ウタウタイの兄   作:詞(みょん)

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DODじゃなくて舞台はDDなんでね……きっと大丈夫。


踊祝/ラファエル

 気のせいだろうか、日に日に体が重くなっていく気がする。

 風邪のような倦怠感、だが熱はないし症状も出ない……単純に怠さだけを感じるかのようだった。ただいつもより少し元気がないと言うだけで学校には行っていた。藍華は気づいてくれて心配してくれたが、笑っていられるほどの元気はあった。

 

「……………」

 

 夕方、ゆっくりと足を進めながら家までの道を歩く。

 重い、早く家に帰って横になりたい、そんな一心で俺は歩いていた。そう言えばだけど、最近木場の様子がおかしいと兵藤が言っていた。学校で時折見かけることがあるが、確かに表情がどことなく曇っていると言うか、何かに追い詰められているように見えた。

 考え事をしていると家が見えてきた。まだ少し明るいので鼻歌を歌いながら水やりをしているファイブの姿があった。……何だろうこの感覚は。彼女の姿を見た時、何故か俺は力が抜けるように安心したんだ。彼女が……彼女たちがそこに居てくれる、それが嬉しくて、涙が流れそうなくらいに嬉しかったんだ。

 

「あ、お帰りなさいお兄様……っ! お兄様!?」

 

 ファイブが駆け寄ってくる……あれ、段々と視界が下に向いていく。目の前も暗くなっていくようだ……誰かに抱き留められる。これはたぶんファイブかな……ありがとう。そう口を動かしたつもりだけど、果たしてファイブに届いただろうか。

 

「お兄様!? お兄様!!」

 

 ……愛おしい妹の叫ぶ声を聞きながら、俺の意識は闇に沈んだ。

 

 

 

 

 

 家の前で六花が倒れた。

 それは神里家に大きな激震を走らせた。姉妹が全員六花の元に集まり、ベッドで眠る彼を心配そうな眼差しで見つめている。スリイを筆頭に魔法で六花の体を癒しているのは単純に、彼女たちの魔法が現代の医学より優れているからだ。

 

「……いきなり倒れたのか?」

「はい……おかしな点はないんですよね?」

 

 ファイブの問いかけにワンとスリイが頷いた。

 六花の体におかしな点はない。逆に全くの正常と言ってもいいほどだ。どうして倒れたのか、何故意識が戻らないのか、その理由が全く見当が付かない。

 

「最近お疲れだったけどここまで? いや、だけどこれは……」

「……うん。普通じゃない」

 

 スリイの言葉に一同は沈黙する。

 そんな中、フォウが口を開いた。

 

「何だろう、この胸がザワザワする感じ……分からないけど、凄く気持ちが悪い」

 

 胸がザワザワする、その意見には全員が同意した。六花が倒れてから感じる胸騒ぎ、肌にこびり付いて離れない不快感が払しょくできない。

 そんな中、ゼロたちは明確に感じ取るモノがあった。それは戦いの音、どこかで大きな戦いが行われていることを明確に察知する。その魔力の波はここまで届き、偶然かどうか分からないがその魔力の揺らぎに反応するように六花が苦しそうに声を漏らす。

 

「学園の方向か?」

「あぁ、派手にドンパチやっているようだな。迷惑なことだよ全く」

 

 ゼロが剣を持って窓際に立った。どうやらこの六花を苦しめる助けをしているであろう元を断ちに行くようだ。だが、そこでゼロは首を傾げた。こういう時に絶対に悲しみ、六花に声を掛け続けるであろうトウが異様に静かなのだ。

 

「トウ?」

「……………」

 

 ゼロの問いかけにトウは反応しない。ゼロだけでなく、それ以外の妹たちもどうしたのかとトウに視線を向けた。

 

「……声が聞こえる……子供たちの声が」

「はぁ?」

 

 自分の問いかけに答えず何を言っているんだとゼロは訝しむ。トウはゆらゆらと幽鬼のような動きでゼロを押し退け窓際に立ち、そのまま大きく跳躍して駆けて行った。

 

「っ……おい! くそ、様子が変だな。六花を頼むぞ?」

「分かった。……ゼロ、くれぐれも気を付けて」

「あぁ」

 

 ゼロに対してワンは基本心配の声を掛けることはない、だが今だけは違った。トウの様子から肌で感じる嫌な予感、それを感じての心配の言葉だ。ワンの言葉を受け取ったゼロはミハイルを呼び出して空を駆ける。その最中、ゼロは庭に咲く花が輝いていたのを見たが今優先すべきはトウだと考え、彼女の背を追いかけるようにミハイルに指示を出すのだった。

 ゼロがミハイルの背に乗って飛び去ってすぐ、フォウも窓際に立った。

 

「私も行ってくるわ。ワン姉さまたちは兄様の傍に居て!」

 

 そうしてフォウの背中も遠くなっていった。

 残ったワンたちは六花の傍へ。手を握って早く目が覚めてくれるようにと願う。ファイブは今にも泣きそうに六花を見つめ、スリイも気怠そうな表情を一切見せずに真剣な表情で六花を見つめていた。

 

「……ゼロ、フォウも。トウを頼んだぞ」

 

 ワンが祈るようにそう呟く。

 彼女たちの兄であり心の拠り所でもである六花はまだ目を覚まさない。

 

 

 

 

 

 

 

 駒王町に襲撃を掛けてきた堕天使幹部のコカビエルにリアスたちは手も足も出なかった。木場が過去を乗り越える形で神器の更なる力の解放、バランスブレイカーも発動するに至ったがそれでもコカビエルには届かなかった。

 己の内に秘めるドラゴンと言葉を交わし、赤い龍の力を使えるようになったイッセーを含めても勝利には届かない。だが、そんな戦いの中に降り立った存在が居た――イッセーが宿す赤い龍の対となる白い龍を宿す少年だった。

 少年――ヴァ―リは白い龍の力を十全に扱うことができ、イッセーたちが苦戦したコカビエルを意図もたやすく無力化するのだった。

 

「精々強くなってくれよライバル君。俺を失望させてくれるな」

 

 気絶したコカビエルを抱え、ヴァ―リが飛び立とうとしたその時だった。パリンと、小さくリアスたちが張った結界を割る音が響いた。それは外部からの侵入者を意味していた。

 

「……誰だ?」

 

 小さな着地音を立てて青い髪の美女が降り立つ――トウだ。

 ゼロの妹でもあるトウだがリアスたちはまだ会ったことがなく首を傾げている。今この場に居るグレモリー眷属、シトリー眷属、そしてヴァ―リは突然の乱入者に嫌でも視線を惹きつけられた。

 

「声が……聞こえる……そこから……声が」

 

 焦点の合ってない目でトウが見据える先にあるのは木場が持つ剣だ。木場は突然目を向けられたことに驚くが、いきなりトウが頭を抱えて苦しみ始める。

 

「嫌だ……思い出したくない……思い出したくない! いやああああああっ!!」

 

 

 尋常ではない様子にイッセーたちは乱入者ということも忘れて困惑する。アーシアにいたっては己が持つ癒しの力を使おうと駆け寄るほどだ。アーシアが駆け寄りトウに触れようとした時、ゼノヴィアが聖剣を構えるようにアーシアの前に立った。

 

「……っ!?」

「あ……」

 

 いつの間に取り出したのか分からない、トウの剣が庇ったゼノヴィアに振り下ろされた。見た目は華奢なのに、そこから伝わる力の重みは凄まじい。聖剣に罅が入るのを見たゼノヴィアはすぐにアーシアを突き飛ばすも、トウの力に耐えられずそのまま吹き飛ばされた。

 

「……うああ……っ!!」

「っ……待っててください! すぐに――」

 

 アーシアが神器の力をトウに使おうとした正にその時だった。アーシアの行方を遮るように一本の剣が地面に突き刺さる。もう少しズレていたら頭から綺麗に貫通していたかもしれないことにアーシアは顔を青くした。

 

「今近づくと危ない。全く、手間を掛けさせてくれるな」

「……ゼロ……姉ちゃん……」

 

 剣の元に降り立ったのはゼロだ。

 錯乱した様子のトウだがゼロの声を聞いて一旦ではあったが正気を取り戻したかにも見えた。だが、すぐに再び苦しみ出す。

 

「ゼロ姉ちゃん……怖い……怖いよ……まるで自分じゃない何かになりそうなの……嫌だ……嫌だよ……っ!!」

 

 苦しむトウの様子を冷静に分析するゼロだったが、リアスが声を掛けて来たことで視線をそちらに移す。

 

「ゼロ! 彼女もあなたの妹なの?」

 

 あぁと小さく頷く。

 トウの様子、そしてここに来るときに見た花の様子……そして、今かすかに感じる得体の知れない何か……ゼロがトウの傍に近づこうとした時、まるで全てを拒絶するようなトウの悲鳴が響き渡った。

 

「あああ……ダメ……消えちゃう……全部……嫌――」

「っ……気をしっかり持てトウ!!」

「いやああああああああああああああああっ!!!」

 

 悲鳴と共にトウの体から魔力が漏れ出た。

 それは波紋のように広がり、まるで何かを呼び出す歌声にも聞こえる。ゼロはすぐにこの魔力の放出が何を意味するのかを理解し、トウを包む魔力に向かって斬りかかった。

 魔力の波はまるで壁のようにトウを守っていて刃が通らないがそれで良かった。

 

「祝……福……せ――」

「フォウ! 飛ばせ!!」

「分かったわゼロ姉さま!!」

 

 ゼロの指示を受けたフォウが転移の魔法陣をゼロを含めトウの足元に発生させた。緑色の光が止んだ時、すでにその場にゼロとトウの姿はなかった。フォウは一度大きくを息を吐いたが、すぐに再び表情を引き締めて転移の準備をする。

 

「待って! ゼロには借りがあるし、何より見過ごせることじゃない。私も付いていくわ!」

「はぁ? アンタに何が――」

 

 そこまで言いかけてフォウは思い直す。

 もしこれから転移した先で呼び出される存在が“アレ”だとしたら結界は必要になる。ならば使える魔力は多ければ多いと考えた。ゼロたちを飛ばした場所はかなり遠く、リアスを入れても一緒に飛べるのは後一人くらいか……そこまで考えた時、思いもよらない場所から声が掛かる。

 

「ある程度は聞いていたけど、リアスが行くなら私も行きましょう」

「会長!?」

 

 申し出たのはソーナ・シトリー。リアスと同じ悪魔でもあり、駒王学園の生徒会長を務める女性だ。フォウは咄嗟に二人の肩を掴んで転移の魔法を発動させる。残された者たちは呆気に取られていたが、ヴァ―リだけは違った。

 

「……アルビオン、あれは何だ?」

『分からん……だが、あれは単純な存在ではなさそうだぞ』

 

 ヴァ―リが感じ取ったモノ、それは言葉にしようのない歪な何かだった。強き者を求めるヴァ―リにとってゼロたちに興味を惹かれないことはなかった……しかし、彼女たちに宿る何か、まるで“概念そのもの”を僅かながら感じ取ったのだ。まるで殺してはならない、そう暗に脳に直接問いかけられるような何かを感じてヴァ―リは首を振った。

 

「まあいい、コカビエルを回収して終わりだからな。じゃあなライバル君、その内会うだろうが精々強くなってくれよ?」

「あ、あぁ……」

 

 次から次へと目まぐるしく動いた現状にイッセーも頭が追い付いていないのか空返事だ。さて、これにて表の戦いは終わりを迎え、次なるは語られない戦い……悲劇の世界で起きた争いの再現だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 フォウの転移魔法の先でゼロは小さく舌打ちをした。

 周りに何もない広い場所、まるでこの地で戦えと言わんばかりだ。ゼロの視線の先には大きな巨体、生き物で例えるなら蜘蛛だろうか。黒い毛に覆われ紫の瞳を持った不気味な出で立ち、いくつもの足をウネウネと動かすその存在の名はラファエル、トウが使役する使い魔の一匹だ。

 

「……ゼロ姉ちゃん……っ!」

 

 苦し気なトウの姿、かろうじて自らを律しているのかラファエルは動かない。トウが自らの魔力を鎖としてラファエルを縛り付けているかのようだ。

 

「ゼロ姉さま!」

「……これは」

「……魔獣?」

 

 遅れるように三人もこの場に現れた。

 チラッとそちらに視線を向けたゼロだったがすぐにトウへと視線を戻す。まるで何か別の物に操られている……違うか、まるで内側の力に耐えられず暴走しているようにも見える。不安定にトウから放出される魔力がその答えを出していた。

 

「ゼロ姉ちゃん……お願い……して」

「……………」

 

 声は掠れていたが、その問いかけを聞いてゼロは言葉を返さない。

 

「……このままじゃ……傷つけちゃうの……ゼロ姉ちゃんもみんなも……兄ちゃんも……っ!」

 

 おそらく本能で理解しているのかもしれない、もうじき抑えられなくなる。そうなったら自らの意思なんて関係なしに力が振るわれることを予期しているのだ。そうなる前に……大切な人を、愛する人を傷つけてしまう災厄と化してしまう前に私を……と、トウは願っているのだ。

 トウの願い、だがそれにゼロが頷くことはなかった。

 

「悪いがその願いは聞けないな。以前にファイブにも言った通りだよ。姉にそんな願いをするなんて罰当たりな妹に育ったな?」

「……な……にを……」

 

 薄れゆく意識の中でトウは見た――頼れる表情の姉の姿を。姉妹の中でも一番強くて、カッコよくて、そしていつも見守ってくれた優しい姉だ。

 トウの瞳から涙が零れる。ゼロはその様子を見て必ず助けると決めた。自分たちは姉妹全員が揃ってこそ家族、一人でも欠けてしまえばそこに意味はない。それに誓ったのだ――どんな絶望が襲い掛かろうとも、六花たちを守るためなら振り払ってみせると。だからこそゼロはトウを見捨てることをしないのだ。

 

 

「トウ、君はここで終わりたいの? 六花とも別れることになって、私たちとも二度と会えなくなってそれでいいのか?」

「……いや……だ」

「だろう? それなら私に言う言葉は何だ?」

 

 ラファエルを縛る魔力の光が弱くなっていく。トウの瞳も光を失っていく……だが、しっかりとトウは口を動かしていた。

 

「た……す……て」

「……あぁ、分かった」

 

 ゼロが頷いた瞬間、ラファエルは完全に解き放たれた。

 体から発せられる紫色の瘴気、それはどんな強力な存在でも無力化してしまう猛毒の霧。ゼロはミハイルを呼び出して空に飛んだ。

 

「フォウ!」

「分かった。ほら、下品な乳のアンタと私とお仲間サイズのアンタ! 手伝ってもらうわよ!」

「げ、下品!?」

「……少し納得できかねますが」

 

 フォウが発動したのは強力な結界、ある程度なら暴れても壊れない強力なモノだ。リアスとソーナもフォウに魔力を供給する形で更に強固な結界となる。

 攻撃による振動も吸収するが何より、空気に溶ける毒すらもこの結界は通さない。これで心置きなくゼロは周りを気にすることなくラファエルに集中できる。

 

『ゼロ! どうするの!?』

「まずは蜘蛛の動きを止める。それからトウを気絶させる。安心しろ、殺しはしないさ」

『うん! 分かった!!』

 

 ミハイルもやる気は十分だ。ゼロはミハイルの頭を一度撫でて、そして……。

 

『安心しろ! すぐにそこに行って殺してやるよ!!』

 

 一瞬、異なった景色の中でそう叫ぶ自身の姿をゼロは幻視した。そのゼロの視線の先に居たのはトウだが、たとえ妹であっても気分次第ではそういうことも言うのでおかしくはないなと苦笑する。笑って意識を切り替えるとその映像は消え、今のこの世界にゼロの意識は戻ってきた。

 

「安心しろ、すぐにそこに行って助けてやる」

 

 妹に助けてと言われた以上、手を差し伸べるのが姉のすることだ。家では他の妹たちも、そして六花も待っている。必ず連れて帰る、今日起きたことは悪い夢……それでいいだろうとゼロは笑った。

 

「行くぞミハイル、くれぐれも毒を吸うなよ?」

『分かってるよ!! またあんなに苦しみたくないもんね!』

「また?」

『……あれ? なんでまたって言ったんだろう?』

「しっかりして――来るぞ!」

『うん!!』

 

 臨戦態勢を取るラファエルにゼロはミハイルと共に攻撃を開始する。

 

 絶望がなんだ、そんなものは手ずから振り払ってやる。そんな強い意志を携えて、神里家の頼れる長女が空を舞う。

 

 さあ、トウを救いに行こうか。

 

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