ご注文は……なんでしょう?   作:珊瑚

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 学校帰り、だろう。千夜と一緒にいるのは多分同じ学校の友達、同級生の……ココアだったかな。千夜が名前を言っていたような記憶がある。彼女がその人物かは分からないが、こうしてここに来ているということは友達で間違いないだろう。

 

「ミニスカートの私……?」

 

「いらっしゃいませ」

 

 客かもしれないので、一応お客さんとして接する。危ないことを口走りかけたので、二人の登場はまさに助け舟。有り難く乗ることにした。小首を傾げるチノに背中を向けて、私は入り口の前に立つ二人へと近づいていく。

 

「お席にどうぞー」

 

「あ、私達はちょっとお話するだけだから大丈夫よ」

 

 席に案内しようとすると、千夜が苦笑しながら言う。私がどの程度できるようになったかテスト、とかではないらしい。それならば不自然な敬語も必要ないか。肩の力を抜く私。そこでふと、千夜の隣、ココアらしき少女からジッと見られていることに気付く。

 可愛い少女だ。セミロングの髪に、花びらと葉っぱの髪飾りを着けていて、顔立ちは有り余る快活さが窺えた。若々しいとでも言おうか。大きな青紫の瞳はくりくりとしており、行動力がありそうで、元気さが見ていて伝わるような女の子である。スタイルも平均的、健康的で、少女らしさ、青春という言葉を感じさせる。誰にでも好かれそうな子だ。

 彼女はわくわくとした輝いた目を私にまっすぐ向け、口を開いた。

 

「ミニスカートのチノちゃんって?」

 

 聞こえていたみたいだ。それにしてもすごい食い付きである。

 

「もっとミニスカートでも可愛いんじゃないかと思いまして」

 

 誤魔化す手段が見つからないため、それとなく問題が少なそうな返答をする。答える際に私は視線を泳がせ、隣に来たチノを見るのだが――彼女のスカートは既にひざ上で、割とミニだった。……ここから更にミニって私は変態か。

 

「ああー、そうなんだ。確かにそれでも可愛いよね」

 

 あ、なんか仲間が。ココア(仮)とは仲良くなれそうな気がする。

 

「やめてください」

 

 変態的な発言をした私、笑顔で言い放ったココアを一蹴するチノ。あまり表情が変化していないのだが、露骨なくらい嫌がる空気を感じられた。

 

「そうよね。お店の中ならともかく、外を歩くんだもの」

 

「それってもしかしてシャロちゃんの制服のこと言ってるの?」

 

 ココアが首を傾げる。制服? 文脈から察するにシャロはどこかでバイトしてるのか。そしてスカートが短いと……是非見に行ってみたい。

 

「そういえばシャロさんはミニスカートでしたね。シャロさんはミニスカートでも可愛らしいです。だからミニスカートならシャロさんに言ってください」

 

『シャロちゃん売った!』

 

 妙な早口で言うチノに、私とココアが同時につっこむ。よほど恥ずかしいのか、知り合いを売ることに躊躇がない。

 

「あら、もう息がぴったりね」

 

 千夜はくすくすと笑い、私とココアを交互に見た。ココアと私の目が合う。天真爛漫を体現したかのような明るそうな彼女と、面倒くさがりな私とでは差がありすぎるような気もするけど――何故だろう。とても近い何かを感じる。ミニスカートの件、つっこみの件でなんとなく同類なのではと思ったのが原因だろうか。

 

「そうだね。なんだかシンパシーを感じるよ」

 

 暫し見つめ合っていると、ココアが微笑む。そして手を握ってきた。

 

「初めまして! 私はココア。サヤちゃんって千夜ちゃんの親戚なんだよね?」

 

「あ、うん。初めまして」

 

 お客さんでもないし、歳上でもない。彼女も親しげに話してくれているし、私は遠慮なくタメ口で答える。少しぎこちないけども。まさかこれほどフレンドリーに接してくるとは思わなかった。

 私は彼女の手を握り返す。そして握手をすると、ココアは空いていた手も使い、私の手を包み込む。

 

「小さくて可愛いなぁ……いいなぁ、私もこんな親戚ほしいなぁ」

 

 ……なんだか、若干危ない感じだ。

 シャロと同じく、またも私の年齢のことを知らないようなので、私は千夜のことを責めるような目で見る。が、彼女はきょとんとするのみ。しまいには親指を立ててサムズアップしてくる。仲良き事は美しい、なんて言い出しかねない爽やかな笑顔である。

 駄目だ、分かってない……。

 っていうか、年齢って人を紹介する上で大切な要素だと思うのだ。同性だから気にすることもないだろうに。

 

「お姉ちゃん……」

 

「え? 私?」

 

 千夜に呆れて思わず呟くと、目の前のココアが反応を示した。すごく期待したような目をしてらっしゃる。

 

「なぁに? サヤちゃん」

 

「え!? 千夜ちゃん!?」

 

 すごく驚愕してらっしゃる。

 

「どういうことなの!? 千夜ちゃんいつの間に妹が!?」

 

 動揺した様子のココアは私と千夜を交互に何往復もして見る。その間も私の手はしっかり掴んだままで、私は彼女の動きに合わせて軽く揺さぶられた。

 

「妹を欲している私より早く――抜け駆けを! 羨ましい!」

 

 目を固くつぶり、ココアは絶叫する。彼女のこの妹に対する情熱は一体何なのだろう。私はなんて言ったらいいか分からず、チノへ助けを求めることにする。千夜は頼りにならないし、先程彼女はココアに対して強い言葉を投げかけていた。ココアへの対処は慣れているようだし、ここは彼女が適任だろう。

 が、彼女もまた動揺したかのように口を丸く開いて、かたかた震えていた。

 

「サヤさんは確か大人……そのお姉さんということは、千夜さんはまさか……まさか」

 

 あかん! それは失礼や!

 

「ね、年齢とか関係なしに千夜ちゃんって綺麗で大人な感じがするでしょ!? だから私、お姉ちゃんって呼んでるんだっ!」

 

 チノの言葉が千夜に聞こえる前に私は大きな声で言う。あくまで年齢は関係ないと強調して。

 

「そうなんですか? ……少しホッとしました」

 

 チノの誤解を解けたようで、彼女は小さく息を吐いた。……よかった、大変なことになる前に止められて。千夜は多分怒りはしないけど、しばらく不貞腐れて面倒なことになる筈だ。もしくは若返るために何かおかしなことをしたり――いずれにせよ面倒を起こすことに違いはあるまい。

 

「そっか……。親戚で妹……羨ましいけど、シスターコンプレックスの称号は千夜ちゃんのものだね」

 

「まぁ、かっこいい。何て意味なの?」

 

 ……と思ったけど、誤解を解いても面倒なことになりそうだ。というか、もうなった。

 

 

 


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