エロゲヒロインに転生したけど、隠しヒロインなら大丈夫だよね。 作:季高
雷神八鬼、名前の通り雷を纏った鬼。ただしその姿は腐れ爛れ落ちたゾンビのようであり、名前から感じられるかっこよさのようなものは一切ない、単なるモンスターである。
そもそも親玉であるところのイザナミからして、腐った体を夫に見られたくなくて発狂した経緯があるので、まぁだいたいそんなものである。
こいつらの厄介な点は、一言でいうと――
「せいっ!」
――戦闘が開始し、数分がたった。
ヒツミちゃんが迫ってくる雷神八鬼を吹き飛ばす。大きく吹き飛んだそれを覆い隠すように、二体の雷神が襲いかかり、ヒツミちゃんは隕石を放ちながら後退した。
「ああ、また!」
“追撃”
そこに俺が動く、ヒツミちゃんに群がる二体の上を飛び越えながら、一気に吹き飛んだ雷神へケリを叩き込むのだ。が、しかし――そこには二対の雷神が待ち構えていた。
……どっちだ!?
とはいえ、そこは構わず追撃、地面をめり込ませ、正面から攻撃を受け止める二体と張り合う。一瞬の拮抗の後、遠くから飛んできた流星が二体をまとめて薙ぎ払った。
そして、俺はそのまま着地、地面を叩き割って足元を空白に変えながら、薙ぎ払われた二体に拳を叩き込んだ。
一体は躱されたが、もう一体は大きく吹き飛び、地を転がった。――そこに、別の雷神が覆いかぶさる。
「ああもう!
ヒツミちゃんが叫ぶ。
先程から、ずっとこうだ。理由は単純、この雷神、
そのため、激しい戦闘の中、どれをどれだけ攻撃したかわからなくなる。
向こうもそれがわかっているから、攻撃を受けた雷神を庇うように別の雷神が集まり、攻撃を仕掛けてくるのだ。そして――
“追撃!”
「わかってます。
いいたくなることは解るが、ヒツミちゃんには手を動かしてもらわないと困る。俺はそもそも口を動かせないから問題ないが、とにかく必要なのは手数で押し切ることだ。
――実は昔、ここに一時期通い詰めていたことがある。雷神はこの特性から倒しにくく、またスペックも普通の妖牙よりも高いため、戦闘経験を積むのも簡単だったのだ。
駆け回る、地を叩き壊し、足場を奪い、自分は足場を作って、時には足場をすり抜けて攻撃する。まったくもって嫌な戦い方だ。
これを編み出したのも、この雷神たちをサンドバッグにした成果である。
「とにかく、行きますよ! あっ、ラプラスちゃんかわいい!」
“集中!”
「わかってます♥」
ふっとばした雷神よりも素早く後ろに回り込み、雷神を更に蹴り飛ばす。地に叩き伏せながら地面をかち割り、宙に浮いたところを更に拳で叩いた。
が、そこで別の雷神が割って入る、カバーに入られると分が悪い、俺は後方に退きながら別の雷神に蹴りかかる。割って入った雷神は、ヒツミちゃんが隕石で足止めしていた。
――かつてサンドバッグにしていたが、それは同時に一人では倒しきれなかったということだ。実際、決定打に欠ける俺だけでは、この鬼たちは倒せない。
一応、本気で倒そうと思ったこともあるのだ、倒しておけば後が楽だから。しかし、それができなかったから、こうしてヒツミちゃんと二人で戦っているわけである。
一人で来ようとしていなかったか?
来てしまった以上、俺はヒツミちゃんの問題にケリをつけるほかなくなったわけだが。
「――ラプラスちゃん、大きいの行きます!」
“承知”
そして、俺ができるだけ雷神を一箇所にまとめると、ヒツミちゃんがそこへ向けて隕石を放つ。巨大に固めた隕石、この場においてもっとも範囲的な決定力を持つ一撃だ。
即座に飛びきつつ、地面を吹き飛ばして足場を奪えば、後は雷神を一網打尽というわけである。
が、しかし――
「雷神を足場に雷神が!?」
ヒツミちゃんが叫ぶ、一部の雷神が、雷神を足場に飛び退いたのだ。更に、足場になった雷神のうち一体が残りを後ろに回し、耐える。
直撃――だが、倒しきれていないのは明白だった。
“
「このまま……続けます」
――爆発の後には、雷神が一体減っていた。つまり、盾にした一体が残りを守ったのだ。ともあれ、これで七体。こちらはまだまだ十分に余裕がある。
一体を倒せると解れば、優位がどちらに傾いているかは明白だ。
そのまま戦闘は推移する。激しく飛び回りならが地面をめちゃくちゃにして、時には壁や天井すら崩落させて雷神に攻撃を仕掛け、奴らを追い込んでいく。
ヒツミちゃんはといえば、基本的に位置を保ちつつ、隕石で攻撃。迫ってきた雷神は錫杖で打ち払っている。
この戦い方は、相談の上で決めたことだ。
天地の上下しかわからないような、この殺風景な洞窟で、敵の位置関係を把握することは非常に難しい、入り口と出口は一つずつあるのだが、どっちがどっちであるかは正直よくわからない。激しく飛び回る戦闘を繰り広げるのだから当然だ。
だから、ヒツミちゃんが目印となる。ヒツミちゃんが動かないことで、空間の位置関係は明白になり、多少は雷神の見分けがつくだろうという算段だ。
あまり近接戦闘を重視しないヒツミちゃんの戦い方は、こういうところで俺との相性が良かった。
“破壊”
「解りました!」
そして、もう一つ。俺が合図をすると、ヒツミちゃんは浮き上がる。これもまた相談の上で決めた合図。俺が会話をできない関係上、連携を言葉で補うのは不可能だ。
共闘の経験もなく、下手をするとお互いに攻撃がぶつかりかねない。
対策としては、まず俺がヒツミちゃんから距離を取ること。ヒツミちゃんが俺なら自動ですり抜けてしまう攻撃を放つこと。こうすることで徒手空拳以外の攻撃手段を持たない俺はヒツミちゃんを攻撃することなく、ヒツミちゃんの隕石が俺に流れ弾となることはない。
更には、ある程度作戦を事前に決めておくこと。そして、その合図を決めておくこと。
今回であれば、“破壊”というのが俺からの合図。これが何を意味するか――
俺は、勢いよく足を振り上げ。
それを叩きつけ、地面を叩き割った。
俺は、雷神たちが宙に放り出された中を、破壊された地面を伝って駆ける。この移動、さんざんコイツラあいてに練習しただけあって、かなりスタイリッシュに決まっているといえるだろう。
決定打がなくてグダりやすい俺の戦闘で唯一の加点ポイントだった。
「もう一度行きます。合わせましょう、ラプラスちゃん!」
“了解”
うなずき、隕石を生み出すヒツミちゃんに届けるように、膝蹴りを二体の雷神へ突き刺し、そのまま突進する。流石にこれ以上はまとめきれなかったが、二体もまとめられれば十分だ。
そして、ヒツミちゃんの流星がこちらへ迫る。このまま行けば、俺も激突するだろう、しかし、俺はそこで自分だけ攻撃の可能性を否定する。
というか、俺の能力ではそもそも、基本的に生物の可能性は否定できない。
結果――
雷神だけが隕石に飲み込まれ、消失した。
俺は隕石をすり抜け、着地。ポッカリとクレーターのようになった地面、雷神達はそこに這いつくばりながら、こちらを見ている。これで残るは五体。
「うふふ、うふふふふ、私達、本当に息ピッタリですねぇ。お互いの相性抜群って感じです!」
“同意”
「体の相性も確かめませんか?」
“拒否!”
いきなり何を言い出すんだはしたない。
それはさておき、ここまでの戦闘で解ること、本当に俺とヒツミちゃんは相性がいいのだ。ヒツミちゃんは飛べるから、一切俺の戦法で影響を受けることはない、遠距離攻撃主体であることも、また同様。
ヒツミちゃんは遠距離から一方的な砲撃を得意とするが、俺はその砲撃に巻き込まれないから一切砲撃に遠慮がいらない。これは、正直なところやってみて初めて実感するシナジーというやつだ。
ゲームでは、ヒツミちゃんが単体でラプラスと共闘する場面がないし、ラプラスはそもそもこんな大雑把な戦い方をしない。
格闘センスに優れたゲームのラプラスは、もっと静かな戦い方をするのだ。
――起き上がってきた雷神を、俺たちは蹂躙する。
雷神はスペックが高い、常に雷を纏っているから接近すると感電する恐れがあり、その状態で数体に囲まれると、一気に不利になる。
体術にも優れ、スペックがもう少し高ければ、俺は一方的にやられていただろう。今も数体で俺を囲み、巧みにフェイントをしかけてくる。正直、俺がまともにそれとやりあっていたら引っかかってしまうだろう。が、しかし俺はそれをまるごと全部薙ぎ払うことで防いだ。
雷神の見分けがつかない上に、連携の練度が高く、たとえ同数でもこちらが数の有利を取りにくいため、下手に手間取っていると回復されてしまうという特性。
逆に向こうは数で囲んでくることから、その厄介さは言うまでもない。が、しかし――
――この程度乗り越えられないようでは、俺はラプラスとしての格を保てないだろう。
なにせ、ゲームではこいつらを、イザナミをまとわないヒツミちゃんと、ソラくんだけで攻略したのだから。
まぁ、グランドルート中盤ということもあって、両者の強さは個別ルート終盤に勝るとも劣らないほどにはなっていたのだが。
それでも、スペックで言えば明らかに俺たちのほうが上である。
だからこそ、俺は地面に雷神の一体を叩きつけ、ヒツミちゃんがそれを穿った。
これで、残り四体。
“注意”
ヒツミちゃんに呼びかける。
「わかっています」
――そして、ヒツミちゃんもまた、応じて警戒を強める。
雷神八鬼。
数の多い敵というのは、言ってしまえば強いのは最初だけだ。一体でも倒してしまえば、倒せてしまえば、後は勝つのは容易である。
これが千、万の大群であれば、また一つの絵になるだろうが、八という微妙な数では、途中からは蹂躙戦に移行せざるを得ない。
だから、
俺たちが警戒した直後、
俺たちが倒した雷神のあとから、猛烈な雷が発生した。
ここからが本番だ。
当然ながら、先程の八体よりも、こいつらは強い。
発生した雷は残る四体の元へそれぞれ向かい、直撃する。
纏った雷が強さを増して、やつらのスペックを一段上に引き上げるのだ。
さて――気合を入れ直そうか、といったところで。
「あの、ちょっと気になるのですが」
ふと、ヒツミちゃんがポツリといった。
「……先程から、随分と彼らはラプラスちゃんを睨んでいるようですが」
“当然”
うん、まぁそれも当然。
先程から俺はすごい殺意でもって雷神に睨まれていた。
いや、まぁ――
――千回単位で道場扱いされて通い詰められたら、そういう風になるよね。
少しだけ申し訳ないと思いながらも、長い長い因縁に決着を突けるべく、俺は意識を切り替えた。