エロゲヒロインに転生したけど、隠しヒロインなら大丈夫だよね。   作:季高

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そのろく

 ――なんとなくヒツミちゃんがああなったときから、俺はこうなるんじゃないかという気はしていた。

 不凍義ミズキ、『天剣妖牙』四人のヒロインが一人、いわゆるツンデレというか、主人公に対してあたりが強い枠。

 ゲームにおける主人公であるソラくんとの関係は、接点がないヒツミの幼馴染同士、だ。

 

 面識はある。お互い、巫剣に使える天剣の一族であり、言ってしまえばソラとミズキは同僚だ。そして、才能に恵まれていたのがミズキであり、落ちこぼれと蔑まれたのがソラである。

 ミズキはソラを軽蔑していた。能力がないのにヒツミの隣にいる人物、周りから蔑まれても声もあげず成果を出そうともしない臆病者。

 

 ――そんな奴が天剣の長であるヒツミと親しくすることが許せなかったのだ。

 

 だから、ソラが天剣を追われた時、ミズキはとても喜ばしかった。――ヒツミが悲しげに、ソラと遊んだ秘密基地で一人佇んでいるのを見るまでは。

 

 さて、そんなわけでソラくんに対してとにかくあたりが強いミズキだが、実はゲーム開始時点ではそこまでソラに対してキツイことは言わなかったりする。

 というのも、悲しげにしているヒツミを見た直後から、ミズキはソラと接触を持つようになった。追い出されたソラが更にひどい目にあっては、ヒツミが更に悲しむからだ。

 天剣の次期当主として、追い出された天剣と交流を持つことのできないヒツミの代わりに、という意味もあった。

 

 だがそれもあって、結果としてソラという人間の内面をしったミズキは、ソラの評価を多少改めていた。ゲーム開始時点でのミズキのソラへの評価は『生まれが悪かった』という評価だ。

 ソラは決して無能な人間ではない、機転が利くし、知恵も回る。彼の才能は裏方であれば発揮されていただろう。しかし、そうはならなかった。社務所の一族に生まれなかったからだ。

 

 人には常に役割、役目というものがある。ヒツミが天剣の次期当主であるように、ミズキがそれを支える立場にあるように――だから、天剣という役目から降りた彼をことさら悪くいうのは、ミズキのほうが悪者になるし、公平ではない。

 しかし――いろいろな理由で、ソラは天剣の世界に戻ってくる。

 

 ミズキはコレに対して憤慨した。それもあって、ミズキの序盤の役割は『序盤の障害』である、オープニングが終わり、最初にソラくんたちと激突するのがミズキであった。

 某変身ヒーローよろしく内輪もめ展開である。そうして最初に戦い、そして乗り越えた後に味方になる。それがミズキの役割だった。

 

 かくして、ついたあだ名が野菜星の王子様。

 

 他にも、色々とネタに事欠かない少女である。まず高身長貧乳であり、それを気にしている。というか作中の女性陣ではロリ枠にはいるラプラス以外だと一番小さい。

 ヒツミの身長は普通だが、残りの二人は低身長で、ロリ巨乳とそこそこの大きさを揃えているので、必然的によくある貧乳煽りは全てミズキが受け持つことになった。

 

 行動も天然なことが多く、ミズキは実はソラのことを陰日向から見守ってるつもりだったのだが、ソラにはバレバレだったりした。

 他には、実はこのソラを監視するのを、ヒツミに伝えていなかった。コレが原因でひと悶着が起きたりするのだ。

 

 そんなミズキを代表するのは、ルートに入ってからの彼女のデレかたである。

 当然ながらツンデレ系のキャラなので、素直ではない、とにかく素直ではないが、非常にわかりやすい。口で文句を言いながら、ぶんぶんとフラれている尻尾が見えるのだ。

 幻覚ではなく物理的に。

 

 そして、もう一つ。彼女を語る上で欠かせない要素がある。ネタ的にも、キャラ的にも、彼女には端的に一言表現で表せる言葉があるのだ。

 

 それは、ミズキがヒツミとは幼馴染ではあるが、ソラとは接点がない。という事実に起因していた――

 

 

 

 <>

 

 

 

 拳が弾かれる。反撃の一撃を可能性の否定で透かし、更に踏み込むが殴りかかった勢いをそのまま投げ飛ばすのに使われた。なんとか空中で体制を立て直すが、そもそもミズキはラプラスの着地する場所に先回りしていた。

 着地狩りも通過して着地したラプラス。しかしそこに足払いが飛んできた。

 

 格闘素人のラプラスにはそれを防げない、あっという間に地面に叩きつけられてしまった。痛みはないが次に行動が移せない。

 ――眼の前に、ミズキの薙刀が突きつけられていた。

 

「――――弱い」

 

 ミズキは端的に吐き捨てた。

 ラプラスは表情を変えず、しかしまずいと言った様子でミズキを見る。手も足も出ていない、というのが現状のラプラスの状況だった。

 ――近接戦において、ミズキはゲーム開始時点でも全体の中では上位にはいる強さを誇る。

 

 代わりにヒツミのような遠距離攻撃手段をもたず、搦め手にも弱い。だが、こうして正面からの殴り合いだと、いくらスピードが勝っていようと、ラプラスは容易に対処されてしまうのである。

 

「あまりにも、弱い。これが悪魔と呼ばれたラプラスの強さか? バカにしているのなら――今すぐその首を差し出せ」

 

“拒否”

 

「だったら――」

 

 ミズキは薙刀を振り上げ、ラプラスは何とか起き上がる。

 

「――悪魔としての強さを見せろ、ラプラス!」

 

 振り下ろされたそれを、何とか身体スペックで躱すラプラス。再び攻防が始まった。逃げ回りながら、ラプラスは思念で叫んだ。

 

“何故!”

 

「何故襲うか、だと?」

 

 肯定として沈黙を返す。

 

「――そんなこともわからないのか? この、悪魔め! 全てお前が悪いのではないか!! お前さえ――お前さえいなければ!!」

 

 わけがわからない、とラプラスはそれ以上の言葉なく距離を取る。

 そのまま背を向けて走り出した、人目があって、戦いにくいのだ。もっと言えば、昼のことがあって、ラプラスはあまり人工物を破壊する戦闘がしたくない。

 昼のこと――社務所がソラに激怒しているという話だ。

 

 普段から社務所にいろいろなものを押し付けているラプラスは、ここで更に迷惑をかけたら心象がまた悪くなる。いくら天剣の一人に襲いかかられていると言っても、それを盾に暴れまわったら、向こうとしては下げたくない頭を下げなくてはならなくなる。

 それを避ける程度の思いやりが、ラプラスにはあった。

 

 ――そういった絶妙に配慮しなくてはならないタイミングで配慮されるのが、社務所の人間的には怒るに怒れず複雑な気分にさせるのだが、それはまた別の話。

 

「はっ、逃げるだけでは何もできないぞ!」

 

“心配――”

 

 ミズキの嘲るような叫び、そして、ラプラスはそこでようやく、

 

“――無用”

 

 反撃の準備を整えた。

 

 少女の体が宙を舞う。高らかに飛び上がり、数百メートルを一足で跳躍してみせた。空にラプラスの影が刻まれるが、しかしここまで来れば構わない。

 ――ラプラスがやってきたのは、街の外れにある森だった。

 

 そこは、天剣妖牙の戦いの舞台にふさわしい場所である。妖の気配に満ちた山は、天剣と妖牙たちがそれぞれ施した隠遁の術式が施されている。

 ここなら憂いなく、自分とミズキは戦えるというわけだ。

 

 少し遅れて、ミズキがラプラスの目前に着地する。一度木の上に降り立ち、それから地面に着地した。一足でここまでやってこれない彼女は、木の上を飛び跳ねてショートカットしてきたのだろう。

 

「……ふん、ここなら私に勝てるとでも? 舐められたものだな」

 

“誤解”

 

 舐めてなどいない。しかし――

 

“無用”

 

 ――このフィールドでは、ミズキは勝ち目などないのだ。

 

“――必勝”

 

 ラプラスが、一気に飛び出した。

 ミズキは油断なく構える。隙はない、ただラプラスが突っ込んだだけでは、間違いなく先ほどと同じように対処されるだろう。それまでに両者の格闘技術には隔絶した差があった。

 だが――

 

 

 直後、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 ――そもそも、ラプラスは確かに格闘技術は毛ほどもない。だが、だとしたらもっと容易に対処されているはずだ。倒すことはできなくとも、相手にしないことは難しくはない。

 ミズキがやってみせたように、殺さずに痛めつけるだけなら、何も問題はないのだ。

 

 それでも、ラプラスがとにかくめちゃくちゃウザいと評されるのは、これが原因だ。

 

 ()()()()()()()()()()()のである。

 故に、()()()()()()()()()()()()()。武芸者にとって足場は絶対になくてはならない武器である。踏み込めなければ力を籠められないし、足場があって、立っている場所が確かだから人は状況を認識できるのだ。

 

「――やはり、そう来たか!」

 

 叫ぶ。

 とはいえ、これはラプラスの戦い方を知っていれば、当然考慮しなくてはならない戦い方である。加えていえば、遠距離攻撃を有する者なら、対処は不可能ではない。

 だが、それでは終わらない。

 

 ――あちこちに飛び散る土の塊、なんとか足場にすることが可能かもしれないそれ。この間を飛び乗って戦うことが、近距離攻撃手段しか持たない者の戦い方だろう。

 

 ラプラスも、また――そうである、()()()()()

 

 そう、ラプラスは――

 

 

 ()()()()()()()()()()()()

 

 

「――っ!」

 

 突進してきたラプラスを何とか薙刀で払う。

 ミズキは顔をしかめた、わかってはいた。――これが本気のラプラス、可能性を否定するラプラスはこの足場を無視して透明化し移動できる。

 相手にだけこの不利な足場を押し付けるのだ。やつにはそれが可能なだけの身体スペックがある。

 

 そこからは、一方的だった。

 

 ラプラスの三次元攻撃は絶え間なくミズキを襲う、ミズキはなんとかそれを読んで打ち払う他にない。ラプラスの一撃は苛烈極まる。この程度ならさばけるだろうと、一切遠慮なく致命とも言える攻撃を打ち込んでくるのだ。

 実際、即死はない。だが、下手をすると放っておくと死ぬ程の重症を負わされることもある。流石にそうなったら、社務所まで郵送されるだろうが、つまるところそれは敗北だ。

 

 故にラプラスは突きつける。

 

“降参”

 

 負けを認めろ、と。

 

 ――それが、ミズキの逆鱗の触れるのだとしても。

 このままでは、ミズキは自分に勝てないのだから、と。

 

「――そうやって」

 

 だから、それはある意味挑発でもあった。いくらラプラスがたまにドジをするとしても、()()()()()()()()ことはない。

 解った上で、ミズキを挑発し、そして。

 

「また、そうやって――()()()()()()()()つもりかぁああああ!!」

 

 叫び、激突。

 

 ラプラスは――――

 

 

 ミズキに、素手で受け止められていた。

 

 

“――!”

 

 驚愕、即座に可能性を否定してその拘束を抜けだす。だが、この状況はあまりにも隙だらけだ。ミズキは即座に、()()を払った。

 

 薙刀ではなく、片腕を。

 

 初見の一撃。本来のラプラスなら、これをまともに受けるはずだ。――もちろん、このラプラスはそれを受け付けないのだが。

 

 だが、ラプラスの狙い通り変化は、明白だった。

 

 ラプラスの後方、散らばっていた土に、()()が残されたのである。

 

「ぐ、ぁああああああああ! ラプラスぅうううううう!」

 

 そして、ミズキの姿は明白に変化していた。

 ラプラスがその様子に、驚きつつも対処を考えていたその時。

 

 ――ミズキはラプラスの首を掴んでいた。

 

 へし折るほど強く掴んではいない。だが、対処できない速度だった。不意打ちだったというのもあるが、ミズキはラプラスの認識を上回る速度でラプラスを掴んだのである。

 

納得(やはり)

 

「――――そうだ。私はこの力を手に入れた!」

 

 ラプラスは、この展開が見えていた。知っていたからだ。

 ――不凍義ミズキにはある秘密がある。そして、その秘密は天剣としては絶対にあってはならない秘密なのである。本来の歴史においては、物語の中盤、偶然によって発覚するその秘密。

 

 

 ミズキの頭には、耳。腰には尻尾がまとわりついていた。手は、毛に覆われている。

 

 

 今のミズキは、猫だった。

 半妖、と呼ばれる存在がいる、人と妖牙が交わり生まれた禁忌の存在。それが半妖である。ただでさえ、彼らはタブーであるとされる立場だが、()()()()()()()()()()()()()()としたらどうか。

 

 ――ミズキは、それが発覚すれば即座に討伐対象となる立場にあった。

 

 だが、今。

 ミズキはその力を開放している。それも、自在に。

 

「ラプラスぅ! お前を殺すために! 私は妖牙に堕ちたんだ!」

 

 叫ぶミズキ、ラプラスは何とかこの場を抜け出そうと体を揺らし、ケリをたたき込む――当然のように受け止められた。

 

「は、ハハハ! 効くもんか! 私は今、無敵とも言える力を手に入れた! お前を殺すことはできなくとも、傷つけることは容易なんだ!!」

 

“――”

 

「お前のセーフティが発動するまで、じっくりこの手の力を強めてやろう」

 

 そして、ゆっくりと頸を締める手に力を込める。真綿で首を絞められるというように、それは一種の拷問であった。

 

「ああ、ようやく ――ようやくお前を解らせてやれる。なぁ、ラプラス」

 

 嗜虐に満ちた笑みで――――そして、どこか興奮と色気に満ちた笑みで、ミズキは言った。

 

 

「おまえは、私のものだ!!」

 

 

 そう、宣言したのである。

 しかし――

 

 ――果たして、それに待ったをかけるものが、いないだろうか。

 

 

 否、いる。

 

 

「ねぇ、何してるのかなぁ、ミズキちゃん」

 

 

 心底、低い声で。

 ――――勝ち誇っていたミズキすら、一瞬体を震わせてラプラスを離してしまうほどに、重苦しい声で。

 

 ()()()()()は、ラプラスとミズキの逢瀬を見下ろしていた。

 

「な、あ――」

 

 

 ――――ゲームにおける不凍義ミズキは、ある愛称で呼ばれていた。ファンからも、果ては公式からも、公然と呼ばれている愛称があった。

 それは、ネタとしても、ミズキの行動を表するものとしても、何より、()()()()()()()()()からくるものを評したものとしても、あまりに的確としか言いようのない言葉だった。

 

 それは――

 

 

「――この、()()()

 

 

 常に、ヒツミの大切なものを意図せず奪う泥棒猫。

 悪猫ミズキ、そして敗北者幼馴染ヒツミ。――ラプラスをめぐる執着に囚われた両者が――ラプラスを意思を無視して巻き込んで――ここに、激突した。

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