「――ということがあったわけだ」
夜、どこかに出かけたゼロが帰って来て色々と話を聞くことになった。まず悪魔であるグレモリー先輩に接触し、お互いに干渉しないことを約束したらしい。俺としてはいきなりのことでビックリしたが、これで妹たちとの生活が守られるのなら何も言うことはない。
「また任せっきりだったな」
「気にするな。いいか六花、私たちは君との生活を守るためなら何だってやる」
ゼロはスッと近づいてきて抱き着いて来た。
「私だって怖いんだよ。いつ何があるか分からない、それこそ君の身に何かあったらと思うと……」
こんな時、何も力を持っていない自分が惨めに思えてしまう。結局俺は守られるだけの存在、堕天使に襲われた時だってゼロたちが居なければ俺は無残に死んでいただけだ。こうして元気に過ごしていられるのも全部、ゼロたちが居てくれるからだ。
「こら、何を考えているかは敢えて聞かないけど本当に気にしなくていいんだよ」
トンと体を押されて俺はベッドに腰を下ろす形になった。そしてゼロに頭を抱きしめられてそのまま胸元に誘われる。ファイブに次ぐスタイルの良さだからこそ、こういう体勢になるとその大きな胸に挟まれてしまう。本当に恥ずかしい、恥ずかしいけど……とても落ち着くんだ。
「戦いなんてものは力を持つやつに任せればいい……それに、六花だって守ってくれているだろう?」
「え?」
顔を上げてゼロの顔を見た時、彼女はいつになく優しい表情だった。
「私たちの心を守ってくれている。君が傍に居てくれることで、私たちは私たちで在れるんだ」
「……ゼロ」
どうしてかは分からない、ただそうしたかった。
俺はゼロの背に手を回すように抱きしめた。ゼロは強い、いつだってそうだった。けど、こうして抱きしめてしまえば普通の女の子のように小さい。ゼロは……ゼロたちはこの体に、一体どれだけの強さを秘めているのだろう。少しだけしんみりしながら俺はそんなことを思った。
「ふふ、君に抱きしめられると安心するよ。なあもっと強く抱きしめてくれ」
「分かった」
「その代わり、私も思いっきり抱きしめるから」
それから暫くお互いが満足するまで抱きしめ合っていた。そして、ゼロが満足したかと思いきやベッドを背に押し倒される。
「ここまで良い雰囲気で私を部屋に帰らせる気?」
「……あはは、それは出来そうにないか」
「もし帰れって言われたら私は泣いてたぞ」
そうして近づいてくる唇、触れ合うだけのキスから徐々に激しく舌も絡ませ合う。股を擦りつけるように動かし、更に手も下半身に伸びてきた。
「さあ六花、たっぷり愛し合おう」
その問いかけに俺は頷くのだった。
ただ……こうなると明日の朝はまた寝不足になりそうだな。そんな不安を抱きながらも、俺はゼロとの行為に及ぶのだった。
ゼロがグレモリー先輩と話をしたおかげか、悪魔とかそう言った件で俺が呼び出されたりすることはなかった。ただ学園内で目が合ったりすると挨拶をしたり、時間があれば話をする程度にはなった。グレモリー先輩たちは俺との話題に気を遣っているようで申し訳なくなるけれど。
そんな風に時間が過ぎていくと、ふとワンがこんなことを口にした。
「学園……ですか。少し気になりますね」
妹たちはその性質上学園に通うことは……どうにかすれば出来たのかもしれないが、色々と問題があるだろうとして見送ったことでもあった。よくよく考えれば幼いころから一緒に生活してきて、ワンが学園に関して気にしたのはこれが初めてのような気がする。
学園に通うことは出来なくても、どうにか一緒に歩けたりはしないだろうか……そう思ってグレモリー先輩に言ってみるとこんな返答が。
『あら、それならいいモノを用意してあげる』
笑顔で渡されたのは駒王学園の女子生徒が着る制服だ。しかも特殊な魔法が施されているとかで、普通の人にはワンがそこに居るのが当たり前のように認識される代物らしい。だから学園の生徒ではないワンが歩いていても違和感はないそうだ。
「ど、どうでしょうか兄様」
目の前でクルッとスカートを揺らして回ったワンに俺は少し見惚れてしまった。ワンの私服でも大層な美少女ぶりだが、こうして制服を着ているというのは不思議な感覚と共にワンの魅力がこれでもかと溢れている。普段のワンは凛々しくはあるけれど、こうして制服を着ていると本当に年相応の女の子にしか見えない。
「可愛いよ凄く」
「……うぅ」
頬を赤らめて俯いてしまった……可愛いかよ。
ゼロはゲラゲラとお腹を抱えて笑い、トウとフォウにファイブは羨ましそうに、反対にスリイは興味はなさそうだった。
ワンを連れて外に出て学園に向かう。一度帰って来てから今からまた戻るのも変な感覚だけど、ワンに学園がどのような場所か体験してもらえると思えば悪くはない。学園に向かう中、ワンはスカートが気になるのかしきりに視線を動かしている。
「普段スカートは穿きませんから気になりますね」
「……あぁ」
普段のワンはスカートなんて全く穿かないからな。そもそもがあまり露出の多い服装を好まないのもあってワンは基本ピシっとした服装だから。
「……兄様、腕をよろしいですか?」
頷くとワンは腕を組んでくる。
こうして制服姿のワンと歩いていると……まあ普通の人は特に何も思わないんだろうけど学生同士のデートにでも見えるのだろうか。
「……もしかしたら、こうして学校に一緒に行ったりする世界があったりしてな」
「それは……とても素敵ですね」
ないものねだり、というわけではないが俺たちが生きているのはこの世界だ。……とはいえ、ワンが一緒に学校に通えるのだとしたら色んな意味で大変そうだな。
「きっとモテるんだろうなぁ。毎日告白とかされたりして」
「だとしたらその方々には申し訳ないですね。私は兄様を愛していますから」
それで俺が嫉妬の目で見られたり……あるのかなぁ。
ワンと笑顔で談笑しながら歩いていくといよいよ学園が見えてきた。部活動をする人の声が響き渡る中、ワンはキョロキョロと辺りを見回す。
いつもより若干子供っぽいその反応に苦笑してしまう。それから校舎に入ってもやっぱり誰もワンを気にした様子はない。ワンが試しにこんにちはと声を掛けても挨拶が返ってくるだけ、凄いな魔法。
「……あ」
「?」
ワンが目を留めたのは音楽室のピアノだった。
「触ってみる?」
「いいのですか?」
特に何も言われないだろうし俺は頷いた。音楽室に足を踏み入れたワンはピアノへ一直線に向かう。そして触ってみて、一つずつ音を鳴らしていく。
「……すぅ」
そして音を奏でだした。
……そう言えばワンは基本何でも出来る子だ。文武両道とでも言うのだろうか、おそらく今弾いているモノに曲名なんて存在しないだろう。ただワンの思う音を奏でている……不思議なことに、ちゃんと音と音が繋がっていて聞いていて気持ちがいい。俺は暫くの間、ワンが奏でる音を目を瞑って聞いていた。
「……兄様?」
「……お?」
いつの間にか終わっていたようだ。傍に来ていたワンに声を掛けられ我に返った。
「……凄いなワンは。思わず聞きほれてたよ」
「ふふ、思うがままに音を出していただけですけど」
だからこそ凄いと思うんだけどな。
それから向かった先はいつも俺が居る教室、ワンは俺の席に座って大きく息を吸う。
「ここが兄様がいつも勉強されている場所なのですね。……不思議な感覚です」
指先で机をなぞりながら目を瞑ってこの場所の空気を堪能しているようだ。そんなワンを眺めながら俺も微笑ましい気持ちになる。そんな中、俺は教室の隅に何かが落ちているのを見つけた。それはどうやら学生手帳で、申し訳ないが誰の物か確認するために中を見る。
「……なんだ、兵藤のか」
この学生手帳は兵藤の物だった。
もうクラスに居ないのは当たり前だが……もしかしたらオカルト研究部の部室に行けば居るか?
「兄様、それは?」
「あぁ。兵藤……グレモリー先輩の部活に入ってるやつだ」
「悪魔のですか」
ま、ゼロから話を聞いてるしワンも知ってるか。
このまま机に突っ込んでおいてもいいのだが、流石に学生手帳はそれなりに大切な物になる。なら直接渡した方がいいだろう。校舎から出てオカルト研究部の部室に向かう中、俺は段々とワンの表情が硬くなっていくことに気づいた。
「ワン?」
「兄様、何か大勢いるようです。気を付けましょう」
まあ何かあったとしてもこれを渡すだけだから問題ないさ。
部室の前に立ち、コンコンとノックをしてもすぐには出てこない。暫くして扉が開くと、姿を現したのは姫島先輩だった。
「あら、神里君……それに」
ワンを見て一瞬驚いたように目を見開いたが、すぐにどんな用件かを聞いてきたので兵藤に学生手帳を持ってきたことを伝えてもらった。
「俺に? ……あ、すまねえ神里。落としてたのか」
「あぁ、机に突っ込んどいても良かったんだけど大事なもんだからな」
「サンキューな! ……って誰だその美少女は!?」
おい、耳元で声を出すな耳がキーンとしたぞ。
ワンを見た兵藤の反応はまあ予想できたものだった。ワンはぺこりと頭を下げるだけで特に反応することはない。別に見るつもりではなかったが、こうして兵藤を言葉を交わすと少しではあるが向こうの光景が見えるわけで。グレモリー先輩とは別に、中央に居る時代遅れのホストみたいな恰好をしている男とその男を取り巻くように女が多数いた。
「……じゃあ帰るわ俺」
「あぁ……今ちょっと取り込み中でさ」
だろうな、そのまま踵を返そうとしたのだが……そこで男の声が響いた。
「なあリアス、まさかあんなただの人間とも交流をしているのか?」
「ライザー、今この場に彼は関係ないわ。話を逸らすのはやめなさい」
「そうだな。おい、そこの人間。とっとと帰るといい、ここはお前のような奴が来る場所じゃない」
……なんだこいつは。
思わず足を止めて振り返ってその顔を見た。どこまでも俺を……この場合は人間か、それを見下すような物言いと表情は決していい気分はしない。けどやっぱりそうか、グレモリー先輩と話をしている以上あの男と女たちは人間ではなさそうだ。
「何だその目は。人間風情がこの俺に生意気な目を――」
おっと、ジッと見つめたのがマズかったみたいだ。
彼らに背を向けて歩き出した時、何か後ろでバタバタと音が聞こえた。俺はそれが気になったがワンに声を掛けて帰ることにするのだった。
「ワン、帰ろうか」
「はい。帰りましょう兄様」
部室の場所から離れるとワンが再び腕を組んでくる。
「……なんか、悪い気持ちにさせちゃったかな?」
「いえ、兄様は悪くなどありませんよ。あのゴミ……コホン、とにかく気になさる必要はないかと」
「そっか。よし、なあワン。このまま帰るのも勿体ないし、制服デートにでも行かないか?」
「制服デート……はい! 是非行きたいです!」
少しだけ怖い顔をしていたワンだったがすぐに笑顔になってくれた。せっかくだし、今のワンと写真とか撮るのもいいかもしれない。俺はワンと共に、今日だけになるかもしれない制服を着たワンとのデートに繰り出すのだった。
六花とワンが去り、部室のドアが閉まった時一誠はその場に腰を下ろした。直接向けられたわけではないのに、身がくすみ上がるほどの殺気に腰が抜けてしまったのだ。そしてそれは一誠だけでなく、リアスたちとその他の来訪者たちも一緒だった。
「……何だあの女は……おいリアス。何だあれは!」
人間でありながら生意気にも目を向けて来た六花に生意気だと告げた瞬間、ワンから放たれた殺気に男――ライザーは思わず立ち上がった。眷属たちはライザーを守るために動くことも出来ず、ただ怯えているだけだった。
そして……。
「……………」
銀髪のメイド、現魔王の妻でもある立場のグレイフィアも頬を流れる冷や汗を抑えられなかった。魔王の妻として、そして最強の女悪魔の座を争うほどの実力者でもあるのに、ワンから放たれた殺気にグレイフィアが出来たのはリアスの前に立って壁になることだけだった。
(……彼女だけじゃない、何かもう一つ強大な力を感じましたね。あの雰囲気は――)
そこでグレイフィアが見たのは一誠だ。ドラゴンの力を宿す一誠、彼と同じか……もっと大きな何か、一つ言えることは気配は正しくドラゴンのそれだった。
結局それから話は終わりに向かい、ライザーは自分の眷属を引き連れて帰って行った。残ったグレイフィアは当然のようにリアスに話を聞こうとする。
「お嬢様、あれは……彼女は一体何ですか?」
その問いにリアスは小さく溜息を吐き、力強く口を開いた。
「グレイフィア、悪いけど話すことは何もないわ。これからレーティングゲームに向けてみんなと話をしないといけない、帰ってくれる?」
「……畏まりました」
気にならないわけがない、だがグレイフィアはリアスから聞いてくれるなという雰囲気を感じて一先ず追及を止めた。戻ったら夫でもあり魔王でもある男に報告……もリアスの表情が過ってやめておくことにした。どうしてかは分からない、ただそうした方がいいという直感を信じることにした。
「……ふぅ、一瞬見えましたがあれが彼女の武器でしょうか」
六花が振り向いた時には既に消えていたが、一瞬だがワンが輪っかのような武器――所謂“戦輪”のようなものを手に持っていたのが見えた。……気になることはあるが、何はともあれ。
「全く、サーゼクスと旦那様にも困ったものだわ。ああは言ったけど、こんな形で結婚だなんてリアスが反発するに決まってるでしょうに」
これは一度女としてお灸をすえないといけないか、指をぼりぼりと鳴らしながら頓珍漢な提案をした男共のことを考えるのだった。
ワン(なんだこいつぶっ殺したろか)
ガブリエラ(やっちゃいましょうかね)
ゴゴゴゴッ!!!
ライザー「なんだあの女は!?」
リアス(聞かないでお願いだから!!)
グレイフィア「お嬢様彼女は一体」
リアス(あ、お腹が痛くなってきたわ)
イッセー「やべえ美少女だった」
という話でした。