「う、うう……」
今しがた着終わった服を見下ろし、ユミィは激しい羞恥心に駆られた。
やはり児童のための制服だ。おなかの部分がちょうどよくても、腰まわりがきつい。スカートなど、今にも中身が見えてしまいそうだ。これを着て動くなんて出来そうもない。色々な意味でギリギリだ。
一番危機的な状況にあるのは、やはり胸だ。とにかくとんでもないことになっている。平たく言えばぱつんぱつん。胸の形がこれでもかというほど強調されている。ギリギリどころではない。かなり無理がある。
はっきり言おう。いつぞや見せられたあの胸の大きく開いた服のほうが、まだなんぼかマシだった。
どうしてメイメルの口車などに乗ってしまったのか――ユミィは机に置いた法衣のポケットに意識を移す。あの写真がいけないのだ。シェルティスのあんな姿を撮影した写真があるなんて。
『ユミィがいらないなら、私がもらっちゃおうかしら?』
あれを見せられてそんなこと言われたら、要求に屈するしかないじゃないか。ため息をついてユミィは、椅子に身を預ける。とりあえず、指定された時間までには着替え終わったのだ。
仕方ないのかな、とも思う。氷結鏡界の維持や幽幻種への対策は終わったものの、今度は新大陸の調査や開拓などが始まっている。そのために皇姫サラの補佐として奔走しているのがメイメルなのだ。春蕾やヴィオラも手伝っているし、自分もシェルティスが帰還して以降は手伝っているのだが、メイメルの代わりを担えるほどではない。仕事で積もり積もったストレスを解消するために、今回の策略を考え付いたという可能性もある。
それにしたってこれはセクハラだ。後で皇姫様にでも訴えてやる。心中でそう決意していると、部屋のドアが開いた。
とにかく鑑賞でも撮影でもするといい。さっさとこの恥ずかしい時間が終わってほしい。そう思いつつ立ち上がってドアのほうに視線を向け――――
なんでこんなところにシェルティスがいるの?
真っ白になってしまった頭の中で、ユミィは必死に思考を働かせる。
偶然入ってきた?いや、ここはほとんど利用されない会議室だ。メイメルだってだからこそここを選んだのだ。第一シェルティスは1人。休憩するにしたってもう少し近くて快適なところがある。
メイメル経由で指示?もっとあり得ない。シェルティスの性格はよく知っている。エリエからも、彼がコスプレフェチだなんて聞いてない。
はめられた。そう気付いた次の瞬間、
「ゆ、ゆゆゆゆゆユミィさん!ななな何……何やってるんですか!?」
「い、いやああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああああああああぁぁぁぁぁっ!?
見ないでシェルティス、みないで―――――――――――――――――――――――っっ!!」
全てが混沌と化した。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
互いに事情を説明した後、シェルティスは深々とため息をついた。
「……
となれば――迅速な動きで机の上のマジックを手に取る。注意深く部屋中を捜索。いかに隠しカメラとはいえ、ユミィを確実に撮影できるような位置にしかけねばならない以上、設置できる場所は自然と限定される。数分とたたずに発見し、レンズを黒く塗りつぶした。ついでにマイクも無力化。今頃2人とも悔しがっているに違いない。ざまあみろ。
「うん、もう大丈夫。まあ、後で写真のデータは没収しなきゃだめだけど」
「そ、そう?……よかった」
振り返ってそう言うと、ユミィはほっと溜息をついた。そんな彼女の近くに座って向き合い、しかしシェルティスはすぐに目をそらした。ユミィは一瞬不思議そうな表情をしたのち、顔を真っ赤に染める。
「じ、じろじろ見ないで」
「ご、ごめん」
声を詰まらせながらもそう返事しつつ、しかしシェルティスはたしなめた。
「それにしても、なんでそんな要求に屈したりしたの」
「そ、それは……だって、メイメルもたまには息抜きくらい……」
「だいたい、取引条件の写真ってなんなのさ。たかが写真1枚のためにそんなコスプレするなんて」
「こ、コスプレじゃないもん!たかが1枚でもないもん!」
そう言って彼女がとりだしたのは、休憩中の自分を撮影した写真だった。
「シェルティスが無防備すぎるからいけないんだよ!この写真だって、気を緩めてるし!上着脱いで二の腕出てるし!胸元露出してるし!」
「いや、だって休憩中だから。暑かったし」
「だからって――」
そこで思わず立ち上がってしまったのがいけなかった。児童向けの制服を無理やり来ているのだ。締めつけられて身じろぎした結果、見事にバランスを崩し倒れこんだ――よりにもよって、シェルティスの上に。
「~~~~~~~~~~~~~!?」
ダイレクトに伝わってくる想い人の感触に、思わずユミィは赤面する。見た目こそやや小柄で線も細い印象だが、シェルティスも
「ちょ、ユミィ!?」
切羽詰まっているのはシェルティスも同じだった。否、こちらのほうがより深刻だった。自分の下腹部でむにゅりとつぶれる、ベッドのように柔らかさと弾力を兼ね備えた感触。本能でシェルティスは、物体の正体を理解できてしまった。
”ふふふ……シェルティスは知らないでしょう?この2年でユミィのボディがどれだけ強烈に発育したのかを……しかもそれはまだ発育中!!”
いつか聞き流していたはずのイリスの言葉が、シェルティスの脳裏で再生される。たしかに言う通りだった。しかも脅威はそれだけではない。シャンプーだろうか、甘い香りが鼻腔をくすぐる。正面からでは見えなかった後ろも、この体勢では露わになっていた。はっきり言うと、腰からお尻にかけてのラインが丸見えなのだ。
今のユミィの全てが混然一体となって、シェルティスの理性に破城槌のように突き刺さってきた。
「ご、ごめ――」
顔をあげたユミィと視線が交わる。至近距離で見つめあう両者。視界に映るのは、想い人の顔のみ。もはや雰囲気と勢い任せ。互いの顔と顔が、唇と唇が接近していき――――
「シェルティス、ここにいたのか……」
桃色の髪の部隊長が入ってきた。そして凍りつく3人。
たっぷり1分は経っただろうか、
「なっ、ななななな、何をしているかきしゃまら――――――――――――――――っ!?」
あ、噛んだ。現実逃避気味に、シェルティスは頭の隅でぼんやりと考えた。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「まったく揃いも揃って、恥ずかしくないのですかあなたたちはっ!!」
十数分後、今回の騒動にかかわっていた者たちが、全員皇姫サラの前で正座させられていた。理由は簡単。実はあの会議室、ちょうど皇姫の私室の真下に来ているのだ。一度目の叫び声で起こされ、それでも寝ようとしていたところを、二度目の絶叫で完全にたたき起こされた。安眠を見事にぶち壊されたことで、紗砂の決して太くない堪忍袋の緒が吹っ飛んでしまったのである。
「あの……皇姫さま……オレはメイメルの指示に従ってただけなんですけど……」
「
爛の弁解も一言で切り捨てる。メイメルでさえも、外見上は自分より年下の人物に全く頭が上がらない。全員おとなしく、仁王立ちした皇姫の説教を聞くしかなかった。
「ホルンにもレオンにも言いましたが、近頃は巫女も千年獅も一体どうなっているのですか。千年獅というのなら、巫女というのなら、それにふさわしい振る舞いというものをですね――」
「あ、これお説教3時間コースですね」
「だな」
そんな彼らを遠巻きに見ながら、イリスと凪はこっそりそんな事を話していた。遠巻きにしている理由は言わずもがな。誰だって自分に飛び火するのは避けたいものだ。
「とりあえず、帰りましょうか」
「ああ、そのほうがよさそうだ」
「ちょ、イリス助け――」
「シェルティス、私の話を聞いているのですか?」
助けを求める声は、空しく遮られた。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「あー、きつかった」
「そうだね……」
夜も更けたころ、シェルティスとユミィは自分たちの部屋で机に突っ伏していた。皇姫の説教はイリスの予想を超え、5時間も続いたのだ。メイメルまでも最後にはグロッキーになっていたことが、その苛酷さを示しているだろう。
「……もう寝る」
「はいはい」
立ち上がってふらふらとベッドに向かう想い人の姿に、シェルティスは感覚のない脚を酷使する。彼が立ち上がったのは、一緒のベッドで寝るためではない。いくらなんでもまだそれは早すぎるし、何より恥ずかしすぎる。2人ともそれぞれ自分の部屋で寝るのが暗黙の了解となっていた。
後ろを向いている間に、ベッドの上でユミィが着替え終わった。合図を受けたシェルティスは、脱ぎ捨てられた法衣をハンガーにかけ、下着などを洗濯機に放り込む。相変わらずこの巫女殿は掃除・洗濯が苦手だ。普段なら気恥ずかしいところだが、今日は疲労が羞恥心を上回っていた。
洗濯機を回して部屋から出ようとしたその時、ベッドに潜り込んでいるユミィが不意に尋ねた。
「ねえシェルティス」
「ん?」
「その……またあの服見たい?」
「え……」
昼間見た光景が、再び脳内を占拠した。かなり無理やりな児童用制服。破れて中身が出てしまいそうな胸元に、むき出しとなったボディライン。そして、短すぎるスカートに隠された絶対聖域。あのコスプレが、目に焼き付いて離れない。自分にこんな性的嗜好があるなんて思ってもみなかった。正直言って、今すぐこの世から消え去りたいくらいだ。
それでも。
「み……見てみたい……です……」
そんな言葉が口から漏れてしまったのは、どうしようもない男の性だった。
こすぷれ万歳!(錯乱)