凌辱エロゲーの世界のはずなのに、いったいどうなってんの??   作:tiwaz8312

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主人公のアイリスに専属のイケメン執事ができました。


イケメン執事の登場

 生まれ育った──大自然しかない、緑色が多方面に広がっている場所。とても優しくて、とても温かい、皆が助け合いながら何気無い日常を送っている小さな集落。

 私の一番大切な場所。

 お父様が領民の為にあっちこっちと忙しく動き回って、メイドのコーネリアが洗濯物を干したり小さな屋敷の掃除を一生懸命したり、家庭教師のセレン先生が領民達の相談に乗ってたり、お爺ちゃんやおじさん達が畑仕事を頑張ってたり、お婆ちゃんとおば様達が子供達の相手をしながら家事とかをしてたり、お兄さん達とお姉さん達が教会でお勉強してたり、お兄さんとお姉さん達に少しでも教養を身に付けて貰いたくて一生懸命頑張ってる神父さんとシスターさん。鍛冶屋のおじさんがカンカンと金属を鍛えて、領兵とは名ばかりの青年団の皆がイノシシや大きな鳥や果物を荷車から降ろしてたり。

 前世では考えられない信じられない生活。でも、今の私には代えがたい大切な一番の宝物。

 

 なのに──全部が赤く染まって、燃えて、燃えて、燃えて──

 

 

  記憶を思い出した程度で、夢に見るんじゃないよ。

  言ったろう。私に任せなてね。

 

 

 全てを染めていた赤が、瞬時に、見慣れた緑色に塗り替えられる。壊され焼失した宝物(日常)が姿を取り戻し以前の輝きを放つ。

 何もかもが元通り。何時ものありふれた当たり前。

 私の日常(宝物)が、何処までも何処までも広がっている。

 ――ああ、良かった。凌辱イベントなんて、領地壊滅なんて、そんな、ふざけた事が起きるわけ無かったんだ。

 だって、この世界はゲームなんかじゃない(現実なんだから)

 だから、ゲームのイベントなんて起きるわけがない。

 だから、安心して良いんだ。だって、ゲームとは全然違う。似ているけど違う世界。

 だから──だから──

 

 

 

 全てを包み込み覆い隠そうとしていると錯覚しそうな程に生い茂る緑が、月明かりに照らされ、その緑色を切り取った様に作られた小さな集落。

 誰のモノでもないから、取り敢えず空白地が勿体無いからと無理矢理作られた。ただそれだけの理由で生まれた辺境領。

 その辺境領ことカイセル領の中央に位置する辛うじて屋敷と呼称できる家屋。

 空きの多い小さな本棚に、野花が挿された木彫りの花瓶が一つ置かれている小さな机。メイドのコーネリアお手製の大小の編みヌイグルミが数点、窓際やベッドの枕元に飾られていているだけの簡素で質素なカーテンすらない、おおよそ、貴族の一人娘の私室と思えない部屋。

 その質素な作りのベッドの上で、薄い掛け布団を被った──領主ナザールの一人娘アイリスが眉間に皺を作りながら魘されている。

「難儀な子だねぇ。悪夢を望む夢に作り替えたら、今度は襲撃が起きない理由探しかい」

 可愛らしい顔立ちの眉間に皺を作りながら魘されているアイリスに、ゴブリンハーフのセレンは呆れながらもベッドの端に腰掛けてその小さな頭を優しく撫でた。

「まったく、何時もの様に能天気にしていれば良いだろうに」

 未だに魘されているアイリスの頭を撫でながら、セレンはポツリと「それにしても、なんだい.......あの蛮族と呼ぶべきか原始人と呼べばいいのか、区分に困る奴らは」そう呟く。

 セレンの知識からは有り得ない光景が、アイリスの夢に広がっていたのだ。

「オークがコボルトやゴブリンを配下にしていると聞いて正気を疑ったけどねぇ? これは無いだろうに」

 まず、この世界のオークは戦う時、群れるのを好まない。単純明快に単機ないし少数で好き勝手に戦った方が強いからだ。

 その生まれ持った高い身体能力にモノを云わせて、連携等考えずに暴れた方がオークと云う種族は強い。

 頑強な肉体は、戦闘訓練を積んでいない者の攻撃などモノともしない。多少の毒は呆れるほどの生命力が無効化する。ちゃちな罠や策等は身体能力と頑強さと生命力で踏み潰せる。

 要するに、オーク族は"真っ直ぐ行ってぶっ飛ばす"が最適解の種族。だから、他種族との連携等必要としないし、他種族なら数を揃えて策と罠を張り巡らせ、全滅覚悟で挑むのが当たり前である"生きた大災害"たる魔獣を相手に、単機駆けなんて非常識な事を行えるのだ。

 そして、コボルト。これもセレンの知るコボルトとは全く違っていた。陣形や戦術を駆使して戦うのがこの世界のコボルトなのだ。それなのに、アイリスの夢を覗いた時に見たコボルトは数で押すだけで、連携すらしていなかった。

 隣で戦っている戦友が傷付いても助けようとすらしない。何があろうとも戦友を見捨てないのがコボルト族なのにだ。

 ゴブリンハーフのセレンとして、一番有り得ず、絶句したのはゴブリンの姿だった。

 アイリスの夢を覗いて、ゴブリンを認識したセレンが真っ先に頭に浮かんだ言葉は、「えっ、なに、この、原住民」だった。

 オークがコシミノ姿なのは、まぁ、いい。あの巨体の体に合う服や鎧は簡単には手に入らないし。何より、下手な防具よりも素肌の方が頑丈な程だ。武器が丸太なのは、まぁ、納得できる。下手な武器よりも鈍器の方が頑丈でオークには合っているとも言える。

 コボルトは、ボロボロで草臥れていたとはいえ、布製の鎧を身に付けていた。武器はボロボロで鈍器と化したショートソードや穂先が無いショートランスらしき物。まぁ、連戦に継ぐ連戦だったと思い込めば、まぁ、なんとか辛うじて納得できなくもない? かもしれない?

 しかし、しかしである。ゴブリンだけはどうあっても納得ができなかった。

 コシミノに小さな棍棒。初級魔法すら使う素振りが無い。無秩序に暴れ回っているオークやコボルトに何らかの指示を出している様子も見受けられない。

 グキャグギャ。ゴブゴブ。そう口にしながら棍棒を振り回しているだけ。叡智の種族・緑の賢者と詠われるゴブリン族の姿が何処にも無かった。

 もし、万が一。アイリスの夢に出てきたゴブリンが、セレンの目の前に現れたなら、無言で、魔法による全力身体強化を行った全力ダッシュで助走をつけて、その顔面に、全力魔力上乗せ右ストレートをぶちかまして、自分が習得している最大威力の魔法を魔力が枯渇するまで放ち続けただろう。

 それほどまでに、ゴブリンは酷かった。

「こんな蛮族? 原始人? が攻めて来るのかい? 厄介なのはオークだけじゃないか」

 もし、アイリスが13歳に成った時に攻めて来るのが夢の通りなら、セレン一人でどうとでもなる内容だった。

 現れたら、空から広範囲魔法で絨毯爆撃をすればいい。それだけで終わる。ただそれだけの事でしかなかった。

 しかし、もしも、セレンが知るオーク・ゴブリン・コボルトが集団で攻めて来たら。それは、もう。どうしようもない。文字通りの悪夢であり絶望。

 どんなに堅牢な防御陣地を築いた所で、オークの単機駆けで穴を開けられて、ソコに陣形を組んだコボルトが押し寄せてくる。その上、ゴブリンが魔法による支援を絶え間なく飛ばして来るのだ。

 魔法を使って空を飛んだところで、相手も同じ事をしてくる。もしかしたら、飛行魔法を打ち消され墜落して終わりかもしれない。地上で魔法を使い戦っても数の差で押しきられるし、相手に魔法を打ち消されてなにもできずに終わる。

「もし、私が知るオーク・ゴブリン・コボルトなら、国軍を呼ぶか、相応の戦力を準備するしかないねぇ」

 そうぼやきながら、セレンは「私が知る連中なら、攻めて来ないだろうけどねぇ」と口の中で言葉を転がす。

 わざわざ混成軍を組織してまで攻め込む価値が無い。資源も物資も軍事的にも政治的にもなにも無い。それがカイセル領。国境に面してない空白地が勿体無いから取り敢えずで作られた辺境領。そんな場所に価値なんて無いのだ。

 苦労して組織した混成軍を使って一旗上げるにしても、こんな僻地では先が見えている。知恵者たるゴブリン族が居るなら真っ先に候補から外す場所だ。軍を維持する資源・人員の補充ができない。その上に、軍規模の移動に向かない場所を拠点にしても詰むだけなのだから。

 なにより、徒歩一ヶ月の距離にある隣の領地。その領主があの騎士王ゲスール。どう足掻いても詰んでいる。

 それこそ、攻めてくるとしたら、アイリスの夢に出てきた考え無しの蛮族・原始人ぐらいなもの。

「念には念を入れはするけどねぇ......あれは無いだろうさ」

 ゴブリン族の種族としての命題は"探求と解明"だ。

 遥か昔から、そうやって生きて死んで逝くのがゴブリンという種族。その積み上げこそがゴブリン族が叡智の種族と詠われている由縁。

 その種族としての研磨を真っ向から否定するゴブリン擬きの存在が、セレンには気に食わなかった。

「種の命題から逃げ出した落伍者でも、ここまで落ちぶれたりはしないだろうに」

 研磨を嫌い、楽な方にとズブズブと沈む様に、真っ当な人生から堕ちて逝く者は一定数存在する。しかし、それでも、ここまで憐れでみすぼらしくはない。とセレンは鼻で嗤う。

「これなら、賢人の塔の連中の方がマシさね」

 眠っているアイリスを起こさない様にポツリと小さく呟いたセレンは、変人奇人の収容隔離施設を思い出して小さく首をかしげる。

「マシ......マシ??」

 ヨレヨレでシワクチャで薬品や金属片等で汚れ染みだらけの元白衣を羽織り、その下は純白のパンツ一丁が男女共通のアレを明確に思い出したセレンが顔をしわくちゃに歪める。

 

 卵が先か鶏が先かの問題を解き明かすために、「取り敢えず、卵を産める体になってみた。これから卵を出産して解明の一歩としたい」等とほざくノーム族の男性。

 

 性欲と快楽の限界とその先を解き明かすために、「銀河の概念を張り型にして自慰をしてみようと思っています。現在は、どの様にすれば銀河の概念を抽出し加工できるかの研究しています」とのたまうエルフ族の女性。

 

 世界の滅亡と再誕のプロセスを解明するために、「取り敢えず、世界を滅亡させて再誕させるために神になろうと思っています」そう真剣に話すゴブリン族の男性。

 

 全生命を幸せにするために、「私を含めた全ての生命が宇宙の妊娠と出産を体験できる方法を模索しています。妊娠出産という至上の幸福を経験する事により、この世から争いや差別が無くなるはずなのです」と笑顔で語る人間族の男性。

 

 頭脳と魔法の実力と常識が共に逸脱した──国の支柱足り得る能力を持ちながら、所属していた国々に「いや、コレの制御とか無理。危険人物だから消えて欲しいけど能力が勿体無いし。コレの実力的に消すとか普通に無理。後、気持ち悪すぎて近寄りたくない」と各国が収容監視隔離施設を協力して造り、喜んで出荷した劇物達。

 そんな取り扱い注意の劇物達とコシミノで棍棒を振り回している原始人(ゴブリン)。両者を真剣に比較した結果、セレンはそのどちらも視界に入れたくないと結論を出した。

「しかしまぁ。女と見れば逸物を奮い立たせる性欲だけは、ゴブリン族の男共に少しは見倣って欲しいもんだねぇ。本当に」

 絶食系を通り越して拒食系男子と揶揄されるゴブリン族の男性の性欲の枯渇具合を、第三皇女である実の母親やゴブリンに嫁いだ女性達から聞いているセレンには、アイリスの夢に出てきたゴブリンの性欲が異常な程に旺盛に思えた。

「かぁ様達があの光景を見たら──自分達の頑張りはなんだったんだ。そんなに自分達に魅力が無いのか。と激怒しそうだねぇ」

 真っ当な一般的なゴブリンは、種の命題である探求と解明に程度の差はあれど真面目に取り組んでいる。

 気分転換の散歩や食事と睡眠と風呂やトイレの時間以外は、私室に篭り思考実験や書物を読み漁り、それらから得たモノが正しいか実践して確めて、確証を得たモノを書として書き残す作業に没頭する。

 その結果。結婚式はちゃんと挙げても新婚旅行は無しで初夜も無し。妻としてできることは身の回りの世話ぐらい。日常の会話もあれば、妻を気遣い労りもする。けれど、何時まで経っても夜の営みは無し。

 叡智の種族たるゴブリンを手離したくない親族等から、子供はまだかとせっつかれ。挙げ句には嫁がせた娘に何か問題が有るのではと邪推され、更にはゴブリンの持つ叡智を狙った泥棒猫が下舐めずりを始める始末。

 故に、ゴブリンの妻と成った女性達は「子作りの時間だ!? オラァ!?」と旦那が篭っている私室のドアを乱暴に開け放ち、唖然としている旦那の衣服を剥ぎ取り押し倒して「お前はパパになるんだよ!!」と頑張るのだ。

 その頑張りが今まで報われているからこそ、ゴブリン族は絶滅していない。女性達の懸命な献身があるからこそゴブリン族は系譜を繋いでいけるのである。

「そうすれば、母親が実の娘に、ゴブリンの男だけは止めときなさい。絶対に苦労するから。なんて忠告をしないだろうに」

 ゆるゆると優しくアイリスの頭を撫でていたセレンは、魘されていたアイリスの寝息と表情が穏やかなモノに変わったのを確認すると、静かにゆっくりとベッドの端から腰を上げ、微かな音すら立てずに部屋を出る。

「山積みの問題を一つ一つ片付けるとするかね」

 一番堅実で確実な領地破棄に類する案を思考の外に放り投げたセレンは、不可能に近い領地防衛の草案を幾つも頭の中に並べ、少しでも実現性を上げるために思考を走らせながら、領主でありアイリスの父親のナザールが書類と格闘しているであろう書斎と執務室を兼ねている部屋に向かって歩き始めた。

 

 アイリスの私室よりも狭い書斎兼執務室は、隙間無く配置された複数の本棚。執務用の片袖机の上には領民達からの陳情や意見が纏められたメモ。カーテンの無い窓からは月明かりが射し込み、室内を照らすランプの光に溶け込んでいた。

 突然のセレンの来訪に嫌な顔一つせずに招き入れたナザールは、アイリスの前世に関する記憶の話に耳を傾け、机に両肘を付け組んだ指で口元を隠しながら両目を閉じた。

「それが本当に起こるのならば、領地を破棄するしかない」

 襲撃の話を聞いたナザールは、即座に領主としての判断を下し、執務の手伝いをしていたメイドのコーネリアが、その決断に息を飲み込む。

「防衛は不可能だ。オーク。ゴブリン。コボルトの混成軍を相手に戦えるだけの戦力は無い」

 辺境貧乏領ではどうすこともできない規模の話しに、両目を開けたナザールが、鋭い視線でセレンを見据える。

「セレン女史。本当に襲撃があると思うか?」

 安っぽいソファーに腰掛けているセレンは、虚偽を許さないと言わんばかりの鋭い視線を受けて両肩をすくめる。

「未来視の魔眼や未来予知の異能は持ち合わせていないからねぇ。断言はできないさね」

 からかう様に紡がれた言葉に、ナザールは僅かに眉を動し、コーネリアが「それは、そうですよね......セレンさんならと思ってしまいましたが」とこぼす。

「だが、貴女ならばある程度の予測は可能なはずだ」

 十年前にフラリと領に現れて、そのまま居着いて愛娘の家庭教師になった素性を含めて謎の多い女性。しかし、体が弱かった妻を気遣う姿や領民達の相談に真摯に対応している光景を見ているナザールは謎の多いセレンを信用していた。それこそ、屋敷の一室に住まわせ、妻の忘れ形見であるアイリスの専属家庭教師を任せるほどに。

 そして、コーネリアもセレンのこれまでの言動から、信頼し尊敬していた。

 だからこそ、余りにも突拍子の無い話しでも疑いもせずに真剣に受け入れたのだ。

「遥か大昔に、純血のゴブリンが二千年間の歴史の動きを予測して当てて見せたらしいけどねぇ。私には無理さね」

 ほぼ確実に純血のゴブリン同士では子を作らないため、異種族婚の系譜だらけになり、絶滅危惧種となっている純血ゴブリンのハーフであるセレンは、肩をすくめながら言葉を続ける。

「言える事は、常識で考えれば襲撃は起きない。何せ、此処を襲っても得られるモノがほとんど無い。野党や山賊ですら労力の無駄だと知っているから、この貧乏領に近付こうとすらしないぐらいだからねぇ」

 セレンの放った言葉の"貧乏領"にピクリと反応したナザールは、「貧乏領ではなく、のどかで──」と訂正しようとするが、「どんなに言葉を飾っても現実は変わりゃしないさね」との声に押し黙ってしまう。

 若干、気落ちしているナザールを、コーネリアが健気に気遣って「私達、領民は皆、ナザール様に感謝しています。この領を出て行きたい思っている者は一人も居ません」と慰め始める。

「つまり、非常識な連中ならこの領に攻めて来るだろうさ。結論を言うなら、数年先の事なんてわかるわけ無いだろう?」

 そんな二人を無視した言葉にナザールは再び目を閉じ、領主としてどうするべきか考え始め、考えの邪魔をしてはいけないと判断したコーネリアも慰めの言葉を止める。

 数十秒ほど執務室が無音となり、窓の外から木の葉が風で揺れる音や虫の鳴き声が三人の耳に届く。

「難しく考える必要はないさね。無いに等しい防備を改善する。それだけのことさね」

 沈黙を破ったセレンの言葉に、ナザールが目を開けると同時に眉間に皺を作る。

「そんな資金と人が何処にある。我が領にそんな余裕は無い。非常事態に備えて避難計画を作成した方が現実的だ」

 はっきりと断言したナザールと領地運営に携わっているコーネリアの頷きに、セレンはクスリと笑う。

「確かにソレも必要だろうさ。それで、どこに逃げるんだい? 全員を引き連れて、道と呼べない獣道を歩いて隣の領に逃げ込むのかい? かのゲスール卿なら迎えに来てくれるかもしれないねぇ。断言してあげるよ。その方法では、誰も助からない」

 頼りにしているセレンにそう言われてしまい、一瞬だけ息を止めたナザールが絞り出す様に「転移門を設置すれば、可能なはずだ。セレン女史ならば建設出来るのだろう? それに、ゲスール殿ならば、転移門での行き来を許可してくれるはずだ」と口にする。

「二百人を転移させる門の建設は私も考えたさね。でもねぇ......一番安くすむ石造りなら中継地点が必要になる。一度に転移できるのは三人。一度使えば、次につかえるのは三十分後」

 説明を聞いているナザールの表情が苦々しいモノになるが、セレンはそのまま言葉を続ける。

「二百人を1度に、中継地点ありだとしても、建材は竜種の素材が一頭分。中継地点無しなら魔獣クラスを素材にしないと無理さね」

「竜種に魔獣? そんなモノを用意するなんて王国でも不可能だ。それなら、王国を頼って避難用の石造りの砦を建設した方がまだ現実的だろう」

 長距離の移動が一瞬ですむ転移門の建設が非現実的だと判断したナザールがすぐに別の提案をするが、セレンは首を横に振る。

「そこらの野党や山賊共ならそれでも良かったんだけどねぇ。アイリスの記憶ではオーク率いるゴブリンとコボルトの混成軍さね。砦に籠ったら最後、オークに門を容易く突破されて蹂躙されるか、ゴブリンの魔法で砦を破壊されて......のどれかだろうさね」

 再び、執務室が無音になり、数分後にナザールが深い溜め息を吐き出し、話しの内容について行けなくなったコーネリアは沈黙を選ぶ。

「前世の記憶などと言う曖昧な根拠では、国軍は動かない。となると、襲撃を事前に察知して確たる証拠を手に入れなければならない。しかしだ、コボルト相手にそんな事が可能な人材は居ない。王国にねだってもそんな貴重な人材を此方に寄越さないだろう」

 溜め息と共に吐き出されたその言葉は、重苦しく、苦味に満ちていた。

「だろうねぇ。コボルトほど戦争に長けた種族なんて、それこそ、リザードマンかオーガくらいなものさね。それら相手に偵察を完遂できる人材なんてそうは居ないだろうさ。そして、相手にゴブリンが居ると仮定すると私の索敵系の魔法は無効化されるだろうからねぇ」

 二人が口をつぐみ、静寂が執務室を支配する。

「やはり、領地破棄以外ないな。そうなるとタイミングの問題が出てくる。娘の前世の記憶で混成軍が八年後に攻めてくるから破棄します。は通らないだろう」

 腰掛けている椅子の背もたれにグタリと体重を預けたナザールは、執務室の天井を仰ぎ見る。

「もっとも、本当に混成軍の襲撃があるのなら、だかな」

 何も無い土地とはいえ、地位が低く断れない祖先が王国から授けられ委された(押し付けられた)土地。ソレを「なんか、危険が迫ってるぽいから破棄しますね」なんてできないのだ。そんな事言えば「いいから、大人しく領地を治めてろ。な?」等と返されるのが落ちである。

「だから、防衛力の改善しか無いのさね。なに、今すぐに国軍並みの戦力を、と言う訳じゃないさね。最終的に必要なのは、国軍やゲスール卿の救援が来るまで踏ん張れる戦力さね」

 セレンのなんて事はないと言わんばかりの声に、ナザールは苦虫を三百は噛み潰した表情を浮かべる。

「だから、どうやって、ソレほどの戦力を揃える。備蓄とて皆が冬を越せる程度しかないのだ。アズラエル王を頼ろうとも、根拠不確かでは動くに動けんだろう」

 その苛立ちを含んだ言葉とコーネリアの無言の頷きに、セレンは不敵に笑う。

「なに、難しい事を頼んだりしないさね。一人、この領に住まわせる許可を出してくれるだけで良いのさ」

 まずは無い袖を用意する。そう笑うセレンを、怪訝そうな目で見るナザールは、目の前のゴブリンハーフの女性の考えを察する事ができずに首を傾げた。

「とある種族の都市に、お前さんの愛娘のプロフィールを送って掲示して貰うのさ。そうすりゃ、すぐに釣れるだろうさね」

 目の前の女性が何を言っているのか理解できていないナザールと、既に会話に加わる事を諦めているコーネリアに、セレンがその種族名を口にする。

「な......に...... 正気なのか? 確かにかの種族の主になる事ができれば、金銭の問題は自然と解決できるだろう。しかしだ、アイリスが彼等に認めて貰えるとは思えないが......」

 唖然とし目を大きく見開き驚いているナザール。そして、微妙な顔をして肯定も否定もできないと表情で語っているコーネリアに、セレンは肩を竦めニヤリと笑う。

「大丈夫さね。あの子なら、アイツ等を惹き付けて止まないだろうさ。素養は抜群さね」

 自分が呼ぶ存在を見たアイリスが、どんな反応をするか予想したセレンは小さく笑う。

「主人は唯一無二で、主人にとっても唯一無二でありたいと考える種族だからねぇ。アズラエル王の時の様に争奪戦を起こすかもねぇ?」

 楽しげにそう話すセレンに、自分の娘がソコまではないと信じたいナザールが、心底疲れたと言わんばかりに息を一つ吐き出す。

「やめてくれ。あの子が天真爛漫な子だか、彼等の琴線に触れる程では無い。無いはずだ」

 一人の父親として、可愛い一人娘を信じたいナザールがそうであってくれと、懇願するように小さく声を震わせる。隣に立っている母親代わり兼姉役のコーネリアが、なんとも言えない表情をしたままなのを認識していないのは、救いなのかもしれない。

「言葉を飾っても、現実は変わりゃしないさね」

 その懇願をバッサリと切り捨て、項垂れているナザールから望みの許可を手に入れたセレンは、執務室を後にする。落ち込んでいるナザールの面倒をコーネリアに押し付けて。

「さてさて、どんな奴があの子の元に現れるか楽しみさね」

 早速、アイリスのプロフィールと云う名の求人情報の制作に取り掛かるために、与えられた自室に向かいながら、次の一手を思考し選定を始めたセレンは、「やる事が多すぎて、ゆっくりできそうにないねぇ」と楽しげにぼやいた。

 

 

 セレン先生に、前世の記憶にある私の凌辱イベントを叩き潰すか回避する相談をしてから四日。

 そう、セレン先生が任せろと言ってくれてから四日たったのである。その間、セレン先生は何もしていない様だったし、お父様はセレン先生から私の記憶を聞いたのか私を心配しながら領主の仕事を頑張っていて、我が家で唯一のメイドさんのコーネリアは、時折だけど何か言いたげに私を見たりするけど、「アイリス様の良いところは私は知っていますから」とよくわからない事を言うだけだった。

 

 今、私の目の前に、執事服の美青年が居る。

 竜の角を頭に生やし、爬虫類の様なけれど見る人を引き込む美しい宝石の様な瞳。神が丹精込めて作り上げたと言われても納得してしまう美貌。淡い真紅の髪は上質な絹糸の様。

 実際に会った事は無くても、一目でわかった。あ、この人、ドレイク族だ。て、私は理解した。

 だって、夕食後に、お父様が私に会わせたい人が居ると言ったから、応接間まで黙って着いて行ったら、その応接間でコーネリアの入れたお茶を飲みながら、セレン先生と談笑していた美青年は、私を一目見た瞬間に、歓喜が溢れ出たようなとても良い笑顔で「貴女様こそ、我が主に相応しい!! ああ、この世にこれ程のお方が存在しようとは!? 神よ感謝致します!! 私は貴女に仕える為に生まれたのでしょう!! 今日は我が人生最良の日です!! 貴女様お仕えできる私はこの世で最も幸福な者でしょう!? 必ずや、貴女様を護り導きます!! 我が名。我が身。我が魂に賭けて、必ずや!!」と捲し立てたから。間違いないと思う。

 だから、きっと、私は悪くない。

 初対面に関わらず、思わず、心の底から、

「帰って」

 そう反射的に言った私は絶対に悪くない。

 

「此方が、私がご息女のアイリス様にお迎えする為に用意した財です。どうかお受け取りください」

 応接間に持ち込まれた木箱。この中には箱の押し込まれた金銀財宝。

 ソレを見たコーネリアがゴクリと唾を飲み、セレン先生がニヤリと悪どい笑みを浮かべる。

 肝心のお父様は「フィアナ。すまない。私が仕事にかまけていたばかりに......本当にすまない」とか言って放心していた。

 きっと、木箱に押し込まれた財宝に驚いただけで、私がドレイク族に仕えさせてと言ってくるぐらいに、ダメな子だった事がショックだった訳じゃないはずだ。

 亡くなったお母様の名前を口にしながら、お母様に謝っているのは、きっと財宝で軽く錯乱しているからなのだ。私のせいじゃない。だって、私はダメな子じゃないし。

「献上する財はこれだけではありません。お嬢様にお仕えするには、これだけではとても足りませんから」

 そう言いながら、後から追加で六個持って来ると話す美青年のドレイクに、セレンが悪どい笑みを更に深めて、お父様とコーネリアはガクリと肩を落とす。

「帰って」

 私は、もう、涙目である。だって、ドレイクが仕えたいアピールに使う財宝の数は、「貴方のお子さんのダメな子度合いは、財宝に換算するとこれぐらいですよ」と言っているのと同じなのだ。この前、セレン先生が愉しそうに教えてくれたから、私は知ってるんだ。

 ダメな子じゃ無い私にこんなに財宝を積むって事は、このドレイクは、きっと変わり者なんだ。きっとそうだ。そうに違いない。

 仮に、私がダメな子だったとしても、原作では救い様の無い愚王アズラエルに捧げられた財宝の詰まった箱の数は十個。私は七個。まだ大丈夫。上が居る。

 普通は一個か二個で、多くて三個。セレン先生が教えてくれたから知ってる。「アンタは何個だろうねぇ」なんて愉快そうに教えてくれたから知ってる。けど、上が居るから、まだ、大丈夫。私は一番ダメな子じゃない。まだ平気。まだセーフ。

「どうか、お嬢様に仕える事をお許し下さい」

 私の言葉をガン無視したドレイクは、真摯に謙虚に、お父様に頭を下げて懇願する。私大好きなお父様が、頷くわけない。私はお父様を信じてる。財宝なんかに負けないて信じてる。

 竜に変化する事ができる特殊能力を生まれ持ち、身体能力や魔法の才能も人族の中ではトップクラスのチート性能。数千年から数万年生きて、長い人生でお金を溜め込むからお金持ちで、美形だらけのスーパー種族。それが、ドレイク族。

 だが、ダメな子大好き。チュッチュッラブラブフォーリンラビュー勢である。

 嫌すぎる。本当に嫌だ。ドレイクを仕えさせるて事は私はダメな子ですって、周りに公言しているのと同じ。アズラエル王みたいに大成できれば良いけど、そんなのは極一部だ。セレン先生が教えてくれたから、私は知ってる。

 ドレイクにお世話されるダメな子は、生涯ダメな子のまま、ドレイクにラブラブお世話される。そんなのは嫌だ。絶対に嫌だ。

「わかった。許可しよう。娘を──アイリスを頼む」

 お父様の力無い承諾の言葉に、私は涙目のまま驚愕してコーネリアの方を向くと、コーネリアはそっと顔を反らした。

「良かったねぇ。アイリス、アンタ専属の執事だよ」

「良くない! 全然良くないですぅぅぅ!! 私はダメな子じゃないもん!?」

 その言葉に、全力で涙声で異を唱える私に、セレン先生は楽しげに笑う。

「そうだねぇ。アンタはダメな子じゃないものねぇ?」

 心底、楽しげに話すセレン先生の言葉に、福音声で「ダメな子じゃなくて、アホの子だもんねぇ?」と聞こえた気がするが、それどころじゃない。このままだと、本当に目の前の美青年ドレイクが私の専属執事になってしまう。

 なんとか惨劇回避の妙案を考えつこうとしていると、お父様が咳を一つ付いて、隣に座っている私にナイスダンディーなお顔を向けた。

「アイリス。これ程の財宝が有れば、カイセル家の悲願である街道整備が可能になるだろう。いや、街道整備だけではなく、病院や用水路に下水道。領兵などの多くの問題解決に動く事ができる。わかるね?」

 カイセル家の悲願である街道整備。初代から計画だけ存在していて、お金と人が無いから諦め続けていた領地開発の最初の一歩。

 その計画が進めば、領地に住む皆の生活が僅かでも良くなる。皆が厳しい冬に苦しまなくてすむかも知れない。そんな素晴らしい計画の第一歩。

「わかりました」

 そんな事を言われたら、どんなに嫌でも、頷くしかない。私が我慢すれば皆が助かるなら、我慢するしかない。

「私は、アザイル・クオートです。どうか、アザイルとお呼びください」

 満面の笑みで自己紹介をする美青年のアザイルさんに、私はペコリと頭を下げる。

「こちらこそ、よろしくお願いします」

 こう云う時は前向きに考えるのだ。物凄い美形が私の専属執事になったんだと。

 私をダメな子と勘違いしている残念な人だけど、ドレイク族なら結構強いはず。ゲーム終盤に登場するlv70ぐらいのソコソコ強い雑魚敵だし。lv50のオーク率いる混成軍を相手に無双してくれるかも知れない。ゲーム通りなら、だけど。

「天真爛漫な娘だが、よろしく頼む」

「お嬢様は、旦那様が仰られた通り、天真爛漫で無邪気なお方ですので......どうか、お願い致します」

 お父様とコーネリアが、アザイルさんにそう言いながら頭を下げる。

 流石、お父様とコーネリア。私の事をわかってる。

 そう、私は天真爛漫で無邪気なだけで、ダメな子でもアホの子でも無いのだ。

 お父様とコーネリアの言葉に、セレン先生が「現実を見な。甘やかしが過ぎるとアイリスの為にならないさね」とか言ってるけど、無視だ無視。

「大丈夫ですよ。私が護り導きますから」

 にっこりニコニコと微笑むアザイルさんに、やっぱり少しだけ、財宝だけ置いて帰ってくれないかなぁ。と思ってしまう。

 

 

 顔合わせをしてからの自己紹介を兼ねた談笑中に、アイリスが小さい欠伸をしてウトウトとし始めると、目配せをしたコーネリアがアイリスを優しく抱き抱える。

「宵も濃くなって参りましたので、失礼させていただきます」

 横抱き。所謂、お姫様ダッコされた半分眠っているアイリスが、コーネリアのメイド服の胸元をキュッと握り、その様子を見たナザールとコーネリアが顔を綻ばせる。

「また、魘されるようなら、私を呼びな」

 前世の記憶を思い出してから、連日連夜魘され続けているアイリスの世話をしているセレンの言葉に、コーネリアが確りと頷き、応接間から音も無く退室すると、そのままアイリスの私室に向かって行った。

「しかし、転生者と明記されてましたが......思っていた以上に幼いですね」

 二人を見送ったアザイルは、アイリスから受けた印象をそこまま口にして、目の前の紅茶に視線を落とす。

「恐らく、年若くして神に呼ばれたのだろう。子を失った親気持ちは想像するだけで胸が引き裂かれそうになる」

 前世の記憶持ちの転生者。それしか知らない二人は、アイリスの前世の両親を想い、しんみりとした空気を醸し出し始める。

 特に今世の親であるナザールは、たった一人の愛娘を失う事を想像して、若干だが目が潤んでいた。

「あの子は60後半まで生きたそうだよ。ああ、ついでに言っとくけどねぇ、話を限り親御さんは極普通さね。後は、良くある肉体に精神が引っ張られる現象が起きてるわけでもないさね」

 無慈悲な言葉の羅列に、ナザールが身を凍らせ、アザイルは嬉しさそうに破顔する。

「つまり、全うな両親育てられても、て、天真爛漫で無邪気な大人に成ったと?」

 そう言った後、眉間を揉み解しながら「なんと言う事だ......フィアナ。私はどうすれば......」と小さく溢しながら、ナザールは一人娘の将来を案じる。

「それはそれは、お仕えのしがいがありますね」

 娘の将来を熟れいているナザールとは対照的に、アザイルはニッコニッコと嬉しさがはち切れた笑顔を浮かべていた。

「ご安心ください。ナザール様。このアザイルがお嬢様を立派な淑女へと育て上げて見せますよ」

 自信満々に悦びに満ちた表情でそう言い放つアザイルに、ナザールは「娘を頼む」と頭を下げる。

「何はともあれ、これで多少は動ける様になったわけさね」

 二人のやり取りをスルーしたセレンは、次の算段を頭の中に緻密に組み立て始める。

「オーク率いる混成軍の襲撃の話ですか。俄に信じがたいですが」

 カイセル領に着いてから、後出しで伝えられた情報を思い浮かべたアザイルが微妙な表情を浮かべる。

 種族の命題を放棄したゴブリンとコボルト。そして、それらを率いるオーク。それらが軍を成し攻めてくるかもしれない。セレンからそう伝えられても、アザイルとしては、ナニ言ってんだコイツ。頭大丈夫か? 病院行ったら? としか言い様の無い妄言でしかなかった。

 だからこそ、話し半分どころか、全く信じていない。

「来る来ないは関係無く、この領の防備に不安が有るのは確かさね。なら、ソレらが来ても大丈夫な様に備えるのも悪くないさね」

 辺境領には過剰とも言える戦力を揃えようとしているセレンの言葉に、ナザールが娘の安心の為ならばと頷き、アザイルは「ゴブリン族の貴女ができると言うなら可能なのでしょうね」と肩を竦めた。

「私に任せな。そう言ったからねぇ」

 愉しげに語るセレンを見ながら、ナザールとアザイルは、アイリスに一番甘いのは、目の前のゴブリンハーフの才女なのでは? と気持ちを一つにする。

「時期を見て、あの子にはグズオール領に行って貰うさね」

 その言葉に、意図が理解できない二人が首を傾げる。

「混成軍と戦える質と数を整える余裕がこの領には無い。だから、少数で渡り合えるだけの質を集めるのさね」

 これから領地開発を始めても、街道整備からとなると時間が掛かる。獣道同然の道を馬車が通れる様な道に作り替えるだけでも、相当な労力と資材。そして、時間が必要になる。

 そんな最中に、国軍に匹敵する軍事力を集めるなど不可能だ。そもそも、軍事力に割けるだけのリソースが有れば、開発に回した方が領の為のになる。

「今のグズオール領は狙い目なのさね。家が欲しい種族が集まっているからねぇ」

 先の人魔大戦で名を馳せた大英雄ゲスールと戦う為に、グズオール領に立ち寄るオーク族。

 騎士の中の騎士。騎士王。そう詠われるゲスールに一目会おうとグズオール領に集うリザードマン族。

「その二種族から、何も無いこの辺境領に定住してくれる変わり者を見付けて貰うのさね。ついでに、あの子に他領の様子を学んで貰うのが目的さね」

 さらりと語るセレンに、領主として領に余裕が無い事を知っているナザールと、事前の資料でその事を理解しているアザイルが、そんなに上手くいくのかと微妙な表情を浮かべた。

「何、あの子の数少ない取り柄さね。きっと面白い事をやらかしてくれるだろうさね」

 目の前の席に座り、その時が楽しみだと呑気に笑うセレンに、愛娘の将来と領地の将来を天秤にかけて、ナザールは何とも言えない微妙な表情で頷き、アザイルが面白い事に成りそうだと笑みを隠さずに、にこやかに嬉々として頷いた。




牧羊している羊の毛は、カイセル領では貴重な売り物であり、寒さ対策の必需品であるため、編みヌイグルミは、貴族の令嬢のみが所有できる特権であり贅沢品。領民は誰も持っていない。
なお、他所の領地では普通に売られているし、庶民も持っているありふれた物でしかない。
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