エフイーターが龍門裏社会のファイトクラブに潜入捜査する話   作:オリスケ

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第11話

 

 

 

 こうして、龍門一の暴力クラブ内部で巻き起こった事件は決着の運びとなった。

 ビルの崩壊を伴う爆発騒ぎはさすがに隠し通す事はできなかったが、ベゼスタ財閥の根回しにより、新聞やニュースでは『解体工事の誤発注』と脚色がされている。

 クラブ・サボンに潜入していたレユニオン、ディープ・ドープについては、ロドスにて身柄を確保。今後のレユニオン対策のための参考人として扱う運びとなった。しかしディープ・ドープが言うには、連絡が途絶えた時点でレユニオンは自分を見限り、組織は再編成されているだろうとの事だ。後日ロドスの情報支部がこれが事実であることを確認し、現在は容疑者件要看護者としてロドス治療室の一室に隔離されている。

 

 

 

 

 

 

 そんなやり取りが忙しく行われ、ビルの爆発騒ぎについてのニュースが流れ、流れ去り、人々の記憶からもあっけなく忘れ去られた頃。

 ロドス指令室に訪れたチェンが、デスクに置かれた契約書と現金手形にサインを記し、対面のアーミヤに差し出した。

 

 

「これで我々からの依頼は完了だ。ご苦労だった」

「はい、確かに受け取りました」

 

 

 丁寧に受け取ったアーミヤはふぅと一息。肩の力を抜いて表情を緩ませる。

 

 

「それにしても安心しました。ロドスも近衛局も何事もなくて」

「ああ。まさかベゼスタが龍門から高飛びするとはね」

 

 

 アーミヤの安堵にドクターが応じる。

 二人が話題に上げているのは、騒動のすぐ後に舞い込んできたニュースだ。記事を信じるならば、ベゼスタが数年の間外国へ渡航するのだという。ベゼスタグループの運営も幹部に譲り、一時的にかもしれないが前線から外れた事になる。

 

 

「ニュースには持病の療養のためという題目が付いていましたが、明らかに嘘ですよね」

「普通に考えてそうだな。何か龍門に居られなくなるような出来事があったんだろうが……」

「いやぁ、全く何があったのか。皆目見当も付きませんねぇ、はっはっは」

 

 

 訝しむドクターの声に重なる、明朗な笑い声。

 いつも通りチェンの隣に座ったホシグマが、表情を砕けさせ高笑いをしていた。

 普段は実直な彼女の、執務中は見せることのない屈託のない笑顔に、アーミヤがおずおずと尋ねる。

 

 

「あの、今日のホシグマさんは随分上機嫌ですね? 心なしか、お肌もつやつやされているような……」

「やー、ここ最近夢見がすこぶる良いもので。しばらくぶりの福夢ですから、心が十歳は若返ったような気分なんですよ」

「そ、そうですか。それは、よかったですね……?」

 

 

 あっけらかんと笑うホシグマに、アーミヤが曖昧に頷く。ドクターはチェンが呆れるように肩を竦めたのを見逃さなかったが、面倒な事になる気がしたので追求するのはやめておいた。

 普段の厳格な態度もなくへらへらとしたホシグマを横目に、チェンはぽむと手を打ち、話を元に戻す。

 

 

「ともかく。施設の崩壊に加えベゼスタの不在が後押しし、クラブ・サボンは当面閉鎖する事になったようだ。龍門はこれを契機に、市内環境やメディア業界の是正化を試みるつもりだ。龍門に蔓延っていた悪性腫瘍の一つを切除し、龍門はより人々にとって住みよい社会になるだろう。これもひとえに――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――ひとえにアタシのスーパーカッコイイ大活躍のお陰って訳だね!」

 

 

 チェンの言葉を横取りして調子のいい声を響かせ、エフイーターがいきなり執務室に飛び込んできた。

 彼女の両手にはビニール袋がたくさんぶら下がり、抱えるほど大きなポップコーンとドリンクが詰め込まれている。

 ぎょっと目を丸くしたアーミヤが、ロドスのリーダーという立場上の責任を思い出し、乱入してきた銀髪のウルサス人に聞く。

 

 

「エフイーターさん、今は大事な会議中ですよ。どうしてここに?」

「うん? クラブ・サボンの一件について、これから上映会やるんでしょ?」

「その件については先ほど合議して決着を……え、何です? 上映会?」

「ずばり、アタシの華麗なる潜入任務の記録を、執務室のスクリーンで観賞する上映会だよ! テレビ放送のツギハギだけど、アタシが夜なべして編集したからね。そんじょそこらのドキュメンタリーより面白いと思うよ!」

 

 

 そう言ったエフイーターは大きな胸を得意気に膨らませ、懐から取り出したUSBメモリを自信満々に翳してみせた。ディスプレイにはわざわざカラーコピックを使った力の入ったタイトルが記載されている。

 しばらく放心状態だったアーミヤは、身体を凍り付かせたまま、ぎ、ぎ、と首を回し、隣のドクターを見つめる。

 

 

「……えっと……ドクター?」

「すまないアーミヤ。誓って言うが俺は冗談だと思っていたんだ」

「もうっ、もーもーもーっ。オペレーターの皆さんを甘やかしては困るって言ってるじゃないですか! なんでそうぽんぽん軽率に約束事をしてハメを外しちゃうんですか。私を差し置いて、私を差し置いてっ」

「まーまー、アーミヤもぷりぷりしないで。ほらポップコーン食べな? バター多めにしといたよ」

「まったく、いくら記憶喪失だからって、デリカシーまで失い過ぎだと思います……はく、はく、はむはむはむっ」

「……なあ。用事は済んだし、私達はもう帰っていいか?」

「いいではないですか隊長。小官は見たいです。クラブ・サボンの試合はしばらく見納めになりますからね」

「ホシグマ? 近衛局に入ったからには違法番組の視聴は禁止だと言ったはずだが?」

「おっと」

 

 

 刃のような視線を浴びて、ホシグマがドリンクのストローを咥えた状態で固まる。そんな殺気だった気配を意にも介さず、エフイーターは上機嫌なまま機器をセッティングし、ポップコーンとドリンクを配っていく。

 

 

「はい、これがドクターのポップコーンとドリンク!」

「ありがとう――改めてご苦労様、エフイーター。君のお陰で事件は解決できたし、なにより君が無事で良かった」

「にしし、いきなり言われるとくすぐったいぞ」

 

 

 ほんのり頬を赤く染めながら、エフイーターが身を捩る。服装はいつものインナーにスカジャン姿。まだ掌に包帯こそ巻いているが、傷自体はすっかり癒えて、通常任務にも出動できるまで回復している。

 いつにも増して張り切っていると、他オペレーターからの評判も上々だった。その評価が嘘じゃないと照明するような眩しい笑顔でエフイーターが言う。

 

 

「アタシにとってもいい経験になったよ。違う場所で戦って、注目浴びて、やっぱりロドスが最高だって結論に落ちついた。戦う事で人を助けるヒーローになれるロドスが、アタシは大好きだ」

「そう言ってくれるなら、俺も鼻が高いよ――滞在歴で言えば、記憶喪失の俺より君の方が先輩だけどな」

 

 

 結局、あれから数回の検査をしたが、ドクターの記憶は戻ってはいなかった。

 クラブ・サボンで見せたあの動きは、例えれば箸を持つ時の指の動きと同じ。ドクターの身体に染み込んだ習慣で、記憶とは別のものだったらしい。今回の件がドクターの記憶の復活に繋がる見込みは、残念ながらなさそうだ。

 

 

「ドクターとしては、今回は骨折り損だったって感じかな」

「いや、そうでもないよ。君直伝の護身術を俺の身体は覚えていた。俺の中にはかつての俺が残っていた……つまり、過去が無かった事にはなっていない。君との思い出は失われてはいないんだ。それが分かっただけでも十分な成果だよ」

「っ……たく、もう。ほんっとそういうとこだよな、お前って」

「どういうところだ?」

「そこで臆面もなく聞き返すような所だよ……あーもう、いいから上映始めるぞっ」

「では、小官が照明を消しましょう。暗くしますから、ポップコーンを溢さないようにご注意ください」

 

 

 ホシグマが席を立ち、壁際のスイッチに向かう。アーミヤはまだ納得しきれていない様子だったが、諦めて椅子に深く腰掛けてジュースをちゅうちゅう啜っている。

 徐々に暗くなっていく指令室。前面に置かれたモニターが、周囲より明るい黒の画面で再生を待っている。

 その合間にドクターが、すぐ傍の肘掛けに座るエフイーターに聞いた。

 

 

「……なあ、エフイーター」

「ん?」

「実際の所、俺と君の思い出は護身術を教わったというだけなのか?」

「え、今ここで聞く? 出し抜けに過去をほじくり出してどうしたのさ」

「いや、単なる師弟関係なら、別に秘密にする事もないじゃないかと思ってね。これを機に、昔の思い出話でもしてくれると嬉しいんだが」

 

 

 薄暗い中でも、エフイーターがぷうっと唇を尖らせた事が分かった。彼女は肘掛けに腰掛けた格好で、宙に浮かせた足をぶらぶらと揺らす。

 

 

「まったく、ドクターは相変わらずデリカシーないなぁ」

「あんな危機を乗り越えた後じゃないか。隠し事はナシにした方が、お互いに今後も気持ちよく過ごせると思ったまでだよ」

「ふぅん? ドクターは、アタシとの間に秘密はない方がいいって思うんだ?」

「……そのつもりだが?」

 

 

 妙に含みのある質問を返されたので、ドクターは率直な考えを答えにする。

 指揮官とはつまり安全な場所から人を動かし指示する立場だ。いつだってオペレーターとの信頼関係が大事になってくるし、壁はないに越した事はない。今回の件でかつてのドクターとエフイーターが浅はかならぬ中だと分かったからには、より親密になっておきたいと思うのは自然なことだった。

 ドクターの思考は、そんな実務上の齟齬をなくすためという名目も含んでいたが……エフイーターはふむふむと何事かを思案するばかり。

 ホシグマが着席し、アーミヤがストローを咥えてドリンクを飲む。納得いかなげなチェンもソファに深く腰掛けてスクリーンを見つめている。

 そうして、いよいよ映像を再生しようかという――まさにその時。

 

 

 

 

 

 

「ドクター」

「うん?」

 

 

 不意に名前を呼ばれたドクターは、顔を向けて固まる。

 肘掛けに腰掛けていたエフイーターが、ぐっと身を屈めてドクターに接近していた。息が掛かるほど近い距離に彼女の端正な顔があり、息を詰まらせる。

 そんな風に固まったドクターの手が、エフイーターに掴まれた。

 そのまま彼女は、ぐいっとドクターの手を引き寄せると――

 

 

 

 

 ――ふっくらと丸みのある、自分の胸に埋めさせた。

 

 

 

 

 ふにっと指が沈み込む弾力。服越しでも全く衰えない柔らかさ。

 三者三様の衝撃が、司令室に轟いた。

 

 

 

 

「んっ」

 

 

 とエフイーターがほんのり甘い呻き声を漏らし。

 

 

「なっ!?」

 

 

 とドクターが素っ頓狂な声を張り上げ。

 

 

「ぶーーーーーーーーーーーーーーーーーー!?」

 

 

 とアーミヤが、飲んでいたドリンクを思いっきりぶちまけた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 アーミヤの咳き込みが響く中で、エフイーターは金縛りにあったように固まるドクターの手を胸に押し付けたまま、ぐにぐにと肌に伝わる感触を吟味する。

 

 

「んー……うん。この感じだと、コッチの方は身体で覚えてなさそうだな」

「な? え? は、は?」

 

 

 バイザーの向こうで目を白黒させるドクターを置き去りにして、エフイーターはドクターの手をぱっと離すと、あっけらかんと笑ってみせた。

 

 

「にっしし。そういうことなら、教えるワケにはいかないな。それじゃ、アタシは用事を思い出したから失礼するよ。皆は後で映画の感想をよろしくねー!」

 

 

 ひらりと身を翻し、エフイーターが軽やかな足取りで司令室を出ていく。

 丁度大仰なBGMと共にスクリーンが映像を映し始めたが、もうそれを気にかける者はいない。

 

 

「お……オイ待て、今のどういうことだ!? ブラフか、ブラフなんだよな!? なあエフイーター!?」

「ドクターちょっと待ってください何ですか裏でオペレーターと何やってたんですかそんな人じゃないって信じてたのに! 記憶が無いとか関係ないですよ、これは絶対に絶対に説明が必要ですからね!?」

 

 

 大慌てでドクターがエフイーターの後を追い、その背中を顔を真っ赤にさせたアーミヤが追いかける。

 そんな風にして、三人分の足音がドタドタと遠ざかっていき、取り残された司令室には。

 

 

「……」

「っふ……ぶっほ……!」

 

 

 ソファに腰掛けた格好のまま、アーミヤが吹き出したコーラを全身に浴びてびっちゃびちゃのチェンが残された。

 隣のホシグマはもはや堪えきれず、口元に当てた手の隙間から笑い声を漏らしている。

 

 

「っく、くく。隊長、今回の慰謝料は幾らにしますか……ふふっ」

「……いや、必要ない」

 

 

 甘いコーラの滴る鴉色の黒髪で目元を隠したまま、チェンが静かに答える。

 その声色に滲むのは、憎き相手を本気で斬ると決めた時の戦士にしか出せない、本物の闘気。

 

 

「今なら抜ける――もう我慢できるか! 我が赤霙の切れ味と共に無礼を思い知れ、馬鹿者どもがぁーーー!!」

「あーーっははははははははははははは!」

 

 

 怒号を張り上げ、抜刀と共に走り出したチェン。ホシグマがとうとう腹を抱えて大爆笑する。

 ひとしきり笑い転げて、ひーひー呻きながら身を起こしたホシグマは、涙の滲んだ目を拭って立ち上がる。

 

 

「いけない、いけない。さすがに抜刀した隊長は小官が止めに入らなければ……それにしても、やっぱりムービーショーの結末は、賑やかな馬鹿騒ぎに限るな。はははっ」

 

 

 長身をぐっと伸ばして、ホシグマも気楽な足取りで司令室を後にする。

 そうして誰もいなくなった真っ暗な部屋に残ったのは、やたら壮大なBGMと、煌々と輝くスクリーンのみ。

 銀幕の向こうに映る、銀髪を棚引かせて爽やかな汗を流す彼女は、観客が誰もいない事など露にもかけない、今ここに自分が在る事を誇りに思うような、そんな自信に満ちあふれたとびきりの笑顔を浮かべて見せるのだった。

 

 

 

 

 

 






くぅ〜w疲(以下略



ここまで読んでいただきありがとうございました!
アークナイツくん味のありすぎるキャラをぽこじゃか出しながら各キャラのストーリー触れなさすぎィ! という事で、推しキャラにオリジナルストーリーを作って大活躍して貰いました。
エフイーターちゃんかわいくて強くておっぱいでかくていいよね……映画女優という経歴を良いことに、ドクターと二人主演の脚本をわざわざ作ったりめちゃめちゃ婉曲的に距離詰めようとするような天然にせよ本気にせよちょっとズレたところもかわいいね……おっぱい大きいね……そんなアークナイツ始めたドクター全員を一度は虜にした彼女に主人公になって欲しかった。これはそんな作品です。


新キャラ作ったり独自に舞台を作ったり、言及がないのを良いことに過去やドクターとの関係を捏造したりと好き勝手にやらせてもらいましたが、楽しんで貰えれば幸いです。でもいわゆるエリートオペレーターと呼ばれる人たちならドクターに思うことがあったり何なら記憶喪失前の彼ともにょもにょした人に言えない関係持ってたりしてもおかしくないよね? ね?



面白かったら評価、感想くれると大変助かります。創作の励みになります。
アークナイツでは今後もこんな感じで各キャラを主人公にした、エンドロールに『シュ◯ーソングとビター◯テップ』が流れてくるような読み味の中編ストーリーを作っていきたい所存です。



次はファイアーウォッチ×メテオリーテか、アスベスト×マゼランのどっちかだと思います。
作るのは……いつになるでしょう……まあ気長に待ってもらえれば幸いです。
それでは、また次の作品でお会いしましょう。


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