境界に立つ者   作:鷹茶

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予感──会敵

キング・オブ・ロックンロールと呼ばれる男、エルヴィス・プレスリー。

 

世界史上最も売れたソロアーティスト

 

1950年代、ロックの黎明期。ロックンロールの創始と普及に貢献した偉大なるアーティストの内の一人であり、結果として六億枚ものレコードを店頭に積み重ね、全てをファンの元に届けた男。

 

────彼は、ロックの王だ

 

ロックンロールという一大ジャンルにおける伝説の一人であり、ロックミュージックの代名詞。

ロックと言えば誰? という言葉に対する回答になり得る人物。

 

誰もが認める本物のロックンローラーだ。

 

だが、もしも、そんな本物を差し置いて"俺こそが真のロックだ!!"などとのたまう人物が現れたら?

それも誰がどう見てもエルヴィスの足元にも及ばない、ロックを汚すような不届き者だとしたらどうだろうか?

 

エルヴィス・プレスリーの熱心な信者(ファン)はそいつを許すことが出来るだろうか?

 

 

 

つまり、私の動機とは、そういうことなのだ。

 

 

◇ ◇

 

 

岩手県立盛岡昭和高校。

 

名前の通り昭和に設立された高等学校で、施設の老朽化と就学人口の減少が理由で廃校になった高校。

解体にも予算がかかるという理由で、未だに解体工事が行われずに放置されている施設だ。

 

放置された学校内部は荒れ果てていた。

時代を感じる木造内装は、ビールの空き缶とタバコの吸い殻が転がっていて汚れている。

床材も捲れあがってしまっていて、その床の上には割れた窓ガラスのガラス片が散乱するという酷い状態で、呪霊が発生するのも無理はないと思わせられる有り様だった。

廃墟と言っていい程荒れ果てた学校というのはおどろおどろしく、ホラースポットとして地元に知られてしまっている程だ。

 

「セんセイ、セんセイ、ヒトでナシ、セんセイ」

「ぐぎゅうウルル、るるウルル」

「テスと、テス、と、アか、アか、テスと」

 

廃校になった経緯も、表向きには生徒不足と老朽化と発表されているが教員が起こした暴行事件とそれが切っ掛けとなった自殺も廃校となった一因だ。

それ故にこんな呪霊共が湧くのだろう。

そして呪霊が湧いたならば対処のために呪術師が派遣される。今回は()と真郷が派遣されたわけだ。

 

「雑魚だな」

「一体だけ二級っぽいけど他は三級以下だな」

「出来損ない共だ。俺が二級を受け持つから他を頼む」

「了解!」

 

真郷が玉犬を呼び、俺は蛇身躍動を発動する。

真郷と玉犬に三級以下を任せ、壊れたレコードのように教員を罵り続ける呪霊に突撃する。

人間をムカデのように長くして、八対の脚を側面に生やした呪霊が多量の毛髪を振り乱して鎌首をもたげ、噛み付きを繰り出してくる。

 

「ヒト、で、ナァシィィィィ!! ァヒァァァ!!」

「黙れ」

 

呪霊の顎をアッパーでかちあげて物理的に黙らせる。

 

不快だ。言動と女性的な見た目から件の自殺した生徒がモデルとなっている呪霊なのだろう。

そう、モデルだ。この呪霊は自殺した女生徒が憎悪と怨念から転じて発生した呪霊ではない。

自殺した女生徒の呪霊はこの高校が廃校となった直後に発生し、既に祓われているからだ。

故にこの呪霊はその事件の噂を元に呪力が寄り集まり生まれた偽物に過ぎない。

 

「漏出した(かす)のような呪力と死者の怨みの真似から出来た紛い物が、烏滸(おこ)がましい!」

 

左手で呪霊の髪を掴んでかちあげた頭を引き戻し、右拳で顔面を殴り付ける。

呪霊も痛みを感じる事が出来る。だから手で顔を庇った隙に髪を引っ張って床に叩きつけた。

 

────足に呪力を込めて振り下ろす。

 

ズシン、と校舎がわずかに揺れる。

呪霊の頭部は床のシミになり、踏みつけた床は陥没してしまった。

加減はしたが古い木造の校舎では仕方ないだろう。どうせ廃校であるのだから倒壊でもさせなければ問題はない。

他の低級呪霊も真郷と玉犬に既に祓われている。楽勝だった。

俺達が成長したというのもあるが、呪霊が弱い。

 

────自ずから発したわけでもない憎しみなんてたかが知れているということだ。

 

この一ヶ月似たような任務をこなして来たが、討伐のスピードが上がり続けている。

そろそろ任務の難度が上方修正される頃合いだろう。

 

しかしそう、一ヶ月。

真郷と初めて出会い、模擬戦を行ったあの日から一ヶ月が経過していた。

 

 

◇ ◇

 

 

「なぁ、店見つかった?」

 

並んで歩いている真郷が横から私のスマホを覗き込んでくる。

廃校の呪霊を祓った後、折角盛岡まで来たのだから名物でも食べようという話になりスマホで調べていたのだ。

 

「この店でいいか? 他じゃ中々体験できそうにない」

「おっ! わんこそばじゃん、流石ぁ。よし、そこにしよう!」

 

何が流石なのかはわからないが、真郷も乗り気のようなのでわんこそばの店へと進路を変える。

 

わんこそばは盛岡の名物だ。給仕さんが一人後ろに付き、お椀の中の一口分の蕎麦を食べる毎に後ろから掛け声とともにどんどん蕎麦が追加されるという形式の蕎麦屋である。

椀に蓋をしてやめるまで食べ放題なので腹を空かせた男子高校生二人が入るにはうってつけの店だろう。

 

「しかしあれな、カナタって呪霊前にするとキャラ変わるよなー、この一月で慣れたけど」

 

今更なことを真郷が言い出した。

初めて一緒に任務をこなした時に殊更に驚いていたのは記憶に新しい。

 

「……前に理由は言っただろう? 呪霊は嫌いなんだよ、見るに堪えない」

「わかってるわかってる、でも呪霊嫌いってだけじゃない感じするぜ? 」

「だけじゃない?」

「だけじゃない」

 

"俺、気づいちゃった"とでも言いたそうなしたり顔で真郷は言った。

 

「カナタはさあ、さっきの二級呪霊が呪いとして雑魚だからってところより、死んだ女生徒を騙ってるところにムカついてるように見えたぜ、"死者を愚弄するな"って感じ、たまに出してるしな」

 

…………言われてみれば、私は時折そういった旨の発言や行動をしている事に思い至った。

意識していたわけではない、呪霊を嫌悪する主な理由は私の信仰が元であるからだ。

だが、呪霊は度々生者だけでなく死者の尊厳まで踏みにじることがある存在だ。そういった時に怒りを発露させていたのは間違いない。

 

「……多分合ってるな。というか、よく気づいたな? 私全然自覚なかったぞ」

「自分じゃわからないけど、他人(ひと)から見たら一発でわかることとかって結構あるじゃん? 割りと分かりやすかったぜ」

「そんなものかもな」

 

素直に感心してしまった。真郷は割りと軽薄に聞こえる話し方をするが、機微に鋭く気の利くタイプの人間だ。

目端が利くというか、そんな人間から見たら私の言動は分かりやすいものだったのかもしれない。

しかし、私はなぜそれに執着するのだろうか? 思い当たる節がない。

 

……いや? なにか大事なことを忘れているような────

 

「おっ、この店? おい、カナター? 早く入ろーぜ」

「っ、ん? あ、あぁ、そうだな。この店だ」

 

僅かな引っ掛かりを覚えて考え込みかけていたが、真郷の声で我に返った。どうやら目的地に到着したらしい。

 

「しっかりしろー? この後大食い対決するんだからさー」

「大食い対決……"勝負"か?」

「当然!」

 

"勝負"は模擬戦を行って以来やっている私と真郷の競い合いの総称で、模擬戦や座学の勝ち負けをカウントしているものだ。……いやそれ以外の競争出来そうなものも結構"勝負"にしてるが。

現状24勝24敗と勝ち負けが拮抗している状態なのでここで一歩リードしたいという魂胆だろう。

しかし、こいつそんなに大食いに自信あるのか? 普段から別に大食いというわけでは無かったと思うのだが。

 

「罰ゲームは?」

「当然アリ、負けた方はここの支払い持つってことで!」

「わかった。ご馳走になるな」

「勝ったつもりは早くね~か~?」

 

くだらない勝負だがやるからには勝つ。他人から見れば馬鹿馬鹿しいのは百も承知だが、やるとなれば楽しくなってきてしまうから不思議なものだ。

真郷に至ってはそもそもくだらないと思っているかも怪しい。テーブルを挟んで対面している真郷は見るからにやる気に溢れている。

 

「蓋をするまで終わりませんからねー、無理せず食べてってくださいな。じゃあ始めますね」

 

店員の言葉を合図に私と真郷の視線が交錯し、戦いの火蓋が切られる。

────必ず、勝つ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふ、ふふふふ、よっしゃーーー!! 俺の勝ち!!」

「くっ、負けた……」

 

必勝の誓いも虚しく私は敗北した。15杯で一人前とされるわんこそばだが、どうにか85杯まで積み重ねたもののそれが私の限界だった。

真郷が積み上げた101の椀の前では私の85杯は無力だったのだ。

 

「このために昼飯抑えて正解だったぜ……」

「お前、任務前にそんなことしてたのか……」

 

馬鹿がいる。やりきった感を出して満足している馬鹿が私の前にいた。

というか、

 

「私がわんこそばにしようと言い出さなければどうしてたんだ?」

「いや、カナタならわんこそばを選ぶと俺は信じてたね」

「どんな信頼だよ」

 

はち切れそうな腹を抱えて、私達は笑った。

 

 

◇ ◇

 

 

────ぱたり、とドアを閉めた。

 

すぐ横の壁にあるカードキースイッチにカードキーを差し込み部屋の明かりを点ける。控えめな光量の明かりが部屋を優しく照らした。

部屋には小さな冷蔵庫と上に置かれた二つのコップ。小さなテレビに、よく寛げそうなイージーチェアが一脚。

そして、シワ一つ無く整えられたシングルベッドが備え付けられていた。

 

落ち着けるいい部屋だ。荷物を置き、そのままベッドに倒れ込むと、スプリングと掛け布団が柔らかく私の体を支える。シャワーを先に浴びるべきだろうが、わんこそばを食べ過ぎたからか今は横になりたい気分だった。

 

「──────ふぅ」

 

一つ息を吐くと、浮わついたような興奮も冷めて奇妙なほどに気持ちが凪いでいた。

身動(みじろ)ぎの際の衣擦れの音がよく聞こえるほど静かだ。

目蓋を閉じて、眠りに就くかのような体勢を取りながら、私は僅かな引っ掛かりを捉えることに集中していた。

 

────忘れていることがある。

 

なにか、とても大切ななにかを私は忘れてしまっているように思った。

真郷の指摘を受けて私の記憶が刺激されたのか、今、私はなにかを思い出そうとしている。

忘れたことさえ忘れているような、そんな、なにかを。

 

そう、それは何時かの記憶、何処かの光景。

 

光届かぬ深く深い、奥の奥。

畳と(ふすま)を幾畳越えて────仰々しくも、秘された御簾(みす)の向こう側。

 

誓いが一つあったハズだ。約束が一つあったハズだ。

 

頭の奥の古びた記憶の引き出しからそれを取り出す。

がんじがらめに引き出しを封じていた、鎖を一つ打ち砕いて。

 

 

 

 

"立派な術師になって、■■■■■■■■"

 

 

 

 

 

…………これ以上のなにかを思い出すことは今の私には出来そうにない。

ただ、幸いにもこの誓いは今行く道を行けば自然と果たすことが出来るものだ。

ならば、いつか次の引き出しを開けることが出来るだろう。

 

呪霊を滅する信仰、期せずして得た友情、忘却した約束。

それらが私の中で渦巻き、力となっていることを認識する。

 

 

────私の心は整頓され、瞑想を行った後のようにすっきりとしていた。

 

整えられた心で想う。約束の存在を思い出したのは偶然ではないと、凪いだ心は鋭敏に、予兆を逃さず感じ取った。

 

────私の肉体と精神が、覚悟を備えようとしている。

 

そしてその予感の正しさを示すかのように、スマートフォンが着信音を鳴らした。

 

「諏訪君、"窓"が盛岡近郊の墓地にて呪霊を観測しました。諏訪二級術師と禅院二級術師、両名にて墓地の調査及び、呪霊の討伐指令が出ましたので、明日から取りかかって頂きたい」

 

 

◇ ◇

 

 

「で、やってきたわけだが、妙じゃねーか?」

「あぁ、変だな」

 

翌日、正午。伊地知さんの連絡にあった墓地へと到着したが、様子がおかしい。

"窓"が呪霊を確認したとの事だったが……

 

「残穢はある、呪力の気配もする。けど、呪霊の気配がねぇ」

「呪霊の気配だけ無いのは異様だな」

 

呪霊の痕跡である残穢が確認出来るにも関わらず、当の呪霊自体の気配が感じられない。

これだけ見るならば呪霊が既に祓われて解決しているようにも見えるが、問題は場に色濃く漂っている呪力だ。

何事もない墓地の外と比較して格段に濃い、今にも呪霊が湧き出しそうな位だ。

 

「呪詛師にしても呪霊が出るような状況は歓迎しないよな、普通」

「普通はな、それが呪詛師にどれだけ通用するかという問題があるが」

 

とりあえず現状の報告と追加の調査は必要だ。最悪撤退も視野に入れなければならないだろう。

伊地知さんに現状の連絡を行い、調査を開始する。

 

「闇より出でて闇より黒く、その穢れを禊ぎ祓え」

 

言の葉を述べ終えると、黒いドームが墓地を覆い隠した。

"(とばり)"、墓地の様子を隠すための結界。

呪霊の気配はなくとも追加で呪霊が発生する恐れのある場所だ。しかも昼間となれば何時一般人が紛れ込むかわかったものではない。呪力を持たない物はこの帳を抜けることが出来ないため、一般人が巻き込まれる事は無いだろう。

相手が呪詛師であればこちらの存在を知らせる悪手とも言えるが、今回は取らざるを得ないリスクだ。

 

「行くぞ」

「応! 【玉犬】、警戒頼むぜ」

 

真郷が玉犬・黒だけを出し、二人と一匹で墓地を進む。

宛てもなく進むわけではない、場の呪力の濃い方に進む。この状況がなんにせよ元凶がいるとすれば呪力の濃い方にいる可能性が高いだろう。

そうして墓地の道なりに呪力の濃い方へと進んでいると、視界の先で呪力が集まり始めた。

集合した呪力は渦を巻きながら一つの形を形成し始める。

 

「ァアあアァあぁぁァ!」

 

呪霊の発生、その瞬間だ。

 

三級程度だろうか、人面を有する蜘蛛のような呪霊が汚らわしい産声を上げてこの世に生まれ落ちてしまった、早急に祓ってしまわなければ。

蛇身躍動による身体強化で一気に呪霊へと距離を詰め────ようとしたが真郷に止められる。

 

「どうした? 真郷」

「玉犬が感知した。呪霊以外にナニカいるぞ」

 

真郷の忠告の直後、木陰から現れたソイツ(・・・)が呪霊に襲いかかった。

 

「ナぁニィ? ナぁにいィ!」

 

 呪霊が困惑の声を上げているが、困惑しているのは俺たちも同じだった。

 

────人間の全身骨格。骸骨が、呪霊を襲っている。

 

現れた骸骨は眼窩に怪しげな光を灯していること以外は通常の全身骨格と大差ないように見える。

しかし、そんな人体標本染みた骸骨が並みの人間よりも遥かに俊敏に動き、三級呪霊とはいえ完全に地面に抑え込んでいるのだ。

さらに、骸骨は組み敷いた呪霊を大口を開けて食らいだした。

 

「呪霊を、食ってる!?」

「……なんだアレは、呪霊を食う骸骨なんてのは聞いたこともないが」

 

様子を窺っている間に骸骨が呪霊の核を食ったのか、呪霊が消滅した。呪霊が死んだのはいい……だが、呪霊を食った骸骨の持つ呪力が目に見えて増している!

 

「食った分だけ呪力を取り込んで強くなるってのか?」

「呪霊がいない理由はアイツのせいか」

「いや、どーもアイツだけじゃないみたいだぜ……?」

 

墓の陰や、付近の林から呪霊を食った骸骨とほとんど同じ骸骨共が次から次へと湧き出てくる。

骸骨共は五十を超えても現れ続け、いまだに数を増やし続けている。

 

「…………ふざけた数だが、どこに隠れていたのやら」

「五十体以上の呪骸(じゅがい)? 随分腕利きな呪詛師がいるみてーだな」

 

 呪骸。呪いを宿した自立する無機物の総称であり、呪いの日本人形のような物がそれに該当するが、今回の場合は人骨に呪いが憑いた形になるだろう。

呪霊を食らう性質に、五十を超える同時起動数。呪詛師の仕業だとすると一級相当か?

懸念はあるが、まずは掃除しなければ始まらないか、詰まないように慎重に立ち回るべきだろう。

 

「真郷、分断されるのが一番不味い、固まって動くぞ。掃除しつつ離脱する」

「呪詛師の目的見えねーのが不穏だけど情報持って帰れないのが一番まずいか、とりあえず引き返そう。戻る道にも湧いてきてっけどな!」

 

 真郷の言う通り、来た道にも骸骨どもが湧いてきていた。いや、むしろそちらのほうが数が多いくらいだ。

 

「……逃がす気ねーな、これ」

「だとしても突破するまでだ。行くぞ!」

「応!」

 

 蛇身躍動を発動して帰り道に立ち塞がる骸骨に殴りかかる。

呪力の濃さを見るに、骸骨の核は頭蓋骨の中だろう。粉砕すべく右ストレートを叩きこむ。が、両腕を差し込まれ両腕の尺骨を砕いて骸骨を吹き飛ばすに留まってしまった。

全力の一撃ではないとはいえ俺の拳に反応して、破壊しきれないとは……

しかも吹き飛ばした骸骨は起き上がるのに支障は無しときている。そんな骸骨が数十体、しかもまだ増え続けている。

 

「これは骨だぞ、真郷」

「カナタがギャグとか珍しくね?」

「ふざけてる場合か! ちょっと荒くなる。フォローを頼む」

「──いいぜ、好きに暴れろよ。全部合わせる」

 

 真郷が影から六尺の棍を取り出して構える。

多少の取り漏らしやミスは真郷がどうにかしてくれる。

俺は短く呼気を吐き出し、呪力を練る。そして蛇身躍動で変貌し鱗に覆われた四肢に呪力を集中する。

構え直した俺に隙があるとでも思ったのか、骸骨が三体突っ込んでくる。

 

─────関係ない。大きく右腕を引き絞り、渾身の裏拳で薙ぎ払う!

一番左の骸骨が腕で防御を試みるが無駄だ。拳に触れたところから骨が砕け散って一切の減速をすることなく三体のしゃれこうべを粉に変えた。

 

「っおおォォ!!」

 

 止まらない。止まる気など無い。

骸骨共の頭部をガードの上から打ち抜き、蹴り砕く。時には骸骨を吹き飛ばして複数体を巻き込みもした。

一撃を重くした結果として隙が大きくなり、巻き込み損ねた個体や仕留め損ねた個体からの反撃に無防備になってしまうが、真郷の棒術が反撃を砕き、玉犬が取り漏らしを噛み砕くことによって事なきを得る。

これでいい。多数に囲まれているときは一体一体の処理に必要な手数は減らさなければ、いずれ物量で磨り潰されるのが目に見えている。

故にすべての敵を一撃で仕留め、蹴散らす事にした。

出口に向かって進撃を続ける。相変わらず骨共が湧き続けているがどれだけの数を用意しているというのか、百は潰したはずだが未だに途切れる気配がない。

だが、このまま行けば撤退は成功するだろう。

これほどの遺骸を弄ぶ呪詛師を放置するのは業腹だが俺たちが倒れれば元も子もなくなってしまう。それだけは避けなければならない。

 

 帳の端が見えるか、というところでついに骸骨共の在庫も尽きたのか、追加で現れることがなくなった。

振り返れば真郷も玉犬もきちんと着いて来ているし、進んできた道には骨が積み重なって骨の道となって────

 

「なん、だと?」

「カナタ?」

 

 振り返り立ち止まってしまった俺の様子に、怪訝な顔をして真郷も後ろを振り返った。

俺たちを追ってきていた骸骨共が骨の道を進んできている。いや、骸骨()ではなくなりつつあった。

骨の道を行くのは複数の骸骨が融合しかけているかのように部分部分が癒着している骸骨塊の異形の怪物だった。

しかも歩く道となった残骸すらも吸収しているのか奴の歩いた後からは一切の骨が消えている。

しかも奴が吸収しているのは骸骨だけではない。新しく発生したであろう呪霊も奴に取り憑くように吸い込まれている。

 

 

 

────呪霊は物に憑いている時が一番安定すると言われている。

 

 この呪骸共は呪霊を取り込むのではなく、取り憑かせるのが本来の形なのではないだろうか?

そもそもこれだけの数の、呪霊を取り込む機能を持つ呪骸を作るというのは現実的な話ではない。

一級術師だとしても並大抵のことでは実現しないだろう。

だが、呪霊が取り憑く器でしかなく、数々の遺骸がただの材料だとしたら? 

そもそも多数の呪骸ではなく、多数の材料を用いて造られた至上の呪骸が材料にした数だけ分け身を作ることが出来るとしたら?

 

 憶測に過ぎない予想が、正しいかのようにそいつらは一つとなった。

 

「──────カ カ カ ッ」

 

 ジワリ、と汗をかいたのを自覚する。真郷はもっとひどい有様だ。汗が吹き出し全身に緊張が走っているのが見て取れた。

俺は御身(・・)を知るがゆえにある程度耐性があるが、そうでない者にとってこちらを嬲るように嗤う強者を前にすれば当然の反応だ。

見上げなければならない程、巨大化した骸骨から非常に強い呪力の圧を感じる──間違いない、特級だ。

 

 特級仮想怨霊。いや──

 

 

 

 

────特級呪慿集骸(とっきゅうじゅひょうしゅうがい) がしゃどくろ

 

 

表情が窺い知れないはずのしゃれこうべと眼窩に納まる不気味な光が、小さな俺たちを確かに嘲笑っていた。

 

 




※ 作中に登場する施設や事件は架空の物であり、実在の施設・事件などとは無関係です。ご了承下さい。
でもわんこそばは楽しいので盛岡行ったらおすすめです。

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