「じゃあね、Aくん」
「そうだな」
朝から偶々ヤンデレさんに会い、毎日一緒に登校している。本当に、高確率な奇跡もあるものだと感心する。
俺とヤンデレさんはクラスが違うため、一旦お別れとなる。今は高校1年生の冬なので、来る高校2年生では進路の都合上、ヤンデレさんとは偶然にも同じクラスとなる。
別れを告げ、教室に入り、椅子に座り、机にうつ伏せになる。
基本的に友達のいない俺は、高校に入学しても友達がいなかった。今ではヤンデレさんが該当するものの、クラスが違うため話すことはない。
しかも、ここ最近、幾分か風当たりが強くなったと思う。目立たないように過ごしてきたと思うが、何故だろうか。
「ふあぁぁ」
不意に欠伸が出る。おそらく、昨日、ヤンデレさんのチャットが3時頃から30分程続いたのが原因だろう。少々寝不足気味になるものの、大した影響もないのでそのままにしている。
休み時間は寝て過ごし、授業中は板書をする。この高校は成績に授業態度が大きく関係するため、授業中に眠るわけにはいかない。
例えば、テストが0点でも、ノートや態度が良ければ、ギリギリ進級可能である。そのくらいに授業態度の比率が高い。
「きりー、れー」
委員長が挨拶をし、授業が終了する。時計を見れば、12時を回っており、昼時である。
この学校に購買は無いため、学食か弁当を食べることになる。食べる場所はフリーなので、俺は弁当を持って東棟3階にある教室から、西棟3階にある廊下へと行き、誰もいないのを確認してから、窓から飛び降りる。
着地する場所は非常口の階段。下まで降りると不良が屯している。極悪というわけではないが、ちょっとした嫌がらせはされるので、下に行くのは危険だ。
それに、この階段はほぼ全てから死角になっている上、そよ風が吹くので気持ちのいい場所だ。
「遅かったね、Aくん」
「授業が長引いたんだ。仕方ないだろう」
また、ここはヤンデレさんと初めて会った場所である。普通の俺なら話しかけるのは避けるのだが、この場所にいるということは相当友達がいないことの証左なので、俺は勇気を出して話しかけた結果、今の友人関係である。
非常階段に座り、弁当箱を開けて食べ始める。
「Aくん、私の玉子焼き、あげる」
「なにか欲しいのか?」
「んーん、いらない」
「ちゃんと食べないと体、もたないだろう」
「作りすぎちゃったから、ね?」
「ヤンデレさんはいつも作りすぎてるよな。食材管理できるのか?」
「Aくんのためなら、問題ないよ」マックロハート
逆さまなハートを散りばめながら、微妙に噛み合わない会話をする。その名はスペ●ドならぬ、ヤンデレさんである。
まぁ、よく分からないが、玉子焼きをくれるそうなので貰っておく。と思ったら、ヤンデレさんはそれを持って顔に近づけてきた。
「あーん」
「…あーん、の需要は美少女か、ショタのみ有するものであって、俺のあーんに需要は――」
「え、私のあーんは嫌なの?」
「嫌だ」
「……え?」
「そもそも、あれは餌付けだ。恋人シチュでも、専ら男が女にやることが多く、互いにやるのは気に食わない。もちろん、あれも発展系とも言えるが、俺は美少女にやるということに重点を置いているため、それは受け付けない」
「……」
「…いや、これは俺の個人的な意見であって、別に押し付けようとしているわけじゃない。まぁ、あれだ。そういうのは、彼氏が出来たときにやるといい。俺は駅などで会うリア充どものバカな会話には、あれはサイフだな、乙乙、とか思っているが、ヤンデレさんはバカじゃないから、そういうのやっても邪魔は入らないだろうし、な」
「…あーん」
「………………あー」
俺は諦めた。やはり、どう言っても、そういう恋人シチュには憧れてしまう。例え、友人であろうと、美少女にやって貰うのは役得である。
アニメなどでしか見たことのない光景を目に映しながら、大きく口を開けて直方体の玉子焼きを頬張る。
あれ、意外と難しいな。あ、入った。……ちょっと、箸を退けてほしい。…え?なに、俺は口を閉じるべきなのか? 俺は関節キスを気にしないが、ヤンデレさんはそうじゃないだろう。仕方ない、ここは上手く、玉子焼きだけを噛んで、箸の安全を確保しなければ。…先手を打たれている。まさか箸を縦にしているとは…!これでは確実に歯と接してしまう。…あぁ、顎が疲れてきた。早く出して欲しい。
「口閉じて」
「ん」
「よろしい」
どうやら、ヤンデレさんも関節キスは気にしないタイプのようだ。
玉子焼きを噛み、そこから溢れる血の味。…鉄分が多めなのだろう。いや、もしかすると、包丁で手を怪我してしまったのかもしれない。
ヤンデレさんの手を見ると、絆創膏の貼ってある手を確認できる。
そして、何故かゴワゴワする食感だ。玉子焼きを作るのが下手なのだろうか。形はきれいなのに、珍しいこともあるものだ。
俺も料理は出来ないが、玉子焼き程度ならできる。料理を教えるのも吝かではないな。
「ん///」
「どうした?」
「ううん、何でもない」
「そうか」
冬の外であるのに、ヤンデレさんは顔が紅潮し、どこか苦しそうである。
倒れないかを気にしながら食べていると、ヤンデレさんはまだ手を付けていない弁当箱を持って立ち上がった。
「私、食べ終わったし、次の授業、体育だから先に行くね」
「え、あ、じゃあな」
確か、ヤンデレさんのクラスは物理じゃなかっただろうか。
ヤンデレさんも立ち去り、一人で弁当を食べ、階段を降りる。この学校は授業に出ているだけでも成績が上がるので、不良と言えど授業時にはクラスにいる。そのため、階段の下には不良達はもう居らず、教室へと直行できた。
その後、物理の教科書をヤンデレさんに貸した。