エロゲヒロインに転生したけど、隠しヒロインなら大丈夫だよね。   作:季高

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そのさん

 ――ヒツミは大変なものを盗んでいきました。

 原作の数々の名シーンです。

 

 いやほんとにすげーいろいろぶっ壊されてるんだけどどうなってるの。具体的に言うと引っこ抜かれすぎて扶桑型戦艦みたいに成ってる。

 こっから本編進行したら違法建築もいいところだよ!

 

 まずヒツミちゃんがソラくんに明かした「自分がソラを気にしていた事実」。二人はいろいろな理由で勘違いによるすれ違いを起こしているのだが、これを解消するのは、二人の告白だ。

 互いに互いのことを思い、そして思い合うことは、彼らのわだかまりをほぐし、かつての幼馴染としての関係を取り戻すに至る重要なシーンである。

 

 それが、こんなところでポロっと漏れた。ソラくん超☆大困☆惑である。ちなみにヒツミちゃんはおでんの具だと大根が好き。

 さて、それだけならば、今のヒツミちゃんは冷静ではないという証明になるだけだろう。端から見てもそれはそうなのだが、本人の口から絶対に語ろうとしなかったことを、こんなにもあっさりこぼすのだから。

 ゲームの名シーンであるということは、それだけヒツミちゃんにとってそれが重要だということ。

 

 だのに、こうして明かしたのだから、今のヒツミちゃんは普通ではない。イザナミを身にまとい、暴走しているのだから致し方ないことだが。

 

 そしてこのイザナミ。これもまたこんなところでお出しされると、それはもうすごい原作ブレイクである。このアイテム、そもそもゲームではヒツミちゃんルートのラスボスが身につける装備なのである。

 これを身に着けたラスボスは、一人で勢力を壊滅させることのできるラプラスより強い、この街の均衡を大きく脅かす存在だ。

 そんなラスボス装備が、どういうわけかそれを打ち破る役目にあるはずのヒツミちゃんの装備になり、彼女をスーパードスケベバインバイーン巫女にクラスチェンジさせてしまった。

 

 これではヒツミちゃんはエロミちゃんだ!

 

 更に厄介なのはこの装備、グランドルートではある方法で使用される。エロミちゃんの暴走を止めるには、この冠を破壊しなければいけないのだが、破壊するとグランドルートで詰む。

 色々頑張りはしたものの、ゲームのラプラスのスペックを超えることはできなかった俺としては、もしこの装備を破壊してしまえばグランドルートを勝ち抜けない。

 自分をラプラスと信じてやまない元一般男性がイザナミで優勝できないのである。

 

 最後に――そして、これは俺が原作ブレイクをカマし続けるエロミちゃんに待ったをかけた要因。

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。これは大変やばいことなのだ。ここでラプラスルートについて簡単に話をすると、これはグランドルートを攻略した後に現れるおまけのようなものである。

 選択肢はほとんどなく一本道、最終的な結末も一つだけ。

 

 であればこれが何かと言えば、簡単に言うとラプラスルートとはグランドルートの前日譚なのだ。グランドルートにはあるアイテムが突如としてソラくんのもとへ届けられることで始まるが、このルートを届けたのが何を隠そうラプラスルートのソラくんとラプラスなのである。

 つまりなにかといえば、ラプラスルートでは二人は幸せになれないのである。

 

 簡単な概要はこうだ、物語は本編開始の一年ほど前から始まる。というよりソラくんが学校に入学したときから始まる。本来の時間軸では一般男子学生として平凡な日常を送るソラくんだが、このルートでは入学当初、偶然ラプラスと知り合うのだ。

 そして一年かけて関係を育み、そして本編開始直前、ある出来事が起こる。

 

 詳細は省くが、結果として世界は滅んだ。

 

 いやそれはもう派手に滅んだ。原因は二人にはないのだが、ちょっと面白いくらいに色んなものがかけちがった結果、滅んだ。

 生き残ったのはソラくんとラプラスの二人だけ、ヒロインズも、敵キャラも、一般モブも全員死んだ。人類の総人口一人である。ラプラスは悪魔なのでカウントはソラくんだけだ。

 

 結果、二人だけで生きることとなったソラくんとラプラスは、アダムとイブよろしく、もしくはリーヴとリーヴスラシルよろしく次代に何かを残そうとした。

 ここで二人の関係は進展し、互いに絶対になくてはならない存在になるのである。そうして交わした約束が――

 

 “空を飛びたい”。

 

 二人だけの、世界に二人しかいない彼らの、秘密の約束。

 それをヒツミちゃんは知ってしまったのだ。これは、まぁ決してありえない話ではない。相手が何の接点もない俺――ラプラスで、彼女がここまで影響を受けてしまうようなこともないだろう、という点を除けば。

 ヒツミちゃん――巫剣の家系は、簡単に言うとそういうことができる家系である。映し身の巫女、なんてものがかつて巫剣家にはいたくらいだ。

 簡単に言うと、平行世界の可能性を覗ける。

 

 そしてヒツミちゃんは見たのだ、世界に二人だけになってしまったソラくんとラプラスの逢瀬を。そして、その結末を。

 

 ――このルートは、あくまでグランドルートの前日譚だ。前日譚というのは基本的に悲劇的な結末が待っている。どうせみんないなくなるし、一度も勝てなかったゲーマー夫婦は最後まで勝てないし、どれだけ倒しても兵士は湧いてくるのである。

 であればラプラスたちの物語も、最後は死でもって締めくくられる。別の世界へ、世界が滅んだ原因に対抗するために、あるものを平行世界へ送り届けて、最後は二人で空を見上げて死んだ。

 

 ――きっと、ヒツミちゃんはその慟哭を聞いてしまったんだな。

 

 だから、彼女の思いを俺は否定できない。どれだけグランドルートで全てが救われるとしても、平行世界のラプラスとソラくんは救われない。

 そのことに、彼女が思うところがあるのも解る。()()()()()()()()を考えれば、しょうがないことだ。

 でも、だとしても――

 

 俺は、()()()と拳を握るのだ。

 

 そうだ、だって――

 

 

 ――俺は、ソラに憧れた、あのラプラスではないのだから。

 

 

 

 <>

 

 

 

 天に、蒼の月。

 血の気を失った死体のように、地に降り積もる雪のように。

 

 月は空から見下ろしている。

 

 激しい激突音とともに、二つの破壊が地を満たす。

 着弾と、着地。

 それは激戦だった。

 

「あは――っ」

 

“――”

 

 夜のビル、その上に立つのは、色気を服にしてまとわりつかせただけの少女、ヒツミ。

 それを見上げながら、クレーターになった地面の上に立つ人形少女、ラプラス。

 

 沈黙が周囲を支配したかと思えば、足音が響く。ビルの影から、天影ソラが飛び出してきたのだ。

 

「ヒツミ! ラプラス先輩!」

 

 二人を慮っての叫びは、しかし。

 

“不許”

 

「近づくとあぶないよぉ、ソラくん」

 

 拒絶で返された。

 それに気圧されて、ソラは一歩後ずさる。

 

 改めて、二人は向かい合った。

 

「あはぁ、やっぱ強いですねぇラプラスちゃん。どれだけ攻撃しても、こっちが押してるはずなのに、()()()()()()()んですから」

 

“――”

 

 ――戦況は、ラプラスを地面に叩きつけたヒツミが有利、と言えるだろうがしかし、実際によく観察してみると、互いの状況はほとんど同じであることが解る。

 ラプラスは無傷なのだ。思い切り地面に叩きつけられたにも関わらず、一切の怪我どころか、服がほつれた様子すらない。最初にソラとヒツミの前に現れたときと、全く変わらない状態でそこにいる。

 

 ラプラスの服は学校指定のブレザーだ。まるで、今が日常と何ら変わらないとでも言わんばかりに、ラプラスは戦闘装束をまとわない。

 天剣たちは、基本的に戦闘時、自身の能力を高めるために衣装をまとうが、ラプラスにはそれがないのだ。必要ないからである。

 

「さすが、可能性を否定するラプラスの悪魔、普通の攻撃じゃ、ダメージを受けた可能性を否定されて本体に届かない。本当に厄介な能力です」

 

“不要”

 

「あはは、無駄口はお好みじゃありませんか? じゃあちょっと、大事なものをぶつけ合いましょうか」

 

 ――ラプラスの武器は拳と防御能力だ。

 あらゆる可能性を超越する悪魔、ラプラスには通常の攻撃は通用しない。彼女に通せる攻撃は、すなわち彼女の知らない未知なる攻撃だけ。

 一度でも彼女がその可能性を知ってしまえば、彼女はその可能性を否定する。

 

 ラプラスが、どんな勢力とも渡り合える原動力だった。

 

 そして、ヒツミはといえば、錫杖を使うのはこの状態になるまえからだ。あの錫杖は妖牙を切り裂くことができる光の刃を生み出せる。どちらかといえば、杖というよりも槍という使い方のほうが似合う代物だ。

 そこに高い身体能力――今はコレがイザナミを纏ったことで非常に強化されている――そして、

 

「お星さまのおしおきですっ!」

 

 錫杖を振るうと、ヒツミは周囲に星を生み出した。星落とし、弧を描いて飛ぶ扱いやすい遠距離攻撃手段であった。これをラプラスは真っ向からかいくぐる。

 

“無駄”

 

「無駄じゃありませんよぉ」

 

 当然攻撃はラプラスをすり抜ける、がしかしここでヒツミが狙いとするのは、星が光を帯びているということだ。簡単に言うと、目くらましになる。

 

“――!”

 

 一瞬、驚愕。

 目の前にいたはずのヒツミが、ラプラスの背後に回っていた。

 

 直後、拳と錫杖が激突する。そこに迫る流れ星。ラプラスの弱点をうまく突く形だ。ラプラスの弱点は、()()()()()不意打ちに対応できないことと、()()()()()()()()()()()()()()ことだ。

 後者は当然だ。可能性を否定したらラプラスの方から攻撃することもできなくなる。どうしようもなくなれば攻撃を中断するが、基本的に千日手は何の意味もない、故に攻撃中は可能性の否定は使えない。

 前者はラプラスの能力の限界だ。ラプラスは基本的に攻撃的な可能性を否定しているが、あまりにも可能性を否定しすぎると自分の存在が否定されてしまう。

 だから、

 

“――っ!”

 

 こうして、あたっても致命傷にならない一撃、無視しても構わない一撃は不意打ちだと通してしまうのである。今回はそもそも可能性を否定できないというのもあるが。

 

 とはいえラプラスは人ではない、耐久力はただの人間よりよっぽど高いのだ。このくらいの流れ星、そう痛くはないのだが――数が多くて無視はできない。

 一旦可能性を否定して、ラプラスが下がる。それをヒツミは追わなかったが、故にラプラスはすぐさま突っ込んできた。

 

 ――乱打が始まる。

 

 ラプラスの弱点は二つある。可能性の否定を対処されること、そしてもう一つ。

 

「あはは、届かないよー! 全然届かないですよ!」

 

 ()()()()()()()ことだ。可能性を否定するラプラスは、拳しか武器にできない。常に徒手空拳、速度と威力はあるが、それでも下手に防御に回れると踏み込めない事が多い。

 何より――

 

「――相変わらず、武道は稚拙ですね、ラプラスちゃん。見え見えなんですよ!」

 

 

 ()()()()()()()()()()だった。

 

 

 びっくりするほど武道のセンスがないのである。そこまで前衛としての適性を持たないヒツミでもスペックさえ並んでしまえば悠々と対処してしまえるくらい。

 なんなら、しばらく天剣から遠ざかっているソラでも何とかなるだろう。

 

 それくらい、ラプラスはびっくりするほど下手くそだった。攻撃はどれも大ぶりで読みやすく、更には威力までスペックを活かしきれていないところがある。

 どうしてここまでセンスがないのかは、天剣たちの長年の不思議なのだが、ともかくラプラスは弱かった。

 

 しかし――

 

「――なら、これはどうですか?」

 

 代わりに、というべきか。

 ヒツミはあることを確認するようにラプラスに錫杖を向ける。直後、

 

 ()()()()()()()()()()()()()

 

 これは、イザナミの能力である。効果は腐食、飲み込んだものを腐らせる。天剣妖牙ならば対処は可能だが、一般人なら一瞬で腐った土に戻るだろう。

 ラプラスを殺すつもりはない、しかし、これを使わないとヒツミはラプラスに打撃を与えられないのだ。ラプラスに通用するのは初見の攻撃だけなのだから。

 

 果たして――

 

 

“危険”

 

 

 ――ラプラスは無傷だった。

 初見の攻撃を受けたにも関わらず、それ以外の攻撃と同様に可能性を否定する。ありえないことだ。ラプラスの能力が解析されてからこれまで、天剣妖牙たちを悩ませてきたのがこの対処能力。

 理論上、ラプラスは初見の攻撃を防げない。だから対処する時は可能な限り初見の攻撃、術式を用意するのが鉄板だ。だというのに、どういうわけかラプラスはその多くを無効化してしまう。

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 どこかちぐはぐだと、誰かが言った。

 ラプラスは強い、だがどうしてか攻撃は初心者以下、どれだけ戦闘しても成長しない。代わりに、防御に対しては未だに有効打を与えられた勢力はいない。

 それゆえに、ラプラスはとにかく只管に厄介だ。

 

 だが、

 

「――でも、それも今日までです、ラプラスちゃん」

 

 それも、今日終わる。

 ヒツミはここでラプラスを()()()()。どちらが強者で、ラプラスは自分の救いを受け入れなくてはならないということを。

 

“拒否”

 

「――――あはっ♥」

 

 しかしラプラスはそれを否定して、

 

 ――――激突は加速する。




ラプラス「うおー!」(グルグルパンチ
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