ヒーローチーム及び敵チームの組み合わせが決まり、第一戦目。
普段目にする風景と遜色ないものの自分らを除いて人っ子一人いない。普段と異なる風景を前に違和を感じながらも士と緑谷は無人の車道に立ち訓練開始の合図を待っていた。
「よし、そろそろ始まりそうだ。門矢君」
緑谷は手元の時計で時刻を確認すると顔を上げ士の方を向き、名を呼びながら目の前にある建物のほうを指さす。二人の前には華美な装飾などは何もない幾つか窓ガラス張られているだけの小型のビルがそびえ立っていた。
「最終確認をしよう。訓練のビルは4階建てでこのビルのどこかに『核』がある。制限時間内にそれを確保するか、轟君にかっちゃん…二人を確保すれば僕らの勝ちだ」
「制限時間内にそれが出来なければ俺たちの負けってことだな」
士の言葉に緑谷は頷くと二人は車道の柵を跨ぎ、ビルの前の歩道へと足を踏み入れる。
いよいよ戦闘が始まるのだと気づかされた緑谷の胸が時計の秒針のように高く波打ち、ギュッと握りしめた拳もぶるぶると震えだした。
「落ち着け、落ち着け……深呼吸だ……オールマイトならこんな時……」
「おいおい……」
心を落ち着かようとするも返って焦り冷や汗を緑谷はダラダラと流していく。
その姿に士はため息を吐くと緑谷の頭にトンと軽くこずく。
「いてっ⁉」
「少しは落ち着け。何も命を掛けるわけじゃないんだ、気楽にいこう」
「……そうだね、ありがとう」
緑谷は謝罪の言葉を告げ、自らの頬を両手で叩く。
頬はひりひりと薄紅色に少し腫れ、目にはうっすらと涙を浮かべている。
けれどそこには既に先ほどまでの焦りや迷いの色は一切消え失せていた。
その顔を見て士は一安心すると同時に都市街に放送のサイレンが響き渡った。
『只今より屋内戦闘訓練、Aコンビ対Bコンビの訓練を開始する!!』
「ごめん、心配かけた! 行こうか!」
「……ああ」
オールマイトの高らかな訓練開始の合図を聞き、士と緑谷は頷き合うとビルの扉を開き中へと足を踏み入れていった。
「さて皆! 『見る』ことにも学びはある。このモニタールームから見える範囲ではあるがそれぞれの動きを見てこの後の訓練だけでなく、これからの糧と出来るよう逐次チェックしていってくれよ!」
「「「「はーい!」」」」
戦闘訓練が行われる建物の地下の薄暗い部屋。
わずかな光がある程度のその映画館のような部屋でオールマイトの他に士らを除いたA組の生徒たちは目の前に浮かび上がる訓練の様子を映す幾つもの映像に目を向けていた。
「どっちが勝つと思うよ皆は?」
「やっぱ門矢と緑谷の方だろ! 門矢はテストやばかったし、緑谷のあのパワーもやばかったしな!」
「ですが緑谷さんはハンドボール投げ以外はあまり揮っていませんでしたわ」
「そういや指痛めてたしな」
「みんな門矢たちばっか気にしてないか? 爆豪と轟もやべーだろ!?」
「あの二人も門矢の影に隠れてるだけで十分ヤバイからね……勝てる気しないよ」
「このクラス天才多すぎんだろマジで……」
瀬呂の発言を基に始まったどちらが勝つかという話題。
士の実力は個性把握テストの範囲ではあるものの知っており、対人戦において間違いなくクラス内で上位を争う存在であることは周知の事実だった。
だが皆の勝敗予想は士らに集中することなく五分五分。その背景には士のコンビが緑谷であること、爆豪と轟がコンビであることがあった。
今回はチーム戦。一人がどれだけ優れようともう一人がダメダメなら勝つことは難しい。
士のコンビである緑谷は個性把握テストにおいてハンドボール投げ以外は目立った成績を残さず、そのハンドボール投げでさえ終了後には身体を痛めている様子を彼らは見ていた。
対するはコンビネーションという点においては士と緑谷コンビに劣るであろうものの、把握テストにおいて自らのセンスや力を示した爆豪と轟というクラスの実力者である二人。
チームの総力から見るにおよそ互角であり、それ故に議論は白熱していた。
「確かに爆豪は爆破でほとんどの種目上位に入ってるし、轟の氷結もやばかったからなぁ……」
「長距離走で地面凍らしてその上滑ってたからなぁ。こちとら走って身体温まってるはずなのに凍えて気持ち悪かったぜ」
「お二人とも攻撃的な個性であり今回は『敵』。『核』という防衛目標はありますが危険物故慎重に動かねばならないヒーロー側より、幾分か攻撃的な姿勢を取れるのはお二人にとって好条件と言えますわね」
「まぁ爆豪がまともな連携とれる気しないけどね~。ワンチャン『うるせぇ!』とか言いながら建物ぶっ壊したりして!」
芦戸の言葉にその場にいた生徒は皆頷き、核兵器を守る敵とは思えない爆轟の動きの予想に周囲が満場一致で同意を示すその光景にオールマイトはHAHA…と乾いた笑いを見せるしかなかった。
一方その頃士と緑谷は所々灯りはあるものの薄暗く人気の無い館内を慎重かつ迅速に進んでいた。
慎重と言っても緑谷が壁を這うように進んでいくのに対し士は普段と変わりなく通路のど真ん中をポケットに手を突っ込みながらではあるのだが。
「敵影無し、不審なものも見当たらない…っと」
「何やってんだ出久」
「何って……罠とか仕掛けてあるかもしれないしさ」
曲がり角の先を警戒しながら背後の士に緑谷は答える。
実践経験は無いのだろうが圧倒的な知識や因縁的存在である爆豪が相手にいることがきっとそうさせるのだろう。
ただ爆豪が罠を仕掛けるような奴でないことは間違いない。アレは真正面から潰さなきゃ納得しないタイプであると理解していた士はずかずかと廊下を歩いていく。
「そんなもんか」
「そうだよ! 門矢君も少しは警戒してよ!」
「大体やってるさ、大体な」
「大体って……本当にやって「飛べ!」――え?…ってわわわ!?」
いまいちやる気の感じられない反応にため息を吐く緑谷だったが突然の言葉に思わず振り返る。
そこには津波とも言えよう氷の濁流が目と鼻の先まで押し寄せてきていた。
緑谷は反射的に避けようとするも反応は遅れつま先が氷付くもフードをタイミングよく飛び上がった士が掴み上げ何とか氷漬けを回避し、氷漬けになった床に着地した。
「ゴホッ……た、助かったよ」
「手荒になって悪かった……なっ!」
凍結した床に尻餅をつく緑谷に士は一瞥する同時にどこから取り出したかライドブッカーを通路の奥に向けて弾丸を数発打ち込む。
息も白くなるほど冷え切った建物内で銃弾が跳ね返る音がむなしく響いた。
「……いるんだろ? 出てこいよ。」
「っ、まさかもうここまで⁉」
「──チッ、あの野郎半端なことしやがって。こいつらなんざ俺一人で十分なんだからよォ!!」
突然の発砲と士の言葉に何が何だかついていけないでいる緑谷を裏に舌打ちとともに通路の先から爆豪がその姿を現す。
見るからに相当イラついているらしく叫びとともに両手の掌から小さな爆発を交互に散らしている。奴の腕が若干凍っているところからも十中八九連携は取れていないと見て間違いないだろう。
「爆豪……ここまでお一人様か?」
「あン? ンなもん当たり前だろうが。 あんなすまし野郎と連携なんざ死んでもゴメンだ!」
「成程な。お前の読み通りになったな、出久」
「そうだね……」
緑谷は言葉を返し立ち上がるとそれと同時に爆豪に掌から出る爆破がピタリと止む。
二人はまさか凍って気絶でもしたかとじっと見つめるも、次の瞬間先ほどとは比べ物にはならない規模の爆破が起き数mほど距離があるもその迫力に緑谷は思わず後ずさりした。
爆豪は顔を下に向けたまま一歩、また一歩と爆破の熱により溶けた氷の上を進み二人の下へと近づいていくも途中で動きをピタリと止めた。
「本当に短気らしいなお前」
「かっちゃん……?」
「……デクが俺の行動を読んだって? ハッ……
「笑わせんじゃねェよォ!!」
刹那静寂となった空間に爆音が響き爆豪が拳を緑谷へと突き上げる。
ねこだましの如く素早い攻撃に緑谷は爆破の光によって目を眩ませながらも突き出された拳をなんとか回避する。
だがじゃんけんの後だしのようにその拳から発せられた爆破によって真横の壁へと叩きつけられ、緑谷の全身に鈍い痛みが走る。
「がはっ……」
「さっさとトドメさしてやらァ!!」
叩きつけられたダメージで床に倒れるこむ緑谷に向け爆破が迫る。
爆豪の腕が緑谷へと達する――地下から映像を眺める誰もがその光景を目にしここまでかと考えた。
けれどその攻撃が緑谷の身体に触れようとした瞬間爆豪の身体はふりこのように通路の奥へと吹き飛ばされた。
「ッ!? 一体何が……」
爆豪は飛ばされながらも空中で姿勢を立て直すと爆破によって勢いを殺し着地する。
腕にしびれを感じながらも通路の先、緑谷の居る場所を爆豪が見るとそこには
「俺を忘れてもらっちゃ困るな」
「てんめェ……!!」
「ごめん、助かった!」
剣先をスッと撫でるように触る士を爆豪は歯をギリギリ噛みしめながら睨みつける。
その後ろで緑谷は若干ふらつきながらも笑みを見せ立ち上がった。
「今の不意打ちはもう通じないぞ。2対1でこっちが優勢だがどんな気分だ?」
「……悪くないぜ?どうであろうと俺が最強に変わりは無ェ。それにお前の後ろの奴はただのお荷物だからよォ! なァデク!!」
「僕は……勝つよ」
「アァン!? お前はどうあがこうと俺には勝てねェ! そいつに助けてもらわなきゃぶっ倒れてたお前が俺に勝てるわけねェんだよ!!」
緑谷の小さな声に対して爆豪は更に声を荒げ、緑谷の身体はピクリと跳ねる。
恐らく幼少期のトラウマなのだろう。足は生まれたての小鹿のように震え風が吹けば倒れてしまいそうだ。
だがその目だけはまっすぐ、そらすことなく『敵』である爆豪のことをしっかりと見据えていた。
「てめェも正直になれよ。こんな雑魚がチームでキツイってよォ! 今だって完全にお荷物になってたしなァ!」
「……ッ」
「こいつは雑魚なんかじゃないさ」
身体を震わせる緑谷を見て嘲笑う爆豪のその笑いを遮るように士は言葉を返す。
その声は普段よりもやや大きく、そして力強いものだった。
「だったら何だってんだ! こいつがお荷物以外の何だってェ⁉」
「門矢君……」
爆豪は怒声を吐くとともに八つ当たりのように壁に爆破を伴う拳をぶつけ始める。
その爆破の衝撃はビルを小さく振動させ、灯りは点滅を繰り返し窓は強風に煽られたようにガタガタと音を立てて震えている。
目の前の男が自分の思い通りの動かないことに爆豪は苛立ちを見せるも数発ぶつけると少し冷静になったのか荒い呼吸のまま手を止め静かに士のことを睨みつけた。
「ハァ……ハァ……言えよ。出来損ないのデクに一体何が出来るってんだァ!?」
「こいつはお荷物でも雑魚でもない。こいつは……こいつは……!
「ただのオタクだ」
「……えっ?」
「……はァ?」
(えっ……)
緑谷はおろか爆豪までも息を吞んで待った士の言葉に両者とも思わず間の抜けた声を出す。
それは地下にて唯一音声を聞いているオールマイトも同じ反応だった。
「それに人見知りで女子に対する耐性はゼロ、おまけにネガティブだ。これぐらいはわかったさ、大体な。」
「……なんかボロクソ言われてる気がするんだけど」
「――だが、こいつは勇気を持ってる。強い心がある。誰かのために動こうとする力がある。それは何も誰かを傷つけたり敵をぶっ飛ばす力じゃない。自分の身を賭してもいい、誰かのために一歩を踏み出す……そんな覚悟がな。お前には……あるか?」
「てンめェ……!」
「門矢君!!」
士は横に立つ緑谷にフッと笑いかけると目先に立つ爆豪を睨みつける。
その男はもう既に怒り沸騰と言わんばかりに地面を何度も殴りつけ、鬼のような形相で士を睨み返していた。
「さっきから勝手なこと言って馬鹿にしやがってよォ……! 一体何様のつもりだ!!」
「通りすがりの仮面ライダーだ。覚えておけ――変身!」
【KAMEN RIDE…DECADE】
ドライバーにカードが差し込まれ士の姿がマゼンタカラーのディケイドの姿へと変化する。
それを見て爆豪は睨み続けながらもギラギラと歯を見せた笑みを浮かべた。
「それだよそれ……それを待ってたんだよォ!!」
「待たせて悪かったな……行くぞ!」
ディケイドが言葉を言い切る前に駆け出すと同時に爆豪も爆破の反動を使い互いに敵に向かい飛び出す。
両者の間合いは瞬時に詰まり、爆豪が士の目の前まで近づくと腕を前へと振りかざし爆破を放つ。
生身の人間であれば火傷は免れないその一撃をディケイドは地を滑るようにスルリと躱し背後に回るとそのままブローを繰り出す。
自らの爆破により視界を狭めてしまった爆豪はその拳を避けることは出来ず爆豪の身体は宙に舞った。
「チッ、一旦距離を……」
「今だ出久!!」
「はぁぁぁ!!」
痛みに顔を歪めながらも爆豪はディケイドから距離を取ろうと腕をディケイドの方へと向ける。
だがその瞬間がら空きとなった背中に向けて緑谷は腕を大きく振りかぶり拳を繰り出す。
何の技術もないものの無防備の場所に繰り出されたその渾身の一撃は爆豪の不意を完全に突き、そのまま爆豪の身体を地へと叩き落した。
「で、デクッ…!」
「僕だっていつまでも出来損ないの”デク”でいるつもりは無いぞ!!」
「ッ~~!!調子乗ってんじゃねェ!!」
意識外の攻撃によるショックから身体をがくがくと震わせながらも爆豪は立ち上がると今度は緑谷に向かって飛びかかる。
繰り出すは爆破を伴う右腕の大振り、ラリアット。
その一撃を食らえば緑谷は今度こそ脱落してしまうかもしれない。
だが緑谷は
背をピタリと爆豪の身体へとくっつけ腕を掴むと持てるパワーと勢いを使って爆豪を地へと叩きつけた。
もしこれが柔道なら一本で決着が着く……けれど流石は次席、雄英に評価されたそのタフネスさは群を抜いておりすぐさま爆豪は転がりながらも無理矢理緑谷との距離を取ると深く息を吸いこみ呼吸を整え始めた。
「すぅ……はぁ……クソッ! あの野郎が寒くしたせいで調子狂うじゃねェか!」
「寒いんだったら暖めてやろうか? 生憎火加減は保証できないがな。」
ライドブッカーから銀の竜戦士が映し出されたカードを取り出しディケイドは爆豪に言葉をかける。
新たなカードの存在に爆豪は唾をごくりと飲み、戦闘の様子を見る生徒らも食い入るように見つめている。
だがそんな二人の間を緑谷は割って入ると背後のディケイドに向けて声をかけた。
「先に行って門矢君! タイムリミットがある以上二人ともここに留まるのは得策じゃない。それに――僕がかっちゃんと戦いたいんだ。それも自分一人で」
「出久……」
「さっきはありがとう。けど助けてもらわなきゃ戦えない……そんなヒーローになりたいんじゃない。たくさんの人をこの手で救える…そんなヒーローになりたいんだ。」
「…なら先に行ってるぞ。そいつの相手は任せた。」
「うん! ここは任せて!」
何様だって話だけど、と緑谷は苦笑しながらもそう告げる。
二人の連携により爆豪はダメージを受けているものの持ち前のタフネスに爆破を用いることで受けるダメージを和らげておりまだその顔には余裕がほんのわずかだが残っている。
対して緑谷は初手で受けた爆破を受け身なしでもらったため攻撃を受けた回数こそ爆豪より少なけれどその顔に余裕などはなかった。
センスも機動力も個性の使い方も爆豪の方が上。唯一瞬間の爆発力だけは上回るだろうが屋内である以上それも十分には発揮しきれない。おまけに爆発力を生み出すその個性は諸刃の剣であるため乱発なぞ出来ない。
ここで却って緑谷が捕まれば形勢逆転で1対2。多くの者がこの状況を見れば出久に勝ち目はほぼないと残って戦うことを選ぶだろう。
けれど士は先を進むことを選んだ。彼の心の強さに賭けたのだ。
「おい!逃げんじゃねェよバーコード野郎!!」
「悪いけどかっちゃん、君は僕が倒す!」
「チッ……上等だ! どうせ二人とも潰すんだ。てめェから潰してやるよ!!」
爆破の音を背にディケイドは階段を駆け上がり進んでいく。
『核』が置かれた場所の探し方が問題だったものの階層を上がっていく毎に冷気が増していき、最上階にある一部屋の扉が意味深に開かれており『核』がどこにあるかは明らかだった。
冷気が漂い床はおろか壁は凍り天井のはつららが出来たその部屋に士は入ると『核』を囲むように氷柱が何本もそびえたち、その前に1人の男が左手に炎を宿し立っていた。
「よう、待たせたな番人。」
「てめぇが来るのを待ってたよ。」