八木達によって合格の報せを受けてから数週間が経過し、季節は桜舞い散る春。
穏やかな陽気に包まれ多くの人々が新たな装いやこれからの展望に心躍らせる中、門矢士もまた
新たな服装に袖を通していた。
「今日はいよいよ入学式か。
厄介事に巻き込まれず過ごしていければ良いんだがな。」
士はそう言いながら過去に旅してきた時のことを思いだす。
思い返すは山の奥だろうと学園だろうと所かまわず襲ってくる敵、そして起きるトラブル。
そんな記憶を思い出し、どうせ今回も楽にはいかないとため息を吐くと扉を開き雄英へと向かっていった。
「君!入学初日だというのになんだその着崩し方は!
雄英生たるもの身だしなみはきちんとしたまえ!」
「別に俺の勝手だろ…」
「うるせぇぞ眼鏡!
お前も調子乗ってんじゃねェぞ、この端役が。」
「…はぁ。」
朝っぱらから教室の一角で繰り広げられるあまりの騒々しさに空を仰ぐ。
士は道中事件や事故に巻き込まれることも、単純に遅刻することなく教室にたどり着いたのだが
教室内に入った途端目の前の男二人に目を付けられてしまったのである。
やはり門矢士という人間は何かとトラブルに巻き込まれる、そんな星の下に生まれた人間なのかもしれない。
「第一、ネクタイはどうしたんだ君は!
指定されたものをつけるように書類にも書いてあっただろう?」
「ネクタイは性に合わん、邪魔なだけだ。
別にそんな気にすることでもないだろ。」
「へぇ、モブの割には良いこと言うじゃねェか。
クソ眼鏡よりはまだマシみてェだな。」
「その代わりに飯田、コイツのことはいくらでも叱ってくれて構わん。」
「撤回だ、クソモブ…。
ブッ殺ス!!!」
「やめないか君たち!!」
怒り心頭となり目をギラギラとさせる片方の男が士へ飛びかかろうとするのをもう片方の男、飯田が止める。
入学早々険悪な雰囲気に教室はざわめき立つもガララと扉が開く音にその雰囲気は流れ、皆の視線は音の方へ集まる。
そこに立っていたのは緑の髪に頬にそばかすのある男、緑谷出久の姿だった。
教室に入った途端に皆の注目を浴び、しどろもどろする緑谷を二人が見ると興味の矛先は士ではなくなったらしく
その場は無事に収まり士はほっと一息を吐く。
「おはよう!
俺は私立聡明中出身飯田天哉だ、よろしく!」
「お、おはよう!
僕は緑谷。よろしくね飯田君。」
「ああ。
…君はあの実技試験の構造に気づいていたのだな。
僕は全く気付かなかった、君を見誤っていたよ…。」
「え?」
「おいデクゥ‼
今、俺は虫の居所が悪いんだ…ぶっ殺す‼」
「えぇ!?」
「あ、そのもさもさ頭!
入試の時助けてくれた地味目の!」
「わぁ!?」
(随分とまぁ…賑やかなもんだ。)
緑谷を中心に展開されるその光景を見て端的な感想を心に思い浮かべながらある光景をそこに重ねる。
それはとある王を目指す者とそれを阻止しようとする男、成り行きを見届けようとする女と王の臣下であった者らが愉快に過ごす光景。
それほど深く関わったわけではないが、あれほど濃いメンツは中々忘れられるものではない。
「ま、性格は違い過ぎるがな。」
「何か言った、えっと…門矢?」
「なんでもない、気にするな。」
耳がプラグのようになっている女からの問いかけに士はそう答え、以前に撮った写真を眺める。
そこにあったのは共に戦った彼らの姿が映っていた。
けれどきっと
そんな姿をいずれ撮りに行くのも悪くない。
そんな風に士が考えに耽っていると教室へ新たな人物が訪れていた。
「はい、静かになるまで10秒かかりました。
君たちは合理性に欠けるね。」
「…先生?」
制服でもスーツでもなく、黒いタイツのような服に首にくすんだ鼠色の包帯に見える何かを巻き付けている男の登場に
教室はざわめく。
雄英高校においてはプロヒーローが教壇に立ち、授業を行っていくのだが目の前のくたびれ気迫のない男の姿はおよそヒーローと思えるようなものではなく
この場にこのタイミング現れた以上教師なのであろうが、周囲はもちろん知識豊富な緑谷ですら雄英の教師なのか確信を持てずにいた。
その男は士を一瞬見ると教室内の生徒らの方を向き口を開く。
「担任の相澤だ、よろしくね。」
「「「担任!?」」」
学校内でなければ不審者に勘違いされてもおかしくないような風貌の男からのカミングアウトに
皆が驚きの声を上げる。
そんな中、士だけは冷静にある男の言葉を思い出していた。
――時は少し遡り相澤と八木が合格を士の下に伝えに来た日。
相澤と八木がその報告を終え、マンションから去っていくのを士は見届け扉を閉めようとしたその時、
扉を閉めさせまいとまるで野球のベースへのスライディングかのように八木が地面を擦りながら士の下へ滑り込んできた。
そのスピードに士は一瞬目の前の男がマッシブに見えたが、再度見直すと変わらぬ痩せた細った姿であったので気にすることなく扉を再度開き玄関まで招きいれた。
『どうした、忘れ物でもしたか?』
『済まない門矢少年!
一つ伝え忘れていた!』
『伝え忘れ?
受験結果やら書類やらについてはさっき聞いたが…他に何かあるのか?』
『ゴホゴホッ、いや…実はだね。』
八木が突如動いたからなのかしばらく激しく咳こむも、次第に落ち着き深呼吸をすると士にあることを伝えた。
それはこれから雄英生となる士に向けたとある
『もし君が相澤君のクラスの生徒になった場合、気を付けた方が良い。
雄英システムは常軌を逸する。特に彼の場合去年請け負った生徒は初日に皆”除籍処分”となっている。
あの敵を倒した君なら問題は無いと思うが…』
(あの言葉通りなら…今日、
生徒を在籍させるか否か振り分ける何かが。)
相澤の方を見るもその表情は変わりなく無表情のまま精力を失ったかのような顔をしており、
その様子から今何を考えてるのか全く見当もつかない。
わかるのはこの後に何かやばいイベントが待ち受けているということのみだ。
「早速だが、
相澤は寝袋から雄英指定のジャージを取り出し皆の前に掲げる。
入学式だなんだと考えていた生徒たちには何が何やらわからず、
誰一人ピクリともその場から動かない。
「え、入学式は制服で体育館でやるんじゃ…」
「時間は有限だ。
先に行ってるから早く来い。」
相澤の指示の意図が読めず生徒の一人が疑問を呈するも相澤はそれを聞く耳持たずといったように、
華麗にスルーを決め教室を後にした。
動揺がクラス全体に広がる中、皆の注目を得ようと飯田が教壇に立つ。
「先生の指示なんだ。
きっと何かプログラムの変更でもあったのだろう。
先ほどもあったように時間は有限、迅速に行動しよう‼」
飯田の堂々とし迅速に行われたその行動は功を成したか、クラスの動揺は収まり各々体操服へと着替え
グラウンドへ向かっていく。
飯田の指示の下皆が列になってグラウンドに向かっていく途中、隣の緑谷から声をかけられた。
「えっと、門矢君!」
「お前は…何か用か?」
「グラウンドに行くまで話でも、と…
あ、僕の名前は「緑谷出久」――え?」
名前を先に言われたことに緑谷は驚きの表情を見せる。
そんな緑谷の様子を気にも留めず、士は自身の手の爪を眺めながら言葉を紡ぐ。
「何をそんなに驚いてるんだ?
緑谷出久、それがお前の名前だろ。」
「それはそうだけどどうして僕の名を?」
「…クラスのことは大体わかってるからな。」
「そ、そっか。
じゃあ聞きたいことがあるんだけど…」
緑谷はあまり腑に落ちないもこれ以上追求しても意味は無いと判断したのか、新たに話題を振る。
それは緑谷の幼馴染である爆豪についてのことだった。
「かっちゃん…じゃなくて爆豪君が門矢君のことスッゴイ顔で睨んでたんだけど、もしかして知り合いだったりするのかな?」
緑谷は修羅のごとき面を下げた爆豪の顔を思い出し、震えながらにして士に問いをかける。
それはおよそヒーローを目指すものとして顔ではなく、きっとナンバーワンヒーローであろうと思わず「やべぇ」と呟かせるものであっただろう。
「今日初めて話したが…それがどうかしたか?」
「僕、一応彼の幼馴染なんだけどあんな顔今まで見たことなくてさ。
教室入った途端物凄い表情だったからびっくりしちゃったよ…。」
「あの自尊心の塊みたいなやつと緑谷は幼馴染なのか…
高校まで一緒とは同情するよ。」
「はは…」
士の発言に緑谷は恐る恐る後方で歩く爆豪の方を見るも、彼の様子は変わりなく話の内容も聞こえていないようでそっと胸を撫でおろすと
渇いた笑みを返す。
それから他愛の無い話を大してしないうちにグラウンドへと士たちはたどり着いた。
「1-A組、全員揃いました!」
「結構。では今から君たちにはあることを行ってもらう。
主席の爆豪、前に出てこい。」
滑走路かのような広大な敷地に1人立っていた相澤は全員揃ったことを確認すると爆豪に出てくるよう言い、
”主席”というワードを聞いてか爆豪はニヤリと口角を挙げながらズカズカと前へ出ていく。
その様子は”俺がトップだ”と言わんばかりの有り様である。
(あいつが主席かよ…)
「爆豪、お前には
中学の時のソフトボール投げの記録は?」
「…67m。」
「じゃ”個性”ありで投げてみろ。その円の中だったら何しても良い。
早よ、思いっきりな。」
相澤の指示に従い爆豪がグラウンドに書かれた円の中に入り、軽くストレッチを始める。
グラウンドの果てを見据えるその顔には既に笑みは消えていた。
ストレッチを終え爆豪はピッチャーフォームの姿勢を取り腕を頭上へと挙げる。
「何してもイイって言うンだったらよ…球威に爆風を乗せて…
爆豪の叫びとともにその場に爆発が起き、ボールは火を纏い空を切って空高く飛んでいく。
突然の暴言と間近での爆発に皆が声を失う中相澤は顔色一つ変えずスマートフォンの画面を一瞥すると士たちにその画面を向ける。
「まず自分の戦闘力を知ること。
それこそがヒーローの筋を形成する合理的手段だ。」
『700m』
「「「「おおォォ――!!!」」」」
スマートフォンに映し出された今まで行ってきた授業やテストでは到底だせない数値に生徒らは沸き立つ。
「700mとかバグかよ!」
「個性使えるなんて流石ヒーロー科!」
「何コレ、超楽しそう‼」
生徒らは口々に感想を述べ、盛り上がりを見せる。
その姿は玩具を前にはしゃぐ子どもの姿そのものであった。
そしてその姿や言葉は相澤の地雷をことごとく通過していく。
「『楽しそう』…か。
君たちはそんなつもりで3年間過ごすつもりなのかな?」
相澤の言葉に盛り上がりは一気に冷め、静寂に包まれる。
その光景を見てか今まで無表情であった相澤の顔に不気味な笑いという彩りが生まれる。
その笑みを浮かべたまま相澤は言葉を発する。
「よぉし、このテストの総合成績で最下位を取った者は見込み無しとして…除籍処分としよう!」
「「「ええェェ――!!?」」」
相澤の言葉に生徒らは雷に打たれたかのような驚きを見せる。
除籍処分というワードは憧れの雄英に入学し新生活に期待溢れる生徒らを絶望という地の底まで引きずり下ろすものに違いなかった。
横暴だと抗議の声が上がるも相澤は相手にせず話を続ける。
「ヒーローを目指すなら入学式なんて悠長なことはやってられないし、こんな困難だって乗り越えなきゃ。
さらに向こうへ、Plus Ultraさ。」
(成程。これが
ヒーローとは数々の受難を乗り越えていく者。
その第一の篩を前にして各々が反応を示す中、士は不敵な笑みを浮かべていた。
もし何か「士のしゃべり方は~」など改善案や提案がありましたら活動報告にコメントいただけると幸いです。