いよいよこの作品も最後ですね。
なのですがちょろっと設定資料を
拵(こしらえ):巫剣の衣装の事、本来は刀の鞘・柄・鍔などの装飾品全体の事
拵が変わることで巫剣の力も変化する。
なぜこのタイミングになってしまったのかは察してもらえると幸いですw
それでは最終回、どうぞ!
◇◇◇
「聖剣…エクスキャリバー…あのアーサー王伝説のか⁉」
武器やらなんやらを輸入しているときに見つけた書物のことを思い出した。確かそこに出てくる伝説の剣がそんな名前だったはずだ。
「よくご存じで!アルジさんは博識でいらっしゃいますね!」
「キャリーさんでいいのかしら…?あなたも巫剣なの?それに言葉が…」
城和泉も訳が分からないといった表情だった。
「はい!私もあなた方の言うミツルギという認識で相違ありません。それと私のことはこれまで通りキャリーとお呼びください、ジョーイズミさん!」
エクスキャリバー、もといキャリーはまぶしいばかりの笑顔でそう答えた。
「日本語がきちんと話せるようになったのは私本来の力を取り戻したからだと思います。剣を封印した状態ではあれが限界だったのです。申し訳ありませんでした…」
そういうとキャリーは深々と頭を下げた。
城和泉がそれを慌てて止めている。
キャリーがこの湖に行くことを提案したのは、彼女の剣がここに封印されていたかららしい。確か伝説でもエクスキャリバーは最後、湖に沈められていたはずだ。
にしても剣を封印した状態であそこまで巫剣としての体を保てるとは、流石伝説の聖剣といったところか。
それに加え、彼女がこの姿になってから圧倒的な強さの巫魂を感じる。これほどの力を持った巫剣を、俺はほとんど知らない。
「あ!そうでした!アルジさん!その傷を見せてください!」
唐突にキャリーが俺の前にしゃがみ込む。あぁそうだ、驚きすぎて忘れていたが俺は左足を撃ち抜かれていたのだった。
「大怪我じゃない‼なんでもっと早く言わないのよ‼」
「すまない城和泉、気が動転していてな…」
また心配をかけてしまった。かくいう城和泉も少し見ただけで傷ついているのがわかる。
分散していたとはいえ自分どころか愛刀すら守れないとは、情けない限りだ。
城和泉はキャリーの指示で俺を地面に座らせた。
するとキャリーが俺の傷に両手をかざす。
「アルジさん、少しじっとしていてください…」
言われた通りにしていると、キャリーの手がゆっくりと光を放つ。
同時に足の痛みが引いていくのが感じられた。
程なくして、傷は完全に癒えていた。もはや残っているのは破れた服のみだ。
「これはすごいな…ありがとう、助かった!」
「私をここまで連れてきてくださったんですもの。これくらいは当然です。次はジョーイズミさん、こちらへ」
「はぇ⁉私?」
素っ頓狂な声を上げた城和泉にもキャリーは同様に手をかざした。
するとみるみるうちに城和泉の傷が治っていく。彼女の拵えでもある服も完全に元通りになった。
「すごい…キャリーさんは傷をいやす事もできるのね!」
「ちょっとした私の力の応用です!これで二人とも元通りですね!それで…」
キャリーは森の奥に目をやる。方角はさっき大剣が放り込まれたあたりだ。
「ジョーイズミさん、わかりますか?」
「そうね…かなり強く…たぶん、さっきの騎士よりも」
二人は途端に険しい顔つきになる。
「…なにかいるのか?」
おおよその検討はつく。巫剣がここまで警戒する相手なぞ、禍憑以外にそうはいない。
「うん、かなり強い禍魂を感じるわ、主。でもどうして急に…」
「それはおそらく、今現れたからです。この国には、あの黒煙の徒には怪物に変身する薬があると聞きました。」
キャリーが悔しそうに答える。察するに一つや二つではない、根深い問題となっているのだろう。
「そういえば、さっき取り逃がした男が注射器のようなモノを持っていたな。もしかしてそれが…」
キャリーが黙ってうなづいた。
そして次の瞬間、木々の奥からおぞましい叫び声が上がった。
「主!来るわよ!」
二人が俺の前に出て剣を構える。
木々をなぎ倒し、目の前に現れたのは巨大な禍憑だった。
身長はおよそ五メートル。得物は大鎌だ。
漆黒のローブを纏い、その裾は紫の炎が煌めいて浮遊している。頭部の髑髏は恨めしそうな顔つきで醜く歪んでいた。
「気味の悪い禍憑ね…」
「あれは“死神”です!」
大型禍憑、死神が鎌を振り下ろした。
「二人とも、散開しろ!」
俺は後ろに下がりつつ、ついいつものように指示を飛ばす。キャリーもそれに従っているようだ。
「キャリーすまない!つい癖が!」
「アルジさんはコマンダーなんですね!そういう方がいると戦いやすくて良いです!どうぞ、私も自由にお使いください!」
「そうか…っ!ありがとう、頼りにさせてもらうよ」
キャリーは聖剣なだけあってか、聖人のように心が広いように思える。
そしていちいち動きが美しい。彼女が輝いて見えるが実際輝いていてもおかしくない。
「ちょっと主⁉こんな時に浮気⁉」
「違うっっ‼」
愛刀が吠えた。あの様子ではあとで面倒なことになるかもしれない。
死神は再び鎌を自身の後ろに振りかざす。横薙ぎに刈り取る姿勢だ。
ん?右腕にあまり力が入ってないのか?あの大きさの鎌なら両手でしっかり握りそうなものだが、右手の握りが甘い。
「キャリーは奴の体勢を崩せ!城和泉!その隙に奴の右腕を狙え!」
「任せてください!」「わかったわ、主!」
二人が行動を開始する。
ここでふと気づく。あの禍憑の依り代はさっきとどめを刺しそびれた男だ。
俺はそいつの右腕を斬り飛ばしたはず。つまりはその傷が禍憑化しても残っているという事らしい。とすると…
「はあああっ!」
凄まじい金属音が響いた。見るとキャリーが圧倒的な体格差をものともせず、死神の大鎌を弾き返していた。あんな芸当は刀では不可能だろうな…。
「せああっ‼」
そしてすかさず城和泉が死神の右手を斬りつける。そのまま死神の手首が腕から分離した。
ところが手首は宙で止まり、切り口がすぐに紫炎に包まれる。
「⁉城和泉、下がれ!」
城和泉が後方宙返りしながら一気に距離を取る。
その間に斬り落としたはずの手首がもとに戻ったのだ。
「再生能力もあるの⁉せっかく刃が通ると思ったのに…」
「あの死神はおそらく上位の存在です。一撃で仕留めないと無限に再生してしまいます…ですが封印を解いたばかりの今の私では…」
二人が苦い顔をしている。やはり一筋縄ではいかないか。
「無理はしなくていい。にしても厄介だな…よし、城和泉!現時点で全能力開放を許す!出し惜しみして勝てる相手ではない!」
「わかったわ!ちゃんと見ててよね!」
城和泉の周囲が紅蓮の炎で包まれる。彼女をすっぽり覆うほどの炎の竜巻が発生した。
「これは…!」
「キャリー、これが城和泉正宗真の姿だ。」
瞬間、爆発したかのように炎が飛び散る。地面にはわずかに炎が残る。
そして中から現れたのは天華神明拵の姿となった城和泉であった。
「なんて美しいんでしょう…っ‼ジョーイズミさん素敵です!」
「はぇ⁉あ、ありがとう…でもキャリーさんもその姿、すっごい綺麗よ!」
敵を目の前にして褒めあうとはな…それだけ余分な力が入っていないという事にしよう。
気を取り直して死神に向き直る。今の城和泉ならば、なんとか一撃で払えるかどうか…
「城和泉、稜威を送る!キャリーは…」
俺は城和泉のほうに向けて手をかざす。不可視だが確かに彼女に力が流れ込んでいく。
だがその先の言葉がさえぎられた。
「アルジさん!お願いがあります‼」
「うぉ⁉びっくりした…どうかしたか?」
急にキャリーが目の前に現れた。さっきまでそれなりに離れていたと思うのだが…
「アルジさんはミツルギに力を送れるのですよね⁉私にもくださいませんか⁉」
「稜威のことか?契約していないキャリーには遅れないんだが…」
「それなら私が直に吸い取ることはできるのでしょうか⁉」
キャリーは必死に詰め寄ってくる。戦闘中だというのに彼女のいい香りが鼻をくすぐる。
「で、できるかもしれないがやった事が…」
巫剣も稜威を感知できるとは聞いたことがある。契約さえしていればいかなる方法でも稜威を送ることはできる。だが稜威の力を一方的に吸い取るなんて話は聞いたことがない。
「それならやってみるまでです‼アルジさん、失礼します‼」
「やってみるって何を…んむっ⁉」
突然のことで状況が理解できない。何かで口がふさがれたことはわかる。
「あああ主ぃいいっ⁉」
少し離れたところにいた城和泉が叫んだのが聞こえた。
「ちょっと‼今あんたの事かまってられないっの‼」
そこを襲い掛かってきた死神が城和泉の焔墜華で焼かれた。
ようやく止まった思考が動き出し、目の前の光景から現状を分析する。
結論はキャリーが抱きつくような姿勢で俺の口を吸っていた。まあ簡単に言えば俺は彼女と口付けをしていた。
「っ⁉」
俺がようやく驚く頃、薄く頬を染めたキャリーは口を離した。
「と、突然このような事、失礼いたしました…っ!ですがおかげで私、力が湧いてきました!」
「え、あ、そ、そうか…よ、よかった…」
言われてみればキャリーから感じる気配がより強くなり、俺は少し力が抜けたような感覚がある。まさか本当に稜威を吸い出すとは…。
「キャリー‼主‼さっさと敵を倒すわよ‼」
城和泉が怒号を上げる。確かに、彼女の言う通りだ。突然口付けされた程度で呆けていられない。
「ジョーイズミさん、先ほどのことは謝ります、私は…」
「もういいわ、あなたの全力を出すには必要だったんでしょ‼そんなことより今はアイツを‼」
「…っはい‼」
二人が肩を並べた。刀とロングソードの巫剣が共闘する。
今の城和泉はキャリー同様白を基調とした服装なので、まるで始めから仲間だったように見える。
そこに燃やされた体を完全に再生させた死神が再び起き上がる。
「一撃で決めればいいのよね!」
「ええ、必殺の一撃を、二人で同時に叩きこみましょう!」
刀身に炎、剣身に光が宿る。
迫りくる死神に二人が斬りかかる。
「燃えあがれ、巫魂ぁ‼」
『閃光よ、かの者を浄化したまえ‼』
巫魂を燃やし自ら炎と化した城和泉が直上まで飛び上がり、突貫する。
同時に剣を水平に構えたキャリーが一筋の閃光となって突撃した。
命中した瞬間、周囲が強烈な光に包まれる。
断末魔の悲鳴を上げ、死神が焔と光によって蒸発するように祓われていった。
光が収まるころ、そこには背中合わせで立つ二人の巫剣の姿があるのみであった。
二人は剣を納めるとそのまま抱き合い、爽やかな顔で笑った。
「なんとか、終わったな…」
周囲にもう敵の気配はない。俺は刀を納め、投げつけた拳銃を拾い上げる。
こうして俺たちは大型禍憑、死神を無事に祓う事ができたのだった。
□□□
あの戦いからすでに数日経っていた。俺たちはまだこの国に滞在している。
まあ元から滞在する日数通りなのだが
「主、今度はあの時計塔見に行くわよ!」
「アルジさん、早くいきましょう!あそこは内装も凄いんです!」
「わかったから手を引っ張るな!」
実は任務が早々に終わってしまったので、あれから観光三昧だ。
どうやらあの時倒した禍憑こそ、本部が驚異としていたものらしい。あの騎士型禍憑も同様に危険視されていたそうだ。
そしてそれらの元凶となった“黒煙の徒”はあの一連の騒動で壊滅したらしく、あの場の生き残りも駆け付けた憲兵に連れ去られていった。
つまりはまあ、俺たちはいつの間にかそれらを同時に解決する事になっていたのだ。
だがそれもここにいる彼女、キャリーこと聖剣エクスキャリバーの助けがあってこそだった。
彼女には感謝してもしきれない。せめて何かお礼ができないかと尋ねたところ、
「ではこの国を紹介させてください!」
といったのだった。城和泉も観光したがっていたので渡りに船だ。
俺たちは二つ返事で了承し、翌日からいろんなところへ訪れた。
キャリーは伝説の聖剣なだけあって街の歴史や見どころに詳しく、非常に勉強になることも多かった。食事は正直好きにはなれないものばかりだったが…
当初の宿は破壊されてしまったので、経費で新たに宿をとった。
キャリーも一緒に寝泊まりしたいとのことで三人部屋にしたのだが、城和泉が不機嫌になったりもした。
そんな風に異国での和やかな時間を過ごし、今に至る。
時計塔を堪能した後、俺たちは商店街に来ていた。
城和泉は土産物店を目を輝かせて眺めている。
「ねえ主!めいじ館の皆にお土産買っていいかしら?」
「持ち帰れる量にしてくれよ」
俺が城和泉にお土産代を入れた財布を渡すと、すごい勢いで店に入っていった。
「まるで子供みたいにはしゃいでるな…」
「ジョーイズミさんにもあんな可愛い一面があるんですね!」
隣でキャリーが微笑んだ。う…やっぱりものすごい美人だ…笑顔の破壊力がすさまじい。
だがその顔はすぐに曇ってしまった。
「アルジさんたちは、明日、帰ってしまうのですよね…」
キャリーは少し悲しそうに呟いた。
「…そうだな。元々滞在はその予定だったからな」
こればかりは如何ともしがたい。金も無限にあるわけではないし、あまりめいじ館から離れているのも良くない。
「少し寂しいですが、仕方ありませんね!アルジさんにも帰るところがあるんですもの」
彼女はそういうと俺の前に出て、くるりと回ってみせた。
「ねえアルジさん!私も、いつかあなたの国へ行ってみたいです!」
「ああ、来たらもちろん歓迎するが、結構遠いぞ?」
「構いません!その時は今日の私みたいに、エスコートしてくださいませんか?」
正面で俺に向き直った彼女は、俺の顔を覗き込むように体を傾ける。
この娘がやや上目遣いに見つめてくるのは反則的だ…
「あ、ああ。城和泉も含めためいじ館のみんなで歓迎するよ」
「そういう事では…まあいいでしょう。あ、それと最後に一つお願いしてもいいですか?」
「お願い?まあ俺にできる事なら…」
お願いは実に単純な、もっと早くても良かったことだった。
だがキャリーはとびきりの笑顔で喜んでくれた。
□□□
「ねえ主、日本まであとどれくらいかかるんだっけ?」
「ん?あと一月くらいだと思うぞ」
「まだ半分なのね…」
俺たちは船の食堂で休憩していた。昔よりは早くなったとはいえやはり船旅はかなり時間がかかる。本部の計らいでかなり豪華な部類の船に乗せて貰えてるだけありがたいか。
「キャリー、今頃何してるのかしら」
城和泉が外を眺めながらぼやく。
「さあな…あの執事と一緒なんじゃないか」
出港日、キャリーとあの執事が見送りに来てくれた。
執事の怪我はほとんど治ったらしい。キャリーの仕業だろうか。
既に城和泉が大量にお土産買っていたのに、お礼という事でさらにお土産を持たされてしまった。しかも大きな鞄ごとだ。
後でわかったが鞄も含めてかなりの高級品ばかりだったらしい。
別れ際、すっかり仲良くなっていたキャリーと城和泉が抱擁を交わしていた。
二人は手紙を書く約束をしたらしい。
それから城和泉は船で英語の勉強を始めていた。キャリーと英語で文通するんだと意気込んでいる。
「本当に、いい出会いをしたな、この旅は。」
「そうね…あの娘にはすっかり助けられちゃったし、幸運だったわ」
「まさか助けた少女に助けられるとは思わなかった。それにしても綺麗な娘だったな。美人ぞろいのめいじ館でも十分通用するんじゃないか?西洋人もなかなか…」
突然城和泉が勢いよく立ち上がった。顔を伏せ、肩が震えている。
「ま、まさか主キャリーさんの事好きになったんじゃないわよね⁉私というものがありながら‼」
「なっ⁉いや俺は単にキャリーが綺麗だったよなという話をだな!」
「そういえばうやむやになってたけど、主はあの娘とく、口付けまでしてたわね…!主ったらやっぱりああいうのが好きなの⁉」
「やっぱりってなにがだ⁉」
城和泉が目に涙を浮かべながら俺の肩をがくがくと揺らしてくる。
何か大きな勘違いをしているようだが、これはなだめるのは苦労しそうだ…
最後まであわただしいまま、俺たちは日本に帰っていったのだった。
完
「巫剣英雄譚-海の向こう-」これにて完結です。
ここまでお付き合いいただき、ありがとうございました!
今後書くかどうかは気分次第ですねw
いいネタが思いつけば書くかもしれませんが、この前書きを書いている時点では全くの未定です。
本当は挿絵なども描いてみようかと思ったのですが、結局描かずじまいになってしまいましたねw
最後になりましたが、改めてここまで読んでいただきありがとうございました!
原作となったスマホゲーム「天華百剣-斬-」も宜しくお願いします。
それではまたどこかで!