どこにでもある田舎で起きた、忌まわしい昔話
――― とーりゃんせーとーりゃんせーこーこはどーこの細道じゃー ―――
―――………懐かしい夢を見た。子供の頃、近所に住む友達とやった遊び。道に1本の線を引いて、その上を真っ直ぐに進む。モテル歩きのようなその足の運びは、実は難しい。隣の家の女の子は上手で、頭の上に蜜柑を乗せて自慢げに歩いていた。誰かが歩く時に、童歌『通りゃんせ』を歌う。山の中腹にある故郷では今でこそ電気やガスがあるものの、僕が小さかった時はゲーム機なんてものはなくて、毎日外で遊んでいた。そんな僕も高校生となり、都会の高校へ通うため都心で一人暮らしを始めた。慣れない都会で今も何とか生活している。
盆の時期になり、実家に里帰りすることになった。「サトル〜!」聞きなれた声に振り向く。母が駅まで迎えに来てくれていた。数ヶ月しかたっていないのに…少し老けたように見える。「よく来たわね、サトル。向こうでの生活は大丈夫?高校にはきちんと通えてる?仲良いお友達はできたの?」近づくなり質問攻めである。「まぁまぁ、学校のことや向こうのことは家に帰ってから話すよ。それより、父さんは?メールじゃ父さんが迎えに来てくれるって書いてあったけど…」「あぁ、お父さんなら車よ。そういえば置いて来ちゃった〜さ、行って顔見せてあげなさい」僕が住む村には駅はおろかバス停もない。住人は麓の町まで車で移動する。久しぶりに会った父もやはり老けて見えた…都会の人の方が若く見えるのか? 両親に向こうでの生活を話しながら家に向かう。見慣れていた山道は何一つ変わっていなかった。家に着いて、部屋に荷物を置き居間へ向かう。両親と祖母が待っていた。「ただいま、ばーちゃん」ばーちゃんは皺のある手で僕の頭を撫でる。「よぅ帰ってきたねぇ。ゆっくり休んできぃ。」うんうん、と頷く祖母に返事を返しながら父に墓参りの時間を尋ねる。「そうだな…今日はもう夕方だし、明日の昼にでも顔をだすか。」都会からここに来るまでで半日以上かかっていた。「わかった。じゃあ今日は疲れたしゆっくりするよ。」「あの…サトル…わかっているとは思うけど…」母がこちらを見て言う。「うん、大丈夫。ちゃんと早く寝るよ。」僕が生まれた村には掟のようなものがある。簡単な事だ。『お盆の間の夜は早く寝て遅く起きる』これだけのこと。小さい頃からこれだけは守れと言われてきた。僕からしたら、たっぷり寝れて早起きしなくてもいいのだからむしろ毎日これでも良かった。そんなことを言うと、母は笑顔で「サトルはいい子ね」と撫でてくれた。
夕飯を食べ風呂も済ませて、布団に入る。時刻は21時。あたりはもう暗くなっている。どの民家でもぼちぼちと明かりが減っていた。毎年の光景を見ながら微睡み、やがて目を閉じた。奥の部屋から父のいびきが聞こえてくる。家の人もみんな寝た。僕も寝よう…そう思ったのはもう夢の中だったかもしれない。
―――――目が覚めた。あたりはまだ暗い。急いで時計を見ると、夜中の2時。起きてしまった。早く寝直そう。そう思って目を閉じた。が、1度起きるとなかなか眠れない。適当に考え事でもしてるか…そう思った矢先。カチッ…何かが落ちる音がした。驚いて目を開ける。視界に入ってくる光景は先程と何一つ変わらない。夜目が効くことが自慢な僕の目は、薄暗い部屋を映していた。気の所為か…そう思ってまた目を閉じる。カチッ。まただ。気の所為じゃない。何かが落ちている。何か、硬いもの。石と石がぶつかった音に似ている……石…?ふと、記憶の中に引っかかったものがあった。どこかで聞いた事がなかったか。石が落ちる音がする話。昔聞いた話。昔…なら、この村で聞いたんだ。目を閉じ、思い出すために記憶の引き出しを端から開けていく。カチッ…カチッ…ぶつかる音は徐々に間隔が狭くなっていく。ふと、脳内にある光景がフラッシュバックした。小学生の頃の僕が祖母に話を聞いている。あぁ…そうだ…思い出した…この音は―――
――「ねぇ、おばーちゃん、どうしてお盆の夜は早く寝るの?」幼い僕が聞く。「そうさねぇ、坊にはまだ難しいかもしれないねぇ…」そう言いながらも祖母が語ってくれた話は、この村で起きた忌まわしい出来事だった。
…昔、祖母の祖母が子供だった時。今でこそ子供が少なく過疎が進んでいるこの村は、子沢山の家が多い農村だった。子供がいるのは跡取りがいることであり、神様からの贈り物である子供は大切なものだった。だが、都心からも遠く、農産物だけで日々の生活をする山の村では、多くの子供を育てる程の稼ぎはなかった。困り果てた村人達は、子供達を神様の元へ返すことにした。返すというのは言い訳で、実際には子供を殺して土に埋めるのであった。今でこそ犯罪だが、昔の、警官もいないような村ではそれができてしまった。村の内部のことなので捜索願なんかもない。クジで選ばれた不運な子供達は山の山頂にある小さな神社に連れていかれる。神社への道は1本しかなく、万が一子供が悟っても、逃げることは出来なかった。子供達は神社の敷地内で殺され、埋められる。神様に死んだ子供の飢えがバレぬように、子供の腹には石が詰められる。口減らしのために埋められた子供達は口減らし様、あるいはお口減らし様と呼ばれ、畏怖されていた。村の人間は成人と同時にその話を聞かされる。僕達が遊んでいた『通りゃんせ』はそのことを表し、それを聞いた大人達が自分たちの先祖がしたことの罪の重さを忘れないようにするためのものだった。
そして………そして、盆の時期の夜、埋められた子供達は帰ってくる。だから村の人間は『死んだように眠らないといけない』だから、坊もちゃんと寝るんだよ…祖母はそう言っていた――
―――あぁ、この音は…殺された子供たちが吐き出す、石の音だ…そう思った時には、体は動かなくなっていた。後ろから視線を感じる。父のいびきはいつの間にか聞こえなくなっていた。いや、本当はしていて、僕にだけ聞こえないのかもしれない。空気が冷えている。戸は閉めたはずなのに、どこからか冷たい風が流れ込んでいる。―――とーりゃんせーとーりゃんせーこーこはどーこの細道じゃー…―――か細い歌声が聞こえた。―天神さーまの細道じゃー…―今にも消え入りそうな声の主は少しずつ近づいてくる。声を出そうにも、出せない。何もできない。恐怖で頭の中は真っ白になっていた。気配で何となくわかる。もう、そこにいる…あぁ、手が伸びてきた……………
………
―――「サトル〜、サトル〜?朝寝坊してもいいとは言ったけど、もうお昼よ?今日はお墓参りに行くんだから、そろそろ起きてちょうだい!」そう言いながら部屋を開けた彼の母親は、目の前の光景に言葉を失った。そして次の瞬間、金切り声をあげた。崩れ落ち、泣き叫ぶ。彼女の目の前の光景は、なんとも無惨なものだった。剥がされた布団、横たわる息子。その腹は切り裂かれ、無数の石が詰め込まれている。そしてそのどれもが血で真っ赤になっていた。叫び声を聞きつけた父親と祖母が駆け込んできた。父親は言葉を失い、立ち尽くした。祖母は事を理解し、涙を流しながら「起きてしもぅたか…寝る時間が多かったか…?いつもは、そんなに寝てなかったか…?こんなことなら、帰って来させない方が良かった…」そう、絞り出した声で、もう言葉の聞こえない相手に問うた。このことはすぐに村中に広まり、村の代表者達が山頂の神社に向かった。神社の鳥居のその真ん中に血液でどす黒くなった石ころが積み重なっていた。
いかがでしたか?
『通りゃんせ』の歌の意味をだいぶ前に聞いたことがあってそこから物語を作ってみました。今これ書いてる時に外でバイクがブンブンいってるんですけど、何とかなりませんかね…でも無音は無音で書いてるこっちが怖くなります()
感想、誤字指摘、お待ちしております。