シャインナックルさんが世界をぶっ壊してみるテスト 作:偽馬鹿
「もう異変は終わったぁ?」
「ええ、ええ」
彼らグランサイファーの騎空団がその島に辿り着いた時、依頼されていた事件は既に解決していた。
そのことを知らせてきたお婆さんは、にっこりと笑いながら話してくれた。
降り続いていたという雨は止んでいた。
「まあ、いいじゃないか」
少年――グランはそう言う。
誰かが不幸になったわけではない。
そう言って、笑ったのだ。
「でもよぉ」
それに異論を唱えるのはグランの相棒、ビィである。
彼(?)はドラゴン。
そのドラゴンであるビィは、相棒であるグランのセリフを遮って言う。
「依頼を受けたのにこれじゃあ、商売あがったりだろ?」
「うんまあ、そうなんだけどさ」
ビィに反論されて、グランは困ったような顔をする。
実際困っている様子だった。
「お人好しですね……」
「あ、あはは……」
コウの一言に、グランは更に困ったような顔をする。
「そういうところ、嫌いじゃないですけど」
小さく呟く。
誰にも聞こえないくらい小さく。
しかしその声を聴いてた者もいた。
背後に控えていたユエルである。
「コーウ! ツンデレか、ツンデレさんなんか!?」
「うわあああ!?」
べしべしべし。
ユエルがコウの背中を叩く。
「ちょ、やめてくださいよ!?」
「ユエルちゃん、コウ君嫌がってるんやない?」
「嫌よ嫌よも好きの内って言うやない?」
「やめてくださいって言ってますよね!?」
ぐぐぐ、とコウがユエルの腕を掴んで叩くのをやめさせようと頑張っている。
しかし年齢差か、どうしても押されてしまうコウ。
結局べしべしべし。
「そういえば」
サラが紙を片手に、とことことグランに寄っていく。
「これがグランさん宛に届いてました」
「ん?」
『はろー』
手紙には、今回の依頼に関係のある人物について心当たりがあると書かれていた。
「――で、何かしら?」
夜。
どうやら俺達は何者かにつけられていたらしい。
タレイアが言わなければ気付かなかっただろう。
そのことを素直に告げると軽く怒られたが。
「えーっとね、君たちについてきて欲しい所があるんだー」
飄々とした態度のエルーンの男。
エルーンにしては厚着である。
恐らくドランク。
「ふん……回りくどいぞドランク」
きりっとした雰囲気のドラフの女。
その雰囲気に押されがちだがちんまい感じ。
恐らくスツルム。
「じゅるり……おさかな……」
あの食欲に塗れた少女は恐らくオーキス。
俺が釣った焼き魚を狙っているようだ。
「あげません」
「しょんぼり……」
「うるさいわ」
ザクリと頭に剣が刺さる。
痛い。
オーキスの頭にも刺さってる。
痛そう。
「あの、ついてきてくれるかなー?」
「……えっと」
「…………」
困惑している少女。
むすっとしているタレイア。
ぼんやりしている俺。
あ、剣が刺さった。
痛い。
「だ、大丈夫ですか!?」
「大丈夫よ、死なないもの」
脳天に剣ぶっ刺しておいてひどい言いよう。
いやまあ死なないんだが。
身体のどこに攻撃が来ても。
あんまりダメージが入らない身体になっているらしい。
よくわからないが。
少女――ルリアが言うには。
タレイアは未だに星晶獣グラティエの影響下にあるらしい。
ちらりとタレイアの方を見ると、さっと視線をそらした。
どうやら自覚はあったらしい。
そして。
その力がとても強くなり。
タレイアの身体に影響が出てきているという。
具体的には死が近い。
何故そんなことに気付いたのか。
どうやら彼らは俺達がいた島を訪れたらしい。
そこで星晶獣グラティエの痕跡を調べた結果がそれだったとか。
「……なんです?」
「俺は」
「別に、貴方のせいでもなんでもないですよ」
ふん、とでも言いたげなタレイア。
気にしないで欲しいという雰囲気がしている。
なるほど。
気を使ってくれているのか。
「うるさい」
「痛い」
また剣で刺される。
慣れてきた。
タレイアの方も俺への対応に慣れてきたようだが。
とにかく。
俺はタレイアのことをどうにかしたいと思っている。
何故かわからないが。
「……どうして?」
「さあ」
わからないが。
やらなければいけない。
そんな気がしたのだ。
ルリアが言う。
グラティエの影響は強力で。
タレイアだけではどうしようもない。
それと同時に。
ルリアの力だけでも駄目らしい。
だから。
どこかでその力を発散しなければならない。
その相手をしてくれる人を探さないといけない。
そして。
俺はそんな人物に心当たりがあった。
拳を振るう。
蹴りを放つ。
肉体の全てを活性化させて戦う。
そう。
力を発散する相手とは俺だった。
タレイアはルリアの指示のもと。
力をうまく発散しているらしい。
よくわからないが。
具現化したグラティエを相手に、俺は戦っている。
タレイアは人型だった。
というか女の形をしていた。
水晶のように透明な女のマネキンみたいだった。
振り下ろされた剣を手の甲で弾き、反対の拳で殴りかかる。
威力はそれなり。
岩程度なら砕けるはずのそれ。
グラティエに直撃したが、それはまるでダメージにならなかった。
逆に拳が痛い。
そう。
攻撃に転じても無意味に近いのだ。
ただ力を発散する相手になってしまっている。
それでいいのか。
俺は自身に問いかけていた。
それでいいはずだ。
俺はそう思っていた。
余計なことを考えて、タレイアを危険に晒す必要はない、
そう思っていたのだ。
いたのだが。
しかし。
なんかむかつく。
何故タレイアがこんな目に遭うのか。
いや、ついこの間までグラティエの力を乱用してたのだが。
それにしても限度があるのではないかと思った。
「あ……」
なので強く殴る。
グラティエが吹き飛ぶ。
全体重をかけた、謎の一撃。
それがグラティエを襲ったのだった。
どうしてそれがあれだけの威力を発揮するのか。
俺にはよくわからないが。
わからないが、とにかくすっきりした。
そう思ったところで、グラティエが突進してきた。
水を固めた剣による振り下ろしである。
それを腕で受け止めて、力をそのままに受け流して引っ張る。
そして地面へと叩きつける。
グラティエはその身体を一瞬で組み替えて、直立状態に戻る。
そして即座に反撃に出た。
剣をばら撒くように。
俺の方に射出した。
俺はそれをサイドステップで回避する。
移動距離は長い。
全身がかなり揺れた。
まあセーフだが。
そのまま前進。
ダメージとか考えず。
勢いだけで殴りかかる。
ドゴンと轟音。
一撃でグラティエは吹き飛んだ。
ぐちゃりと着地。
グラティエはまた身体を変形させて直立状態に戻った。
またか。
しかし。
他にやりようがない。
俺が魔法使いなら。
どうにかできたりするかもしれないが。
剣を避ける。
放たれる剣は正確性を欠いている。
先程よりも雑に見える。
直撃は避ける。
当然だ。
何が起こるかわからない。
近寄らないと勝ち目がないし。
……いや。
多分遠距離から攻撃できる。
何となくだが。
その場に留まって力を込める。
円を描くように下から上に拳を振るった。
すると風が巻き起こる。
その風は勢いよく突き進み。
グラティエに直撃した。
威力はそこそこだろうか。
俺のパンチとあまり変わらないようだ。
中々使える。
しかし。
グラティエの攻撃が苛烈になった。
遠距離攻撃ができると知ったからか。
先程のように動きを止めて風を飛ばすのは難しい。
ならば普通に接近する。
速度を上げる。
普通のパンチでは勝てない。
しかも。
攻撃の衝撃をグラティエに全てぶつける必要がある。
普通の攻撃では駄目だ。
ならば。
先程覚えた遠距離攻撃を組み合わせる。
破壊力のある一撃を思いついた。
しかし。
やはり接近するしかない。
そうなれば。
確実に強力な一撃を叩き込める。
なので。
今まで使っていない移動方法を見せる。
飛んでくる剣に合わせて前転。
上手く飛び込むことで回避していく。
しかも接近もできる。
一石二鳥だ。
立ち上がった時。
グラティエは焦っているように見えた。
気のせいか。
わからない。
わからないがチャンスだ。
グラティエの懐(?)に潜り込んだ。
そして両手を掲げた。
風を纏った拳を地面に叩きつける。
風が爆発した。
「まあ、一応感謝しておいてあげます」
結果として。
グラティエは沈静化した。
俺の頑張りはちゃんと実ったようだ。
タレイアはそんな俺に感謝をしてくれた。
ちょっとだけ近づけたか。
いや。
近づいてどうだというのか。
よくわからない。
「あの、大丈夫ですか?」
「ああ、問題ない」
タレイアは無傷。
俺は軽傷。
本当に問題ない。
グラティエの力は。
ルリアがほとんど吸収したらしい。
これでタレイアを食いつぶすことはない。
一安心だ。
「あのあの!」
「なにかしら」
ルリアがタレイアに声をかける。
なんとなく必死に見える。
タレイアは嫌そうな声。
何を言うか気付いているのか。
「一緒に旅、しませんか?」
「………………………………」
無言。
タレイアは重い沈黙を返した。
しかも嫌そうな顔。
何かあったのか。
いや。
あったからそんな顔してるんだろうが。
しかし。
一緒に旅をするのは便利だ。
俺とタレイアだけでは色々と厳しい。
俺はともかく。
タレイアは大変だろう。
年頃の女の子が旅するとかきついだろう。
いや。
実は結構な年だったか。
ドスッ。
何か刺された。
「ひとつ言うと」
「ん?」
「わたしは思考が読めるの」
「ん……?」
つまるところ。
……どういうことなのか?
ドスッ。
また刺された。
どうしてなのか。
「……………………………………………一緒に行きます」
「え?」
「一緒に行けばいいんでしょう!」
半ば怒っている様子のタレイア。
まあ切れてる。
切れたナイフだ。
ドスッ。
更に刺される。
そろそろ顔面に隙間がなくなってきた。
「まあ、そろそろどこかに居着くのも悪くないかと思っていたところよ」
「そうか」
それならいいんだが。
なんか言動に違和感があるというか。
気のせいか?
「気のせいよ」
「そうか」
ならいい。
俺も異論はない。
「というわけでお世話になります」
「あ、はい! よろしくお願いしますね!」
というわけで。
俺たちはグランサイファーに乗り込むことになったのだった。