次くらいには本筋に戻ります、はい。
「ゲホッ、ゴホッ……あぁ痛ェ……!」
『こりゃまた手酷くやられたな。死柄木弔』
炎に腕を焼かれながら死柄木たちが黒い靄のゲートをくぐった先は薄暗いバーだった。それも無人であるのに声まで聞こえてくる。言葉だけ聞けば廃墟のそれだがきちっと整理整頓清掃はされており死柄木と黒霧は驚く様子もない。こここそが彼らの秘密基地なのである。
「お~、お帰り。無事か心配してたんだぜホントに」
「エボルト……普通あの状況で俺らおいて逃げるかよ……」
「悪かったって……この通り反省してるじゃねぇか」
「チッ、せめてこっち向いて言えよクソ野郎」
先にスタコラ退散したエボルトに死柄木は殺意を込めた視線を送る。されどその視線は弱弱しくエボルトは気にも留めずに勝手にバーの棚の酒を拝借してグラスへと注いでいた。
弱弱しいのもその筈、USJ襲撃は失敗に終わった。潰せたのはプロ2人。目的のオールマイトはおろか生徒一人殺すことができず、却って負傷を負わされ退却したのだ。
今すぐにでも壊して発散した感情が自由に動くことのできない死柄木の中で黒く渦巻いていた。
『ほっほっほ、仲が良いようで何よりじゃ。それで? ワシと先生の合作……脳無はどうした?』
「申し訳ございません。撤退が精一杯で回収まではとても……」
『あれは手を掛けてオールマイト級にまで仕立て上げた正に一級品だというのに……』
『まぁまぁドクター。今回の件は彼にとってもいい勉強になっただろうし良しとしよう。いたずらに力を振り回すだけじゃ意味は無いってことをさ』
2つの砂嵐しか映さない画面が互いを慰め合う。そんな奇妙な光景が目の前で繰り広げられる。やがて会話が途切れたところで話を切り出したのはエボルトだった。
「あー……なぁ約束は守ったんだ。例のアレを渡してくれよ」
『はて? アレとはなんじゃったかな?』
「おいおい……遂にボケが始まっちゃったか? こいつ介護が必要なんじゃないかボス?」
『彼はまだまだ現役さ。……黒霧』
「はい」
黒霧はバーのカウンターに回ると黒のアタッシュケースを取り出し机の上に乗せる。複数のロックを解除し蓋を開けたそこに入っていたのは小型の時計のようにも見える円形の機械だった。
「それだよそれ! そいつが無いと俺なーんか調子が悪いんだ」
『それは気の毒に……けど、これはまだ返すことは出来ないんだ』
『オールマイトを殺す、或いはオールマイトに精神的なダメージを与えること……これが約束の条件じゃったからな』
「オールマイトねぇ……」
画面越しに語られる一般敵なら震え上がるような条件を聞いてエボルトは鼻で笑い肩をすくめる。
「だからってあんなイレギュラー相手にしろなんて聞いてないっての。部下の努力を認めてやるのが良い上司ってもんなんじゃないかね?」
『しっかりとした契約の下やってるんだ良い上司だろう? 死柄木は見ての通りまだ幼い。君にはしばらく彼の手助けをして欲しい。彼が数段成長したその時には……このウォッチを渡すと約束しよう』
「今までの条件をクリアしても契約達成……で良いんだよな?」
『勿論だとも。僕は約束を守る男だよ』
「りょーかい。じゃ俺はしばらくお暇させてもらうとするよ」
そう言ってエボルトは腰に巻き付けていたベルトを取り外すと手をひらひらさせて簡単な別れを告げ店を後にしていった。
「さ、死柄木弔。治療をしますからそこのソファに横になってください」
「……ああ、頼む。クソ痛ェ」
「では、お体に触りますよ……」
『エボルト……彼は本当に危険で面白い。あれで本来の三分の一しか力を持っていないというんだからね。そのウォッチとやらに力が封印されてて良かったよ』
『ま、これを渡してきた鳴滝たちも想定外のブツだったらしいがな。本来なら触ることすらせず、奈落へと捨て去る予定だったらしいが』
『詳しい話はまた彼らに聞くとしよう。今は他のウォッチの研究も進めなくてはいけないからね』
『そうじゃのう。脳無とは別の先生との共同研究……ヒヒッ! 胸が高鳴るわい!』
そこはどこかの国の、どこかの町の、どこかの建物にある薄暗いバー。客一人いないそんな場所で奇妙な2つの画面が不気味な笑いを挙げていたことを知る者は死柄木たちを除いては誰もいなかった。