対魔にンAkUイ…『コンクルージョン・ONE』 作:迷子の鴉
「悪意」とは何か。
誰かが答えた。それは他を害する思考、行動。人間が生きる上で一番忌避するべき悍ましい心である。
悪意は人を害するが逆にそれが人間と言う種を進化させる必須なものとして捉えられていた。
しかし人間とは違う者であっても。悪意によって進化してきた生命でも。悪意に脅かされ虐げられた弱者であったとしても。
行き過ぎた悪意は全てを飲み込み破滅に導くと認知するべきだ。
かつて何処かの星。遠くない未来。
誰かが悪意を『何か』に教えたことで、或いは【何か】が学んだことで全てを滅ぼしかねない戦い、全てを終わらせた暗黒に発展したのだから。
人魔の間で太古より守られてきた「互いに不干渉」という暗黙のルールは、
人が外道に堕してからは綻びを見せはじめ、
人魔結託した犯罪組織や企業が暗躍、時代は混沌へと凋落していった。
しかし正道を歩まんとする人々も無力ではない。
時の日本政府は人の身で「魔」に対抗できる“忍のもの”たちからなる集団を組織し、
人魔外道の悪に対抗したのだ。
人は彼らを 「対魔忍」と呼んだ──
だが彼らの抵抗も世界から見れば、微弱。
そもそも一国家が奮闘して解決出来るものではなく、その国家も大半数が魔の手にかかり腐っている現状。
米連、犯罪組織ノマド、中華連合など敵が多すぎる現実は厳しいものだった。
守られることが当然という者。
力ある者は自分の玩具と勘違いした弱者。
正義の意味を履き違えた強者。
守るための力は守るべき人間に汚され、犯され、利用される日々。誇りはとうに踏みにじられた。
この世界に守る価値はあるのか?
毎度毎度起こる危機に何時しか人は戦う意味を見失いつつあった。
この世界は緩やかに魔の者達、あるいは賢者になることなど到底不可能な「愚者」が集った人間自身によって、破滅の時を迎えようとしていた。
あの日までは
東京キングダム。廃棄された港。
五車学園三年生、由利翡翠は現在困惑していた。彼女は対魔忍として若手ながらもそれなりの修羅場を潜り抜けてきた。が、今回は通常以上の想定外の事故に加えて、異常すぎる事態が起こっていた。
任務自体は簡単、の筈だった。ノマドと米連の取引の場を襲撃し米連の関係者を捉える。
その邪魔をした際に吸血鬼の傭兵がいなければ。
下級の者であったが吸血鬼としてベテランと渡り合い、それなりの実力を持つ上に指揮に手馴れたせいで部隊は壊滅し、皆散り散りに別れてしまった。
だがそれは小さなことであった。魔族の中でも上位に食い込む吸血鬼がいることが知らされていなかったことが小さなこととは些かどうかと思うが、今回に限ってそれは本当に珍しく小さなことであった。
彼女が困惑する事態の詳細を語るには少し時を遡る。
「はははっ追いついたぞ対魔忍‼残ったのはお前だけだ!」
「‥ッ」
当時、由利翡翠は東京キングダムの裏路地に魔族の集団に奥に奥にと追い詰められていた。
運悪くこの集団は自分に狙いを定めて追ってきたようだ。もう体力が限界だがこいつらは容赦なんてしない。
魔族とはそういう者だ。人間、自己以外の弱者は全て欲を満たす道具、資源としか見ていない。
他の者はどうなったか。殺されたか。捕まり辱めを受けているのか。
対魔忍に限らずオークなどの魔の外道に捕まった方々は大抵死ぬか性奴隷にされるかの二択に分かれる。
どちらにしてもこの場を切り抜けねば行方を知ることも救うことも不可能だが。
「安心しろよ対魔忍の嬢ちゃん! 殺しはしねぇぜ。まぁ少し可愛がるがな! ぎゃははは!」
「おいおいそんなこと言って泣かせたらどうすんだよ。これからヒィヒィ泣かすのがツウってもんだろうが!」
「おっといけねぇいけねぇ! ハハハ‼︎」
オーク傭兵達の汚い声が耳に流れ込む。
追ってきたリーダー格の吸血鬼もガワだけの高貴な雰囲気とゲスな顔を見せてくる。正直にキモチワルイ。
「さて小娘よ。そろそろおとなしく我らの快楽のとリほオオォぉぉ‥‥?」
ドチャ
落ちた音がした。
「……へ? 旦那?」
オークの一体が後ろを振り向くと「体」があった。
首の断面が焼け焦げた吸血鬼の体があった。
地面に落ちた頭は状況に理解出来ず、体が膝から崩れ落ちボロボロと灰になっていく。
「何が、起ギョ!」
ヒュゥゥゥ!
バキッボギャァ‼︎
突如降りてきた何かに踏みつけられ、吸血鬼は話し終える間も無く脳漿を撒き散らされて死んだ。土煙が巻き起こって下手人の姿が影にしか見えない。味方か? 敵か? この時の翡翠には判断がつかなかった
「ヒッ!」「なんだなんだ!」「誰だテメェ!?」
残ったオークたちは怯えながらも各々の得物を構えて人影に構える。
『悪意』
そして響く。
『恐怖』
どす黒く澄んだ悪意が。
『憤怒』
外道も魔も全てを崩壊させた。
『パーフェクトコンクルージョン』
『ラーニング・スリー』
その日の深夜、東京キングダムの一角で大爆発が起こり多数の死傷者が出た。
生存者は数人ほどしか確認できない上に殆どがその後自ら命を絶つ。その中には魔族も含まれていた。(魔族はプライドの高さから自殺するものは珍しいとのこと)
当時、運良く生き残った生存者は皆何かに怯えるようになり、発狂して街中で暴れまわる者もあり、多くの魔族がその様子に困惑していた。
そして奇妙なことに生存者は口を揃えてこう述べた。
ここにその生き残った者達の証言の一部を抜粋する。
「俺たちは相手にしてはいけないものを相手にした」
「魔族も人間も終わりだ」
「あれは悪意だ」
「あいつは言っていた」
『全ての結論は一つに辿り着く』
追記
またこの言葉を残した淫魔は数日後、入院していた闇医者の診療所から姿を消した。
彼が居たはずのベッドの上には夥しい血痕が残されていたという。
現在、翡翠は何とか生きていた。目の前の彼が自分だけを守るように
エネルギーを取り払われ周りを見渡し驚いた。裏路地は完全に吹き飛んで建物は完全崩壊で瓦礫が盛りだくさん。およそ10メートルは更地になっていた(瓦礫は大盛り)。
それは、恐らく人だった。
腰に巻き付けられた白く中心に引き込まれる禍々しい紅のレンズを埋め込まれた機械。
恐らく人だった。安直だが二本足で立ち、指は5本で人間のカタチをしていたから。
概ね人だった。片方だけの白いツノと黒が合わさった骸骨型の装甲をしていたが人間を助けた者だ。
少なくとも魔族に敵対する者かもしれない。
だがこの世界において奇跡的希望が振り向くことはない。
運命に定められた道を行くしかない彼女では尚更。そして『異形』は翡翠に振り向く。
「お前は誰だ」
「……え」
翡翠に『人』は尋ねた。
「人か」
「敵か」
「敵なら」
間を開けて白の異形は告げた。
「──-殺す」
由利翡翠は対魔忍だ。だがこの日、初めてのどうしようもない恐怖と絶望を味わった。
今までの経験、先輩の体験談がチャチでお粗末すぎるものだと錯覚するほど。
欲も打算もないあまりにも純粋で濃厚な殺意に涙を流し、せめてものの抵抗として歯を食いしばって錫杖を『仮面ライダーアークワン』に向けた。
かつてゼロワンと呼ばれる
アークが導き出す結論は何か。
それが『今』の我々には予測できないものであることは確かだ。
もしかしたらこれを基にして長編の作品書くかもしれない。
気が向くか、書き溜めることが出来たらの話ですが。
とりあえず今連載している作品をある程度落ち着かせてからかな。