ウタウタイの兄   作:詞(みょん)

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神に嫌われているって言われてもな

 いつもの日々に、少しの間とはいえ母さんが加わった日々は賑やかだ。

 ゼロたちも母さんのことは大好きだから仲が良いし、そこに俺も混ざって間違いなく家族の団欒という掛け替えのない幸せを謳歌している。

 この世界には、人間だけではなく多くの種族が存在している。

 先日の堕天使による騒ぎだとか、そういうことが発生はしているが概ね俺は幸せだと胸を張って言えるだろう――もちろん大変なことがあるのは確かだが、それでも俺は家族を含めて友人にも恵まれているから。

 

「……………」

 

 さて、そんな素晴らしく輝かしい日々を送っているからなのか、どうも現実世界とは違う夢の世界とやらは俺に不安を抱かせたいらしい。

 ベッドに横になって眠ったかと思えば、こうして夢だと認識出来る空間の中に俺は居た。

 

「……なんだここ」

 

 イマイチ要領を得ない不思議な空間だ。

 夕焼けのような赤い光が照らすこの空間にある物とすれば、足首まで浸かっている水くらいのもので、本当にそれ以外の認識出来る何かはなかった。

 

「え? どうしてここに人が?」

「え?」

 

 ふと、振り返った。

 そこに居たのは一人の女の子――綺麗な銀の髪はゼロを思わせるが、ゼロに比べると儚さを押し出した美少女と言えるだろうか。

 触れてしまえば消えてしまいそうな、けれどもどこかしっかりとした意志を持つ女の子。

 

「あのさ……」

「なに?」

「……なんて言えば良いのか分からないんだけど、ここってたぶん俺の夢だと思うんだ」

「夢……?」

「あぁ……ごめん、マジで俺自身分かってないんだけど」

 

 なんで俺、自分の見る夢に出てきた女の子に謝ってるんだ?

 ていうか夢の中で女の子に関する物を見るだけでも、何故か察して機嫌を悪くすることもある女の子が傍に六人も居るってのに、出来れば早く目覚めてほしいもんだが。

 

「……あ」

「どうした?」

 

 その時、女の子が目を見開く。

 どうしたのかと気になる俺の元へ近付いた彼女は、名前を口にした。

 

「六花……なの?」

「っ!?」

 

 彼女が口にした名前は、俺の名前だ。

 いきなり見知らぬ女の子から名前を言われてしまい、これでもかと動揺して反応に遅れてしまうも、どうにか頷くことで肯定する。

 

「やっぱり……でも、私の知る六花とは違うのかな?」

「俺に聞かれても……」

 

 この夢はただ、俺を困らせたいだけなのか?

 俺の夢ということは、彼女が俺が生み出した女の子そのものだろうし、こんな可愛い子と話が出来る夢というのなら嫌じゃないが、だとしてもあまり困惑させないでほしい。

 

「あなたは、私の知っている六花とは違う。でも魂の色は似てる……どこまでも優しくて、私たちのことを第一に考えてくれていた人……たぶん、あなたの傍にも凄く大切な人たちが居るんじゃない?」

 

 そう問われ、脳裏に浮かんだのは妹たちだ。

 

「そう……だな。俺なんかより凄く強いのに、それでも放っておけない可愛い妹が六人も居るよ」

「六人!? すっごい大家族!」

 

 女の子は楽しそうに、だからかと手を叩いた。

 

「だから六花は、そんなに優しい雰囲気を持っているんだね。本当に変わらないなぁ」

 

 この子は、俺の事を知っているのか?

 あまりにもリアルに会話が続いてしまうせいで、これが夢なのか現実なのか分からなくなってしまいそうだ。

 ボーッとする俺を見て女の子はクスクスと笑いながら言葉を続けた。

 

「私には、お兄ちゃんが居たの」

「お、おう……」

「六花はそんなお兄ちゃんの傍に居て、戦ったりは出来ないんだけど相談に乗ったりしてたんだよ。体の弱い私のことも気に掛けてくれて……本当に助けられた」

「……………」

「本来だったらあり得ないこと……もう一人のお兄ちゃんとも意思の疎通が図れて、本来では決してあり得ない幸福を私たちに見せてくれたんだ」

 

 俺には、彼女が何を話しているのか全く分からない。

 それでも彼女の話し方や雰囲気は聞き取りやすく、まるで読み聞かせを受けているかのような気分にさせられた。

 女の子は更に俺に近付き、そっと手を握った。

 

「私が病気になっても、六花は気にせず手を握ってくれた……その温もりがどれだけ安心させてくれたか……そして何より、私は私なんだと自信を持たせてくれた」

「……空気の読めないこと言っていい?」

「え? 良いよ?」

「……俺には全く実感がないというか、何のことか分からん」

「それはそうだよ。私だってそれを分かってて話してるから」

「……………」

「あははっ! そうやってジト目を向けられたこともあったね!」

 

 一人で喋って、一人で笑って、一人で楽しんで……なんなんだよこの子は。

 ただ不思議とこの手を無理に払おうなんて気にもならないし、むしろ少しだけ優しくしてあげたいと思えた。

 それは多分自分よりも年下に見えるからか、それともどこか病弱そうに見えるからなのかはちょっと分からないけれど。

 

「今の私は、六花の夢に生きる存在……たぶんもう会うことはないだろうけれど、だからこそ六花がどんな存在なのか少しは分かるんだよ」

「俺はただの人間だと思うんだが」

「そうだね、六花は普通の人間だよ。ただちょっと特別――六花の在り方は、周りを明るくして不幸を吹き飛ばすの。六花の持つ気質なのか心なのか、その辺りは分からないけどとにかく! 六花はそうやって意識しなくてもみんなを笑顔に出来るんだよ」

 

 不幸を吹き飛ばし、みんなを笑顔に出来る……か。

 そう言われてもやっぱり実感はないけれど、俺の存在で妹たちが笑ってくれているという自信はあったので、そういう意味では間違ってないかなと思える。

 

「ほら、こんなにももしもを見せてくれるんだよ?」

「……これは」

 

 女の子が手を翳すと、色んな光景が一瞬とはいえ見えた。

 最初に映し出された残酷な光景に、俺と同じ顔の人間が入り込むことで大なり小なり笑顔が増えたこと、絶望に塗れていた色が幸福な色を取り戻していくのが。

 

「六花は普通の人間……でもそれが大事なんだと思う。絶望に向かうのが普通だと、それが当たり前なんだと諦めた世界に生きる人たちに、純粋な気持ちで頑張ろうって言える六花が凄いんだよ。頑張ろうって気持ちがなんだ、そんなものは気休めにもならない絶望が前にあるってのに、それでも本来誰もが持つ未来への希望を呼び覚ましてくれる不思議な力が六花にはあるんだ」

「その……あまりに過大評価が過ぎると思うんだが」

「過大評価でも何でもないと思うけどね。病は気からって言葉があるように、どんな物事も気持ちが大事なの。ほら、ムードメーカーってやつだよ」

 

 う~ん、やっぱりしっくりと来ないけどこの子が言うなら俺は堂々とムードメーカーを名乗らせてもらおうな。

 なんて言ってみると、女の子はうんうんと頷いた。

 

「誰が見ても、誰が聞いても、絶望より希望が良いでしょ? 悲しむより笑って、泣き顔より笑顔が絶対に良い」

「そりゃそうだな」

「でもね? そんな尊い気持ちを踏み躙る存在が居るんだよ。六花は……悉くその存在に嫌われちゃってた」

 

 まあ、誰かに好かれて嫌われるのは普通のことだしな。

 しかし女の子が伝えたいのはそんな単純なことではないらしい。

 

「決めたルールを、定められた絶望を希望で塗り替えて笑顔にしちゃう……それが気に入らない奴らが居るの――気を付けて六花」

 

 その時、視界が揺らいだ。

 どうやらこの夢も終わりを迎えるらしく、女の子の姿も揺らいでいく。

 

「六花は神に嫌われている……奴らは、六花という存在そのものが憎いの。だからどうか気を付けて。まあ心配はないかもしれないけれど、覚えてればいい位の感覚でね」

 

 そう言って最後に、女の子は笑って消えて行き俺も夢から覚めた。

 

 

▽▼

 

 

「っ!?」

 

 小鳥の鳴き声が鼓膜を震わせ、俺は目を覚ました。

 

「……神に嫌われている……か」

 

 夢の内容はほぼ覚えている。

 その上で敢えて言うなら、俺は神様に嫌われるようなことはしてないと思うし、中指を立てたりといった罰当たりなこともしてないぞ。

 

「あの子は……なんだったんだろうな」

 

 夢に出てきた女の子は、誰だったんだろう。

 気になるがそこまででもないのが不思議な感覚で、取り敢えず夢のことは心の中に仕舞っておくとしよう。

 

「……って」

「すぅ……すぅ……」

 

 今気付いたけど、隣でゼロが眠っていた。

 いつもの気の強さはどこへやら、可愛い寝顔を晒しながら涎まで垂らす長女の姿がそこにはあった。

 

「……可愛いなぁ」

 

 チラッと視線を動かせば、豊かな双丘が目に入るのが朝からアレだけど、やっぱり妹たちは自慢の可愛い子たちである。

 

「母さんはもう起きてんのかな……つうか授業参観! マジで何も起きないよな? やけにソワソワするこの感覚何!?」

「うるさいなぁ……人が寝てるんだから静かにしろよ!」

「いてっ」

 

 うるさくしすぎてゼロにどつかれた。

 ごめん。

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