シャインナックルさんが世界をぶっ壊してみるテスト 作:偽馬鹿
……主人公自体が強くなるわけではないんですが。
「うぐぐぐぐ」
唐突な話だが、ベアトリクスは悩んでいた。
最近、グランとあんまり話せていない気がするのだ。
実際のところそんなことはないのだが、彼女はそう感じていた。
「なあ、タレイアはどう思う?」
「……わたしに聞きます?」
ベアトリクスはテーブルに突っ伏しながら、ちょうど向かい合って座っているタレイアに話を聞いてもらっていた。
彼女たちはとある騒動で顔を合わせ、友人になった。
それからというもの、ベアトリクスはゼタがいないときは結構な頻度でタレイアに会いに来るようになったのであった。
「……ん。まあ、そういう時は行動するのみじゃない?」
タレイアはベアトリクスが持ってきた限定品のプリンを食べながら、適当に返事をする。
肉体年齢はともかく、精神年齢はタレイアの方が上だが、実際のところ恋愛関係に関してはそこら辺の少女以下の経験しかないタレイアである。
本当はどうアドバイスしたらいいかわからないというのも真実であった。
「大体、貴女がアプローチしないと、いつまでたっても仲が深まることはないでしょう?」
「うぐっ」
「ああいう朴念仁相手にはストレートな感情表現が有効なんですから」
プリンを食べつつ、タレイアは自身の意見を口にする。
とはいえ、それは恋愛小説の知識なのだが。
恋愛に対しての知識がタレイアよりも乏しいベアトリクスにとっては、ベテランの言葉に聞こえたりする。
「そもそもですよ? あの団長の周りには女性がたくさんいるわけでしょう?」
「そ、そうだな」
「さっさとどうにかならないと、出し抜かれるだけだと思いますよ」
ぱくぱくと、限定品のプリンを食べるタレイア。
一つ目のプリンを食べつくした彼女は、静かに二つ目に手を伸ばし、ベアトリクスに防がれた。
残りはゼタのものだったからだ。
「けち」
「けちじゃない! ……とにかく! どうにかなるってどういう意味だよ!?」
「どうにかって……どうにかですよ。その辺りは頑張りなさいな」
仕方なく、タレイアはベアトリクスとの会話に集中する。
一応先程も集中していたのだが、やはりプリンを食べながらだと気持ちの入り方が違ってくるようで。
「それとも何? あの団長を誰かに取られていいのかしら?」
「それは困る!」
「なら押しの一手よ。その豊満な身体を使って篭絡するなりなんなり」
頑張りなさいな、というセリフは言えなかった。
何故なら、ベアトリクスがタレイアの顔のギリギリまで詰め寄り、大声で叫んだからだ。
「と、ということは! タレイアはあいつと
一瞬、空気が止まる。
叫んだベアトリクスも、その声を至近距離で聞かされていたタレイアも無言。
そして、顔を赤くしたタレイアが口をぱくぱくとさせてから、漸く声を発すした。
「…………だ、誰があんな男と?」
「ん……? あ」
一瞬疑問に思ったベアトリクスだったが、すぐに気付く。
これは反撃のチャンスだと。
「あの男? 私はただあいつって言っただけなんだけどなー」
「うぐ」
「一体誰のことを考えたんだろうなー?」
先程まで動揺したり叫んだりと色々していたベアトリクスとは思えない、にやにやとしたいい顔だった。
タレイアは冷や汗をかいていた。
それはそうだ。
今まで話を聞いていただけなのに、いきなり自身の内情まで聞かれているのだから。
「だ、誰でもないわよ。何を言ってるのかしら」
「ふふーん。そっかーそうだよなー。あれを好きになる奴の気が知れないな―」
「それは言い……あ」
「やっぱりあいつかー。ふーんやっぱりかー」
タレイアは失敗した、という顔をしてベアトリクスを見た。
にんまりとした笑顔のベアトリクスが憎らしい。
タレイアは両手を伸ばしてベアトリクスにつかみかかろうとしたが、ひらりとかわされた。
「どうしようかなー! 言っちゃおうかなー!」
「くっ」
「それともー! 何か手伝ってもらおうかなー!」
形勢逆転だ。
ついさっきまでと力関係が完全に逆転してしまったのである。
恋愛相談を受ける側だったはずが、恋愛関係を弄られる状態に。
「あー! ちゃんと私の作戦に力を貸してくれる人はいないかなー!」
「わかりました! わかりました!!」
「んー? なにかなー?」
「手伝わせてください!!」
勝った……! という顔のベアトリクスと、完敗したと項垂れるタレイア。
TKOである。
「じゃあこうこうこうする感じでさー……」
「………………………まあ、手伝いますけどね」
ちなみに作戦自体はあえなく失敗した。
「タレイアちゃん!」
「ちゃんはやめて」
今日のタレイアは、ナルメアに絡まれて……もとい構われていた。
少し前までこのように関わることはなかったのだが、その少し前に起きた出来事によって妹として扱われるようになってしまったタレイアである。
「タレイアちゃんタレイアちゃん! 何か欲しいものはない? やってみたいことはない? ねぇねぇねぇねぇ!」
「……」
面倒臭い。
タレイアは口に出さずに顔に出した。
しかしそんなことしてもナルメアはタレイアから離れることはなかった。
「もしかして具合が悪いの? お姉さんが看病してあげよっか? おかゆつくってあげるね!」
というかもっと接近してきた。
タレイアは結構うんざいしはじめていた。
「ついてこないで……」
「そんな……! お姉さん悪いことした? 謝るから待って!」
何をしても寄ってくる。
というか距離が近い。
どうしろというのか。
タレイアは他の人間と距離の取り方が違うナルメアへの対応に困っていた。
「タレイアちゃんタレイアちゃん!」
いつの間にか捕まっていた。
タレイアは逃げ出そうとするが、全く歯が立たなかった。
「この間は頑張ったね! いい子いい子してあげるね! プリン買ってあげよっか?」
「……」
タレイアは逃げるのをやめた。
力と時間の無駄だからだ。
決してプリンにつられたわけではない。
ないったらないのだ。
ぐりぐりと頭を撫でられつつ、タレイアは考える。
この状況、あの人に見られたらどうしよう。
完全に子ども扱いだ。
とても困る。
何が困るかと言うと、彼女にもよくわからないのだが。
「タレイア、今日はどうす……」
「……」
「……失礼した」
見られた。
殺すしかない。
タレイアはグラティエの力を引き上げて剣を作り出して撃ち出した。
「こら」
しかし、その剣はナルメアによって止められた。
しかも片手でだ。
ぴくりとも動かない。
「タレイアちゃん! そういうのはいけません! めっ!」
どうやらナルメア的には今の行動はいけないことらしい。
タレイアは不満ではあったが、仕方なくその言葉を受け入れた。
それと一緒に今の状況も。
タレイアはナルメアの膝の上に抱えられて座っているのだ。
「タレイアちゃんタレイアちゃん!」
にこにこと笑うナルメアに、タレイアは内心面倒臭いと思いながらその身を任せていた。
気が付けば。
タレイアは色んな人と仲良くなっていた。
いいことだ。
いいことなのだが。
この場合。
俺はぼっちということになるのではないだろうか。
それはいけないのではないか。
なんというか。
大人として見本となるべきなのではないかと。
思ったり思わなかったりしているわけなのだが。
「ん」
「……ああ、オーキス」
そんなことを考えながら歩いていたら。
オーキスと出くわした。
珍しい。
しかも一人だ。
いつもならドランクとスツルム。
そしてたまに黒騎士が一緒なのだが。
「やっほー」
「やっほー」
ノリが軽い。
助かる話だ。
いつも通りでいいのは楽だ。
しかし。
オーキスが来ているということは。
何かあるかあったということだ。
「何かあったのか?」
聞いてみる。
なんとなく。
深刻なことではないと思ったからだ。
俺でも対処できる気がするという感じ。
「実は」
「実は?」
「……ボコが、育った」
「……ボコって何?」
「オウルキャットだ」
「オウル……え、フクロウ? 猫?」
何故そうなったのか、誰も分からない。
分かるのは、それは梟ではなく、猫でもないこと。
否、強いて言えば猫かもしれない。
大型の鳥と言う人間もいるだろう。
いずれにせよ、人間が語る姿形など星の獣にとって瑣末なことだ。
猫梟は、今日も夜の合間に空を翔け、昼の路地裏に想いを馳せる。
(フレーバーテキスト抜粋)
「え、だから何?」
「それを連れてきた」
タレイアは黒い鎧を着込んだ人物――アポロニアと話していた。
時刻はそこそこ遅い時間。
夜のプリンを食べようとしたところで呼び止められたのだった。
「ルリアは寝ているようだったのでな」
「そこでわたしに声をかけたと……?」
「先日、ペットを預かってもらったと聞いてな」
どうやら先程の太った鳥の話をしているらしい。
それは滞りなく預かり、丁重にお返ししたのであったが。
「あれはどうなったの?」
「親元に返した」
「そう……」
あまり興味もなかったが、それでもなんか安心したタレイア。
親がいるなら一緒の方がいいだろうという、そういう気持ちである。
「で、どうしてまたオウル? キャットが来るわけ?」
タレイアの疑問はもっともだ。
何故そんな謎の生物を連れてくるのか。
そもそもオウルキャットって何なのか。
疑問は尽きない。
すると、アポロニアはまるで苦虫を潰したかのような顔で何かを言おうとする。
というか言いたくなさそうな顔をしている。
しかし、意を決して口を開いた。
「……星晶獣なんだ」
「は……?」
「オウルキャットは、星晶獣なんだ……!」
まるで仇を見るかのような目をしている。
タレイアはそう感じながら、その決死の声を聞いていた。
「というわけで、今日はこの子を預かって欲しい」
「わかった」
そして、そんな状況を知らない青年とオーキスは。
のほほんとした顔でオウルキャットの受け渡しを完了したのだった。