エロゲヒロインに転生したけど、隠しヒロインなら大丈夫だよね。 作:季高
――――ヒツミちゃんの件は、思い切り変わってしまった四人のヒロインたちのなかでも、一番最初に解決するべき問題だった。
なにせ、他とは違って時間制限があるのだ。ヒツミちゃんがイザナミを纏った時から、彼女はある目的のためにイザナミを身にまとったのだろうということは理解できていた。
その上で、それが実際に正しいかどうかは、実際に期限になるまで判別がつかなかったけれど――どっちにせよ、今の状況で
さて、数日前に白狐の社に赴き、時系列的には全てのヒロインとの顔合わせを済ませた後。ここからしばらくは日常イベントが続く。
ルート決めのための各種イベントと、大事な日常の積み重ねだ。ゲーム内容以外の事を言うと、この日常イベントまでが体験版範囲、そして、体験版の終わりが今日だ。
この日に何があるかといえば、
だが、それは
黒幕にはとある事情から時間がない、そのためこれを解決するために、人柱を用いての儀式が必要になるのだ。
故にヒトハちゃんを発見すればその捕獲のために準備を始めるが、
人柱巫剣チコの娘であり、人柱一族巫剣家の直系、先代のチコが人柱であったことから、可能性は低いが、しかし低くともゼロではない。だからこそ多少無理をしてでもヒツミちゃんを人柱とする。
これが黒幕の
なにせラプラスルートは本編が始まらない、ヒトハちゃんが人柱であることに気がつくことが、黒幕には不可能だったのだ。
だから、焦った黒幕はヒツミちゃんを代替とした。強引に彼女を人柱として――――
これがラプラスルートにおける、世界崩壊の原因であり、ラプラスとだけ仲良くなったソラくんが、結果として世界を滅ぼしてしまう要因だ。
まぁ、流石に知らなかったというのを責めるのは酷というものだし、世界にたった二人、ラプラスとともに残されてしまうというのは、ソラくんはあまりにも深い業を背負わされてしまうのだが。
ともかく、この場合の問題は、
というよりも、そもそもヒトハちゃんが人柱ではないということ。
夢、というのがキーワードだ。俺がこの間ヒトハちゃんに聞いた夢、というワードはそれが理由。夢を見ているかいないかで、人柱かどうかは判断できる。
そして、ヒトハちゃんはこれにひっかからなかった。ということは、つまり。
今、世界に人柱は存在しない。
黒幕にとって、これは非常に由々しき事態だ。そして、これを回避するための方法が、神宝イザナミとヒツミちゃんである。
ゲームでは取れなかった手段だ。ゲームのヒツミちゃんはイザナミに対する適性を有さないのだから。
具体的にどうするか――は、今更語るまでもないだろう。
神宝イザナミと適合した少女には、強制的に人柱としての適性が付与される。これを使えば、ヒツミちゃんを人柱にすることが可能なのだ。
だから、俺のするべきことはそれの阻止。この世界に来て、ぐだぐだになってしまった俺のプランだが、それでもやれることはある。
――今日、この日、世界が崩壊することを防ぐため、
俺は、ヒラサカを潜るのだ。
――――が、しかし。
「――――だめぇえええええええ!」
意気込んでヒラサカの前に立っていた俺の後ろから、声がして。
直後、それがヒツミちゃんだと気付くより早く――
俺たちは、勢いよくヒラサカへと落ちていったのだ。
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――――そして、死地を乗り越え、俺とヒツミちゃんは距離をとって話をしていた。
「……そういうことだったんですね」
“肯定”
ジリジリ、にじり寄ろうとするヒツミちゃんから後退する。なんとかヒツミちゃんから遠ざかろうとしているのだが、どうしてか一進一退にならない。少しずつ距離を詰められている。向こうの足さばきがうまいからだろうか。
「そういうことでしたら、私も同じ目的です。えへへ、仲良しですね♥」
――距離をとっているため、筆談が難しかったが、それでも天剣として人並み外れた視力を有するヒツミちゃんがなんとかしてくれた。
結果、俺はヒラサカにゴーイング自殺を決めようとしていたのではなく、ヒラサカで起きている問題を解決しようとしているということを、ヒツミちゃんは理解してくれた。
しかし、同じ目的?
……まぁ、今は指摘しないようにしよう。
話がこれ以上長くなってもしょうがないからな。
なんて、意識を逸してしまったからだろうか、
「もう、水臭いんですから♥」
――一瞬で距離を詰められた。
“――!!!!”
驚愕、焦りとともに距離を取る。
あぶないあぶないあぶない。
「冗談ですよぉ」
“虚実!!”
今、距離を取らなかったら殺るという意思を如実に感じた。まちがいなく、ヒツミちゃんは俺を捕食するつもりだった!!
息を荒げながら、唸る。これ以上彼女と近くにいると、いろいろな物がやばい。ただでさえ今はえっちオブえっち形態なのだから、心の中の俺が悲鳴を上げてしまう。
あれ? 俺って普通に自意識は元男じゃない? ラプラスで女の子するのって、女の子アバターのゲームみたいな感覚だったはずなんだけど。
俺ってラプラスだったっけ? 俺って誰だっけ?
じゃない! 今そんな雌落ち議論はしなくていいんだよ、隙を晒したら終わりだ! そもそも人生の三分の一以上をラプラスとして過ごしている俺が、今更“俺”という一人称以外に男要素があるのかっていうのは普通になんとも言えないしな!
「んふふ、ラプラスちゃんは百面相が可愛いですね」
“
表情は動いていない。
感情は豊かだが、ラプラスの表情は動かないのだ。
「えぇー、動くよぉ」
いや、ヒツミちゃんはその感情を見ているのだろうが。まぁそれだけこちらをよく観察しているということだろう。
まぁ、それを悪い気がするかといえば、そんなにしない。
節度が、節度がほしいのだ。
「とにかく、これからラプラスちゃんは――ヒラサカ様のところに向かうんですよね」
話をマジメな方向にヒツミちゃんが切り替える。
ヒラサカ様、巫剣家が守護する神の名だ。神はイザナミではなく、この黄泉という土地そのものなのである、イザナミは、あくまでその土地に根付く死者でしかない。
つまるところ――
「じゃあ、一緒に行こう!」
少し反芻していたところに、突然ヒツミちゃんが襲いかかってきた! 何故このタイミングで? と思いつつ即座に避ける。残念、警戒は怠っていない。
“無駄”
「んー! そっけないラプラスちゃんもいいよぉ」
いつもどおりの光景だった。
さて、ここからは少し打ち合わせが必要だ、俺は警戒を最大限にしつつもヒツミちゃんに近寄る。筆談をきちんとおこないたいのである。
「えっ、そんな急に……困るよラプラスちゃん」
『そうですね、きちんと相談しておかないと、この先が困ります』
「相談? なんのこと?」
『この先は危険ですから、命に関わるんですよ?』
俺たちがこれからすることは、ラストダンジョンにオープニング終了直後に突入することだ。幸い、強くてニューゲームによって戦力は整っているが、それでも危ういところはある。
「なんでですか?」
――が、残念ながらヒツミちゃんにはそれが伝わらないのである。
『ヒツミさんはお忘れかもしれませんが、このヒラサカって危険な場所なんですよ』
「……あ、そっか」
まぁ、致し方ない話。
そもそもヒツミにとって、このヒラサカは儀式の場である、人柱としての儀式だけではない、ここでは
幼い頃から、何度かヒラサカに通っているのだ。そして、その間ヒツミちゃんに何ら影響はなかった。
しかし、本来は違う。黄泉というのは危険な場所だ。言ってしまえば文字通りの死地なのだから、下手をすると帰っては来れない。振り返ってしまったから帰ってこれないのではなく、普通に殺されて帰ってこれないのだ。
『ヒラサカは、巫剣の人間以外が足を踏み入れた場合、防衛機能が働きます』
「巫剣が一緒にいても、だめなんですよね」
『そのはずです』
――ゲームにおいて、このヒラサカをソラくんが通ることが一度だけある。グランドルートにおいて、あるものをここに取りに来たからだ。
そして、その際ソラくんは激戦に巻き込まれる。
『私とヒツミさんでも、下手をすると負けるかもしれない相手なんです』
「――
『はい』
黄泉の国に住まうと言われる、八体の雷を操る鬼。
このヒラサカにもそれを模した防衛機能が存在しており、これを雷神八鬼とこの辺りの人間は呼称している。俺と今のヒツミちゃんで行っても勝てるかわからない相手。
故にこそ、このヒラサカは霊地、神の住まう場所として存在できたのだ。
「大丈夫ですよ!」
しかし、ヒツミちゃんは楽観的だ。
勝てると思っているから、――という様子ではない、これはきっと。
「ラプラスちゃんがいますから! 私は無敵です!」
万能感。
というべきだろうか。
――神宝イザナミを手に入れて、神とすら言える力を手に入れて、ヒツミちゃんはその影響下にある。どれだけ彼女が力に酔っていなくとも、驕らず戦うことができたとしても。
こればかりは、どうしようもないものだ。
……いや、原因は俺の方か。
愛は強し、って言うからな。
ああ、だから――
『だから胸をなすりつけるのはやめてください!』
――いつの間にか、背後を取られていた自分の不覚を嘆きつつ、俺はこれからの戦闘に思いを馳せるのだった。