シャインナックルさんが世界をぶっ壊してみるテスト   作:偽馬鹿

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タレイアの近くの話。


近A

「む、むむむ」

 

コウは悩んでいた。

いや、悩まされているというべきか。

 

「んー?」

 

それもこれも、このユエルという人物が原因である。

いや、ソシエとヨウというセットもかなり頭痛の種ではあるが。

 

「なんやー?」

「なんでもないです」

 

ぼーっとしているのか、眠そうな声のユエル。

コウは即座に返事をすると、するりと彼女の腕から抜け出し、外へと出て行った。

 

 

 

「ふぅ……」

 

抜け出したコウはソシエやヨウに見つからないように、忍び足で歩く。

たまには一人になりたい時もある。

そんな感じだ。

 

そもそも、グランサイファーに来るまで、コウは一人だったのだ。

あんまりこういう賑やかな状況に慣れてはいないのだ。

悪くはない、とは思ってはいるが。

 

 

 

「ん……?」

 

甲板の方に行くと、何やら衝撃音が聞こえてきた。

響きからして打撃音だ。

そっと歩いて様子を伺うことにした。

 

 

 

「はああああああああ!!」

「ふっ!」

 

衝撃が奔る。

拳と拳がぶつかり合っていた。

 

激しい拳と、静かな拳。

それが互いに交錯していた。

 

苛烈な拳、精錬された拳。

それが幾度となくぶつかり合う。

 

 

 

「……何が楽しいのかしら」

「!?」

 

コウはその殴り合いに夢中になっていて、すぐ横にいた少女に気付かなかった。

まるで星晶獣のような気配を纏っている少女に、コウは驚いて飛び退いた。

 

「ん?」

 

すると、殴り合いをしていた青年と少年もコウの方を向いた。

どうやら邪魔になってしまったらしい。

コウは謝ると、そそくさとその場を退場するのだった。

 

 

 

「んむ」

 

朝食だ。

ユエルは未だに寝ている様子。

あつあつのご飯ではない。

人によって食事のタイミングは異なるのだ。

冷めても美味しいご飯がベターなのだろう。

 

そんなご飯を、食事当番達は一生懸命作ってくれている。

ありがたい話である。

コウはそう思いながら、いただいたご飯に手を合わせた。

 

「ふむ」

「あ……先程はどうもすみません」

「いや、問題ない」

 

コウは隣に座っていた青年に気付かなかった。

気配を感じなかったのである。

これまで一人で生きてきていたコウには、その気配の薄さに驚いた。

普通の人間であっても存在するであろう気配が、青年からは感じなかったからである。

先程はとても鮮烈な気配を発していたから、更に驚いた。

 

コウは申し訳ない気持ちがあった。

あれは恐らく鍛錬の一環だったのだろう。

それを邪魔したと思ったからである。

 

「別に、気にしなくてもいいのよ」

「っ!?」

 

そして、青年を挟んで向こう側にいた少女にまた驚く。

先程の少女だ。

また気配を感じなかった。

 

「どうせ、勝っていたのはこいつだから」

 

少女は何やら自信満々でそう言い切った。

その姿に、なんとなくソシエのことを自慢するユエルの姿を幻視したコウであった。

 

 

 

少女の名前はタレイア。

グランサイファーにはたくさんの人が集まっている。

そのせいで、コウがあまり顔を合わせない相手も存在する。

目の前の少女もその内の一人だった。

 

「ここまで人が多い騎空団も珍しいですよ」

「そうなの?」

 

タレイアは不思議そうな顔で、コウに聞く。

彼女は最近グランサイファーに乗り込んだらしい。

旅の途中だったらしいが、世間知らずだと先程の青年が言っていた。

 

その青年は少女が放った剣によって串刺しになっていた。

脳天に直撃していたのにダメージを受けた様子はなかった。

なんとも不思議な現象を見たコウだった。

 

 

 

「コーウッ!」

「ぐえっ!?」

 

タレイアと話していたコウは、背後から近づいてきたユエルに気付かなかった。

見事に首に抱き着かれたコウは、その場に押しつぶされた。

 

「もう、ユエルちゃん。またコウ君に抱き着いて」

「えーいいやん。コーウ。コウ! コウー!」

「ううーユエ姉ぇばっかりずるいー!」

 

コウが潰れていると、すすすっと近寄ってくるソシエと、潰れているコウに抱き着こうとするヨウが現れた。

どうやらコウの安息の時間はここまでのようである。

タレイアはその様子を見て、巻き込まれないようにそーっといなくなった。

 

 

 

「ああもう、たまには一人にしてくださいー!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「む、むむむむ」

 

サラは悩んでいた。

タレイアと仲良くなりたいのである。

……なりたいのだが。

 

タレイア本人が人間関係にあまりにも無頓着。

そのせいで、他の人との関わりが全くない状態であった。

唯一彼女と交流があるのが、例の青年くらいであった。

 

その青年も、あまり積極的に他の団員と交流しようとはしない。

唯一交流があるとすれば、ついこの間鍛錬を一緒にしていたフェザーくらいだろうか。

 

 

 

「あのですね」

 

とりあえず、サラはその青年に話を聞いてみることにした。

タレイアは青年には心を許しているような気がする。

そんな気がしたので、何か気を引く材料があるのではないかと思ったのである。

 

「プリンだ」

「え?」

「タレイアはプリンが好きだ」

 

しかし、聞けたのはそれくらいだった。

そもそもこの青年、あまりに人に対する興味が薄い。

タレイアに関する話でなければ、サラに反応してくれなかったのではないかと思わせるほどだった。

 

 

 

それにしても、情報が少な過ぎた。

サラは一応プリンを用意して、タレイアの部屋をノックした。

こうなれば当たって砕けろだ。

グラフォスがいれば平気!

いやもうグラフォスは砂だから粉々なのだが。

 

「……何かしら?」

「あ、あの」

 

タレイアはノックをした直後に出てきた。

まるでノックをする前に気付いていたかのようだった。

 

「め……まあ、入りなさいな」

「う、うん」

 

また面倒臭いって言おうとした。

サラはそう思いながらも、誘われるままにタレイアの部屋へと入っていった。

 

 

 

「うわ」

「……何かしら?」

 

サラは余りにも殺風景な部屋に驚いて声を上げてしまった。

タレイアの声が若干冷えていたように思えた。

 

外に比べてタレイアの部屋は涼しかった。

何か理由があるのかとサラが考えたが、即座に反応があった。

 

「グラティエは涼しい方が楽なのよ」

 

意外だった。

この程度のことなら言わないと思っていたからだ。

それくらい、タレイアは面倒臭がりだと思っていたのである。

 

「思ったより失礼ね、貴女」

「……?」

 

そして、ふと気付く。

サラがまだ口に出していないことに対して、タレイアは反応していた。

 

もしかして。

サラがそう考えると、タレイアは口を押さえた。

失敗した、という顔だ。

 

「……心が読めるの?」

「…………」

 

沈黙は肯定だった。

つまり、先程までの思考はタレイアに筒抜けだったというわけだ。

 

「は、恥ずかしい……!」

 

サラは顔を両手で挟んで座り込んだ。

顔が熱い。

まさか、仲良くなりたいと思ってここに来たことまで知られているのではないか。

そう思った瞬間、しまったと思った。

今心が読めると知ったはずなのに。

 

「め……うん。まあいいわよ」

 

また面倒臭いって言おうとした。

サラは自分の目が据わっているのを自覚した。

 

ふと、サラは自分が持っていたはずのプリンがなくなっていることに気付いた。

落としたのかと思って下を見たが、そんなことはなかった。

というかタレイアが持っていた。

 

「これ、頂いてるわ」

「いつの間に……」

「貴女が落としそうだったから救出したのよ」

 

それはそうなのだけど。

サラはそう思いながら、パクリと食いつくタレイアのことを見ていた。

 

 

 

しかし、羨ましい。

タレイアの持つプリンは特別だ。

デザートが貰えること自体が珍しく、大人が貰えることは希少。

サラが珍しくねだったことで、快く作ってもらえたが、それもあまり回数を重ねることはできないだろう。

 

「……」

「……」

 

サラはじっとタレイアを見る。

プリン。

美味しいのだ。

それを独り占めである。

ずるいのではないか、と思った。

 

「……」

「……」

 

サラがじっと見つめる。

タレイアがそっと視線をずらす。

心が読めるくせに、ずるい。

 

 

 

「……」

「…………貴女も食べる?」

 

勝った。

サラは内心でガッツポーズした。


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