ウタウタイの兄   作:詞(みょん)

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「それじゃあ六花、後で授業参観には絶対に行くからね?」

「うん」

 

 母さんと妹たちに見送られて家を出た。

 今日は待ちに待った授業参観……いや、別に待ちわびたわけでもないのだが、ここ最近の中でも母さんが絡んだ特別な日というのは間違いない。

 ただ、起きてから少し一悶着はあった。

 

『私も行きた~い!』

『私も……』

『うぅ……困らせたくないけど、私も見たい……っ!』

『全く、お姉さまたちったら我慢が出来ないんだから……でも気になりますわね』

 

 このように、ワンとゼロを除いて学校に行きたいと言い出したわけだ。

 妹に来てもらう授業参観というのも聞いたことはないので、流石に遠慮してもらったけど思うこともあった――彼女たちは特別な生まれだけど、普通の学生として過ごす世界があっても良いよなって思うのだ。

 

「以前にワンの制服姿とか見たけど似合ってたし……でもそれはそれで、大変なことになりそうかな?」

 

 そう言いながらアクセサリーと化したアルミサエルに問いかけると、その通りだと言わんばかりにブンブンと頭を動かして頷き出した。

 

「だよなぁ……だよなぁ!」

 

 一人でアクセサリーと戯れる俺という構図。

 周りに人が居なくて良かったと思いながら、そそくさと学園へと急いだ。

 

 

 ▼▽

 

 

「イッセー、昨日は済まなかった」

「え? あぁいや、別に気を付けてもらえば良いんだが」

「お詫びと言ってはなんだが、やはり最初はこれを用いて練習しよう」

「なっ!?」

 

 目の間で、何やら愉快なやり取りが行われていた。

 学校に着くといつものように藍華が挨拶と共に近付き、彼女との会話を楽しんでいると兵藤に向けてゼノヴィアさんがコンドームを取り出したのである。

 

「教室でなんてもんを出してんだあああああああああ!!」

「むっ? これは必要なモノなんだろう?」

「そりゃそうだけど……って時と場所を考えろって言いたいんだ!!」

 

 兵藤の動揺はもちろんだが、ゼノヴィアさんは大分ぶっ飛んでるらしい。

 ハーレムがどうとか言っていた兵藤だけど、人を羨ましがる前に自分だってちゃんとやることやってんじゃんと俺も揶揄いたくなったが、素直にここはこのやり取りを楽しむとしよう。

 

「ふふっ、アーシアが顔を赤くしてるの最高ね」

「鬼畜かよ……でも可愛いな」

「でしょう?」

 

 まあ、美少女の照れ顔ってのはいつだって可愛いものだ。

 妹たちについてのそれを語らせたら俺の右に出る者は居ないのだが、悪い部分としては藍華でさえ俺を止められないのがちょっと申し訳ない所だ。

 

「つうか、ゼノヴィアさんも一気に馴染んだな」

「ゼノヴィアっち面白いしね」

「確かに」

 

 そんな風に藍華とのんびり喋っていると、段々と兵藤の周りはエスカレートしていく。

 兵藤の友人である松本たちも加わって騒ぎが大きくなったところで、アーシアさんの大きな声が響き渡った。

 

「みなさん! イッセーさんは悪い人じゃありません! かっこよくて、凄く優しい人なんです! だからそんなイッセーさんを悪く言うなんて許しません!」

「あ、アーシア……っ!!」

 

 アーシアさんの言葉に、兵藤が感動したように体を震わせた。

 流石に松田たちもアーシアにこう言われては引き下がるしかなく、俺も藍華もやるじゃんアーシアさんと笑っていた。

 そして、そんな朝の時間が過ぎたらやってくるのは授業参観だ。

 授業は英語となり、教室のドアが開いて親御さんが続々と入ってきた。

 

(……あ)

 

 他の親御さんと混じるように、母さんの姿もあった。

 高校生の息子が居るとは思えないほどに綺麗な容姿をした母さんは、親御さんたちからだけでなく生徒からも少し注目を浴びている。

 そんな母さんと目が合うと、頑張りなさいと言わんばかりにウインクをされた。

 

「……ったく」

 

 俺も単純だなと思う――こうして母さんが家に居るのも久しぶりだし、授業参観というのも久しぶりだったけど、それがこんなにも嬉しいと思ったんだから。

 

「うん?」

 

 その時、藍華とも目が合った。

 彼女は俺を微笑ましそうに見つめており、見られていたのかという気恥ずかしさを感じるが、ある意味で家族を除けば一番距離の近い親友でもあるため、今後も藍華には頭が上がらなそうだ。

 さて、英語の授業のはずだったが何故か配られたのは紙粘土だ。

 

「今渡した紙粘土で好きな物を作ってください。自分が思い描いた物をありのままに作るのです。これまた英会話」

 

 なんだよその英会話。

 流石に声には出さなかったが、きっと俺以外の誰もがそう思ったはずだ――とはいえ、せっかく母さんも来ているんだし頑張ってみるか!

 

(思い描いた物……ありのままの物……)

 

 そうか考えた時、脳裏がクリアになる感覚があった。

 思い描く物はいつだって大切な存在――ゼロ、ワン、トウ、スリイ、フォウ、ファイブの姿だ。もちろん母さんも大切だけど、まずは妹たちのことだけを考えてみる。

 

「……………」

 

 手だけが動く、まるでそれは妹たちを模るように。

 今までにないほど集中しているからこそ、外野の声であったり騒ぎ声も全く頭に入ってこなかった。

 

「こ、これは……っ!」

「兵藤君……これは!?」

「イッセー!?」

 

 騒がしい、声がでかい。でもどうでも良いと言わんばかりに俺の手は動き続けた。

 そして――完成した。紙粘土によって作られたのは、妹たちの姿。上半身だけではあるが、自画自賛しても誰も文句を言わないほどに精巧な粘土人形が完成したのだ。

 

「六花……アンタ凄くない!?」

「お、俺の部長も最高のはずなのに……くっ!? これがハーレム王の力!?」

「美しい……」

「なにこれ……芸術だわ」

 

 俺は、周りにクラスメイトが集まっているのに今更ながら気付いた。

 みんなが俺の机に目を向けており、完成した姉妹たちの人形にうっとりとした様子で感想を述べている。

 

(俺……何やってんだろ)

 

 チラッと見えた兵藤の机には、グレモリー先輩の裸体人形があったけど……というか俺と兵藤って考えること同じなのか? 俺も兵藤みたいに下半身に正直ってやつなのか!?

 

「アンタ、天才だわ」

「……………」

 

 天才だと藍華に言われても、特に嬉しくなんて何ともなかった。

 

「あの芸術作品を生み出したのは私の自慢の息子ですわ♪ 私の宝物なんです♪」

 

 後ろでは母さんもそんなこと言ってるし、俺が原因とはいえマジで止めてくれ。

 

「兵藤君の作品も素晴らしかったですが、神里君のは更に素晴らしいと思いました。正に芸術の極み、この美しい女神のような女性たちが、少しばかり切なそうにポーズを決めているのも素晴らしい! 神里君、この素晴らしい作品はどういう名前なのでしょうか?」

 

 名前と言われ、俺はボーッと考えた。

 特に良い物が思い当たらなかったので、咄嗟に脳裏に浮かんだものをボソッと呟く。

 

「……新宿地獄阿波おどり?」

 

 何でそう言ったのかは分からないが、藍華に速攻でダメ出しを食らったので言い直す。

 

「未来を祈る少女たちの演舞で」

「良いですね!」

「かっけえ……っ!」

 

 いや、俺はもう何がかっこいいとか分かんないよ。

 色々とあったが紙粘土を使った英語の授業は終わり、兵藤が作ったグレモリー先輩の人形はあいつ自身が持って帰ることになり、俺が作った物も俺が持って帰ることに。

 一時期はオークションになりかけたが、流石にこれをクラスメイトとはいえ譲るのは勿体なさすぎる。だが、授業が終わった途端に興奮した様子で写真を撮りまくる母さんだけはマジで止めてほしかった。

 

「やっぱりアリーシュさん面白いわね!」

「お前とは波長合いまくりだもんな」

「うふふっ! だって凄く楽しいんだもの! やっぱり親というのは、愛する息子が何をしても嬉しくなるし楽しくなるのよ。全ての親には、子と共に幸せを謳歌出来る権利があるのよ! 誰にも奪われてはならない、奪ってはならない幸せがね!」

 

 分かったから母さん落ち着こうか。

 そんな風に騒がしい時間が過ぎて行き、早くも昼休みになった。

 一つ二つの授業参観を終えたくらいでは終わらないのがこの駒王学園なので、昼休みになっても校内は騒がしい。

 そんな中、魔女っ子が撮影会を校内で開いているとかわけのわからない情報が舞い込んできた。

 

「魔女っ子?」

「えぇ、コスプレなのかしら……とにかく、凄い美人が撮影会をしてるみたい」

「この学校はいつからそんなのになったんだ?」

「最初からでしょ」

「……なんも言えねえや」

 

 悪魔が関係している学校だし仕方ねえか……仕方なくねえだろ。

 とはいえどんな風になっているのか気になった俺は、藍華を伴って撮影会場になっている廊下の一角へと向かった。

 

「……おぉ」

「あら、本当に凄い美人ね」

 

 撮影されていたのは、確かに凄まじいまでの美人だった。

 キャピキャピした様子なのはともかく、魔女っ子のコスプレをしている黒髪ツインテールの女性は、周りを虜にするほどの魅力を放っている。

 

「……おうふ」

 

 その女性の傍に兵藤たちの姿もあれば、生徒会長だったり……それに以前、グレモリー先輩がぶん殴った顔立ちの似た男性と、傍に居た銀髪のメイドさんの姿もあった。

 なるほど――何となく分かったけど、あの女性も悪魔とかそういうやつか?

 和やかな様子で喋っている一団だが、赤髪の男性が俺を見た。

 銀髪の女性もそれに気付き、すぐにハッとした様子で頭を下げてきたので俺も返すように頭を下げる。

 

「神里君……ってお兄様! 勝手に接触を図ろうとしないで! また迷惑を掛けるつもりなの!?」

「い、いやリーア? 私はただ挨拶をしたいだけなんだが……」

 

 まあ、挨拶くらいならするのが普通というやつだろう。

 俺からグレモリー先輩たちに近付いていた時、まさかの声が聞こえた。

 

「ソーナちゃんは冷たい! せっかく来たのにぃ!」

「あぁもう! そういうのが止めてと言っているの!!」

 

 支取会長と声を交わしているのはあの魔女っ子だ。

 ぶりっ子というか、人によってはうざったいと思いそうな喋り方の女性……その声に俺は聞き覚えがあった。

 そしてつい、言ってしまった。

 

「セラ……さん?」

「……え?」

 

 周りの音が消えたように、俺は魔女っ子と見つめ合う。

 セラさん――スリイと良く遊ぶゲーム仲間であり、俺も少なからず交流をしたことがある女性と同じ声をしていた。

 

「……ロク君?」

「……マジかよ」

 

 あ、これセラさんだわ。

 そう思った瞬間、セラさんがびゅーんと跳躍するように目の前に立った。

 

「本当にロク君なの!? えっと……ええええええっ!?!?」

「あ、はい。ネットではそれですね……初めましてセラさん」

「わ、わああああああっ!? 本当にロク君だああああああ!!」

 

 ぴょんぴょんと飛び回り、俺の手を握りしめてブンブンと上下に振り回す。

 まさか本当にあのセラさんと出会うとは思わなかったが、というか魔王がどうとか言ってなかったっけ?

 それもまた少し聞きたくなったのだが、何やらセラさんが突然冷たい空気を醸し出す。

 

「ねえサーゼクスちゃん?」

「な、なんだいセラフォルー……」

「聞き間違いじゃなかったら、リアスちゃんがまた迷惑を掛けるつもりかとか言ってなかったかな? それ、ロク君相手に何かしたってことかな?」

「あ、あのぅ……」

「誤魔化さず全部教えて。じゃないと凍らせるよ?」

「……助けてくれグレイフィア!」

「あなたは一度、頭を冷やすべきかと」

「頭を冷やすどころか凍えて死んでしまうが!?」

「では死ねば良いのでは?」

「私に味方は居ないのかい!?」

 

 ちょっと不憫だなとは思いつつも、面白い光景だったのでしばらく眺めることにした。

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