エロゲヒロインに転生したけど、隠しヒロインなら大丈夫だよね。 作:季高
――ぶっちゃけ、ゲームのラプラスと俺だと多分俺は負けないが絶対に勝てない。
格闘センスのなさ、こればかりはどうしようもなかったのだ。ゲームの登場人物は当たり前のようにやっているが、実際にやってみるとそもそもスピードが通常時と違いすぎたり、誰からも学べないので独学にならざるを得なかったり、色々と障害が多かったのだ。
代わりと言っては何だが、格闘技術以外のスペックは本来のラプラスより高い。俺はラプラスの能力の由来だとか、来歴を全てしっているので、何も知らずに世界に放り出されたラプラスと比べれば、能力の引き出し方は段違いに上手いと言えるだろう。
ここらへん、ラプラスルートの終盤はラプラスが一人で戦う場面も多く、スペックをかなり引き出しているのだが、だいたいそのくらいの頃の能力だ。
ルートラスボスが身にまとう神宝を取り込んだヒツミちゃん相手でも、決して見劣りするものではない。
加えて俺はこの世界の大体の能力、及びその効果を知っている。少なくともゲームに登場する人物の技は全て理解しているので、初見殺しが通用しない。
かくしてここに、身体スペックは異常に高いのに実際に戦ってみると大して強くない代わりに、どんな攻撃も通用しないのでめちゃくちゃうざいラプラスちゃん(俺)は誕生したのである。
が、しかし。
同格相手の初めてのガチ戦闘、これはどうにも、キツイな!
「もぉ、そんなに逃げ回っても近づけないよ、ラプラスちゃーん」
ヒツミはかなり余裕の態度だ。実際これまで一度として攻撃を加えることができないのだから、当然といえば当然なのだが。
というよりも、この戦闘で非常に面倒なのは、俺に決定打がないということだ。
具体的に言うと全力のぐーぱんを打ち込んでも、ヒツミちゃんは一撃じゃ倒せない。そしてダメージを受けたところでヒツミちゃんは遠距離からの引き撃ちが可能なので打開に繋がりにくい。
ヒツミちゃんの余裕は、こちらは絶対にヒツミちゃんを一撃で倒せないと彼女は解っているところから来ているのだ。
「でも、そうやって頑張るラプラスちゃん尊いですよぉ、もっともっとがんばってぇ」
――厄介オタクと化したヒツミちゃん。
愉悦混じった笑みは、まさしく淫魔とか、そういう単語がふさわしい。巫女って昔はエッチな職業でもあったんですよ、知ってました?
ともあれ、ドスケベみこみこ大権現と化したヒツミちゃんに隙はない。実力の殆どがイザナミの呪いに依存しているはずで、基本的な戦闘経験はゲームと何ら変わっていないにも関わらず、まったく踏み込ませてくれないのだ。
どれだけ戦闘が下手でも、生まれてからずっとレベリングと戦闘経験を積み重ねてきた俺は、たとえ同格だからってそうそう遅れをとることはない。
何なら時折、各ルートのラスボスにも喧嘩を売るが、そこそこ優勢に戦えている。
だが、どうしてかヒツミちゃんには踏み込めない。色々と理由はある気がするのだが、戦闘経験がどれだけあってもド下手くその域を出られない俺ではよくわからない。
強いて言うなら、なんかこう、近づきがたい。精神的に、踏み込み過ぎたら捕食される気がしてならない!
“厄介”
「――ンンンッ! ラプラスちゃんが私に悪感情を向けてくれています! 私のことを厄介だと思ってくれています!!」
“無敵”
――これはダメなタイプのオタクだ。
エッチな配信者にパンツの色とか聞いて気持ち悪がられることで満足するタイプのオタクだ。ちなみに今日のラプラスのパンツは白。ネット通販で頼んだリボンとかあるやつだ。
女の子になったら、パンツの夢は……壊したくない! あと結構こういうおしゃれって楽しい……(雌落ちフラグ)
「ラプラスちゃんが悪いんですよ! そんなに凛々しい顔で、常に周りを振り回して、ついにはお父様まで! ああ、なんて悪い子なんでしょう!」
――お父様。
ちょっと厄介な名前が出てきた。この地を守護する天剣の長、ヒツミの父で、ヒツミルートのラスボス。巫剣テンホウ。有無を言わせぬ役満ツモみたいなこの男、それはもう厄介なのである、相手にしたくない。
とはいえ、それはおそらく誤解だと思う。ヒツミちゃんがこうなっている以上、巫剣家で何かが起こっているのだろうが、そもそも俺と巫剣テンホウの面識はそうないわけで。
あるといえばあるけど、そもそも会話はしていない。
「まぁ、そういうところも私はカワイイとおもうんですけどね! さぁラプラスちゃん、もっともっと行きますよ!」
――うわあああ弾幕が増えたー!
一気にやばくなる流れ星の群れに、俺は慌てて可能性を否定して飛び退く。もうなんというか、末恐ろしい。こちらもそうそう負けはしないが、決着がつかない。
このまま日の出まで耐えきっての時間切れが一番丸いのではないかというほどに、
いやしかし、こっちから喧嘩を売った手前、あのクソ呪いアイテム排除したいんだけど……無理かな?
というか、そもそもヒツミはこれでいいのだろうか。何のために俺の前に姿を表したのか知らないが、顔見せに来ただけとか?
この世界はよくある幹部が無駄に力を見せつけて顔見せだけして帰っていく展開が大好きなので――まぁ、正確にはいろいろな理由で撤退しなくてはならなくなるのだが――それもあり得るかもしれない。
だから、俺としてはこのまま無駄に戦って一度仕切り直しできたほうがありがたい。ちょっと色々ありすぎて、思考を冷却する時間がほしいのだ。
どっちにしろ、このまま時間が過ぎていくのはありがたい。下手に逃げるとそのあとどうなるか解ったものではないので、あくまで時間稼ぎに終止する感じで。
うまく、対処していくのが最善だろう。
だっていくらヒツミちゃんが強くなったと言っても、それはイザナミの力に依るもの、それではこちらをどうこうすることはできないし、どうこうできなければ夜明けになる。
夜明け、というのはこの世界においては非常に重要な要素だ。
基本的に天剣妖牙は夜にしか活動しない。夜のほうが強い力を使えるなど、様々な理由があるが、とにかく夜明けは刻限なのだ。
それまで、時間はおそらくあと数時間。まだまだ先は長いが、十分戦えている、問題なくヒツミちゃんを撤退させられる。
の、だが。
――ふと、疑問に思った。
なにか違和感はないか? 見落としていることはないか? そしてそれは、もう手遅れだったりしないか? たとえば――
答えは――
――ある。
けど、それは、ヒツミちゃんには使えないはずだ。それこそ――
否。
―――――――――使える。
ヒツミちゃんが神宝を持ち出せたということは、それも使える。使えてもおかしくはない。そもそも、ヒツミちゃんはイザナミで強くなっているが、イザナミはヒツミちゃんの能力も向上させている。
先程増えた弾幕がまさしくそれだ。
だから、まずい。
そう、思ったときには遅かった。
「――――あーあ、気付かれちゃいました」
ヒツミちゃんは、そんな残念そうな物言いとは別に、勝利を確信した笑みでもって、俺を見下ろしていた。そして俺は、今――――
――
俺の弱点というか、ラプラスの弱点は否定できない可能性があることだ。攻撃の際には可能性を否定できず、一定以上の可能性を否定できない。
そして、ある可能性をラプラスは絶対に否定できない。
それは
ラプラスは幻覚に弱い。
もちろんそこは対策がないわけではない。まずそもそもラプラスの肉体は様々な干渉に耐性。いわゆるボス耐性、状態異常耐性というやつだ。
だからどんな幻覚も、長時間かけ続けなければ効果は発揮しない。
だが、一度発揮してしまえば、幻覚から抜け出すことは難しい。ヒツミちゃんは時間を賭けて、ゆっくり幻覚を掛け続けていたのだろう。彼女の本当の目的は時間稼ぎだったのだ。
そして、結果それは成功した。まんまと彼女の策に引っかかってしまったのである。
ああクソ、この流れはゲームにもあったのに、ヒツミちゃんと結びつかなかった。使われたのがヒツミちゃんのルートじゃないからだ。
反省するが、しかしもはやここまで来てしまえばどうしようもない。
今、俺の目の前にいるのがヒツミちゃんであるか、その判別は俺にはつかない。下手に攻撃してなにかとんでもないものを壊してしまう可能性もある。
“不覚”
だから、うなだれる他ないのだ。
「えへへ、捕まえましたよラプラスちゃん。ずっと、ずっとずっとずっとずっと、この時を待ち続けていたんです! やっと、やっとやっと! 私のものになってくれましたね!!」
“
一応、強がりを言うものの、こういうのはああいった手合には興奮のスパイスにしかならないだろう。ああ、これが普通に愛されるだけならいっそ受け入れることもありなのだが。
――――今のヒツミちゃんが何をするか俺にはわからない、ラプラスはどうなってしまうんだ!?
「よぉし、まずは――」
何故かそう言いながらヒツミちゃんは服を脱ぎ始めた。まってまって本当に何するつもり? 幻覚が発動してもここは天下の往来なのよ! 自分を大切にしなさいよー!
“疑問”
「何をするって――決まってるじゃないですか。当然――」
いやだ、ちょっと聞きたいけど聞きたくない。俺はまだこう、人として終わりたくない――――!
その時だった。
俺の耳に、
「なっ――」
“勝機!”
今がチャンスだ。俺は即座に可能性を否定して姿を隠しながら飛び退く、めちゃくちゃに飛んで、どこに行くかもわかったものではないが、ここから離れてしまえば問題ない。
しかし、そうか。パトカーということは、警察に通報したのか。
「……余計なことしてくれますね!!」
それは、天剣妖牙たちにとって、
そもそも天剣は警察とつながりがある。だが、それは裏のもので、一般には知らされていない繋がりだ。だから警察を呼べば天剣が恐れる一般人に知られるという危険から天剣を散らすことができる。
あまりにも禁じ手すぎて、一度でも使った天剣は完全に天剣としての立場を追われることになるのだが、
やったのは――
「――あっちです、あっちで変な爆発音が!」
「――ソラくん!」
ゲームにおいては、一般人ヒロインちゃんがやってみせたこの奇策、まさか主人公くんことソラくんがやってくれるとは思わなかった。
「――もう、台無しじゃないですかこんなの! ……ラプラスちゃん!」
逃げに入ったのか、声が遠ざかりながらヒツミちゃんは俺に声をかけてくる。
「それが空というやつです! ラプラスちゃん、私は絶対に、貴方を空へ連れていきます! 私だけが、そうするんです!!」
だから、と――それ以上は聞こえなかった。
かくして、ここにゲーム本編で始まるはずだった戦闘は終わりを告げた。
とてつもない原作ブレイク、これからどうなってしまうのかという疑念、いろいろなものが入り混じりながらしかし、俺は――
――――この幻覚、どうやって解除しよう。
とりあえず、当面の問題にとりかかるのだった。
なお、朝になったら自動で解除された。時間経過と朝になったことでの術の効果減少によって、なんとか耐性で弾けるまでに弱まった結果だろう。
よかった……口だけでなく眼も使えなくなったら本当に生活にこまるところだった。
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――――翌日。
「じゃあ、一緒に登校しましょう、ラプラスちゃん! ……あ、学校だとラプラス先輩って呼びますね♥」
俺の自宅に、ヒツミちゃんが凸してきた。
というか、呪いが感知できない。
あのヒツミちゃん。貴方もしかして――――イザナミを制御していらっしゃる?
「んー、やわらかいー。あ、おひさまが出てるうちは絶対に戦いません。私だって天剣の一員です、そこはわかってますから!」
なんて、思い切り抱きつかれながらヒツミちゃんは言う。
ああ、しかし、これは――――
――もしかして、夜のほうが色々と対処しやすいのではなかろうか。
そう、思わずにはいられないのであった。