ウタウタイの兄   作:詞(みょん)

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 姉妹の中でワンの次にまともを自称するフォウの朝は早い。目が覚めればすぐに身だしなみを整え、リビングに向かい先に起きていたワンの手伝いをする。基本的に他の姉妹はゼロとスリイを除いてまだ起きる時間ではないため、必然的にこの時間にリビングに集まるのはフォウとワンの二人だけだ。

 

「さてと、後はパンを焼いて……フォウ、そろそろ兄様を起こしてきてくれるか?」

「うん。分かったわ」

 

 ワンに指示されて六花の部屋に向かう……まあ、何かない限り基本六花を起こすのはフォウの役目みたいな部分がある。他の姉妹が気まぐれで早起きしたり、そもそも六花が起きていたら残念だが……まだ六花が眠っていたらフォウにとってある意味で至福の時間が訪れる。

 

「兄様? 入るよ?」

 

 控えめにノックをして声を掛けながら入るが、今日はどうやらまだ六花は夢の中のようだ。掛け布団を蹴飛ばして寝ているその様子は、少しだけ幼く見えてフォウは笑みを零す。眠った六花の傍に近寄り、ベッドに腰かけても六花はまだ目を覚まさない。

 

「……兄様」

 

 顔を近づけて大好きな兄の顔を覗き込む。そうだ、この瞬間がフォウにとっては至福の時間。六花と話が出来るだけでも歓喜に見舞われるが、こうやって一方的に顔を覗き込むのも大好きだ。大好き、愛している、どんな言葉を並べても尚足りないほどの愛をフォウは六花に抱いていた。

 手をそっと握ってみる。女であるフォウとは違い男性としての大きな手、フォウはこの手で頭を撫でられるのが好きだった。不安も何もかもを吹き飛ばしてくれるこの手が……大好きなのだ。

 

「兄様、昔の私は本当にめんどくさかったよね」

 

 過去に戻れるなら六花に迷惑を掛けるなと殴り飛ばしてしまいたい衝動に駆られる。

 かつてのフォウは他者への劣等感の塊だった。ゼロのように美しくない、ワンのように何でも出来るわけではない、トウのように愛らしさがあるわけではない、スリイのように頭がいいわけではない、ファイブのように自分の体に絶対の自信を持っているわけじゃない……自分には何があるのだろう、それをフォウはずっと考えていた。

 表面上では偽ることが出来ても、心の中では激しい嫉妬心に苛まれる。たとえ嫉妬しているとは言っても、フォウにとって姉妹は大切な存在だ。自分の勝手な薄汚い劣等感を当たり散らしていいわけではない、だからこそフォウはギリギリの段階で踏み止まっていた。

 

「ねえ兄様、覚えてる? 兄様がキョトンとした顔で私に可愛いし綺麗だよって言ったこと」

 

 あれはふと零れた言葉だった。

 どうして私は他の姉妹のように容姿が優れていないのだろう、そう言葉にした時六花はキョトンとした顔だった。

 

『いや、フォウも凄いレベルの美少女だと思うんだけど。え? 俺の感性がおかしいの?』

『……え?』

 

 姉妹に私は可愛いのかとか、容姿のことを聞いたことはない。だからこそ、面と向かって美少女と呼ばれたのは初めてだった。

 

『可愛いし綺麗でしょ。言っとくけど、容姿だけじゃなくて他の良い所なんて俺はいくらでも言えるぞ?』

 

 そこから始まる六花が思うフォウの良い所発表会だ。マシンガンのように止まることが無い六花に、結局フォウが恥ずかしがってやめてと言うまで続いた。結局の所、劣等感なんてものは自分がどう思うかで変わってくる。もちろん、今でも他の姉妹に対して嫉妬をすることはあるが、それで自分を下に見るようなことは少なくなった……いや、むしろなくなったと言えるかもしれない。

 

「私は私、私が姉妹の誰かになれないように、姉妹の誰かが私になることも出来ない」

 

 ゼロではなくワンでもない、トウでもなくスリイでもない、そしてファイブでもない。自分はフォウという一人の人間だ。六花に出会い、彼を好きになりそして好きになってもらったフォウという存在なのだ。だからこそ、そんな自分に自信を持てないようではいつまで経っても前に進むことは出来ない。

 寝ている六花の手を握り、そのまま頬の位置に持ってくる。

 

「兄様、兄様は大したことはしてないって言うかもしれないけどそんなことはないよ。私は兄様が居てくれたから、兄様の言葉があったから救われたの。……ふふ、何度お礼を言ったか分からないけど、本当に感謝しているんだよ?」

 

 心の底からのお礼をあなたに、そんな風にフォウが浸っていると頭を不意に撫でられる。

 

「……あ」

 

 ビックリして視線を向けてみれば六花が目を開けていた。どうやらフォウが握っている手とは反対の手で頭を撫でているらしい。フォウは一瞬固まっていたが、すぐに頬を赤くしてもしかしてという気持ちになる。

 

「兄様……もしかして……」

「……あぁ、といってもついさっき起きたばかりだから全部は聞いてない」

 

 全部じゃなくても聞いていたということでは……フォウはたまらなくなって六花の胸に顔を埋めた。正直体の関係すら持っているのにこんなことで照れるなと言う人は言うかもしれない。だがそれでも恥ずかしいモノは恥ずかしいのだから仕方がない。

 

「そんな風に思えることも、俺のことや妹たちのことをそこまで思えるのもフォウの優しさだよ。俺はそんなフォウが好きだって自信を持って言えるぞ」

「……えへへ、そっか」

「おう」

 

 単純? でも仕方がないだろう。好きな人の言葉一つでここまで心が満たされるのだ。それは即ち、自分は幸せだということの証明でもある。フォウはこのまま六花の温もりに触れていたいところだったが、本来の用事を思い出して思わずあっと声を漏らした。とはいえ六花もそれが分かっていたのかすぐに用意をするように起き上がった。

 

「おはようフォウ」

「おはよう兄様!」

 

 今日も素敵な一日が始まる……もちろん下りた時にワンに遅いと文句を言われてしまったが、それでも六花から受け取った言葉は何よりも嬉しくて、そしてフォウの活力になるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 昼休み、弁当を食っている俺たちの組み合わせは少しばかり珍しかった。俺と藍華が隣同士、そして対面に座るのが兵藤とアーシアさんだ。今までアルジェントさんと呼んでいたが、本人から是非名前で呼んでほしいと言われたのでそのようになった。

 

「それにしてもワンさんが来てたなんて……しかも制服! どうして呼んでくれなかったの!?」

「いやだってお前もう帰ってたじゃん」

「それはそうだけど!」

 

 どうやら制服姿のワンが見れなかったことがご立腹らしい。握っている箸を折らん勢いでブンブンと振り回す藍華にアーシアがオロオロとしていた。そして兵藤はというと……。

 

「……神里、お前は既にハーレムを形成してたのか?」

 

 藍華がワンの話題をするということはそれなりの話になるわけで、それで俺には慕ってくれる妹が六人居るという話になり兵藤が何故か羨ましがっていた。そうは言ってもお前グレモリー先輩と仲良いしアーシアさんと一緒に暮らしてるんだろう? それならいいじゃないか。

 流石に藍華が傍に居るので悪魔などの話は出来ないが、何となく藍華は普通に受け入れそうな気がしているのは何故だろう。本当に何となくだけど。

 

「兵藤、制服姿のワンさんはどうだったのよ?」

「とんでもない美少女だったぜ」

「……くぅ! アンタの目を潰して記憶を引っ張り出したい!」

「物騒なことを言うんじゃねえ!」

 

 本当に箸を兵藤に目に突き刺そうとするものだから思わず藍華を羽交い絞めにする。

 

「藍華、ほら」

「? ……っ!!」

 

 俺が見せたのはスマホの画面で、その画面に映っていたのはあの後デートした時に撮ったものだ。俺の横で制服姿のワンが控えめにピースサインをしている。

 

「か、かわいい……」

 

 スマホをぶんどって暫く眺め続ける藍華、これで満足してくれるなら放っておくことにしよう。俺は俺でワンが作ってくれた美味しい弁当をしっかりと味わう。

 

「美味しそうなお弁当ですね。それはどなたが作られたんですか?」

「ワンだよ。俺の弁当とか、普段の食事は全部あの子が作ってくれてる」

「そうなんですか? 凄いですね、本当に美味しそうです!」

 

 本当に美味しいんですよ。

 

「あ、そういえば――」

 

 そこで兵藤がアーシアさんに聞いた。

 

「なんでアーシアは神里を初めて見た時に天使様って言ったんだ?」

 

 お、それは俺も気になっていた。まさか本当に天使のような愛らしい顔にでも見えたのか? 兵藤と一緒にアーシアさんを見つめると彼女は藍華に聞こえないように意識したのか小さな声で教えてくれた。

 

「えっと……自分でも良く分からないんですけど、何となく天使様のような気配を感じて」

「……もしかして神里って天使なのか?」

「馬鹿言え、俺は純度100%の人間だ」

「だよな。部長たちもそう言ってたし」

 

 これで俺が人間じゃなかったら自分でビックリするぞ。とりあえずアーシアさんが俺を天使様と呼んだのは気配のようなものを感じたかららしい。……あぁでも、確かゼロを除いた妹たちの使い魔って天使のようなものと聞いたことがあるような……気のせいか? また今度聞いてみることにしよう。

 俺と兵藤のやり取りを眺めていたアーシアさんがクスクスと笑みを零した。俺と兵藤がどうしたのかと視線を向けると彼女は一度謝って教えてくれた。

 

「こうして普通の学生さんのような生活が出来ていることに感謝しているんです。イッセーさんに出会って、みなさんに出会って、そしてこの学校でもたくさんの友人が出来ました。私、本当に幸せです」

「……へへ、そっか」

 

 ……なるほどな、これが色んな人を惹き付けるアーシアさんの笑顔ってやつか。兵藤とアーシアさんの間に何があったかは詳しく知らないが、こうやって知り合った人が笑っているのは嬉しくなる。兵藤もそんなアーシアさんを見て嬉しそうに笑っていた。

 アーシアさんは兵藤の笑顔を見て頬を赤らめている……ふむ、やっぱりアーシアさんは兵藤のことが好きみたいだな。アーシアさんは目を瞑って胸の前で手を組んで祈る。

 

「主よ、感謝します。私にこんな出会いを――っ!!」

 

 その祈りの途中でアーシアさんはいきなり頭を抱えるように蹲った。俺はどうしたのかと不安になったが、兵藤の口からその理由が語られた。

 

「悪魔になったからお祈りすると頭痛がするんだよ。アーシア、気を付けような?」

「うぅ……またやっちゃいましたぁ」

 

 ……へぇ、悪魔の体って案外そんな弱点があるんだな。

 けどああやって神にお祈りをする人を近くで見たのは初めてかもしれない。教会とかに行けば会えるのかもしれないけど、自分からそんな所に行くほど神への信仰心はないからな俺には。

 

「イッセーさんに神里さんはお祈りとかしたことはないんですか?」

「俺はあるぜ! 前を歩く女子のスカートが捲れるように風を吹かせてくれって!」

「ただの変態じゃねえか」

 

 まあこいつがこういうやつってのは知ってたけど、それを女子の前で堂々と言うなよな。けど……神にお祈りね。俺も特にしたことはない……いや、おそらく誰もが通った道だとは思うけど一つだけあった。

 

「受験に合格するようにって祈ったことはあるかな。言っちまえばそれくらいだけど」

 

 普通に生きてる人なら神という存在にそこまでの意識を割くことはないだろう。神の教えがどうとか、祈れば伝わり必ず助けてくれるとか聞くけど……それで本心から神を信仰するのは何かの宗教に入ってるやつくらいなものだ。

 

「なるほど……うぅ、でも祈りは小さい頃からの教えみたいなものでしたから変な感じです」

 

 妹たちも特に神なんて信じてないし、ゼロに関しては生理的にそう言った存在に対して嫌悪感も感じるらしいけど。……神を信じるアーシアさんを言葉で泣かせそうだなゼロだと。出来るだけこの二人が出会うことがないよう祈ってみようか。な、居るかもどうかも分からない神様よ。

 

「よし、そろそろ教室に戻ろうぜ」

「分かりました! ……桐生さん?」

「……はっ!? 帰るの? 分かったわ」

 

 お前どんだけ俺のスマホ見てたんだよ……。

 それから藍華にスマホを返してもらったのだが……物凄く写真を欲しそうにしてたんだが、流石にワンに断り無しで勝手にあげるのはダメだろう。

 

「そう言えばどんな話をしてたの?」

「あぁ、アーシアさんは幼いころから神様に祈ってたんだと。だけど理由があって今出来なくなったから不思議なんだとさ」

「ふ~ん。別にお祈りくらい普通にすればいいのに」

 

 一般的にはそんな反応になるよな。

 藍華は悪魔のことや堕天使のことは知らない、だからこそ――。

 

『神を愛せば神に愛されるんだよ! ねえ、そうなんだよ!!』

 

 「……?」

 

 何か囁くような声が聞こえて俺は振り向いたが、目の前に広がるのは代り映えのない廊下だ。

 

「どうしたの?」

「……いや」

 

 空耳か、俺は不思議そうにする藍華に何でもないと告げて歩みを再開させる。

 ……けど、神を愛せば神に愛される……ね。生憎とそんなもんを愛する余裕は俺にはない。妹たちだけで十分だよ、愛する存在ってのはさ。

 そこでふと、俺は何故か分からないがゼロが言っていた言葉を思い出した。

 

『絶望なんか世界を探せばいくらでもあるだろ。でもね、君に降りかかる絶望なら逆に私たちがそれを覆い尽くすほどの絶望を与えてやる。君に手を出すってことはそういうことなんだよ』

 

 言葉は怖かったけど頼もしかった……そして、愛されてるなと実感もしたのだ。

 




最初はワンのデートの続きを書いてたんですけど、プリクラ撮りながら繋がったりしちゃう描写になって可能な限り誤魔化しを入れながらやったんですけど、完全に引っ掛かるなと思って消しました。

みなさんが思ってるのを聞いてみたい。気軽にどうぞ。Qどんなシーンがいい?

  • 原作に関わる
  • 原作? ほっとけ
  • ちょくちょく関わる感じ
  • 妹たちが笑ってればいいんだよ!
  • オガーザーン!!
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