敵襲撃事件の翌々日。
緑谷は士らと普段待ち合わせをする場に向かい一人歩いていた。
空は自分たち雄英生が命を狙われたということなど知る由もないといわんばかりの快晴で澄み切り、人々も多少のざわめきを残しいつもの生活が送られていた。
「昨日の休みで整理出来るかと思ったけど……やっぱり無理だなぁ」
緑谷は浮かない顔でため息を吐く。
先日の敵襲撃で生徒数名が怪我を負ったほか、教師二名も大怪我を負った。
敵の追撃とカリキュラム調整、生徒の心身のリフレッシュを考慮し昨日は急遽休校となったのだが……憧れであり現役ナンバー1ヒーローであるオールマイトと互角に渡り合う巨体敵、士と戦いながらも余裕を見せる謎の敵。そして何より到底予測など出来ない自身の身に起きた出来事が雪崩のようにやってきたのである。緑谷にとってそれらは24時間程度時間が空いたからと言って整理出来るものではなかった。
「あの炎は一体……」
緑谷は自身の拳を見つめ握りしめる。
オールマイトを救いたいという一心で拳から溢れた炎。ぼやけながらもあの時手にしていた剣のような何かは一体何だったのか。あの後いくら念じても炎は1ミリも出ることはなく、襲撃時の映像が残っていないこともあってまるであの時の炎は幻覚だったんじゃないかと思えてしまう。けれど緑谷は感じていた。あの時、自分の中にワンフォーオールとは異なる何かが躍動していたのだと。
「父さんが炎を吹く個性だったから……ブツブツ……まさか僕自身の個性が発現した?……ブツブツ……待てそんな都合の良いことあるか? 無個性と診断されている以上僕の個性じゃ……」
緑谷は相変わらずの調子でブツブツ喋りながら歩いていく。
緑谷出久は母子家庭で育ったというわけではなく、彼の父親は今海外で単身赴任中である。そんな父親の個性を受け継いだのか、はたまたワンフォーオールの継承で化学反応的な何かが起こったのか
USJ事件の後、保健室で僅かばかりオールマイトと
今が朝で制服を着ていることで通報されずに済んでいるが、これが夜で制服でない場合間違いなく不審者扱いをされ警察のお世話になっていることだろう。
彼が醸し出す空気に周りは歩く大人はおろか、幼稚園児くらいの子どもでさえ楽しそうに会話をするのを止め緑谷のことを不思議そうに見つめている。そんな中だった。
「――すごいなこれは、最高だ!」
「ハハハ、ここまで食い入ってうちの物見てく奴は初めてみたよ」
朝の園児や学生が登校するも会話が無く静かな通行路に突如賑やかな話声がする。
ブツブツ考え事をしていた緑谷も環境の変化にハッとし、その声の方へ目を向けるとそこには少々レトロチックなお店の前の机に座す一人の老人と独特の装いをした男性がいた。
「さっきの『芽リオ』という奴も中々面白かったがこの『騎士伝説』というのは最高だな! この『氷山登り』というのも面白そうだ……やってみても良いか?」
「いいさいいさ、このゲーム屋も老後の楽しみとしてやってるもんだからね。若いからお年寄りまで好きなだけ」
「悪いな、ありがたくいただこう」
男は店主の了解を得てお菓子を口に頬張り、顔を綻ばせる。整った顔立ちに長身を持つ男がまるで初めてお菓子を食べたかのようなその様子は何とも不思議に見える。
「それよりだ兄ちゃん、アンタどっから来たんだい? 布切れみたいな恰好して……まさか海外の戦争から逃げてきたとか?」
「別にそんなことはない。これは俺が以前より着る服だが……何か変か?」
「そうさなぁ、時代遅れっていうかそれこそ前世紀くらい――「おい、これは何だ?」――えぇ? そら儂のスマートフォンさ」
男は机に乗っていたスマートフォンを手に持つと日にかざしてみたり、指で叩いたりする。画面が光り、その光に目を窄める様子や画面に自分の顔が映り驚くなどその光景は現代社会において異様なものだった。
「スマートフォン? この四角い板がそのスマートフォンなのか?」
「そうよ、兄ちゃん面白いなぁ。テレビ見て驚いたりお菓子見て驚いたりと見てて飽きんよ。お笑い芸人とか目指してみたらどうかい?」
「お笑い芸人……? よくわからないが俺には世界を守る――――」
「あの人から何かを感じるような……どこかで会ったかな?」
「――君、デク君!」
「わぁッ!?」
緑谷がその男と何か繫がりを感じながらじっと見つめていると身体を揺さぶられ意識が浮上する。
突然のことに緑谷はハッとしながら横を見ると怪訝そうな顔を見せる麗日の姿があった。
「お、おはよう麗日さん」
「やっと気づいてくれた……朝からぼーっとしてたら危ないよ?」
「あはは……ごめん、僕は大丈夫」
「そっか。多分門矢君も待っとるだろうしはよ行こう!」
思い返しても彼と今までに会ったことはない。きっと何かの気のせいだろうと自分の中で結論づけると麗日の言葉に緑谷は頷き、二人はその場を後にし元の日常へと戻っていった。