現奏鏡界短編集   作:ラケルタ

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イリス「シェルティスの隠し撮りなんて誰も喜びませんよ」(エデン2巻)
少なくとも3人は言い値で購入すると思いますよ、イリスさん。

アイディアが悪魔合体!!どうしてこうなった……



衣装狂乱――コスプレ・パニック――(前編)

天結宮(ソフィア)289階に、その部屋はあった。現在は会議室として使用されており、机や椅子など必要な器具も完備されている。一方会議室としてはスペースが中途半端で、形もどこか歪だ。

おそらくこの部屋は、天結宮(ソフィア)の設計段階で発生してしまったデッドスペースなのだろう。291階という規模の建造物。いかに設計者がその道に精通していたとしても、やはり限界はある。加えて、1000年前の氷結鏡界の発動は、本来の計画を前倒しにせざるを得なかったものだ。混乱の中で、当初の設計とは違う箇所が発生してもおかしくはない。

 

 

「そんな普段使用されない部屋に呼ばれたからには、非常に重要な要件なんだろうね」

 

 

シェルティスはそう言って胸元を見やり、ついこの間までの癖で声をかけてしまったことに苦笑した。かつて首にかけていたイリスは、既に元のボディに戻っている。今頃あの黒髪の少年たちと、また仲良く騒いでいるに違いない。そのこと自体は彼にとっても喜ばしいけれども、常にそばにいた存在がもういないというのは、やはり何となくさびしかった。

廊下を歩きながら、巫女第2位メイメル・イン・カーネイションからの呼び出しについて、彼は中断していた思考を再開させる。皇姫サラが氷結鏡界を維持している間は、彼女が塔の政治を管理するのが慣例となっていた。そのためか穢歌の庭(エデン)が消滅した現在でも、メイメルは皇姫のブレーン的な役割を担っている。それにこのことを伝えにきたメイメルの千年獅(ラン)は、何か物言いたげな様子だった。今回の呼び出しが重要な案件であることは間違いない。

しかし、その案件とは一体何なのだろうか。穢歌の庭(エデン)を消滅させた方法や帰還するまでの出来事、自分にわずかに宿ったセラの波長についてはすでに話した。ただし戻ってきた後の疲弊した状態で詳細かつ正確な説明ができたかと聞かれれば、自信がない。少し間をおいてから再度事情聴取を行うことは、十分考えられることだった。

 

 

あるいは――そこでシェルティスは気が重くなった。今の自分の立場に関することかもしれない。なにしろ天結宮(ソフィア)において、自分はいわくつきの護士だった。

イグニド(ユミエル)によるあの暴露で、当時大きな衝撃が走った。その後のセラの虚像による襲撃や穢歌の庭(エデン)における最終決戦など、一連のより深刻な事態のせいですっかりうやむやになっていたが、自分の存在をきっかけに塔内の権力闘争も発生していたのである。その上穢歌の庭(エデン)の消滅にかかわった人間を、塔の政治を担う人間が放置しておくとも思えなかった。

さらに厄介なのが、現在シェルティスが事実上ユミィの千年獅と目されていることである。ユミィ本人が強く希望していること、穢歌の庭(エデン)を消滅させた功績、さらに幽幻種が去ったことによる巫女への脅威の減少により、今のところ大きな不満は出ていない。

しかし、これからもそうとは限らない。長い間巫女は浮遊大陸(オービエ・クレア)の人々の心を束ねる象徴だったのだ。穢歌の庭(エデン)や幽幻種の脅威が去ったとはいえ、一朝一夕で廃止できるものではない。穢歌の庭(エデン)や幽幻種の消滅自体疑問視する声もある。巫女とその専属護衛の必要性は、いまだに存在してるのだ。それを一介の護士候補生が勤めるのでは、各方面からの強い反発を招くだろう。

 

 

今回の呼び出しは、そういった反発が出てきたからかもしれない。そんなことを考えているうちに、目的の部屋に着いた。時刻を確認。指定された時間より早く入らないように念を押されている。多少不自然には思ったものの、特に気にするほどのことでもなかった。時計が指定時刻を示す。員章をかざしてロックを解除。自動で空いたドアを抜けて部屋に入り――そしてシェルティスは固まった。

 

 

先ほどまで自分の心中を支配していた疑念も不安も、すでに一切合財存在しなかった。視界も頭の中も、目の前の光景に埋め尽くされていたのである。

自分にとってあまりに見慣れた、淡い黄金色(オフゴールド)の髪。眼前の少女の身体を包むのは、天結宮にはない白基調の制服。そういえば、むかし料理長が近くの学校の制服だと言ってたっけ。確かそこは児童と呼ぶべき子どもたちが通うところだったはず。

 

 

ああだからなのか。明らかにサイズが合っていない。きっとこれでも一番大きいものだろう。だとしてもいろいろと無理がある。特に胸元がものすごい。スカートの丈だってギリギリすぎる。正面からでは分からないが、きっと後ろもとんでもないことに――――

 

 

「ゆ、ゆゆゆゆゆユミィさん!ななな何……何やってるんですか!?」

 

「い、いやああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああああああああぁぁぁぁぁっ!?

 見ないでシェルティス、みないで―――――――――――――――――――――――っっ!!」

 

 

簡潔に言うと、何もかもぐだぐだであった。

 

 

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

全てのきっかけは、メイメルが天結宮(ソフィア)の喫煙室に置きっぱなしになっていた広告を見つけたことだった。おそらく職員が置き忘れたものだろう。護士や巫女などの存在が目立つものの、実際はこうした一般職員の方がはるかに多い。息抜きとして、割り当てられた私室にちょっとした雑誌や広告を持ち込む程度なら、黙認されているのが実情だ。

遺失物の管理部署へ爛あたりに届けさせよう。そう思いつつふと広告に目を落とした瞬間、掲載されていたアニメ的な絵が彼女にインスピレーションを与えた。

 

 

”無理めなレンタル制服” ”ギリギリレンタル制服”

 

 

その広告はいわゆるソーシャルゲームを扱ったものだったが、メイメルにとってはどうでもいいことだった。今自分に与えられたインスピレーションこそが、なにより重要なのだ。

あの時は結局、春蕾(シュンレイ)に目当ての服を着せることはできたものの、ユミィには逃げられてしまった。さらにその後は、統制庁との会合や異篇卿との対決、穢歌の庭(エデン)での最終決戦などで忙殺され、すっかり忘れていたのである。

だからこそ、これはまたとない好機。幸い対象は、想い人と自由に触れ合うことができるようになった。まかり間違っても物悲しい雰囲気になる心配はない。あの純情少年がどんな反応を見せるかも楽しみだ。

自分だってここのところ一生懸命働いているのだ。これくらいの潤いがあってもいいじゃないか。そう思いつつメイメルは計画を実行に移した。

 

 

少年を誘導するのは簡単だった。自分の千年獅()を介して、目当ての部屋へ指定した時刻ちょうどに来る旨を伝える。内密の話があると察知できる知性も、彼にはちゃんと備わっていた。

爛は薄々メイメルの意図に感づいているような仕草を見せていたが、ちゃんと命令どおりに動いてくれるだろう。そのためにもセラの虚像との戦いで命令違反した際、念入りに(しつけ)し直したのだ。

 

 

ターゲットの方は弱点が分かっている分、少年より簡単だった。もっとも、こちらは少々手間がかかった。あの少年の同僚に協力してもらう必要があったのだ。

 

 

”……仕方ないですね。いい値段で売れるはずでしたのに”

 

 

彼女がそうやって惜しむほどの魅力が、この写真にはあった。旧式儀礼衣をまとった鳶色の髪の少年が、ベンチに座り込んで背もたれに頭をあずけている。訓練での休憩時間だろうか、熱を冷ますために胸元を開けていた。意外と愛嬌のある顔立ちだし、訓練の賜物かスタイルも十分。身につけているのが通常の儀礼衣なら、声をかけようとする女子もいたに違いない。

メイメル本人さえも一瞬だが欲しくなってしまったのだ。そんな写真の魔力に、標的が抗えるわけがないのは明白だった。

 

 

「ふふふ……やった、やったわ!」

 

「ええ、大成功です!」

 

 

そして現在、メイメルはその少年の同僚――すなわち華宮(カグラ)とともに、勝利の凱歌をあげていた。華宮自慢の品である機械宝珠(マキナ)には、混迷と化した部屋の様子がリアルタイムで送られてきている。人間観察を行うために、塔に100台以上の監視カメラを設置している華宮のことだ。普段使用されない部屋に隠しカメラと小型マイク1セットを仕掛ける程度造作もない。

思わぬ拾いものだったとメイメルは思い返す。当初は、彼女が隊員たちの秘蔵写真を持っているという噂を耳にしていただけだった。同じ部隊にいる標的の想い人の写真なら、当然持っているだろう。そういったメイメルの思惑を、華宮は鋭く察知した。

 

 

”あなたが他人の恋人に横恋慕するような方でないことは、見当が付いております。目的は、この写真を条件にユミィ様に何らかの要求を飲ませることですね?”

 

そう確認したうえで、彼女はメイメルにある条件を提示し、その上でこの積極的な協力に踏み切った。その条件とは――

 

 

「メイメル様、お約束通りユミィ様のコスプレ写真の独占販売権は……」

 

「わかってる。売上も全部あなたのものよ」

 

 

そう言って2人は笑みを交わしあった。

 

 




後編に続く!?
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