたんだね夢結、良かったよ」

 

「えぇ、迷惑をかけたわね」

 

「君のCHARMは……そういえば投げたね。壊れていたらごめんよ」

 

「ッ……ねぇ、貴女……蒼空、なのよね?」

 

 

蒼空が少し冷たげな声で返事を返すと、数瞬空けて夢結から不安げな問いかけが投げかけられた。

 

 

「ふふっ……あははははははっ!!」

 

「「「「「「ッ!?」」」」」」

 

 

右腕……グラトニーとなった腕をヒュージの残骸に叩きつけながら蒼空は大きく笑った。ヒュージの残骸がさらにボロボロと崩れていく。

 

 

「まあ仕方ないか。一応僕が天宮蒼空であることは間違いないよ……こんな見た目だけどもねぇ」

 

「一応……とは?」

 

 

神琳が聞いてきた。CHARMを構えていて、まだ蒼空を警戒しているのがわかる。

 

 

「知っている人なら分かるんだけど、今の僕って『狂化』状態でさ」

 

 

夢結、梨璃、二水を除いた6人が一斉にCHARMを銃形態に変え蒼空へと向けた。『狂化』とはブーステッドリリィが無理な強化を重ねた末にヒュージ細胞側が肉体を侵食してしまう現象のことだ。一時的な狂化なら適切な対処で元に戻す事ができるが、行き過ぎた者はヒュージとして討伐対象にされる。

 

 

「良い反応だ。グラトニー、君もこういう子達なら喰い甲斐があるんじゃないか?」

 

『…………』

 

「グラトニー……!!蒼空様のCHARMの名前のはずじゃが……まさか、独立した意思があるヒュージじゃったのか!?」

 

「ん?ああ、知らなくても仕方がないよ。もうこの子の同族はいないわけだしねぇ……『人工ヒュージ搭載型CHARM』、例によってG.E.H.E.N.Aのオモチャだよ」

 

「なんと……」

 

 

ミリアムが蒼空の発する単語だけで、なんとなくグラトニーとは何かという事を理解し震える。今まで一度も百由に触らせたことがないと本人から聞いていたがそのような真実があったとは夢にも思わなかった。

 

 

「蒼空、今のお前……()()()だ?」

 

「8:2でヒュージかな。別に、普段も6:4くらいでヒュージの割合の方が多いし……今更だよ?」

 

 

衝撃の告白にその場の全員の思考が追いつかなくなった。夢結と梅は今まで仲の良かった筈の蒼空の事情を知り顔を青ざめさせ震えている。既に立っている気力もないようだ。

 

 

「……ブーステッドなんですか」

 

「んー……まあ『アルケミートレース』と『ドレイン』が使えるしブーステッドってことになるのかな」

 

「……『カリスマ』持ち?」

 

「いいや、だから一度『狂化』したよ。地獄みたいな苦しさだったね」

 

「なるほど、だからあの時……」

 

 

鶴紗は聞きたいことを聞き、先程挨拶した時に貰った連作先のことを思い出した。

 

 

「さて、ほかに聞きたいことはあるかい?」

 

「あのっ!!良いですか……?」

 

「梨璃ちゃんか、もちろん」

 

 

夢結の背中をさすっていた梨璃が手をあげ立ち上がる。そして意を決して蒼空に問いかけた。

 

 

「そんな姿になってまで……蒼空様がしたいことって……なんなのでしょうか……」

 

 

徐々に自信なさげに声を窄めていった梨璃だが、その疑問はこの場の全員が抱いていたことでもあった。

 

 

「僕の目的かぁ……難しいね。今この場に関しては、美鈴様の仇であるコイツへの復讐……」

 

「ひぃっ!?」

 

 

ガンッ、と蒼空が足下のヒュージを蹴り付ければ触腕が吹き飛んだ。二水は既に完全に怯えていて大きな物音に過剰に反応してしまう。

 

 

「あ、ごめんよ二水ちゃん。まあ強いていうなら……リリィのために平和な世界を作ること、かな」

 

「そうなんですね。じゃ、じゃあ蒼空様がヒュージとか人とか関係ないと思います!!だって、私達と同じリリィですから!!」

 

「…………ありがとう。その言葉だけで充分嬉しいよ (だから僕は君に一瞬の隙も晒せないんだ、本当にすまないとは思っているさ)」

 

 

梨璃のポジティブな発言にその場の空気が和らいだ。そして蒼空は頃合いを見てちょうど良いと感じ、『堕天使』を解き普段の姿へと戻った。

 

 

「ふぅー、やっぱり疲れるなぁ。あっ、梅〜、後のこと任せて良い?報告とかさ」

 

「……へっ?なんでだ?」

 

「いやー……マギ使いすぎちゃってさ。ちょっと……ムリ」

 

「ちょっ、えっ、蒼空ー!?」

 

 

知る人が見ればバタンキューという表現が1番似合う倒れ込み方で蒼空は気絶していった。いつのまにか蒼空の隣ではCHARM形態のグラトニーが口を大きく開け残ったヒュージの残骸をこっそりと喰らっている。空気を読めるCHARMらしい。

 

その後現場に居合わせた一柳隊は学園からの事情聴取を受けることになり、倒した張本人である蒼空は梅に運ばれて自室のベッドでスヤスヤと寝息を立てていたのだった。

 

 

尚、右目の色は元に戻らなかったらしい。




『堕天使』

天使の輪っか(ブルアカのヘイロー的な)
額から生える2本の蒼い角(左右非対称で右だけ長め)
『熾天使』の2Pカラー翼(黒)
蒼い異形の右腕(ゴッドイーターの神機の捕食形態)
身体中でマギの線を巡らせている(某魔術回路が浮き出ている感じ)


「負のマギ垂れ流しに出来るから解放感があって楽なんだよねー。まっ、おかげで美鈴様と同じ瞳の色になれたしいいこと尽くめだよ」


『失楽園』


負のマギを高密度に収束させ撃ち出すエネルギー砲。今回はジワジワとなぶり殺しにするために火力を抑えていたが、蒼空がその気になれば日本が東西で2分割される。


「物騒な紹介じゃないか。日本程度の面積なら跡形もなく消してみせるよ」
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