エロゲヒロインに転生したけど、隠しヒロインなら大丈夫だよね。 作:季高
――ここでラプラスワンポイントアドバイス。
もとい、ラプラスの日常生活に関わる話。ゲームにおけるラプラスは、学校では高嶺の花と言う感じの扱いを受けていた。
喋ることができず、それを苦にも思わない性格から周囲とは壁があったが、周囲からはいじめを受けるようなこともなく、むしろその姿をかっこいいと思われていたのだ。
この辺りはゲーム世界のご都合主義に感謝、というところだろうか。
そして、そんな高嶺の花ことラプラスの生活は、そもそも生活というものが存在していなかった。そもそもラプラスに食事と睡眠は必要ない、エロゲーなので性欲だけは何故か存在するが、それも他人よりは薄いくらいだ。
なので、ゲームのラプラスには家がなかった。夜は常に天剣妖牙と戦っているし、昼は学校にいればいい。休日は人の居ない山奥でずっと静止し続けていた。林の中にぽつんと立っているラプラスは神秘的を通り越してシュールの域に足を突っ込んでいたが。
しかし残念ながら俺はラプラスではなく前世の記憶があるラプラス(偽)いくら食事が必要ないと言っても、色々と食べたいものはあるし、娯楽だって触りたい。
とはいえラプラスにはラプラスのイメージが有る。幾らなんでも匿名掲示板に入り浸って一日を潰す非生産的オタクな生き方はするべきではないのだ。
アニメとかゲームはする――隠しルートではラプラスと仲良くなるためにソラがゲームを奨めてくるのだ――が、それ以上は突っ込まない程度に自制しつつ、俺はそこそこ文化的な生活を送っていた。
ちなみに資金は暴れている妖牙を討伐してそれを天剣の事務所に放置してその目の前に賽銭箱を置いたり、穏健派の妖牙を討伐しようとする天剣を止めて、帰り際に賽銭箱を置いたりして稼いだ。
世の中、金が誠意なんですよ。
さて、ラプラスのイメージはできる限り守りつつ、それでも文化的な生活を送るための必需品、端的に言えばそれはタブレット端末である。
筆談にも、ネットサーフィンにも、ゲームやアニメをするためにも必要なこれは、俺が生活を送る上で必要にかられて導入したアイテムだ。
何かしら誰かに用がある時はこれをつかってコミュニケーションを取る。多少は迷惑をかけてしまうが、そもそもラプラスは孤高な美少女なので、交流の機会は少ないから問題ない。
さて、それ以外の俺は、基本的にラプラスと同じように、他者とは交流を絶って、周囲から一目置かれつつも、どこか壁のある存在としてこの学校の有名人になる――はずだったのに。
どうしてだろう、本来のラプラスと違って、ラプラス(偽)は、やたらとお菓子だの美味しいものだのをプレゼントされるのである、
主に同学年の女子たちに。
――最近は後輩まで、普通にお菓子をくれるようになったのだが。
これってもしかして、餌付けされていないだろうか?
中身はただのおっさん、いくら取り繕ってもラプラス(真)に勝てるはずもないのに、不思議である――――
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「はーい、ラプラス先輩飴ちゃんですよー」
ラプラスはちょっとだけ目を輝かせながらそれを直接口で受け取った。
「はーい、ラプラス先輩ジュースですよー」
ラプラスはそれを警戒しながら――先程直に飴を口の中に入れられたのに今更――受け取った。なお、特に確かめもせずに飲んだ。
「はーい、ラプラス先輩お弁当ですよー」
ラプラスはまっていましたとばかりにお弁当箱をあけた。
中身は――一言で言うとお子様ランチだった。ラプラスは抗議の意味を兼ねて、それを持ってきてくれた少女――巫剣ヒツミを威嚇した。
「はーい、ラプラス先輩お洋服をぬぎぬぎしましょうね――」
――そして油断したところを狙って、ついにヒツミは凶行に及んだ。
それまでの献身的な行動にすっかり油断していたラプラスは思い切り制服の一番上を脱がされて――そこではっと我に返ってヒツミを押しのけた。
『さすがにそれはダメです』
ばっとタブレットを取り出して筆談を開始。
ラプラスとヒツミは互いに向かい合いながら、ジリジリと位置を変えるのであった。
「むー、失敗しちゃいました。ラプラスちゃんいつもスキだらけだから、行けるとおもったのになー」
『私は隙だらけではありません』
そうやってタブレットを掲げながら、脱がされたブレザーを着直すラプラス。しかしどう考えてもラプラスは隙だらけだった。なにせこの状況でヒツミが飛びかかれば間違いなくもう一枚行けるのだから。
「んふふ♥」
――しかしヒツミはそれをしなかった。
理由は単純、一枚行けたとしてもそれでおしまいだから。そして――
「……あの、ふたりとも?」
ここにいるのが、ヒツミとラプラスだけではないからだ。
――天影ソラ。昨夜の事件の当事者が、ここには勢揃いしていた。
『はくじょう者』
恨みがましく、見ているだけでしかなかったソラにそんなことを返すラプラス、ソラははくじょうがひらがななことにツッコミたかったが我慢した。
「んー、やっぱりラプラスちゃんはカワイイですねぇ。ほらソラくん、もうエッチな展開にはなりませんから気まずそうに距離を取らなくていいですよ」
「そういう展開にするつもりだった!?」
「あはー」
――ヒツミの感情が読めない。数年ぶりにこうして正面から会話をするが、ソラはヒツミのことが解らなくなっていた。それはまぁ、当時のヒツミ――というか、ほんのちょっと前のヒツミとすらキャラがぜんぜん違うのだから当然といえば当然なのだが。
「それで――ソラくんは何のご用?」
「……まずは、確認。ヒツミ、大丈夫なのか?」
『それは私も気になります』
――ヒツミの安全。
彼女は今、イザナミと一体化している。神宝イザナミ。死と腐敗を司る女神イザナミの力を内包した冠。これは身につけたものに莫大な力を与える代わりに、精神汚染と
非常に、危険な代物だ。
とはいえ流石に身に着けて数日で体がくされ落ちることはないが。
「大丈夫ですよ?」
――そう言ってヒツミは、
ガバっと制服を開けて胸を晒した。
両手で抱えても溢れてしまうほどの豊満な胸が、セクシー極まりない黒下着によってつつまれ、ふわりと揺れる。
『やめなさい』
即座にラプラスがそれを抑えにかかる。当然ソラは視線を逸した。――しかし、ラプラスはすぐに気がついた。少しの間ヒツミと格闘し、諦めてからマジマジと覗き込む。
『肌がキレイですね』
――ヒツミの肌に変化は何一つなかったのだ。
ラプラスの知識では――そして、ソラの知識に置いても、イザナミを身に着けたものは一日もすれば体の大半が腐り始める。だが、今のヒツミは何一つ変化がない。
「うん、どこも腐ってないよ。――身につけて解ったけど、女の子はイザナミの侵食が遅いみたい」
――伝承では、イザナミは身につけたものを朽ち果てさせるという。しかし、そもそも伝承に置いてイザナミを装備したのは全員が男だったのではないか。
そもそもイザナミというのは自身の肌が腐れ落ちたのを見てしまった夫、イザナギを呪ったという伝承がある女神だ。つまり何がいいたいか、
「……本来のイザナミは、女性が身につけるものだった?」
「巫剣家は女性が人柱になる習慣があるから、身につけることがなかったんじゃないかな」
ヒツミが再びブレザーを着直すと、ソラも視線を戻す。
ちょっと顔が赤かったが、残念ながらこの場にそれを指摘するものはいなかった。
「もっというと、特定個人に対して執着のある人が身につけると、イザナミはその人に
『適合』
「うん、だから今の私は――
そうやって笑う彼女は、ソラの知るヒツミではなく――そして、“ラプラス”の知るヒツミでもなかった。精神汚染、というよりもそれは精神が混ざり合っているのだろう。
だからヒツミはヒツミの意識を保ちながら、イザナミとしての行動に躊躇いがない。
執着は間違いなくヒツミの本心だ。だが、それをさらけ出す行動に移させるのはイザナミの影響が強いのだろう。
『話はわかりました』
「うん、解ってくれて助かるよ。これを話しておかないと、ふたりとも私のこと本気で心配しちゃうと思うから――私、こんなに元気なのにね?」
そうやって、ヒツミは立ち上がるとくるくると回った。――ミニスカートから、ちらりと黒のパンツが覗く。ソラはなんとか見ないようにしたが、ラプラスは思わず見入ってしまった。
――キレイだ、と。
本来ならヒツミにそれは似合わないと思うのに、どうしてか、今のヒツミにはこういう下着が相応しいと思ってしまうほどに。
「じゃあ、予め宣言させてもらうね?」
そう言って、数歩ヒツミは下がる。まるで、コレ以上の馴れ合いは不要だと言わんばかりに。
「ラプラスちゃん」
――その口元は笑っていた。
「――貴方には、幸せになってもらいます」
その目は、真剣そのものだった。
「私、巫剣ヒツミはラプラスちゃんの未来を見ました」
――沈黙。ラプラスもソラも、その宣言をただ黙って聞いていた。
ラプラスはそれに何を思うのだろう。ソラは、変わってしまった幼馴染に何を思うだろう。
「その未来では、ソラくんがラプラスちゃんの心を開いて、ラプラスちゃんは笑っていました。――ねぇラプラスちゃん。ラプラスちゃんって、笑えるの?」
――ラプラスは口元を引っ張って、笑みを作ってみせた。
答えはなかったが、返事は端的だった。
「でも、ラプラスちゃんって笑えるんだよ。ラプラスちゃんだって生きてるんだよ。でもさ、――ラプラスちゃんって、まるで自分が生きてないみたいに振る舞うよね?」
ソラには、その言葉の意味がわからなかった。
ラプラスを何も知らなかったからだ。
「まるで、自分は生きてちゃいけないみたいに、
ラプラスは、その言葉の意味が嫌というほどわかった。
――口に出したことなど一度もなかったというのに、悟られてしまったことを反省した。
「私は――そんな人を知っています」
畳み掛けるように、ヒツミは言った。
「生きることを許されなかった人を知っています。生きることを望んでいながら死んでいった人を知っています! ――――
だから、
「それが私が貴方を救いたい理由です、ラプラスちゃん」
それは宣戦布告だった。
「――それとソラくん」
「……何?」
「後で社務所に来てくださいね? ソラくんがやらかしてくれたアレ、こっっっってり社務所の人達が言いたいことがあるそうですので」
そこで話題がそれた。
ソラは――ラプラスに対する執着混じりの宣戦布告とはまた違う、心の底から怒りに満ちた笑みを正面から浴びた。
さもありなん。
――きっと、昨日の社務所は地獄だったはずだ。
ソラは、そこで奮闘しているだろう二人の女性を思い出し、頭を痛くする。
ソラのしたこと。警察を呼んだこと、これをうまく処理するために、社務所――天剣たちの戦いをサポートする裏方組織――は奮闘していたのだ。
これが何も知らない一般人ならともかく、完全に解ってやっている元天剣ともなれば、処理する人間には如何に事情があったといえど、許せるはずがないのだ。
「はい……」
『そもそもの原因はヒツミさんでは?』
――そして、この件に関しては完全部外者のラプラスは根本的な事を口にした。そもそもソラが行動を起こしたのはヒツミが暴走していたからだ。
それに巻き込まれただけのラプラスには、この事実を指摘する権利がある。
だが、
「え? だって今、天剣の仕事はほとんど私が処理してるんだよ?
――ヒツミは、ラプラスが聞き逃がせないことを言った。
「――テンホウ殿が?」
「うん――」
ソラが、そう問いかけて、ヒツミが答えようとした時。
ラプラスが詰め寄った。
『その話』
ぐいっと、
「う――」
『ちょっと詳しく』
ぐぐいっと、
「うう――」
『聞かせてもらえませんか』
上目遣いで、距離が近かった。
「ううう――――」
「あ、ちょっとラプラス先輩――」
まずい、とソラが思ったときには遅かった。
「辛抱たまらないよ――――!!」
ヒツミがラプラスに抱きついた。胸でラプラスの顔を押しつぶした。
「なんでそんな誘うことするんですかラプラスちゃん! 可愛すぎですか! ラプラスちゃんは本当に隙だらけです! どこで食べられちゃうかわかりませんよ! ああああもういい匂いすぎますーーーーーーーーーーーっ!」
すーはーすーはー。
すごい顔をしながら、ラプラスを全身でヒツミは堪能していた。ラプラスが挟まれて、その豊満な胸が強調された。
ラプラスはジタバタと両手を動かすが、これは逆効果だろう。ソラの眼から見ても、ラプラスのその行動は実にあざとかったのだ。
「ほんと、ラプラスちゃんって、どうして変なところであわてんぼさんなんですか? おっちょこちょいなところもカワイイですけど、見てて心配になるんですよー!」
――――そう言われて、ラプラスは目を丸くした。
「ああ、よく聞くよね、ラプラス先輩がまたドジしてるって」
――――――――さらにラプラスは目を丸くした。
「んふふ、はやくラプラスちゃんを独り占めしたいなぁ。お家に持って帰って、いろんな事を……えへへへへへ」
「やめてあげてよ……」
「――お昼のうちは、しませんよ?」
ふと、ヒツミの声のトーンが少し変わった。
「これはソラくんにも伝えておきますが、天剣は巫剣の次期当主として、天剣の鉄則を破ることはありません。ですので、昼の間はこうして愛でるに留めます」
そう言って、ラプラスの頭をわしゃわしゃし始めるヒツミ、完全に猫か犬かの扱いを受け始めたラプラスはさらにジタバタともがく。
完全にタブレットへ触れられなくなっているので、その反応はまったく読み取れないが、間違いなく彼女の心は言っていた。
助けてくれ、と。
――ソラは見なかったことにした。
「ですが、夜は違います。私、巫剣ヒツミは天剣の主として、悪魔ラプラスの捕縛を命とします」
そして、そこからのヒツミの言葉も、否定できるものではなかった。
ラプラスの悪魔。
――目の前の少女は、ここ十数年、天剣妖牙たちを悩ませてきた存在だ。時には両者の戦いに割って入り悪とされる側を勝手に討伐、その討伐料をせびってきたり、時には特に理由もなく潜伏していた極悪妖牙を勝手に討伐して討伐料をせびってきたり、時には裏切り者の天剣を捕縛しては捕縛料をせびってきたり。
そんなはた迷惑な――はた迷惑なだけでしかないところがより一層やっかいな――悪魔は、しかしこれまでまったく捕縛、ないしは討伐の手立てがなかったのである。
それが、ヒツミが神宝イザナミを手中に収めたことで可能になった。であれば、ラプラスに対する処遇は捕縛以外にありえない。
「ただし、気をつけてください――私達天剣はあくまで捕縛を本命としますが、そうでない者も――――」
「――ヒツミ」
「……なんですか、ソラくん」
「ラプラス先輩、話聞けなくなってる」
すねた様子でソラを見たヒツミは、自分の胸に埋もれて動かなくなっているラプラスを見て、悲鳴を上げるのだった。
<>
――美少女のおっぱいに絞め殺されかけるというあまりにも幸運な不幸を体験したラプラスは現在、一人で買い出しに出ていた。
そもそもラプラスは一人暮らしなので、自炊が必須。そろそろ時間は七時を回るところ、日はまだ落ちきっていないが、この時間は狙い目なのだ。
何がといえば、スーパーの半額セールである。
半額弁当バトラーと化したラプラス、今日の目当ての惣菜をもとめて、買い物バッグを片手にスーパーを目指していた。
さて、今の時間は七時、夕刻である。空は赤と青のコントラストが実にキレイだ。そして、日はギリギリ落ちていない。
あと数分で山の向こうに消えていくだろうか、といったところ。
この状況、天剣妖牙たちにとっては昼という扱いである。そして、数分もすれば太陽が見えなくなる、このタイミングを境に、天剣妖牙たちの夜が始まる――のであるが、しかし。
だからといって、まだ往来に人のいるこの時間帯を、天剣たちが戦場とすることはありえないことだった。故にラプラスも、何も気にせず外出していたのだが――――
もし、ラプラスがヒツミの話を最後まで聞いていれば、少なくともこの時間帯に出かけることはなかっただろう。
道を一つ曲がったときのことだった。
その正体にも、しかし。
――――それよりも一撃は早かった。
「死ねぇええええ! ラプラスの悪魔ぁあああああああ!」
不意打ち。
ラプラスにとって最悪といってもいい弱点は、しかし。
ラプラスを、通り過ぎていった。
「チッ――悪魔め、そうやってまた逃げるのか!」
そう言って、振り抜いた薙刀を構え直す少女が、目の前にいた。
青みがかった髪、武道着と呼ぶべき装束に身を包んだ、散切り頭のショートが特徴な、眼を見張るほどの美少女だった。
険しい瞳、殺意に満ちた顔。
――そこまでの行動で、そして、
ラプラスは困惑しながらも――しかし、覚悟はしていたのか、すぐに気を取り直し、拳を構えた。
買い物バッグ――100円ショップのものなので、捨てても惜しくはない――を投げ捨て、臨戦態勢を取る。
「……ふん、やる気なようだな。だが、覚悟しろ」
そして、薙刀を構えた少女、
「――――この不凍義ミズキ、お前の首を、必ずや切り飛ばしてくれる!」
彼女こそ、ラプラスの中の人が知る、四人のヒロインが一人。
不凍義ミズキ。
ヒツミと同じ天剣であり――彼女のもうひとりの幼馴染、そんな少女が、今。
ラプラスに対して、殺意という極上の愛情でもって、己が刃を、突きつけていた。