ピッ.......ピッ.......
心電図の音が響く。
ベッドには気を失った蝉時雨が寝ている。
その傍に椅子を置きろんが座っている。
蝉時雨の手を握り、つい先程のユウの事を思い返していた。
彼は、私達を裏切りシバの方についた。
その事実を目の当たりにしたからもう否定することは出来ない。
仲間だった私たちに一切の迷いを見せることなく襲いかかってきた。
........考えれば考えるほど、辛くなる。
均衡を壊す.....?繰り返すだけ......?マトイは......?
次から次へと疑問が浮かぶ。ダメだ。冷静になれない。
「..........大丈夫ですか、ろんさん?」
「.........!」
突然話しかけられ、すぐに我に返る。
「だ、大丈夫ですよ。急に声をかけないでください、フィムさん......。」
「わ、私はずっと声をかけてましたよ......ろんさんがずっと虚ろだっただけで.......。」
セラフィムの言葉にろんは慌てる。
そんな声が聞こえない程に虚ろだったんだ、.......しっかりしろ、私。
「ごめんなさい.....ちょっと......考え込んじゃって........あ、蝉さんの容態はどうなんですか........?」
ろんの問にセラフィムは視線を蝉時雨へ向ける。
「一通りの治療は施しました。時間はかかりますけど、そのうち目を覚ますでしょう。............あと一歩遅れていたら.......。」
その先の言葉をセラフィムは言わなかった。
それでも私は分かっていた。
あと、ほんの少しでもメディカルセンターに到着するのが遅かったら、蝉時雨は死んでいた。
自身の力を解放した一撃を自らがまともに受けてしまったのだから。
...........だけど私はふと疑問に思った。
なんで、ユウは殺意を剥き出しにしていたにも関わらず、私を見逃し、蝉さんを確実に殺さなかったのか。
「............私には分からないよ........ユウ君........。」
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一歩、一歩。
少年は独り、歩みを進める。
閃機種を出現させ、指示を出しアークスの陣形をバラつかせる。
「.......敵だった存在を操るなんて.....おかしな話だよね......マトイ。」
ユウはその手に握られているコートエッジを見つめる。
縁には少し赤く滲んだ跡が付いていた。
「................背後を取っているなら、迷わず攻撃して仕留めた方がいいですよ。............アリシアさん、ALiCiAさん。」
ユウの言葉の通り、彼の背後にはアリシア、ALiCiAが武器を携えて彼の背中を見つめていた。
「........通達された通り、本当に裏切ったんだね。ユウ君......。」
アリシアは彼の背中に向かって話しかける。
ユウはゆっくりと振り返り、2人を見つめた。
「........これが僕の選んだ選択ですから。お2人は何をしに来たんですか?。」
ユウは武器を構えていない。だけど、それでも全くの隙が無かった。
威圧感で圧される。彼から放たれる威圧感はこれまで戦ってきた強敵との間で積み重ねてきたものなのだろう。
それが、今私達に向けられている。
「当然、アナタを止めに来たに決まってるでしょう?」
ALiCiAは携えていたグレンノオオダチをユウに構えた。
「私も同じよ。えりしゃと一緒にあなたを止める。」
アリシアもALiCiAに続き、斬雪を構える。
「..........止めようとしても無駄ですよ。止めるという選択肢は無いです。.........."殺す"か"死ぬ"か、です。」
その言葉の瞬間、ユウは姿を消した。
ミトラやヴァルナ、シバが扱っていたワープ能力。
身構えた瞬間目の前にユウが現れる。
「ッ!」
放たれる重い一撃はALiCiAに向けられていた。
瞬時に受け止める、が、力で少しずつ押されてしまう。
「えりしゃ!!!」
アリシアが地面を蹴り、両手に持つ斬雪をユウに振り下ろす。
ユウはアリシアの方へは振り向かず、片方の手だけをアリシアへ翳した。
瞬間、直前までチャージされていたであろう気弾が放たれる。
「.........ッ......!」
身体の表面に張り巡らせていたフォトンが無かったら致命傷になっていた。
「アリシアさんは......エトワールでしたね。その強固な防御力は少し厄介です。」
ユウは再び姿を消し、今度はアリシアに斬り掛かった。
「だから、まずはあなたから排除します。」
突如として繰り出される怒涛の連撃。
アリシアは両手の武器で防ぐことしかできなかった。
速度が.....速すぎる......!防ぐことで手一杯......だ.......!
「武器にばかり目を向けていると、危ないですよ。」
腹部に強い衝撃を受ける。
視線を向けると、ユウの足が直撃していた。
「かっ.....はっ.....!」
アリシアの身体が後方へ飛ぶ。
目を離しちゃダメだ.....!すぐに次の攻撃がとんで......
予想通り、距離を詰められていた。
ユウがなぎ払う。
攻撃がアリシアに直撃.......する前に、ALiCiAが割って入る。
強い衝撃がぶつかり合い、大気が揺れる。
ユウは一旦距離を取り、後方へ離脱する。
「.........えりしゃ......。」
ダメージが消えないまま、アリシアは立ち上がりながらALiCiAの名前を呼ぶ。
彼女は静かにユウを見つめていた。
「.........ユウ。分かったよ。」
そう言うと、ALiCiAの身体から炎のようなフォトンが吹き荒れる。
「あなたを止めるには........殺すしかないんだね。」
「..........そういう事です。」
「..........じゃあ、分かった。............私は、私たちは、あなたを殺す..........."殺す覚悟"で止める........!あなたのその間違った選択..........私が断絶してやる。」
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同時刻、ナウシズの艦橋に2人の人物がシエラに状況を確認していた。
「......なるほど、ユウがシバに付いたという事実は本当なんだな。」
「通信での伝達があった時は信じなかったけど.....蝉の戦闘履歴の情報を見れば信じるしかないわね。」
まリスとあるふぃは互いに深刻な表情を浮かべていた。
つい前まで一緒にいた存在が今は敵として私達の前に対立する。
この事実はアークス全員が受け入れなくない事だろう。
「今は.....アリシアさんとALiCiAさんが交戦しています。ここで止めることが出来ればいいんですが.......。」
「シバについたから閃機種を操ることが出来る、フォトナーの能力も使える、そして......何よりアークスの情報も知っている。........最悪ね。」
「あぁ、こちらの動きを捉えられてしまうから奇襲をかけることはまず無理だろうな。」
「はい......。ですので、まリスさんとあるふぃさんはナウシズ側の最後の砦です。ですから、最後まで残っていてください.......。」
「随分と期待されてるものね?あるふぃ?」
「この状況で茶化すな、まリス。.......しかし、あの蝉がやられたんだ。私達も.......本気でかからないと........。」
「えぇ。死ぬだろうね。」
2人は険しい表情で、モニターを見つめていた。
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辺りに戦闘音が響き渡る。
それはまるで、悲しみの連鎖を謳っているかのように。
たった独りの少年は放たれる攻撃を受け流し、反撃し、受け止める。
「.......速いですね。」
「それはどうもっ!!」
賞賛の声も即答で、一言で返す程に余裕がない。
距離を空け、気弾で応戦する。
ユウは瞬時にバリアを展開し、防ぐ。
「.......はぁ、はぁ、はぁ。」
こんなに私は全力で戦って息を切らしているのに......ユウは何一つ表情を変えない........。
その時、眩い光が私を包み、切らしていた呼吸が正常に戻る。
「..........ありがとう、アリシア。」
アリシアが使用したオーバードライブのお陰で体力が回復した。
「えりしゃ......ごめん。私はまだ覚悟が出来てなかった。この絶望を断ち切る覚悟が。でも、もう大丈夫。えりしゃの言葉で目が覚めたよ。」
そう言うとアリシアはALiCiAの横に立ち、決意の目をユウに向ける。
「.......アリシア、ユウを止めるには......私たちの気が一気に消えるほどの一撃を浴びせるしかないよ。」
「........うん、もう最初から出し惜しみは無しだね。」
その瞬間、ALiCiAは武器に纏わせていた炎を紫色に、アリシアは斬雪にエッジを装着させる。
ユウはそれを見た後、何も言わずにコートエッジを構えた。
「「行くよ。」」
両者が勢いよく飛び込み、ユウに斬り掛かる。
迫る刃を防ぎ......
その行動をやめ、後方へ距離をとった。
しかし2人は瞬く間にユウとの距離を縮め攻撃する。
自身の周囲にバリアを展開し、解放する。
衝撃波が飛び散り地面を削る。
「................。」
煙が立ち上り視界が悪くなる。
それを利用してALiCiAがユウに急速接近し紫の炎を纏わせたオオダチ、シエンノオオダチを振り下ろす。
激しい衝撃と炎が飛ぶと共にユウはコートエッジで受け止めた。
しかし、背後からアリシアは斬雪に装着されたエッジを1つの大きな剣へと変化させる。
「戻ってきて!!ユウ!!」
アリシアは渾身のフルコネクトをユウに放つ。
その攻撃が当たる直前、ユウの脳裏には.........
(......マトイ。)
強い爆発が起こった。
アリシアは何が起こったのか理解するのに数秒かかった。
「........ッ!」
攻撃が防がれていた。
両手はALiCiAが封じており、あの速度で切り込んだからバリアを展開する時間もない。こちらの攻撃を防ぐ手段は無かったはずだ。
それなのに.......
アリシアはフルコネクトを受け止めているユウを見る。
「.......明錫クラリッサⅢ.......。」
ユウは右手のコートエッジでALiCiAの一撃を。
左手は出現させた明錫クラリッサⅢでアリシアの一撃を防いでいた。
そして、ALiCiA、アリシアの武器は負荷に耐えられずにバキバキと音をたてて壊れていく。
「........は.......はは.........いけたと思った.......のに........こんなに........差があるなん........て...........。」
ALiCiAの身体が崩れていく。
これ以上気を持たせる事は無理と判断し、そのまま地面に倒れた。
「えり.....しゃ......ゴメン......ね........。」
フルコネクトがゆっくりと解除され壊れた斬雪を地面に落とし、アリシア自身も地面に倒れる。
直後、私は見た。
ユウが持つコートエッジ......その縁に付いていた血のようなもの。
恐らく.......は........。
「..........ユウ........君............君は.............バカだなぁ..............。」
瞼が重い。視界が段々と遠のいていく。真っ黒に。染まっ........て.........。
「....................。」
ユウは出現させた明錫クラリッサⅢを少し見つめた後、それをしまう。
「..........この2人を.........殺さないと...........。」
ユウはコートエッジを振り上げ、ALiCiAの命を奪おうとする。
...........が、振り下ろす事ができなかった。
「...........殺さない.......と........ダメなのに...........。」
握っている手が震える。
早くこの2人を殺して、少しでもアークス側の戦力を削がないとダメなのに........なのに、なのに...........。
「.............決めた..........僕は...........決めたんだ.............。」
少年は武器をしまい、両手で顔を隠していた。