ウタウタイの兄   作:詞(みょん)

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 学校で六花が藍華にワンの写真をもらえないかと話をされている時間より少し後、その話題の人物であるワンは六花を含めた妹たちの着る服を畳んでいた。六花の下着を見ると少しだけ早くなる鼓動に気づき、流石にそこまで自分は変態ではないと首を振って平常心を保つ。

 

「これはゼロの、トウの、スリイの……」

 

 妹たちの服と下着を間違えることなく分けていく。こうして見てみると雰囲気もそうだしその佇まいも完全にお母さんのそれだ。六花の両親は海外に仕事に行ってて家事全般を仕切るワンなので、あながち神里家のお母さんと言われても違和感はないかもしれない。

 真面目で勤勉、そんなワンだからこそフォウを除いた妹たちがめんどくさがる家事を率先して行っている。もちろんワンは嫌がっておらず、むしろ進んでやりたいと思っているほどだ。

 

「誰かの役に立つのは好きだ。……そして――」

 

 ワンが思い浮かべるのは六花、ワンは六花に抱きしめられるのが好きだ。そのまま頭を撫でてもらえれば幸せは天元突破するし、キスとかその先までされると周りが見えなくなるほどに六花に甘えてしまう。ゼロに次ぐ姉として、妹たちの模範であるようにと考えているワンだが、六花の前なら本当の意味で気を張らない姿を晒すことが出来る。姉ではあるが、それでも兄に甘えたい妹でもある。だからこそ、ワンは六花と二人っきりになると甘えてしまうのだ。

 

「……ふぅ、少しゆっくりしようか」

 

 ずっと同じ体勢だったから少し肩が凝ってしまった。腕を回して解し、よし続きをやろうとしたところで壁に掛かっていた制服が目に入った。

 学園で六花がリアスにもらった制服だ。特殊な魔法が施されており、部外者のワンが着ても違和感なく見られる代物。この制服はワンにとって、六花との新しい思い出を作ってくれた服でもある。

 

「制服でのデート……楽しかったな」

 

 本当に楽しかった、それが素直な感想だ。

 いつもの私服と違い、制服を着てのデートはワンにとって新鮮な感覚だった。ワンと言う浮世離れした美しさを違和感として認識されないということはつまり、普通の女の子として見られるということ。六花と一緒に買い物をしている時、店員から六花を彼氏ですかと聞かれたことがあった。妹です、そう答えようと思ったのだが、少しだけ見栄を張りたくなってしまった。

 

『そ、そうです!』

 

 普通の人間に対してワンは基本物怖じしたりはしないし言葉に詰まることもない。だがその発言だけは緊張を伴った。六花も聞いていたしもしかしたら迷惑な言葉だったか、言ってしまった後にそんな後悔に駆られもした。けれど六花は一瞬驚いた様子だったが、すぐにワンの肩を抱いて『彼女なんです』と言ってくれた。

 

「……うぅ」

 

 何度思い返してもあの言葉はとても嬉しくて、同時に恥ずかしさを思い出してしまう。頬に集まった熱を気にしながら、ワンは六花と一緒に買い物を楽しんだ。そして、極めつけはプリクラというものをやりたくなったこと。トウが以前に六花とデートをした時に撮ってきたそれを見て、機会があれば自分もやってみたいと思っていたのだ。いい機会だった、六花と一緒に色んな装飾を施しながら楽しむ時間は本当に楽しかった……けれど、狭い機械の中とはいえ六花と二人っきり……甘えたい自分が出てきてしまった。

 

『兄様……私、体が熱くて』

 

 自分たち姉妹は性欲が強い、それはこの体が抱える宿命とも言えるモノだ。いつもの凛とした自分と違う、そうは思っても体が疼いて仕方がなかった。もう抑えられない、その様子は六花も分かっていたのかもしれない。幸いに人払いの魔法が使えるし音も消すことが出来る。だからこそ心配はない……というのもおかしな話だが、誰かに見られる心配は微塵もなかった。

 

「……はぁ。私はこんな破廉恥な女だったのか」

 

 性欲に関してはある程度制御が出来ると自負しているが、こんなことがあった後ではそんな自信も失われていく。しかも一度始めてしまえば五感が常人よりも発達しているこの体のせいで本当に耐えられない……つまり何が言いたいかと言うと感じすぎてしまうのだ。

 幸いと言うべきか、普段は自分で制御できるのは助かった。六花とそういう雰囲気になった時のみタガが外れてしまうのは良いことなのか悪いことなのか分からないが。とはいえ、だ。

 

「……また制服デートしたいな」

 

 しわにならないように制服を手に取った。デートなんて今まで数え切れないほどにしてきたが、こう言った形でのデートも癖になってしまう。どうやらワンは自分が思っているよりも、六花と言う存在に溺れているらしい。いや、それこそ今更なことかもしれない。

 

「兄様、好きです。早く帰ってこないかな」

 

 制服を手に持ってワンは早く六花が帰ってくることを望む。

 ……そんな様子を僅かに開いたドアから覗く瞳が6つ。

 

「……ワンお姉さま、どうしたんです?」

「顔を赤くしたと思ったら切なそうな表情……」

「きっと兄様を想ってるのよ。私には分かるわ!」

 

 トウとフォウ、ファイブがワンを盗み見ながらそう話す。妹たちに見られているとも知らず、ワンは六花のことで頭がいっぱいだ。しわにならないようにと思っていたはずなのに、ついつい力が入ってしまって強く握ってしまう。

 暫く制服を見つめたワンはあるものを保管している場所に向かう。それは六花と一緒に撮ったプリクラの数々。一枚一枚がワンにとっての大切な思い出となる……けれど、最後の方に行った時にワンは顔を赤くしてボソッと呟く。

 

「……流石にこれは持っていられないな」

 

 女としての恥ずかしい部分をすべて曝け出し、丁度写真が撮られた瞬間がワンの一番良かった瞬間……情けない顔だ。思わず見ていられず大きな音を立てて隠すように引き出しにしまった。そこで冷静になり気づけたのだろう、盗み見る妹たちの視線に気が付いた。

 

「お前たち、何をしている」

「マズいですわ!」

「逃げるが勝ち!」

「ちょ、ちょっと置いていかないでよ!!」

 

 別に怒りはしないのだが、妹たちはさっと逃げて行ってしまう。ワンは見られていたことに少し溜息を吐き、妹たちにですらあの写真を見られるわけにはいかないなと考える。もしゼロなんかに見られたらずっとネタにされて揶揄われそうだ。それこそ鬱陶しくなって戦いが勃発するかもしれない。

 

「……残りの洗濯物を畳もう」

 

 洗濯物が畳み終えたら冷蔵庫の中身が少し寂しくなってきたので食材の買い出し、それから……っと、神里家の小さなお母さんは本日の予定を改めて組み直すのだった。

 ……けど、それでもたとえワンでも疲れが出ることはある。少しだけ眠ろうと、ワンはリビングのソファに横になるのだった。

 

「……すぅ……すぅ」

 

 無防備な寝顔に規則正しい寝息、そして時を刻む時計の音だけがその空間に響いている。そんな時にドアがガチャッと音を立てて開いた。ワンはその音に少し身じろぎしたが起きることはなく、入ってきた人物は一瞬目を丸くしたがすぐに静かにしようと足音を立たなくした。

 

「すっかり眠ってるな」

 

 入ってきたのはゼロだ。もう昼を過ぎているというのに今起きたのか髪の毛が酷いことになっている。爆発しているわけではないが、それくらいにボサボサで普段の綺麗な銀髪は見る影もない。ただこんな風になっていても少し手入れをすれば艶がありサラサラな銀髪になる……世の女性が妬みそうな髪だ。

 働いたら負けという文字が入ったシャツに下は下着のみ、女としての何かを捨てたようなその姿に六花が居たら間違いなく溜息を吐くことだろう。

 

「お、あったあった」

 

 冷蔵庫からコーラを出してコップに注ぎ、そのまま腰に手を当ててグッと喉に通す。強い刺激が喉に伝わるが炭酸はこれが良いんだとゼロは飲み干した。潤った喉に満足したゼロはワンの傍に近寄って彼女の顔を覗き込んだ。

 

「……やっぱり違和感があるな。けどこの違和感は悪くない」

 

 ゼロが口にした違和感、それはワンと共に同じ屋根の下で暮らしていることを指している。自分とワンは決して相容れない、敵対している方がしっくりくる……どこかそんな考えがあった。しかしこうして平穏に暮らしていることをゼロは嫌ではない。妹たちが居て、六花が居て、そこに自分が居ることが何よりも幸せだと感じている。だからこそ、こうやって時折胸に抱く違和感は決して悪くないと口にしたのだ。

 

「普段こんなことは言わないからな。よく聞いておくように――ありがとな、ワン」

 

 優しく、決して起こさないように注意を払いながらワンの頭をゼロは撫でた。いつもいつも部屋に持ってきてもらうから今日くらいは自分で下着とかを片付けよう。そう思ってゼロは並べてあった自分の下着と服を手に持ちそのまま自室に戻ろうとしたのだが……あぁ神よ、あなたは残酷だ。

 

「……?」

 

 どうしてそこを見たのか分からない、ただ少し不自然に引き出しが開いていたのだ。その場所に吸い寄せられるようにゼロは向かいその引き出しを開いた……そして、見つけてしまった。

 

「……あ」

 

 駒王学園の制服に身を包み、六花の六花に串刺しにされながらも蕩けた表情でカメラに目を向けて喜ぶワンの姿……ゼロ、最高のネタを掴んだ瞬間だった。

 

「……ぅん……ううん」

 

 そこで目が覚めたワン、ワンは目を擦りながらゼロの背中を見つめた。

 

「……ゼロ? なんだ、今起きたのか」

 

 ワンの問いかけにゼロは反応しない、ワンがどうしたのかと首を傾げるとゼロはヒラヒラと手に持ったそれを見せた。

 

「……っ!?」

 

 若干寝ぼけていた頭が一気に覚醒した。

 ワンは戦輪を取り出してそのままゼロに向かい、ゼロもワンを迎え撃つように剣を構えた。神里家のリビングにて今、ツートップの実力を持つ妹二人がぶつかった。

 

「ワン、随分と楽しいことをしてたみたいじゃないか」

「黙れ! ゼロ、それを渡せ!」

「はん! こんなネタになるもの簡単に渡せるとでも!!」

 

 ワンを振り払うようにゼロは剣を薙ぐ。そしてそのまま裸足で外に出てミハイルを呼び出した。

 

「来いミハイル!」

『なになに~!?』

 

 光と共にミハイルが現れ、ゼロはその背に乗って上空へと飛び立つ。もちろん一般家庭からドラゴンが現れたらパニックになるため、不可視の魔法も忘れずに使っておく。物凄い勢いで空に飛んだゼロとミハイルを追うためにワンもガブリエラを呼び出した。

 

『全くこんな用でアタシを呼び出すなんて……まあでも、女としてあの顔は致命的よね』

「いいから追うぞ!」

『分かったわよ。仕方ないわね』

 

 ガブリエラもミハイルに勝るとも劣らない速度で飛翔した。だが僅かながらガブリエラの方がスピードが速く、徐々にその距離は縮んでいく。ある程度の距離になった時、ワンはガブリエラの背中からミハイルの背に居るゼロに飛び掛かった。

 再び剣と戦輪がぶつかり合う。ミハイルは自身の背で行われる戦いに恐怖心が勝り、思わず体勢を崩してしまった。

 

「ちっ!?」

「っ!?」

 

 ミハイルの背から落とされた二人だが、そのまま攻撃の応酬が続く。こんな不安定な戦いだと言うのにゼロは写真を手放さない……凄まじい執念だ。お互いに重い一撃を放ちその距離が離され、再びお互いの相棒の背中に飛び乗る形となる。

 

『ねえゼロ、一体何があったのさ』

「ワンにとってぜっっっっったいに見られたくないものを手に入れたんだよ」

『へぇ~なにそれ~!』

「ミハイル、見たら殺す」

『ええ~!?』

『これじゃあ子供の喧嘩じゃないの』

 

 ゼロからしてもワンを振り切るのは難しい、だがそれでも逃げ切ればとっても楽しいことになる。しかし、今だけは運と言うモノはワンの味方をしたらしい。一際強い風が吹き、一瞬の隙を突くようにゼロの手から写真を吹き飛ばした。

 

「あああああっ!?」

 

 そしてそれをワンは見逃さなかった。

 

「今だ!」

『わかってるわよ!』

 

 こんなくだらない争いでも主人の必死な想いには答える、ガブリエラのブレスが写真を撃ち抜き消し炭にすることで恥ずかしいあの姿は闇に葬られることになった。

 

「あ……あぁ……」

「ふん、正義は勝つ」

 

 心底悔しそうなゼロにドヤ顔で勝利宣言をするワン……さっきと真逆の表情である。空を飛びながら二対のドラゴンはお互いに顔を見合わせる。

 

『ねえねえ、結局ボクたちはなんで戦ったの?』

『アンタはそのまま純粋で居なさいな。くれぐれも主人に似るんじゃないわよ?』

『う~ん? うん! 分かった!』

 

 そこは頷くなよ、そんな思いの込められた拳にミハイルが泣くのもお約束だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 時は過ぎる。

 リアスの婚約騒動が六花の与り知らぬ場所で解決され少しした時、六花の前に二人の人物が現れる。

 

「やあ、君が神里六花君かな?」

「……(ペコリ)」

 

 以前見た銀髪のメイドであるグレイフィア、そして彼女を従えるリアスと同じ髪色の男性……何かめんどくさいことが起こる予感を感じる六花だったが、そんな男性の元に紅い魔法陣が現れる。

 

「なんだ、来たのかいリア――」

 

 ガツンと、一発の拳が男性の頬をぶち抜いた。そのあまりの速さに男性はおろかグレイフィアも目を丸くするほどだった。魔法陣の光が収まり現れたのは肩でぜぇぜぇと息をするリアスと六花に向けて手を振る朱乃の姿。

 

「全くもうこの人は!! ごめんね神里君、何も気にしなくてもいいからね?」

 

 気絶した男性の胸倉を掴んでリアスは再び魔法陣で消えてしまった。グレイフィアは消える直前、小さく溜息を吐いて六花に顔を向けて一言。

 

「ご迷惑をおかけしました」

 

 そう言い残し消えてしまった。

 

「……何が起きたのよ」

 

 呆然とする六花から至極当然の疑問が口にされるのだった。




姉妹の笑顔はたくさん書いていきたいです。

エクスカリバー編に関しては少しご容赦を。

ヒント、実験の犠牲になったのはどんな人たち?
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