エロゲヒロインに転生したけど、隠しヒロインなら大丈夫だよね。   作:季高

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そのはち

 ――天剣の巫女、巫剣ヒツミ。

 ――堕ちた天剣にして妖牙、不凍義ミズキ。

 

 互いに、戦いは激化の一途をたどっていた。無数に飛んでくる星星を、ミズキが己が両腕でかいくぐる。さながら宇宙をクロールで遊泳しているかのようで、けれどもその実態は、死という暴虐でもって地を征服する破壊者達の乱舞であった。

 

 ぶつかり合うのは、意思だ。

 互いの意思が、エゴが叩きつけ合う。

 それは決して退けないという宣言であり、どうしたって押し通るという覚悟である。

 

 はたして支えるのは自我は、本能か。

 

 ――膨れ上がった自我に突き動かされる少女は、無限にも思える星を生み出した。

 

 ――制御しきれない本能を武器に変えた少女は、それをただ拳と鉤爪で叩き壊す。

 

 跪け、ここに己以外の勝利は必要ない。

 

 ほざけ、ここに己以外の絶対は必要ない。

 

 ただ、爆裂とだけ呼称することだけが許された、覇者達の激突がそこにあった。

 

「やっぱりミズキちゃんはすごいですねぇ、目が見えてないはずなのに、まるで見えているみたいに」

 

「見えているみたい、ではない。見えているのだ。私の視界は、視界に左右されるほどやわではない」

 

 ヒツミの感心したような声に、ミズキは視界を封じながら、鉤爪を錫杖に叩きつけて応える。――ここまで接近したのだ。アレだけの弾幕に晒されながら――否、

 今も弾幕に晒されながら。

 

 ――鉤爪が弾かれる。その勢いを利用して周囲に散らばった流星をかき消した。その勢いでケリを叩き込み、その余波が星を薙ぎ払う。

 まるで、回転するように周囲の砲撃を弾き飛ばし、その度にヒツミの錫杖に攻撃を叩きつける。

 

「――しかし驚かないなヒツミ。いや、私もそうだが、お前のそれはまだ周囲を黙らせられる。しかし私は……」

 

「自分で言わないでよ、それに、私はミズキちゃんが半妖だろうと、妖牙だろうと変わらないですよ」

 

「――――だろうな」

 

 しかしここで注目するべきは、そんなミズキの一撃を錫杖で捌くヒツミだろう。いくら余計な動きが多いと言っても、ヒツミとミズキの身体スペック、格闘技術は大きな差がある。

 この距離まで近づかれてしまった時点で、不利なのはヒツミの方だ。だのに、それであってもヒツミは互角以上の戦いを演じているのは、彼女の才能あってこそ。

 これがラプラスなら、一瞬で首根っこを掴まれて猫のようにぷらーんとなっていることだろう。

 

「それにしても、お前のその衣装はなんだ。幾らなんでもその、破廉恥すぎるだろう。流石に周りも止めるんじゃないか?」

 

「……? これのどこが破廉恥なんですか? 私のラプラスちゃんへの愛を表現しているだけだよ」

 

「――――そうか」

 

 言葉を交わし、拳を奔らせ、やがてこの状況を崩したのはヒツミだった。ヒツミは一切遠慮なく、コメットを自身に対して叩きつけた。流星になるのは術式だけではない、自分自身すら流星になるのだと言わんばかりに、流石にその運用は想定外だったのか、ミズキはヒツミを取り逃がす。

 

 ――こうしてここで、戦況は再び振り出しに戻る。

 

 互いに距離を取り、静止した。

 ここで、故に二人は思考を巡らせる。両名の考えることは、ほぼ同一のものだった。――決着が付かない、この戦いはそれに尽きる。

 

 お互いにここから一切のミスなく戦闘を続けた場合、待っているのは日の出だ。

 先程の流星、虚を疲れて距離を稼がれたが、そもそも警戒していてもそう防げるものではない。ましてや、ヒツミの流星に限りはない、よってミズキはヒツミに接近し続けることが不可能になった。

 対してミズキ、接近が可能であることをヒツミに見せつけた。それは決して偶然ではなく、互いに最善の読みの元、盤上のコマを動かしていった結果、必然としてたどり着いた接近だった。

 

 ――故に、ヒツミはミズキの決定打を受けることはない。

 

 そして。

 

「なぁヒツミ――」

 

「ねぇ、ミズキちゃん――」

 

 二人は感じていた。この子は――この少女は――変わっていない。

 

 

「退いてくれませんか」

 

 

「ここは下がってくれないか」

 

 

 変わってないからこそ、変わっていない互いは告げた。相手に下がることをもとめた。

 だって、自分は変わってしまったが、目の前の彼女はかつてと変わらないままの――変わってしまった幼馴染なのだから。

 

「…………」

 

 ――ミズキは、ヒツミの知る限り、自分で抱え込みたがる少女だった。大事なことをいつも一人で秘密にして、そして最終的に抱えきれなくなる少女だ。

 泥棒猫、と先ほどは言ったが――場合によっては、()()()()()()()()少女であることを、ヒツミはよく知っている。

 

「――――」

 

 ――ヒツミは、ミズキの知る限り、自分を数に入れない少女だった。絶対に譲れない事があった時、そこに自分を含まない。そして最後には自分を犠牲にしてしまう少女だ。

 これは、母の影響が強いのではないかと、口にしたことはないがミズキは思っている。人柱の母を持つ少女――放っておけないと、常々思っていた。

 

 だからつまり、

 

「――ぷ」

 

「――く」

 

 彼女たちは互いに、自身の理由で譲ってもらいたいと思うと同時に、

 

 ――相手にこれ以上無茶をしないでほしいと思っているのだ。

 

「ぷ、ふふふふふふふ」

 

「く、ははははははは!」

 

 互いに笑って、

 過去を振り返って、そして。

 

 

 ――それから(ラプラス)を思い出す。

 

 

 故に、

 

「――――お断りします!」

 

「――――絶対に嫌だ!」

 

 両者は、互いに構えた。

 

 ――動きを見せるのはミズキだ。ヒツミはすでに切り札を切っている。カゲロウの術式は、ヒツミのとっておきだったのだ。それを、ミズキは当たり前のように無視したが。

 状況を変えられるのは自分だけ、しかし、だからこそ自分の敗北の可能性が下手すると五分以上になる。だからこそ、慎重だった。

 

 なにせこの一撃――

 

「――宣言する、この戦いはここで終わる」

 

「そう、でしょうね」

 

 ――文字通り、()()()()なのだから。

 この場合、必殺とはヒツミだけを意味しない。

 

「それを、私が対処できれば貴方の負け」

 

「――対処できなければ、お前の負けだ」

 

 諸刃の刃。放てば以降の戦闘活動が不可能になる。しかし、決着を突けるには十分すぎる火力を有する、故に、一撃必殺。

 ミズキは、それを放とうとしていた。

 

 ――地に手を付ける。前傾の姿勢、片方の手は、前に突き出して、

 彼女の一撃は、突進だった。

 

「来て――」

 

 それに対し、ヒツミは無数の星々を呼び出した。

 直接受け止めることは諦めた。ヒツミの最大の武器はこの手数、一度で止めようなどとは思わない。止めるまでぶつける。ヒツミの手段はこれだけだった。

 

「――行くぞ」

 

 対してミズキはもう止まれない。

 更に体を深く沈み込ませ――そして、それを放った。

 

 

「――――“ミカヅチ”!」

 

 

 雷電一閃。

 妖牙ミズキは、稲妻となった。全てをここで、終わらせるために。

 

 

 そして。

 

 

 その余波が、地をえぐる。

 世界に天地の概念がなくなったのだ。一瞬で、ミズキ、ヒツミ、両名の周囲数百メートルが陥没し、ミズキはすでに踏み出していた一歩で前に進む。

 発射は、すでに終わっているのだ。

 

 ヒツミは覚悟を決める。これを止めなければ勝利はない、そして、勝利がないからこそ、ヒツミはここで勝利する。止めればいいのだ、止めてしまえばもうミズキは動けない。だから、今はこれだけに集中すればいい。

 

 ――集中。

 当然それはミズキも同様だった。ここで手を抜けば、絶対に向こうは勝利する。だからこそ、そこで他人を意識することは不可能だった。

 そう、不可能だったのだ。

 

 

 ()()()()()()()()

 

 

 思いもしなかったのだ。

 えぐれた大地、消し飛んで、顕になった空白に、

 

 

 ()()()()()()()()()()ことなど、これっぽっちも。

 

 

 “補足”

 

 ――――ラプラスは、可能性の否定で地に潜み、そして。

 この瞬間を、待っていた。

 

「は――」

 

「――なっ!」

 

 互いに、ミズキもヒツミも、それを理解できない。あまりにも想定外過ぎたのだ。ラプラスが潜んでいることなど。目が見えないはずのラプラスが、音を頼りに自分たちを補足することが可能だということなど。――そして、この戦いが終わった後に待ち受ける現実に対抗するため、

 

 ()()()を狙ったことなど。

 

 

 ラプラスの手が、両者の足を掴んだ。

 

 

 ――そこに、飛び出していたミズキの勢いが加わる。――三者、止まることは不可能だ。可能性を否定できるラプラスを除いて。

 

 だから、ラプラスはそこに少しだけベクトルを加えた。

 飛び出して、やがて地面に着弾するミズキを、それによって吹き飛ばされるヒツミを、()()()()()()へ。

 

 ――決して、ラプラスのことを両者が忘れていたわけではない、そもそもこの戦いはラプラスのある意味の所有者を決めるための戦いで、ラプラスを()()()()と思っていたからこそ、憂いなくお互いの雌雄を決するための戦いだった。

 だが、違った。

 ラプラスは詰んでなどいなかった。どころか、逆転の一手を掴み取った。――決して油断できない相手であると、解ってはいたが、しかし。

 ヒツミにしろ、ミズキにしろ――()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()のだ。

 

 それほどの拮抗が、ラプラスにとっては最高の好機を生んだ。

 

 それほどの拮抗を生み出す者同士だと、ラプラスは知っていた。だから掴んだ。この一瞬を、――故に胸を張って、ラプラスは強者二人に告げるのだ。

 

 

王手(チェック)!”

 

 

 勝利を。

 

 ――かくして、頂上決戦に挑んだ二人のヒロインは、彼女たちが取り合うはずだった執着の対象によって、天高く、遠く遠くへ――打ち上げられたのだった。

 

 

 

 <>

 

 

 

 ――大勝利である。

 いやぁ、あそこまで快勝できたのは久しぶりだ。決定打の低さから、よく強敵と戦うとグダグダになっていた俺としては、あそこまできっちり勝ちを決められたのは、結構貴重な体験である。

 そんなわけで、今日はヒツミちゃんのお仕掛け訪問もなく、意気揚々と登校したのだが――

 

 

「ラプラス先輩?」

 

 

 ――ソラくんがすごい笑顔で待ち構えていた。

 えっ、何この顔こわっ、笑ってるのに殺されそう、ヒツミちゃんともミズキちゃんとも違う殺意。少し考える……が、考えるまでもなく、昨日の一件であることは疑いようのない事実だった。

 

『何でしょう』

 

 おそるおそる、タブレットを差し出す。

 なんかこう、ラプラスの可愛さに免じて許してくれないかな、と思いつつ――

 

「――昨夜、突如この地を治める天剣の最強戦力二名が、隣の県の山奥まで飛ばされた件について、先輩はなにかご存知ですね?」

 

 ――問いかけですらなかった。

 断定でもって語られるそれに、俺は一瞬だけまよって、ふるふると筆を震わせながら返答した。

 

『はひ』

 

 あっ、いが歪んだ。

 

「帰ってくるにも、車で一日以上かかるそうです。明日、この地には抑止力となる天剣が一人もいないんですよ?」

 

『はい』

 

 今度はちゃんとかけた。

 

「――――もし、無償で手伝ってくれる優しい悪魔がいらっしゃれば、解決するのですが……」

 

 一瞬沈黙。

 

『はい』

 

 ――拒否なんて無理ですよ! 直接殺しにかかってくるミズキより怖い! ヒツミちゃんのほうがもっと怖いけど。

 

「じゃあ、放課後は二人で社務所の方まで行きましょう。僕も一昨日の件で、社務所の事務仕事をお手伝いする約束になってますので」

 

 ――――こうして。俺はソラくんに連れられて、ヒツミちゃん達が不在の天剣の本拠地へ向かうことになるのだった。

 

 

 

 <>

 

 

 

 ……そういえば、三日目の天剣社務所といえば、あのイベントが起きるタイミングじゃないか?

 ということは、

 

 

 ――もしかしたら俺は、ここで()()()に出会うことに、なるかもしれないな。

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