ハイスクールD×D 黒いウサギがお邪魔します 作:這い寄る劣等感
今年度は私も受験生となってしまいますのでいつもより更に頻度が少なくなると思いますが、それでも見てやるぜ!という懐が広い人がいたのなら幸いです。
それではどうぞ
ここはグレモリー家が所有する領地、その中にある本邸。
そこでは『黒ウサギ』こと鉄大兎によって魔王であるサーゼクス・ルシファーと最強の女王と名高いグレイフィア・ルキフグスの子供であるミリキャス・グレモリーの専属メイドとして雇われたイルーナ・マルコシアスがせっせと働いていた。
母親でありメイド長みたいな役割を担っているグレイフィアにビシバシと指導され、着実にメイドとしての能力が高まっていが、ミリキャスからすれば気兼ねなく接することができる同年代の女の子ぐらいにしか思ってないようだった。
「ねえ、イルーナ」
「何でございましょうか、ミリキャス様」
「畏らなくてもいいのに。僕と同年代なんだからもっと気軽に話そうよ」
「いえ、私はメイドで貴方は主人です。とてもそのような口の利き方などできません」
「じゃあ命令するから」
「……どこまでも親子ですか、貴方方は。命令とあらば仕方ないですね。じゃあ気軽に行かせてもらうですぅ」
「それ気軽にしてるの?敬語のままのような気が……」
「何言ってるですか。私はけっこー気軽にしているですよ?これは口癖みたいなもんだから気にするなですぅ」
「あ、確かに口の利き方がなってない。じゃあ聞きたいことがあるんだけどさ」
「何ですか?私に答えられることならなんでも言ってあげるですよ?」
「うん。イルーナを育ててくれた『黒ウサギ』について知りたいんだ。父上は君が『黒ウサギ』に育てられたって言っていたけど、僕が学んだことだと『黒ウサギ』は悪魔、天使、堕天使問わずに殺し回る危険な存在となってたんだ。けどそんな存在だったらイルーナのことを育てるだなんて真似はしないだろうから本当のところはどうだったのかなと思って」
「ああ、大兎たちについて聞きたいのですか。それなら大兎たちが子育てに奮闘したことを語ればいいですぅ。いつだか忘れましたが聞かせてくれましたし」
そう言いながら彼女は自分の頬に指を当て少しばかり考え込む仕草をする。そして語り出す。
「昔々、ある所にーーーー」
「えっ、そういう入り方?」
俺は今冥界にいます。
理由は別に大したことはないんだけどな。調査及び自由行動みたいな?そんな感じ。
で、今森の中なんだけども……。
「う、うぅ……」
「ぐっ……」
なんか老夫婦が倒れてます。
いや、何?どういうこと?といった感想は浮かんでこなかった。
何故なら今は戦争真っ盛り。野盗なりなんなりがいてもおかしくはないし、それに襲われる人がいてもおかしくはない。
だけどここで無視するとなんだか後味が悪くなるな……。しょうがない、声かけよう。
「爺さんに婆さん、大丈夫か?」
俺が声をかけながら近付くと
「何奴じゃ!そこから一歩でも動いてみろ。首を掻き切ってくれるぞ!」
すっげえ物騒なこと言われた。
あれ?つかさっきまで倒れてたよね爺さん。何でそんなに元気なの?
よく見たら婆さんの方も起き上がっているし。
あれ?婆さんの方、何か抱えてるな。
「そのままゆっくりとこちらに近づいて来い。いいか、ゆっくりとじゃぞ?ゆっくり……ゴホッ、ガハッ⁉︎」
あ、血吐いた。やっぱ満身創痍だったのね。
婆さんの方も傷だらけだな。両方いつぽっくり逝ってもおかしくない状態だ。
「おいおい、そんな傷だらけなのに無理すんなよ。もっと自分の体労われって」
「この命は既にマルコシアス家に捧げておる!ここで果てようとて悔いは無い!と、言いたいのじゃが……」
いや本当爺さん割と元気だな。気力だけでここまで保つかね普通。
ん?つか今マルコシアスって言ったか?確かマルコシアスって血族が傍流も含めて全て死んだんじゃなかったか?
「……よく見たらお主は別に追手というわけではなかったか。ならば一安s……ゴフハッ⁉︎」
また血吐いた。
いい加減死ぬのか平気なのか決めてくれないもんか。ついつい見るだけになってしまうじゃねえか。
「……この際お主がどこの何者であろうともいい。どうか、御令嬢を……イルーナ様をグレモリー家に……」
バタン。
そこで爺さんは事切れた。急に元気になったり色々と忙しい爺さんだったが終わる時はアッサリだったな。
「つってもイルーナってどこに……ああ、この婆さんの腕の中か」
婆さんの方はすでに事切れていたらしく、その腕に抱えているものをガッチリとホールドしている。
死んでもなお守り抜こうとしたんだろうな。
苦心してなんとか腕を剥がすとそこには何も知らない赤ん坊がスヤスヤと眠っていた。図太い神経だと褒めるべきだろうか?
「確かこっちの方に……ああん?兄ちゃん一体何者だ?」
……んん?
この爺さんはマルコシアス家に仕えている使用人なんだよな?
て事は襲ってくるのってまあ野盗の可能性もなくはないが今の冥界の時勢を考えると旧魔王派の輩ってことになるよな?
……なんでサングラスにモヒカン?しかも肩にスパイクついてるし。え?どこの世紀末仕様ですか?
もしかして野盗の仕業に見せかけるためにこんな格好してんの?見られた時のことを考えて?
……随分気合が入ってるんだなー。
「へっへへ、まあ兄ちゃんが何者かはこの際どうでもいいこった。おら、有り金全部寄越しやがれ!」
うーん、演技も堂に入ってるな。いや、もしかして傭兵を雇ったのかな?
「おい、無視してんじゃねーよ!」
続々と同じような格好の奴らが集まってくる。
なんだ、モヒカンサングラスもここまで集まると何だか壮観だな。
「あぁー……。悪いけどこの今は死体の爺さんにこの赤ん坊のこと頼まれてしまったからなー。すまんがここで消えてもらうぞー」
「あ?何言って……」
刹那、一番先頭にいたモヒカンの首が飛ぶ。飛んだ首は少しばかり空中浮遊した後ボテっと音を立て地面に落ちる。
その光景を見ていた他のモヒカンズは呆然としていた。
だがその呆然としたスキを見逃す大兎ではない。
一人、また一人首が飛ばされるモヒカン。
そしてとうとう最後の一人となってしまった。
「あ、ああ……お前は……」
仲間の死を幾人と経験してようやく冷静さを取り戻したモヒカンだったが、寧ろ冷静さを取り戻してしまったことを後悔した。
あの姿にこの威圧感。まさしく彼こそが
「お前がどこの家の者かは知らねーけど悪いな」
「お前は……『黒ウサ」
最後まで言い切ることなく彼は絶命した。
「うん、待って。ちょっと待って」
「何ですか、まだ話は序盤ですよ?」
「いや、おかしいよね?『黒ウサギ』はどうしてそんな血腥い話を子供に聞かせてるのさ。しかも昔々とかいう語り口だったのにお爺さんとお婆さんすぐに死んじゃったし」
「さあ?今思えば大兎もまともな精神はしてませんでしたからね。何ていうか普通に見えて普通じゃない的な?」
「異常者に見えない異常者って……。うん、もういいや。で、どうなるの?」
「はいはい。次は子育て編になりますかね、多分」
「月光、今帰ったぞー」
俺は傭兵なのかそれとも旧魔王派のどれかが差し向けた刺客だったかわからない奴らを全員殺した後死体を消して月光の下に帰ってきた。
勿論俺の腕の中にはイルーナとかいう赤ん坊がまだスヤスヤと眠っている。帰っている最中にグズりだしたらどうしようかと思ってたけどセーフ。
「ようやく戻っか、この愚図が……待て、何だその赤ん坊は。いや、皆まで言わなくてもいい。遂にお前は隠し子がいると認めたんだな?そうかそうか。お前の存在が余りにも汚らわしいから半径五キロ圏内に近づくなよ?」
「いや既に五キロ圏内だし……って違う!この子は隠し子じゃねーよ!」
俺が急に怒鳴り声を上げたせいか赤ん坊がパチっと目を開けるとそのまま泣き出した。
「ほら、どうしたお父さん?お前の愚息だか愚娘だか知らんが泣いているぞお父さん?早く泣きやめさせろよお父さん」
「くっそ、他人事だからっていい気になりやがって……」
俺は赤ん坊をどうにかあやそうと高い高いなり腕をゆっくりと振って揺籠みたいにするけど一向に泣き止む気配なし。
これはどうしたもんかと思った時に救世主が現れた。
「月光ぽん月光ぽん、ここなんだけどさ……ってありゃ?大兎くん、その赤ちゃんどうしたの?ってか、かなり泣いちゃってるね」
その救世主の名前は碧水泉といった。
「いや調査中に遭遇した爺さんに預けられたんだが……これどうにかできない?」
「ちょっと貸してみ」
そう言うとヒョイと俺の腕から赤ん坊を取り上げて様子を確認する。
「おしめは別にどうともないね。じゃあお腹が空いているのかな?粉ミルク……とかあるわけないよね」
「いや、あるぞ。俺の娘のためにわざわざ調達してきた物が」
「さっすが月光ぽん!そういや星雷ちゃんがいたね!あの子成長が早かったから赤ちゃんだった時期があるの忘れてた!じゃ、大兎くん今すぐ人肌程度の温かさのお湯で粉ミルク溶かしてきて!」
「お、おう!」
俺はドタドタと部屋から出て行ってーーーーすぐ戻って来た。
「すまん月光!粉ミルクの場所どこだ!」
何とか泣き止めさせて再びスヤスヤと眠った後に俺は泉に話しかける。
「いや本当助かった!俺だけだったら何したらいいかわかんなかったから本当助かった!」
「大事なことだから二回言うんだねわかります。ん、まあ私これでもお姉ちゃんだったからね。小さい子の扱いならお茶の子さいさいよ」
あー、そう言えば泉には確か弟がいたんだっけか?それなら納得だ。
いや、俺にも妹はいたけど精々高い高いくらいでこういった経験はなかったなー。憶えてないだけかもしれないけどよ。
「今はそんなことよりこの赤ん坊の話をするぞ。大兎、お前は誰から預かったんだ?」
月光が俺に話しかけてくる。
まあそれは言わなきゃダメだよな。
「本人はマルコシアス家に仕えているって言ってたぜ。今思えばあれは老夫婦とかじゃなくてそれに扮した執事にメイドだったのかもなぁ」
「マルコシアス家だと?ふむ、表向き全血族が死んだかと思われていたが裏では生き残りの娘がいたというわけか。だがその証拠がないぞ。どうしてお前は片翼の鷲のような一族だと示す何かを持ってこなかったんだ。だからお前は愚図なんだよ」
「毒舌未だ健在……ってか無理言うなよ。例えばグレモリーなら赤髪が特徴でバアルなら滅びの魔力が特徴といった具合なんだぞ?確かマルコシアスだったら炎の氷柱だろ?流石に赤ん坊の段階じゃ確認することなんて出来ねえよ」
「ふむ、そう言えばマルコシアスはメドローアの使い手だったか。ならば今は無理か。少なくとももう少し成長しなければわからんな。だが仮にこいつがマルコシアスだとしたらお前が持ち帰った情報と合わせると貴重な切り札となるかもしれん」
「ん?俺が持ち帰った情報とってどういうことだ?」
「お前が持ち帰った情報……今現在の冥界の情勢だな。今は新魔王派と旧魔王派の勢力が互いにぶつかり合っている状態だ。お前の情報によれば新魔王派の方が勢いも強く、またその勢力のトップとも言える存在のあまりの強さに押されている、ということだったな?」
「ああ、そうだぜ。新魔王派のトップとも言える四人。サーゼクス・グレモリーにアジュカ・アスタロト、セラフォルー・シトリーにファルビウム・グラシャラボラス。更にその中でもサーゼクス・グレモリーとアジュカ・アスタロトが取り分け強い力を持っているんだ。多分だけどこの二人なら俺らと同等に渡り合えるような気はするぜ」
「それは『黒ウサギ』としてのお前とか?」
「そりゃそうだろ。普通の状態だったらあいつの本気どころか力を抑えた状態でも勝てねーっての。それどころか負ける可能性すらあるな。あいつの滅びの魔力は密度が濃すぎる。で、その情報とイルーナがどう絡み合うんだ?」
「うむ。まずグレモリー一族は須らく情愛が深い。己の一族は勿論のこと、他の一族にも領民にも深い愛情を捧げている。サーゼクスもその例外ではない。そして今は亡きマルコシアス家の当主であったガルナ・マルコシアスはサーゼクスとはとても仲が良かったとされている。これだけでイルーナを切り札として扱うには十分だ」
「えーっと……あ、そうか。自分の友達の娘って立場になるのか、イルーナは。それに今は新魔王派が優勢。これからどうなるかはわからないけどほぼ間違いなくサーゼクス達が勝つだろうな。そしたら新魔王にトップの四人が組み込まれるから……ああ、確かに使えるな」
俺はようやくイルーナの有用性を理解する。
コネを作るには最適な札となり得るだろう。まあ影響力がちょっと強すぎて本当に切り札にしかならないけど。
「それにある意味ではお前が連れ帰ってきたのは丁度いい。予想より早く成長した俺の娘の妹として扱えるしな」
「ああ、うん。星雷ちゃんね……」
星雷ちゃんは月光と美雷の間に生まれた娘だ。
最初はまあ可愛らしい赤ん坊で俺様くんである月光ですら喜びを隠しきれない様子だった。まあ、鉄面皮纏ってたけど。
けども赤ん坊期間がかなり短かった。
月光はこのことについて恐らく魔界という環境下ですぐにでも生き残れるようにした結果なのだろうって話だ。
まあ魔界には冥界にいる悪魔とは違う悪魔と呼ばれる存在が多数跋扈している。そしてその多くは神種ーーーーまあ途轍もなく強い存在ってことだなーーーーらしい。
そんな存在が多数存在するからこそ魔界ではすぐに成長することが求められているのではないか、というのが月光の考え。
その星雷ちゃんだが昔の美雷をそのまま小さくしたかのような容姿をしている。ただ髪の色が黒いのは月光譲りなんだな、と思わせる。あと眼が吊り目
「妹としてねぇ……。うんまあ別にいいんじゃねえの?お前がもう一人子供欲しがってたなんて正直予想外だったけどよ」
「は?貴様は何を言っている?親は拾ってきたお前に決まっているだろうが。子供を数百人だか数千人だか作っておいて子育てを一切していないど底辺兎と色ボケ魔女の夫婦には丁度良いだろう?」
「俺とヒメアの娘として子育てをしろ……と?」
「まあ一応ではあるが援助はしてやる。だが粉ミルクとかは無理だ。そこはもう自分たちで調達しろ」
「……はいはい、わかったよ。じゃあ俺とヒメアでどうにか頑張ってみるわ」
こうしてなんだか面倒な仕事と言うか、勝手がわからない仕事と言うか。兎に角押し付けられた。
ヒメアをどう説得しようかな?
「うんだから待って。え?今度は札として使うことを前提に育てようかって言ったの?『黒ウサギ』は」
「むしろ私の存在を札として使わないことが不自然だと思うんですけど。途絶えたと思っていた血筋で、現魔王の友達の娘とかいう存在なら何がなんでも確保したくないですか?ただでさえ純血の悪魔は少ないのに」
「いや確かにそうなんだけどね。それでもそれをぶっちゃける?普通隠さない?」
「別に隠すことでもなくないですか?私は最初っから大兎たちは親代わりだって言われて本当の親はもう死んだと聞かされてましたから。そういう下心が無かったらそっちの方が怪しいですぅ」
「……ああ、うん、そうだね。じゃあ続けていいよ……」
「そうですか?じゃあ子育て編とか言いながら入りませんでしたし続きでも……」
俺とヒメアが一応主軸となってイルーナの子育てが開始された。
ヒメアをどうにかこうにか説得……と言うか割と本人も乗り気だったので懸念事項があっさりと解決され、俺たちは着手する。
ヒメアは粉ミルクとかじゃなくて母乳を与えていた。
尤も普通の母乳ではなく、どうにも自身の魔力をそれらしく変換させてから与えているらしい。
おかげで見る見るうちにイルーナの魔力がガンガン高まっていった。中身変質しちゃってるかもしれないけどまあそこは大丈夫だろう、多分。
成長してからは料理なんかも作ってくれた。まあ塩と砂糖が十回に一回間違えているんだけど。
時折ではあるが、他の仲間たちも手伝ってくれた。
僅かにだが子育て経験のある月光に美雷のペアは服なんかを融通してくれた。
流石に一児の父母だ。実際似合う服しかここにはない。
泉からはあやし方なんかを教えてもらった。
他にも御守りみたいなのを作ってきてくれたし。泉様様だな。
ハスガは俺と同じで子育ての経験がないからか特にどうということはなかった。
強いて言うなら遊びに付き合ったくらいか。
そしてセルジュはハスガと双子のはずなのにどうして出来るんだ?ってくらい子供の扱い方が上手かった。
で、なんやかんやで子育ては順調にいってイルーナもマルコシアス家の証とも言える炎の氷柱を扱えるようになってから並行して鍛錬も行うことにした。
「こなくそっ!当たれですぅ!」
「当たれって言われて当たるバカがはいねーよ」
イルーナが炎の氷柱を飛ばしてくるが俺はそれをアッサリと躱す。
動きが直線的だから当たることなんてまずない。そもそも当たってたまるか。当たったら火傷と凍傷を一辺に負ってしまうし。
「ほーら、こっちから行くぞ〜」
俺は手に持った石を投げる。
それは勢いをつけてイルーナに直撃。
「ゴホッ⁉︎……ク、クソッタレですか将来性高い麗しの乙女に容赦ない一撃を加えるだなんて!」
「避けない方が悪いんだろ?ほーれ、もう一発」
「絶対いつかギャフンと言わせてやるですぅぅぅぅぅぅぅ!」
とまあこんな具合にだ。
この鍛錬には星雷ちゃんにハスガが主に手伝ってくれる。
時々月光やヒメアも手伝ってくれる。
月光は手札を大量に有する相手との戦い方を、ヒメアは魔術を駆使した相手との戦い方を指導してくれた。
何だかんだ言って皆イルーナを育てるのを楽しんでいた。
「うん、女の子に何の躊躇もなく攻撃を加えていること以外は割と普通の子育てかな……って違う!え?魔力を母乳に変換って何⁉︎そんなことが出来るの⁉︎」
「えー?確か初代グレモリー様も初代マルコシアス様に用いていたはずですけどー?」
「元の発想は僕のご先祖様なの⁉︎し、知らなかった……。時を重ねる内にそこら辺が風化しちゃったのかな?えっ、てことはイルーナって僕より強い?」
「何言ってるんですか、もう」
「だ、だよね。流石にそんなことは……」
「圧倒的に強いに決まってるじゃないですか!今のミリキャスなら指先一つでチョチョイのチョイですぅ!」
衝撃の事実。
イルーナ・マルコシアスは魔王と最強の女王のハイブリッドであるミリキャス・グレモリーよりも圧倒的に強い模様。
「英才教育(物理)を受けていた私にはまだまだミリキャスは敵わないですぅ。けど才能は確実に私よりも上なはずですのでそれなりの修練を積めば私はあっという間に追い越されてしまうですぅ」
「ああ、うん、ありがとう……」
それでもミリキャスは落ち込んでいる模様。
まあしょうがないことである。
自分のことを強いなどと自惚れていなくてもそれなりの自負はあったのだ。
だがそれが身近な人物、それも同年代の人物より弱いとなるとこう、心にグサッとくるものがある。
「別にそう悲観的にならなくてもいいですぅ。サーゼクス様だってグレイフィア様の尻に敷かれてるんですから」
「それは僕を尻に敷くってこと⁉︎」
「…………(ニッコリ)」
「やめて!その無言の笑みやめて!次!次行ってみようか!」
「次って言っても後はなあなあでここに来たぐらいなんですが……ああ、それなら私と星雷とで大兎と戦った話でもしますか」
俺がイッセーと接触して何日目だろうな?
もう永い時を重ねてきたからこういう一日二日は短く感じてしまう。それこそあっという間だ。
イッセーはといえば悪魔になって、『赤龍帝の籠手』を発現させて、でフェニックスに喧嘩売ったところか。
まあフェニックスのライザーとか言ったか?あいつとあいつの眷属にはいくら俺を足したところで敗北は必至だな。
『黒ウサギ』になれてりゃ話は変わったのもしれないけど、生憎と魔王様直々にダメ出し喰らったし。
イッセーが『赤龍帝の籠手』の禁手状態である『赤龍帝の鎧』でも発現させりゃいいんだけど、したところで今のイッセーじゃ十秒と保たないだろうな。ポテンシャルは凄いと思うんだけどなぁ。
フェニックスとのゲームに負けたらリアスは婚約パーティーだったか、婚前披露だったかに出されるんだよな。で、それをイッセーが助けに行く。俺が言うのもなんだけどわかりやすっ。
となるとそろそろ札を切るべきだよなー。うーん、今まで娘兼弟子みたいな感じで育ててきたからいざこう手元を離れるって思うと何だか立派に巣立てよ!みたいな気持ちとまだここに残ってもええんやで?みたいな気持ちが綯い交ぜになってるなー。
まあ札だとわかっていてもここら辺の気持ちは出てくるもんだよな。
「おい、大兎。月光の奴が呼んでるぞ」
俺が一人頭をウンウン唸らせているとそこにハスガがやってくる。
月光が俺に用事?一体何なんだと思いながら俺はその場を後にした。
「遅い。俺の呼び出しには五秒で応じろ」
「無茶言うなよな〜。で、用事ってなんだ?」
「うむ。それはだな……」
月光が言葉を溜めると同時に向こう側に人影が二人分現れる。
それは段々と近付いてきて、遂にはその姿がハッキリとした。
「……んあ?星雷ちゃんに……イルーナ?」
「フッフッフッ……。遂にこの時がやってきたですぅ」
「私とイルーナのコンビに敵うものなーし!」
「いや、流石にそれはないだろ」
思わず突っ込んでしまう。
「で、用事ってのは結局……?」
「お前にはこの二人と戦ってもらう。ただしお前は制限付きでやってもらう」
「まあ当然だわな。で、どの程度だ?」
「お前には最低限『黒ウサギ』と呼べる状態で戦ってもらう。二人の攻撃を消すのはなしだ」
「つまりただでさえ少ない手札がより少なくなるのな。ん、わかった」
元より切れる札とか少ない俺だ。その程度なら問題はない。
あるとすれば最低限『黒ウサギ』ってのだな。
これ『黒ウサギ』としての姿を取るだけの力のまま戦えってことだしな。力をつけてきた二人相手だと大分しんどいな。
「お前の貧弱な頭で理解出来たか?出来たのならとっとと始めるぞ」
少なくとも親兼師匠としての俺が接する最後の機会だ。
なら本気で戦わないとな。
「それではーーーー始め!」
「こっちから行かせてもらうですぅ!星雷!」
「OK、イルーナ!ビリビリいっくよ〜!」
まずはイルーナたちの先手。
イルーナが複数炎の氷柱を出し俺たちの周りに突き刺して、空中にも浮遊させる。
そこに星雷ちゃんが美雷譲りの稲妻を流した。すると炎の氷柱に稲妻が纏わり付き、それが更に他の炎の氷柱にも連鎖した。
「フッフッフッ、これこそ私たちが編み出した氷炎電磁結界!これで大兎の行動範囲は狭められたですぅ!」
やってきたのは移動阻害か。これは困った。
ただでさえ一人は飛べる相手と戦わないといけないってのに、こりゃ力加減間違えたら結界に突っ込むな。
電気、炎、氷と三コンボとか幾ら不死とはいえ喰らいたくねえ。
迂闊に突っ込めねえなあ。
「ふむ、結界ですか。僕が教えたことを参考にしてるんですかね」
セルジュが自称・氷炎電磁結界を見て言う。
それにハスガが反応する。
「まあ兄貴は封印とかそういうのが十八番だからな。結界捌きなら中々のもんだしなぁ。けどよ、あれじゃああいつらも動き辛くなってねえか?なんでまた自分たちの周りにも結界張ったんだよ。大兎のとこだけに張ればそれで詰みじゃね?」
「いや、大兎くんは最悪自爆戦法が取れますしね。というか閉じ込められたらそれしか出来ないというか。まあ、どうもそれだけじゃなさそうですがね」
「いまいち要領を得ねえなあ……。ま、兄貴の言う通り見てりゃわかるか」
セルジュは専門家の観点から氷炎電磁結界を分析していた。
あれを抜け出そうとするならば氷、炎、電気の三コンボを喰らう必要があり、それは並大抵の輩であるならば簡単に消し飛ばしてしまえる威力があることを見抜いていた。
だが大兎は不完全ながら不死である。二、三回は消し飛ぶだろうが結界から出ること自体は不可能ではないだろう。制限さえ付けられていなければそんなの御構い無しにどうにか出来たわけだが。
(ま、お手並み拝見といったところですかね)
自分はそこまで鍛錬に参加してないが、ほんの少しは参加して結界術を教え込んだのだ。
自分の教え子でもある存在がどう行動するのか楽しみに見ていた。
「突っ込んでって避けられたら悲惨なことになるよな……。一度距離を取るか」
大兎はそう判断し、結界に当たらない程度に後ろに下がった。
だがそれは悪手だった。
「そいつを待っていたですぅ!」
「天才の私の読み通りの展開だー!」
大兎が後ろに下がった瞬間、イルーナたちが不敵に笑う。
直後、大兎の後ろから何かが飛んできた。
「クソッ……!」
咄嗟に気付き、振り向き手で受け止める。が、そんな大兎の防御を貫いて心臓に達する。
「ゴハッ……!」
これで大兎は一回死んだ。『黒ウサギ』の状態もリセットされる。一旦仕切り直しとなった。
だが大兎は何もしてない。仕掛けたのは相手だ。少なくとも場のムードは彼女たちが握っていた。
「クックック、この結界がただ移動を阻害し中に閉じ込めるだけの結界と思ったら大間違いですぅ」
「ビリビリってね、移りたがりなんだ。それなのに近付いちゃったら移ってしまってもしょうがないよね?」
先手を取ったのは彼女たち。
とても強力な一撃であった。最低限の強化しか施されていない『黒ウサギ』の防御を貫通する程度には。
「あー、成る程。そういう仕組みですか」
「なあ、今大兎が結界に近付いた途端、雷と氷と炎が大兎に飛んでいったよな?けどあいつは結界には触れていないぜ?どうしてそんなことが起こったんだ?」
「単純……ではありませんね。そうですね、例えばあの結界を五マス立方の結界だと仮定してごらん?彼女たちはその範囲内を自由に動ける。相手もまた同じ、と思っていたけどどうやら違うようだ。例にしかすぎませんが、相手に限っては三マス立方しか動けないと見ていいでしょうね。つまり、移動阻害かつ相手を中に閉じ込める結界で間違いではないのですが、そこに結界から相手が一定距離内に入ったら攻撃を仕掛ける仕組みになっているみたいですね」
「そりゃまた器用な真似してんなおい。今の大兎はしょうがないとして拳だとか剣だとかで戦う奴らは完全に封殺されねえか?」
「されるでしょうねえ。自分たちは結界による攻撃が加えられる範囲外から攻撃出来ますが、相手に何か遠距離を攻撃できる技がなかったらオシマイですね。あの雷の速さより速く動ければワンチャンですかね?」
「うへぇ、あんなのを手加減して相手しなきゃいけねえなんて大兎もとことんついてねえな」
「解説ありがとうよ、セルジュ」
どうやら声が聞こえていたらしい大兎が皮肉なのか本当に感謝しているのか声を発する。
「どうです?勝てそうですか?」
「正直厳しい!」
俺は正直な感想を口にする。
遠距離技なら一応ある。あるにはあるが使うには命のストックを一つ消費しないといけないし、そもそも威力があいつらに使うには足りない。
あいつらなら避けられるし、攻撃自体をどうにかすることも可能だ。
「どうしたですか?そこで立ち止まってたらいい的にしかなりませんよ!」
イルーナが好機とばかりに炎の氷柱を複数放つ。
流石にさっきみたいに不意を衝かれてはいないので俺は難なく躱す。
しかしその躱した先に今度は雷が飛んでくる。
「危ねっ……!」
流石に今度はどうにかする。
それでも空中で更に跳ぶなどという真似は出来ないから足を一本犠牲にしてだが。
「ひええ、おっかねえ」
「チッ、そのままもう一回殺されればいいものを」
「おーい、顔がすごいことなってるぞー」
いやしかし本当どうしようか。
やっぱ姉妹同然に過ごしてきたからコンビネーションが抜群だ。
更に言うならあいつら一人だけでも大分力が強いしなー。
星雷ちゃんは言うまでもなく強い。
力が大きすぎてうまくコントロール出来なかった美雷と違い、コントロール出来ている。
んで、イルーナは魔力量が同年代の他の悪魔に比べれば桁違いだ。
俺の見立てだとリアス以上にあるんじゃないかと思う。
まあリアスもまだまだ成長の余地があるし、今後はどうなるかはわかんないけどな。
しっかし、技を消すのが禁止って大分キツ……技?てことはいけるかもしんねえな。
「場のムードを握られっぱなしじゃ癪だからな。こっちから行かせてもらうぞ」
俺はまずイルーナに向かって走り出す。
俺やハスガ、月光とかが接近戦の仕方を教えたが、それでも星雷ちゃんに比べればイルーナの方が接近戦に弱い。
「それも天才の私には想定済み!」
それに反応し星雷ちゃんが雷を鋭く放つ。
まあ当然の反応だな。だけど今回はこっちの読み勝ちだな!
俺はイルーナに向かっていたのをいきなり止めて星雷ちゃんに向かって走り出す。
「ふ、ふぇぇ⁉︎」
予想通りの反応ありがとうよ。
星雷ちゃんは確かに頭がいいのだが、相手の立場になって思考し、相手がローリスクハイリターンの行動を取ると思い込んでいる節がある。
今回のローリスクはイルーナを相手取ること、ハイリターンは結界の解除と言ったところか。
だけど俺は星雷ちゃんが考えていたハイリスクハイリターンを実行した。
ここが星雷ちゃんの悪いところだ。
相手が自分の思い通りに動くと勝手に思い込んでいる。それ故にそれ以外の行動を起こされるとこうして慌てる。
だからここで終わりだ。俺の命一つ減らしてもここで落とす!
「ほっ」
俺は雷を結界の攻撃範囲に接触しないように上手く跳んで躱し、更に『黒』で自分にかかっている重力を打ち消して俺のスピードはより速くなる。
そのまままだ慌てている星雷ちゃんに肉薄し、体当たりをして星雷ちゃんごと結界の攻撃範囲はおろか結界外に突っ込む。
襲い掛かってくる雷に氷に炎。それが俺たちを包み込む。
当然のことながら今の俺だとこのコンボに耐え切れず一回死ぬ。
星雷ちゃんは美雷譲りの防御力で耐えている。雷はそもそも星雷ちゃんのものだしそれは効いてない。だからダメージソースはイルーナの氷と炎だ。
それでも流石にあいつらの子供だ。段々と持ち直しつつある。
だから俺は地面に思い切り頭から叩きつけた。
「こんなの……進研ゼミで……習わなかった……」
むきゅぅぅ、という効果音が似合いそうな感じで倒れ込む。
そのまま気絶したらしく、氷炎電磁結界とやらは炎の氷柱が複数残るのみとなった。
「さーて、イルーナ?」
「あ、すいません。急に腹痛がしたのでここは一旦休止と言うことで……」
「ダメに決まってるだろ?」
「私と大兎でここまで意識の差があるとは思わなかったですぅ!」
「霧が濃くなってきたな……。早めに倒すか」
「ちくしょぉぉぉぉぉぉ!私がここにいる間にギャフンと言わせたかったですぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!」
最初とか自爆特攻とか大分危ない場面があったがこの勝負は俺の勝ちで幕を閉じた。
「手加減してもそんなに強いのか……。と言うか不死なんだね。なら勝ち目がないじゃないか」
「不死と言っても十五分間に七回ぶっ殺せば死にますよ。私と星雷のコンビだと二回しか殺せませんでしたけど……次会う時は六回殺してやるですぅ」
「そこは七回じゃないんだ」
「何言ってるんですか?仮にも育ての親を完全に殺すだなんて真似出来るわけないでしょう。それこそ不義理というものですよ」
「そこはしっかりわけるのね」
ミリキャスは『黒ウサギ』がどんな人物なのかその一端を知ることができた。
噂と実態はえてして違うもの。それが知れただけでも大きな収穫であった。
「まあ私の暇潰……ミリキャスをより強くするためにこれからこっそりと稽古でもしましょうか」
「今暇潰しって言おうとしたよね⁉︎最後の最後で台無しだよ!」
英才教育(物理)のお話でした。
ここにきて新たなキャラの星雷ちゃん登場。言わずもがなと言うか既に書いてますが月光と美雷の子供です。
両親のいいとこ取りとなるのかな?負けた理由があれだけども
次回は四巻に突入ですね。ようやく会談が始まります。
タイトルは『黒ウサギ、魔王少女と遭遇する』なのかな、多分。今手元に原作がないためタイトルに限っては変更するかもしれません。
では今年度もよろしくお願いします