エロゲヒロインに転生したけど、隠しヒロインなら大丈夫だよね。   作:季高

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そのに

 巫剣ヒツミ。

 この辺り一帯の天剣を統べる巫剣家の後継者。

 つまりお嬢様というやつで、本人はどこかおっとりとした清楚なお姫様キャラといったところだ。誰に対しても優しく、男女問わず人気の学校のマドンナ。

 幼い頃は落ちこぼれと言われ遠ざけられていた天影ソラとも仲良くしていた過去を持つ。

 

 この思い出は、ヒツミの中でもとても大事なものになっており、彼女がいろいろな柵に縛られながらも、色々と頑張ってこれた原動力なのだ。

 オルゴールのBGMと、どこか郷愁の混じった回想シーンは、否応なく彼女の印象に直結する――そんなキャラクターである。

 

 さて、彼女は『天剣妖牙』のメインヒロインであり、女性陣でもトップ人気を誇るキャラクターである。『天剣』の人気キャラといえば、ヒツミちゃんと黒幕、それから一応ラプラスの三人が代表的である。

 ヒツミちゃんは全編においてカワイイを振りまくこと、他ヒロインのルートですらある事情から存在感を放ち続けること、なんだかんだ言ってこの作品の顔であることが人気の秘訣。

 黒幕はいわゆるエロゲの敵が魅力的になる法則による人気、ラプラスは印象に残りすぎる隠しルートが原因だ。

 

 そんなヒツミちゃんの魅力は、()()()であることだ。

 敗北者、首を傾げるかもしれないが、いわゆるラブコメにおける主人公のことが好きなのに、今の関係を壊したくなくて好きと言えなかったり、自分よりも他人を応援してしまうタイプのキャラのこと。

 おっとりとした、優しい幼馴染。まさに敗北者の適正者というやつだ。幼馴染、というだけで加点が大きい。しかもここに巨乳とかつけちゃう。いや巨乳は普通に勝利者の証じゃね?

 

 二次創作では敗北者キャラを擦られることの多いヒツミちゃん、横から掻っ攫われたり、そもそも蚊帳の外だったり。しかし、ヒツミちゃんの場合は敗北者というだけでは終わらないのだ。

 

 幼馴染、というのはとにかくラブコメにおいては非常に敗北しやすい属性である。そもそも勝ち確なら物語が始まる以前に勝っているし、そもそもラブというのは出会いから始まる事が多いのに、すでに出会っている。作劇の上で印象を残しにくい立ち位置なのだ。

 しかし、幼馴染でも勝利者になれる立ち位置が存在する。かつては仲良かったが、何かしらの事情で疎遠になってしまった幼馴染、だ。

 

 ヒツミちゃんというのは、この両方を満たす逸材なのである。様々な事情から疎遠になってはしまったが、同じ学校で顔を合わせていた関係。

 疎遠になったのはお互いに原因はないので、学校では普通に言葉をかわすし、オープニングの戦闘ではほとんど蟠りなく連携ができている。

 しかし、肝心なところは互いにすれ違ったままで、自分のルートではこれが取り沙汰される。

 

 一度自分のターンに入ってしまえば、そういった過去のすれ違いや、ヒツミちゃんは思い込みが激しいので、それによるすれ違いも合わせて、色々と二人は甘酸っぱい青春を送る。

 しかし、他人のターンでは、一気に優しい良い子として、目の前のラブにたいして引いてしまう特性が発揮されてしまういじらしさ。本当は主人公への愛情は人一倍のはずなのに、

 

 なんと可愛らしいことだろう、俺も大好きだ。

 俺が特に好きなのは、学校の大きなイベントである文化祭の最後、後夜祭の最中にこっそり二人で抜け出して、後夜祭で振る舞われるお菓子(主人公と二人で作った)をこっそりつまみ食いする。それが人生で初めての悪いことだと告白するシーン。

 ほんのちょっとの卑しさと、その事を恥ずかしがりながらもとても楽しそうにしている彼女の笑みに俺はやられてしまったのだ。

 

 だから、今――

 

 ――そんな彼女が悪に染まったような笑みを浮かべて、本来の彼女ならするはずもないえっっっっ過ぎる衣装を纏った少女の登場に、

 

 俺は――――

 

 

 ――ぶっちゃけ興奮してました。すけべ過ぎる……。

 

 

 <>

 

 

「――ヒツミ、どうしちゃったんだよ!」

 

 天影ソラは叫んでいた。現れて一刀のもとに様子のおかしい妖牙を斬り伏せて、ソラの印象にそぐわない様子の巫剣ヒツミ。

 いくら疎遠になったと言っても、同じ学校に通う同級生、普段の彼女がこんなことをする人間でないことはソラも解っている。だから、ソラには困惑以外の感情がなかった。

 

 第一――

 

「その冠、イザナミだろう。どうして巫剣の神宝を持ち出してるんだよ!」

 

 神宝。

 天剣が、妖牙の誰もが欲する、この世界における奇跡の象徴。もっとも知名度が高いのはあらゆる願いを叶える神器、ムラクモだが、イザナミも紛れもなく神宝の一つだ。

 巫剣家が代々受け継ぎ、守ってきたそれを、彼女は持ち出している。

 

「あは♥」

 

 その効果は、今の彼女を見れば明白だろう。

 人格の変成、強大な力の付与、そして――呪いだ。今の彼女は、それらでおかしくなってしまっているのだろう。すでに天剣を離れて久しいソラでも、今のヒツミは呪いに侵されていることがよくわかった。

 

 だから、

 

 

「――――ソラくんが悪いんですよ?」

 

 

 そう言われて、ソラは困惑する他なかった。

 同時に、

 

“何故”

 

 声――ではない、思念が飛んできた。

 見れば、銀髪の幼さが残る少女――ラプラスもまた、表情は一切動かないが、おそらく疑問をヒツミに投げかけていた。いや、おそらくもなにも、思念で何故と問われたのだから、疑問に思っていないわけないのだが。

 

「――もう、ラプラスちゃんまで、私、二人に迫られて困っちゃいます。どっちも大切な人ですけど、今は私の話を聞いてください、ね?」

 

「……」

 

 大切な人。

 ――ヒツミとラプラス先輩の間で、接点などあっただろうか、ソラは天剣に関する薄れた知識でなんとか状況を把握しようとする。

 

「ソラくんだって、ラプラスちゃんのことは知ってますよね。学校の妖精さん、誰とも言葉を交わさず、常に一人でいる孤高の美少女。素敵ですよねぇ」

 

「それは――」

 

 知っている。応える前に、

 

「そして、その真の顔はこの地に現れた()()。当然ソラくんもそれくらいは知ってると思いますが――」

 

 続けざまに情報が飛んでくる。

 ラプラス先輩が天剣妖牙の人間であることは、この辺りで活動する天剣の中では有名な話だ。ラプラスの悪魔、一種の神宝とも言われる彼女は、時折天剣にも、妖牙にも喧嘩を売って、死者こそ出さないものの両者の思惑を台無しにすることで知られている。

 しかし、一つの勢力では挑んでも返り討ちに合う強さは、彼女を孤高の存在として君臨することを許していた。

 

 そんなラプラスの悪魔――ラプラス先輩を、随分とヒツミは慕っているように思える。

 

“疑問”

 

 そんなラプラスの最も特徴的な特性は、()()()使()()()()ということ。

 彼女は喋れないのだ。だが、一言だけなら思念を飛ばすことで会話が可能、だから彼女は要するに……

 

“無知”

 

“貴方”

 

“自分”

 

 ――思念を察するに、自分とヒツミに接点がない、ということを言いたいのだろう。

 

「あはっ、そりゃそうですよ、私が一方的に知ってるだけですもん。……それこそ、天剣じゃなくなったソラくんのことを、私が気にしてたみたいに」

 

「えっ――」

 

 ソラは驚愕していた。

 そんなこと、思っても見なかったのだ。ヒツミは自分のことなど気にせず、天剣として頑張っているだろう、と思っていたから。

 自分のことなど、忘れたほうがいいと思っていたから。

 

 そして、何故か――

 

 ――ここでラプラスも動揺していた。表情は一切動かないが、露骨に視線が泳いでいたが、しかし。向かい合うヒツミとソラはそれには気が付かなかった。

 幸いなことに。

 

「――ラプラスちゃんは、孤独なんですよ。ずっと一人で、他に頼れる人はいない。そんな中、ずっと一人で頑張ってたんです! だから! ()()()()()()()()()()()()()()()じゃないですか!!」

 

「なんでだよ!!」

 

 本当に意味のわからない理論だった。

 接点がない、ラプラスはヒツミにそう言った。だが、ソラにしてもそうだ。ソラとラプラスに接点などない、学校の目立たない一般男子と、高嶺の花のラプラスなど、接点があるはずもない。

 

 だというのに、

 

「ソラくんが悪いんですよ!! ラプラスちゃんの寂しさを埋めてあげないから!」

 

 ヒツミはそう言ってはばからない。

 いよいよ持って彼女の意思が理解できない。そしてそれは、どうやらラプラスもまたそうだったようだ。

 

“何故”

 

 先を求めるように、問いかける。

 

「ラプラスちゃんは幸せにならなきゃダメなんです! ソラくんが! 幸せにして! それなのに! あんな!!」

 

「お、おいヒツミ!?」

 

「あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!!!」

 

 ヒツミは錯乱していた。

 何かを思い出したのか、思い出したくないことを想起したのか。慌ててソラは駆け寄ろうとするが、

 

「近づかないでください! 今の私は、ソラくんだって傷つけちゃうかもしれないんです!!」

 

「ヒツミ……!」

 

 それはそうだろう、呪い塗れの神宝を身に着けて、暴走状態にある彼女の精神では、そもそも執着しているラプラスだって傷つけてしまうかもしれない。

 当のラプラスは、どこか困惑しながらも狼狽し、一歩、後ろに後ずさっているが。

 

「ラプラスちゃん! 幸せになってください、幸せになりましょう、幸せって言えるようになりましょう! 世界って素敵ですよ、生きるって素晴らしいですよ、大切って心が暖かくなるんですよ! だから、だからだからだから――――」

 

 まくしたてるヒツミは、その豊満な胸を揺らしながら、誘うようにラプラスへと近づいていく。

 ラプラスは、その様子に何かを察したのか、動かない表情を驚愕に染め上げて、一歩、一歩と後ずさる。そして、そして――

 

 

「だからラプラスちゃん、私と一緒に、()()()()()()()()?」

 

 

 ――ラプラスの瞳が、限界まで見開かれた。

 

「ラプ、ラス先輩……?」

 

 異様だ。

 あの鉄面皮のラプラスが、こうも感情を顕にするなど。しかし、ヒツミはそれに疑問をいだいていないように見える。そのまま、ゆっくりとラプラスを離れ、()()()と浮き上がる。

 

「みてよ、見てくださいよふたりとも! 私、空を飛べるようになったんです! この神宝すごいんですよ、これなら、ラプラス先輩に空をみせてあげられます!」

 

 くるくると踊るように見せつけながら、少女は笑う。

 

 笑って、笑って、笑って――

 

 ラプラスは、

 

“真逆”

 

 それを、

 

 

唯一(それだけ)

 

 

 どこか、怒りに満ちた顔で、睨みつけた。

 

「あはっ♥」

 

 ――ヒツミは、そして。

 

 

「そうですよぉ。私は神宝を、()()()()()()として持ち出したんです。きっと、ラプラスちゃんが喜んでくれると思って!」

 

 

 ――直後。

 

 

 ラプラスの拳と、ヒツミが手にしていた武器――錫杖が激突していた。

 

 

「――――あっは♥」

 

“義憤”

 

 両者は、完全に互角であった。

 ラプラスの拳が、ヒツミの錫杖が、カタカタと震えて衝撃を感じさせる。

 

「今、私の冠を壊そうとしましたね? ――心配してくれるんですか、えへへ、ラプラスちゃん。嬉しいです」

 

“当然”

 

「咎めてくれるんですね、正そうとしてくれるんですね、間違っているって言ってくれるんですね。じゃあ――」

 

 だから――

 

 

「――えへへ、ラプラスちゃん。私――生まれて初めて、()()()()、しちゃいました♥」

 

 

 その一言は、ラプラスにとって、決定的に意思を固めさせるには十分で。

 

 激戦の予感に、ソラはつばを飲むのだった。




ラプラス「名シーンブレイクはやめろぉ!」
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