ウタウタイの兄   作:詞(みょん)

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 妹たちが過保護だ。

 あれから俺が倒れて早三日、学校を少し休んで俺は家で療養している。別にもう体の不調はないし万全の状態なのだが、もう少し休むべきだと妹たちが家から出してくれなかった。

 心配してくれるのは非常に嬉しいのだが、こうも過保護だと息が詰まるというのも確かで……難しいところだな。

 

「兄様、何かしてほしい事ある?」

「してほしいことかぁ……」

「何でもしてあげるよ? 兄様が望むことならなんだって」

「うん?」

 

 ……ってこのネタはやめておこう。

 こんな問いかけをしてきたのはフォウだけど、他の妹たちも似たようなものだ。あのゼロまでもが世話を焼こうとするのだから如何にいつもと違うかが良く分かる。

 

「ゼロお姉さまとトウお姉さまは学園の方へ行っているのでしたっけ」

 

 ガシっと隣に座って俺の腕を抱いているファイブがそう聞いて来たので俺は頷いた。詳しくは聞いてないのだが、何でもトウが少し不安定になってしまい少し迷惑を掛けてしまったらしい。トウがグレモリー先輩たちに謝りに行きたいと言ってそれならとゼロが付いていった。

 

「俺も行くべきかって思ったんだけど、みんなに止められたしな」

「そんなのは当然です。兄様はまだ安静にすべきですので」

 

 対面に座るフォウの隣、ワンが頬を膨らませてそう言った。もう体は万全なのだが、やはりこんな感じで外出の許可は下りない。

 

「兄さんが心配なのは分かる。でもみんながそれだと兄さんの息が詰まる」

「……スリイ」

 

 俺の心を代弁してくれるかのような言ったファイブとは反対の位置に座るスリイに俺は呆れた目を送る……え? この場合感動とかそれに似た感情じゃないのかって? いや普通はそうだろうさ、でも普通じゃないから仕方ないよねって話だ。

 

「……スリイ、これは何かな」

「……足枷?」

 

 決して離れないようにと、スリイと俺の足を繋ぐ足枷のようなものがある。おかげで少し動くたびに一緒に動かないとだし、ジャラジャラと音がうるさいしで……一言言わせてもらえば、一番スリイの俺に対する気遣いがしんどいですはい。

 

「……まあでも」

 

 いきなり倒れてしまったら心配を掛けてしまうのは当然だろう。しかも病気とかそう言った類いのものではなく、本当に原因が分からないとなれば尚更だ。現代医学よりも妹たちが扱う魔法の方が優れている……というのは当たり前の話で、それでも説明のしようがないのだから。

 

「きゃっ!? お兄様……?」

「……兄さん?」

 

 両隣に居たスリイとファイブを抱き寄せる。

 いきなり抱き寄せられたことで困惑していたが、すぐに俺に抱き着いて来た。二人の温もりと近くで聞こえる息遣い、確かにそこに“生きている”という実感を感じると安心できる。

 

「むむ……私が隣に座れば良かった」

「みんな同じだろう。運がなかったと諦めよう」

 

 大丈夫、後で二人も思う存分抱きしめさせてもらうから。

 それにしてもこうやって妹たちに触れていると思うのは、俺は倒れていた時に何か妙な夢を見ていたような気がするのだ。それが何か当然のことながら思い出せないけど、何かとても大切なことを教えられた気がするんだ。何を、誰に、そんな疑問は尽きないが心のどこかでそれはもう気にする必要がないという変な確信があるのも確かなのだ。

 

「温かいな本当に」

「ふふ、ねえお兄様。わたくしの胸に顔を埋めてはどうですか? きっと気持ちいいですわよ?」

「うん」

「!?」

 

 ではお言葉に甘えて、俺は姉妹一の大きさのファイブの胸に顔を埋めた。いつもはここまで素直ではないつもりではあるが、なんだか無性に甘えたくなってしまったんだ。たぶん素直に甘えてくるとはファイブ自身思ってなかったんだろう、そんな驚きにも似た雰囲気を感じた。

 

「お、お兄様が今日は素直ですわ……」

 

 温もりと柔らかさを感じながら至福とも言える時間を過ごす。

 

「兄さん、次は私」

「おっと」

 

 そこそこに強い力で引っ張られ、俺の顔のポジションはスリイの胸元へと移動した。ファイブほどではないが、それでもしっかりとした弾力を持ったスリイの胸元……何だろう、とても子供になった気分がするぞこれは。

 

「兄さん、いい子いい子」

「俺は子供かよ……」

 

 いや自分で子供になった気分って思ったばかりなんだけどさ。でもスリイの声質というか、スリイに限らず妹たちはみんなそれぞれ綺麗な声だ。その中でも特に感情の起伏が乏しいスリイだが、こうして慈愛を感じさせる瞬間は妙に優しい声音をしている。柔らかいと言うか落ち着くと言うか、そんな感じの声をしているのだスリイは。

 結局その後は代わる代わるに妹たちに抱きしめられ誰が一番良かったとか、母性を感じたかを競う話に発展してしまい大変だった。

 

「……ふぅ、疲れた」

「ふふ、お疲れ様」

 

 事が済み縁側に俺とフォウの姿があった。気持ちの良い日差しを浴びながらフォウに膝枕をしてもらっている状況だ。結局のあの後も何か出来ることはないかなって聞いてきたフォウに、俺はそれなら膝枕でもしてくれないかと言ったらこうなった。

 

「兄様はもう少し私たちに甘えるべきだと思う」

「……結構甘えていると思うんだけどな」

 

 フォウに言われなくても甘えているつもりではあるんだけど……そうは見えていなかったのかな。兄として妹に頼りすぎるのはどうかと思うことも無きにしも非ずだけど、そもそもうちの妹たちと普通の妹では比べるベクトルが違いすぎる。

 

「相変わらず咲き続けてるなぁ」

「そうだね。私たちが生まれてからずっとだもんね」

 

 庭に咲いている大きな花……昨日ゼロが何か気になるように見つめ続けていたけど、本人に聞いたらもう心配する必要はないって言ってたしあれはどういう意味だったんだろうな。いつ見ても考えても不思議なだけの花、この花が枯れたりするときは来るのだろうか。

 

「……ふむ」

「兄様?」

 

 庭を見つめるように見ていた俺だったが、ふと視線の先を上に向ける。すると当然頭の後ろが膝になり、見つめる先には不思議そうに俺を見るフォウの顔がある。

 手を伸ばして頬に触れると擽ったそうにするものの、俺の手を拒むことはなかった。それどころか自分の手で俺の手を握り、更に頬に触れてほしいと言わんばかりに頬を当ててくる。

 

「フォウは可愛いな」

 

 以前に自分は可愛くないと不貞腐れることも多かったけど、雑誌に載ったりするようなモデルでは到底太刀打ちできない美貌を持っている。そして今伝えた言葉で照れてしまう仕草も可愛くて、自信を持ってほしい本当に。フォウは可愛いし綺麗だ……その言葉と気持ちに偽りは一切ない。

 

「ありがと、兄様」

「おう」

 

 そうしてのんびりと昼寝に移行する。暫く眠ることになるから頭を上げようとしたのだが、フォウにそのまま額を抑えるようにされてしまう。

 

「だ~め。このまま寝ていいよ?」

「でも疲れるぞきっと」

「そんな軟な体してないよ。それに今は私だけが兄様を独占してるの。だからダメ」

「……分かった」

「うん♪」

 

 フォウの言葉に甘えるように俺はそのまま眠りに就いた。とはいえ数時間眠っていたわけではなく、ある程度して俺は目を覚ました。相変わらず俺の頭はフォウの膝の上だったが、フォウもうつらうつらと頭を揺らしていた。フォウの背中にはいつの間に居たのか程よい大きさのゾフィエルが支えるように眠っていて俺はそんな光景に少し苦笑してしまう。

 

「……あ、兄様」

 

 起きた俺に気づいたのかフォウも目を覚まし、ゾフィエルが撫でてと言うように鳴いたのでその頭を撫でた。満足そうな雰囲気を醸し出し姿を消したゾフィエルをフォウと共に見送って、俺たちは特にすることもないのんびりな時間を再び過ごすことになった。

 

「……兄さん、少しお手洗い行ってくる」

 

 再びソファで隣に座っていたスリイがそう言って立つのだが、別にトイレに行くことを報告しなくてもとは思ったのだが、俺はすぐにその言葉の意味を理解した。

 

「少しの間お願いしていい?」

「了解」

 

 どうやらパソコンでゲームをしていた最中だったらしい。オンラインで繋がっているから勝手に切断するわけにもいかないのだろう。

 トイレに向かったスリイからヘッドホンを受け取って付けた。

 

「どうも、少しの間代わります」

 

 そう俺が口にすると返ってくる二つの声があった。

 

『あ、ロク君お久しぶりだね☆』

『久しいじゃねえか。元気してたか?』

 

 スリイとよくオンラインでゲームをする人たち、セラさんとソウトクさんだ。こうやってスリイが席を外すときに俺が代わりにやることも時々あって、その繋がりでこの二人ともよく話すことがある。セラさんは女性だけど少し……いやかなり賑やかな人で、ソウトクさんは大人の男性っぽいが面倒見の良さそうなお兄さんの印象を俺は抱いている。ちなみに、スリイはゲームだとサンと名乗っており俺も適当にロクと名乗ることにしている。

 

「ええまあ、一昨日ちょっと倒れちゃいましたけど」

 

 そう言うとヘッドホンの奥で何かが落ちる音が聞こえた。

 

『ちょ、ちょっと大丈夫なの!? サンちゃんのログインが途切れて何かあったと思ったけど……大丈夫なの?』

「だ、大丈夫ですよ。もうこの通りピンピンしてるからさ」

 

 よく話す仲になったせいかセラさんはよくこちらの心配をしてくれることがある。以前聞いたが妹さんがいるらしく、俺としてもこんなに優しいお姉さんを持った妹さんは大層可愛がられてるんだろうなって印象だ。もちろんセラさんだけではなくソウトクさんも心配してくれるのは同じだった。

 

『ちゃんと病院は行けよ? 人間の体ってもんは思ったより脆いんだからよ』

「あはは、了解です」

 

 病院に行く必要はないけど……それは言わないでおこう。

 

『そういや俺は暫くログインできねえかもしれん。ちと部下が不祥事起こしちまってその後始末と諸々があってな』

「へぇ、大変そうですね?」

『全くだぜ……ま、面倒ごとが早々に処理できたのは良かったがよ』

 

 ソウトクさんって社長か何かだっけ、あまり詳しくないんだよな俺。

 

『お仕事頑張れ☆ ちなみに私は人間界に……コホン、妹の授業参観が近い内にあるの。だからちょっと楽しみにしてるんだよね☆』

 

 え、授業参観って普通親が行くんじゃないのか? でもセラさんの口から授業参観って聞いて一つ思ったことがある。俺の通う学園、駒王学園もそろそろ授業参観がある時期だな。

 

「うちの高校もそろそろ授業参観ですね。相変わらずうちの親は来れないですけど」

 

 海外に居るし忙しいしで仕方ない部分があるからもう慣れたけどね。

 

『ロク君凄い良い子だから私が代わりに行ってあげてもいいんだけどなぁ……』

「それはそれで誰だってなりそうですね。セラさん優しそうなお姉さんって感じでみんなに自慢できそうですけど」

『も、もうロク君ったら! くぅ……妹にもロク君みたいな素直さが欲しい!』

『いや、話聞いてたらお前さん妹にちょっかい出しすぎだろ。そりゃ嫌われるって――』

『死んで♪』

『おまっ!? これ仲間にも弾当たるんだぞ!?』

 

 ……あぁ始まったよセラさんとソウトクさんの仁義なき仲間割れが。

 俺は隠れて二人のやり取りを見ているのだが、銃声を聞きつけて他のプレイヤーが集まってくる。けれど仲間割れしながらも敵のプレイヤーを見事に撃ち抜いてダウンさせていく様は流石としか言えない。

 

「兄さん、ただいま」

「お帰り」

 

 二人の壮絶な戦いを眺めているとスリイが戻ってきた。スリイに代わろうとして挨拶をすると、セラさんが思い出したようにこう言ってきた。

 

『近い内にゲームサークルのみんなでオフ会とか企画してるの☆ 良かったらロク君もサンちゃんと参加してね!』

「でも俺は部外者みたいなものですけど……」

『今更何気にしてんだよ。んなもん文句いう奴は居ねえさ』

『そうだよ☆ だから待ってるからね!』

「……分かりました」

 

 これはとんでもない約束してしまったかもしれん。スリイにヘッドホンを渡して俺は肩の荷が下りたように背伸びをする。そうしてスリイのプレイを眺めることになった……にしても本当に上手だよな、手元の動きが人間業じゃないし。

 

「セラ、35の方角に3人……うん……うん。分かった。私が一人でやる」

 

 一人対三人、だというのにあっという間に無力化したスリイに俺は小さく拍手を送る。そんな俺をチラッと見てスリイは口元を緩ませた。

 

「兄さんが見ている。負けられない」

 

 あ、スリイの目に火が灯った気がした。

 結局、そのマッチをスリイを含めたセラさんとソウトクさんが勝ったのは言うまでもない。

 

 それにしても俺気になっているのが……いつ学校に行けるのだろうか。藍華にもう少し休むって伝えないとかな。

 




一番の山場が前回だったので、これからは暫くこんな感じの緩い日常が続きます。
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