エロゲヒロインに転生したけど、隠しヒロインなら大丈夫だよね。 作:季高
『ソラくん! ヒツミさん!』
――翌日、隣県から帰ってきたヒツミさんと、長丁場の修羅場をくぐり抜けて、巫剣家から登校していた二人に、俺はすごい勢いで飛びかかった。
「どうしたのぉ?」
「なんですか?」
『こここれこれここここここ』
「落ち着いてください!?」
深呼吸をする。
ヒツミちゃんが背中を擦ってくれた。あ、ちょっと服がめくれる――バッと飛び退いて、クスクスと笑うヒツミちゃんを睨んだ。もし俺がブラをしていたら間違いなく外されていただろう。
よかったな必要のない貧相ボディで! ちなみに流石に擦れると痛いから服に直ってことはないですよ、ホックとかそういうアレじゃないだけで。
「何があったんですか……」
「ラプラスちゃんが可愛いってことはわかりましたよぉ」
『これです』
そう言って、俺は使っているタブレットを操作して、問題のページを見せつけた。そこにあるのは――ラプラス人形、そして、
「わぁ、すごい数のラプラス先輩……」
「はうっ――――」
――各種ラプラスグッズにときめいてしまったのか、ヒツミちゃんが胸元を押さえて倒れ込む。この光景、一昨日からなんど見かけたことだろう……
「ええと、どういうことですか? これ、ラプラス先輩には知らされてなかったんです?」
『知らされてませんよ! よく見てください! そもそもこれは建前上私ではないんです!』
「あっ、本当だこれ、ラプラスじゃなくてプラスってキャラクターだ……どこをどう見てもラプラス先輩ですけど」
「プラスちゃん――――はうっ!!」
――起き上がろうとしたヒツミちゃんがまた倒れた。
さて、ここらで一旦落ち着いてソラくんに状況を説明しよう。ヒツミちゃん? 奴はもう手遅れだ……
先日、白狐の社を訪れた俺は、白狐の社がラプラスグッズで溢れかえっている光景を目にした。基本的に賽銭箱を設置してもお金がもらえない白狐の社にはあまり足を運ばなかった俺だが、結果として社がこうなってることを今の今まで知らなかったのである。
ともあれ、そこで知った驚愕の事実、なんと巷では今、妖精系銀髪少女プラスちゃんが凄まじい人気でSNSのトレンドを席巻しているのである。
これまた気付かなかった案件……だってラプラスはSNSとかでレスバトルしないし……アニメやゲームを楽しむくらいで十分だし……
さて、そんな自分が気が付かなかった妖精少女プラスちゃんだが、元はとある一枚絵から始まったらしい。それがやたらSNSでバズって、それはもうすごい社会現象になったそうだ。
今では各地でプラスちゃんグッズが作られ、中には薄い本まであるのだとか。この情報、ヒツミちゃんに教えたらヒツミちゃんは明日を迎えられないかもしれない。
「なんでこんなことに……」
「ラプラスちゃんは可愛いから当然ですよ!」
『そういうのはいいですから』
――冷たくあしらったら、ヒツミちゃんは更に幸せそうに笑みを浮かべた。こういうことすると楽しそうにするのは、色々と重症な気がするな。
『流石に、ここまで私に似ているのに、これが私ではないというのは無理があると思います』
「ということは、発端はうちの学校ですかね」
『それが一番可能性が高いかと』
――というか、因果というか因縁というか、不思議とこういうものはどこかで繋がるものなのだ。つまり、何がいいたいかと言えば、この絵は見覚えがある。
そして、その見覚えとは、すなわち
「……というか、この絵私見たことあります。美術部の……ヒトハちゃんじゃないですか?」
つまり、最後のヒロイン。
ヒツミちゃん、ミズキ、クロちゃん。そして――
御原ヒトハ。
四人のヒロインの中で唯一の一般人――だった――枠。彼女こそが、本来ならばゲームに置いて最初にソラくんに出会うヒロインであり――
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御原ヒトハ、一般人の少女であるが、だからといって天剣妖牙になんの関係もないかと言えば、そんなことはない。ヒトハちゃんは一般の出ではあるが、特殊な才能に恵まれた少女だ。
美術の才能に優れた彼女は、この学校の唯一の美術部員である。この美術部、最終的に学校におけるソラくんたちの拠点になるのだが、この世界ではそもそもヒトハちゃんとソラくんに接点がないため、美術部は未だ彼女の城であった。
そんな彼女の性格はとにかく普通。このゲームにおいて天剣を知らない唯一の一般人であることもあって、プレイヤーと視点を同じくし、人に知られてはならない夜の世界を、彼女とともに知っていくことになるのだ。
そして、その唯一の欠点といいうか、特徴といってもいいのが、影響されやすいということ。ヒトハちゃんが絵を書くのは姉の影響だ。ゲームにおいてとある事情から意識不明になってしまったヒトハちゃんのお姉さん、御原シイナの夢であった絵の仕事。それを受け継ぐように、今のヒトハちゃんは美術部員として頑張っていた。
と、いうのがヒトハちゃんの来歴なのだが――
「ああああああああああラプラスお姉さまああああああああああ! んああああああああああああああああああああああああああああ!!」
今、俺達の目の前で、ヒトハちゃんは等身大のラプラスだきまくらを抱えてエキサイトしていた。気まずそうなソラくんの視線が痛い。いくら直視できないからって、こっちを見ないでいただきたい!
彼には帰ってもらったほうがいいかもしれない……が、とりあえず目の前の状況だ。
現在俺たちは事の次第を確かめるため、こうしてヒトハちゃんの本拠地に乗り込んだのだが――
彼女はエキサイトしていた。
繰り返す、彼女はエキサイトしていた。
ついでにいうと、彼女はエキサイトしていた。
これはひどい……
「んんんんんんっ!」
――――そして、ここにも一人、エキサイトしかけている人が居た。ヒツミちゃんがこっちを見ている。まずいまずい、とてもまずい!
なにせこの美術部部室、白狐の社よりやばいのだ。
具体的に言うと社はただのラプラス人形しかなかった。そこにあるスケベさも、精々人形のスカートの中身を覗き込む程度のスケベさ。痛いほど解るその気持ち、だけどこっちは解りたくない。
ここにあるラプラスのイラストの、平均布面積は三割がいいところだった。
変態である。
その中に埋もれてエキサイトしている変態がいた。
「ラプラスお姉さまーーーーーー!」
「ラプラスちゃーーーーーーーん!」
二人いた。
ここで増えるのか……
『ソラくんは帰ったほうがいいと思います』
「……いたたまれなさすぎるのでそうします」
ああ主人公、ああ主人公主人公……ソラくん、なんか俺といるときより、社務所で修羅場と格闘しているときのほうが楽しそうだ。
ジェラ……
なんで書類にジェラってるの?
さて――――
「――――」
御原ヒトハは、俺に気がついたようだった。そりゃまぁ、隣で胸を抑えて暴れているヒツミちゃんがいたら、こうもなるというものだけど。
「アノ」
そして気がついた。俺と目があった。
『なんでしょう』
その顔は、今にも死にそうだった。
というか、下手するとこのまま窓の向こうにダイブしていきそうなやつだった。
「コロシテクダサイ」
――ちょっと可愛そうだな、と思いつつ、どうしてこうなったのかと俺は天を仰ぐのだった。
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「私がやりました……」
大量のラプラスグッズを何とか片付けて、最低限話をできる状況にして――というか、しないと窓の外に飛び出していきそうだったので――それを終わらせてから、キレイになった部室で、正座するヒトハちゃんの前で椅子に座っている僕とヒツミちゃん。
ところでどうしてだきまくらはそのまま抱きしめてるんですか?
「最初は出来心だったんです……」
「わかります……」
『解らないでください』
――曰く、ラプラスを知ったのは、姉のシイナを経由してのことだという。何を隠そう、このラプラスとヒトハちゃんの姉である御原シイナは中学時代の同級生である。色々あってシイナとは別の学校に進んだわけだが、妹のヒトハちゃんはラプラスと同じ学校を選んだわけだ。
これはゲームの頃も同じである、ラプラスは人と同じように学校に通っている、これには色々とわけがあるのだが、まぁここでは割愛だ。
そして案の定というわけか、シイナちゃんは今も元気に高校に通っているという。ここまでくると、運命の悪戯というやつに、俺はだいぶ慣れてきていた。
「姉の話を聞いて、この学校でラプラスお姉さまに出会って、私、思いました。私は、貴方に出会うために生まれてきたのだと」
『流石にそこまでいくと、行き過ぎじゃないですか?』
ところで、どうしてまだ抱き枕に擦り着いているんですか?
「シイナ姉さんは言ったんです、貴方はラプラスお姉さまに出会うべきだと。そうすれば、きっと貴方の願いは叶うって」
なんでさっきからそわそわこっちを見てくるんですか?
「気持ちは解りますよ、ヒトハさん。私も、ラプラスちゃんに出会って人生が変わったんです。自分でも、こんなに幸せでいいのかってくらいで……」
「そうだよね……そうだよねヒツミちゃん! えへへ、私達、仲良くなれる気がするな」
「貴方はラプラスちゃんの素晴らしさを、世界に広めるという役割を果たしたのです。誇っていいことですよ」
「うん……!」
どうして二人はそんなに距離が近いんですか?
『あの、ふたりとも?』
そそそっと二人から距離をとりながら、立ち上がる。なんだかこのままだとまずい気がした。
「あ、いやえっと、ラプラスお姉さまに変なことはしません! 私、ラプラスお姉さまのことはちゃんとわかってるつもりです! お姉さまはマンガやアニメが好きだけど、それを周囲と共有しないから、インターネットでお姉さまを広めても大丈夫とか!」
『逆に質がわるくないですか!?』
「邪眼ナイトメア、いいですよね!」
『好きですけど!』
「じゃが……?」
――邪眼ナイトメア。前世におけるホップでステップで飛び上がる感じの週刊少年雑誌に相当する、有名雑誌で連載中の人気漫画。
国民的少年漫画であり、連載からすでに二十年以上が経過しているものの、人気を誇る超大作マンガである。
案外こういうのを素直に好きと言えるオタクは貴重なので、俺はいいと思う。
それはそれとして、そういったことにとても疎いヒツミちゃんは、首をかしげていたが。
『ソラくんが知ってると思うので、後で聞いてみてはいかがでしょう』
「あはは……ソラくんとは未だにちょっと距離感がつかめなくて……」
と、話を振ってみるとそんな答えが帰ってきた。
ああうん、まぁ再会してまだ一週間も経ってないしね。ゲームでも、今の時期だとヒツミちゃんとソラくんの間には溝があった。
まだミズキとソラくんのほうが仲が良かったくらいだ。
『そういえば』
――と、そこで更に話題を切り替える。
ヒトハちゃんには、俺の件以外にも、一つだけ聞きたいことがあったのだ。
「なんでしょう、お姉さま」
『夢を見ていませんか?』
「夢……?」
『はい。なにもない暗闇のなかで、何かが自分の体を引きずり込む……そんな夢です』
「いえ……
『では、シイナさんは?』
「そこまでは……姉さん、寮で一人暮らしですし……あ、この後聞いてみますね」
『ありがとうございます』
――夢、大事な要素だ。
一般人であるヒトハちゃんは、本来天剣のような術式を使うことはできない。だが、ゲームではある能力を使うことができる。
それは簡単に言うと、絵に書いたものを幻として生み出す能力だ。この幻、幻でありながら現実に影響を齎すことができる。
その効果は絵が精密であればあるほど強力になり、ヒトハちゃんの能力は、主にパーティの必殺技として運用されていた。
そんな能力が使えるようになったのは、ヒトハちゃんがそんな夢を見るようになってからだ。ゲームで言えば、本編開始初日のこと。あの改造妖牙に襲われたその日からである。
これが何を意味するか――ヒトハちゃんが使えるその術式の名は、“シンキロウ”。この術式を使用できる人間は、ある存在に限られた。
この世界、天剣の中に、数十年に一度“人柱”と呼ばれる役目の人間が生まれてくる。人柱は総じて幻にまつわる術式を本能的に行使できる。
人柱は数十年に一度生まれるといった。巫剣チコが人柱になったのは今から十年ほど前のことだ。故に、ヒトハちゃんはイレギュラーな人柱である。
だが、現状はもっとイレギュラーな状況がそこにはあった。
楽しげに、しかしそれでいて時折苦しそうに胸を抑えるヒツミちゃん。
なぁ、ヒツミちゃん。君は言った。神宝イザナミは他者に執着した病める少女に適合する、と。
であればもし――
今、俺の目の前ではヒツミちゃんが楽しげに、
なぁ、その行動の意味は、
俺は、故に。
ヒツミちゃんが執着したのが、ラプラスであるからこそ、
その執着に、ケリを付けなくてはならないと、そう思うのだった。