※過去※
「・・・・・・ゲホッッ・・・ごめんな、アドル。母さんはお前を最後まで育てることが出来なそうだ。ホントにごめんねぇ。・・・はぁ~こんなことになるんだったらもう一度リーシャに会いたかったわ」
「母さん・・・。ま、まだ大丈夫だよ?こんなに元気じゃないか・・・」
母親は俺が言った言葉が、空元気だと分かっているのだろう。しわくちゃになって皮と骨だけになった腕をこちらに伸ばし、やっとのことでアドルの頬を弱々しく撫でる。
「う、嬉しいね・・・。最初はあんなに弱かったお前がこんなに強くなって・・・。いつまでも元気でいるん・・・だよ?それと、私が寝ている場所の床を剥がしておいて。きっと、きっとアドルにとって役に立つものがあるから・・・」
「そ、そんなこと言うなよ!!俺には、俺にはまだまだ母さんが必要なんだから。ゆっくり休んで早く治してよっ!」
「ふふふ・・・。憎まれ口を叩いても根は優しい子だね。これなら・・・安心して逝ける・・・・・・よ・・・」
「・・・っ。か、母さん?ね、ねえったら?起きてよ。起きてってば!」
ぱたりと力を無くして、布団の上に倒れる腕を握り締めゆさゆさと母親を揺するが、一向に起きる気配がしなかった。アドルはこの時、独りぼっちになったのだ。後から浮かんでくる感情は父親に対する激しい憎悪の感情だけだった。
「このぉ・・・・・・糞親父がここからいなくならなかったら過労死なんてしなかったのに・・・」
どうして・・・と呟いてから少し忘れ気味だったもう一人の家族を思い出した。
「・・・そう言えば、俺には妹がいたっけなぁ。確か名前はリーシャとか言ったっけか・・・。少し落ち着いてからこれからどうするか決めようかな。かぁさん、今までありがとう。俺は俺なりに生きてやっていこうと思うよ」
それから数日間、母に対して喪に服し土葬した。これも前々から母親が決めていた埋葬方法だった。そして形見のように、母親が大事にしていた指輪は鎖をかけて首から下げている。
「母さん、生前に言ってたっけ。床を剥がせって・・・。なんのことかわからないがそれでも剥がしてみようか」
ちょっと力を入れたらその場所だけ剥がれるようになっていた。そこにあったものは・・・。
「ん?これって。母さんの日記?あと・・・古びた巻物?」
日記には父親が暗殺者であったこと、そして自分もその後継者として途中まで育てられていたが、なぜだか理由は分からないがそれを諦め妹に矛先を変えたことなどが綴られていた。
「確か、俺が物心ついた頃から妙な遊びを生活に加えていったっけ。そしてそれに対して俺が手を抜いているのが分かったら親父は苦々しく奥歯を噛み締めてそれ以上俺に関わらなかったっけ。それからだ。
日記を開きながらその時の様子を思い出す。
「そしてそれを母親がきつく咎めたその夜に、二人は何も言わずに行方不明になった。どうして・・・。過ぎたことはどうしようもない。大切なのはこれからどうするか・・・だ。母さん行って来ます、いつの日か妹と再会できる日が来ることを願っていてよ」
こうしてアドルは母親の死をきっかけに独学で生き残る仕方を熟知し、時には死にそうになりながらも図太く生き残っていった。そして転換期ともいえることが起きた。
それはアドルが18歳の時だった。ぶらり一人旅をしてリベール王国に辿り着いた時の事だった。一番目立つ建物を探して散策していた時、大きなお城の前に人だかりができていたのでアドルもそこに行った。
「なんて書いてあるんだ?ここからじゃよく見えん」
「ああ、ここには女王ノ護衛ヲ至急求ム。資格は親衛隊ヲ凌グ戦闘能力だと・・・よ」
「おお、ありがとうな。・・・へぇ、
門番に事情を説明すると、兵士が鍛錬する場所に案内された。
「ここで待っててもらおう。・・・あー、お前の名前は?」
「アドル。アドル・マオだ」
「分かった。ではアドル暫し待たれぃ」
あとから分かったことだが、アドルと対決した兵士の名前はマクシミリアン・シードと言う名前であり、かなり優秀であるゆえに信頼度も高い人物だったみたいだ。
数分後、高位と思われる女性とその女性に隠れるように、女の子がやってきた。そして戦闘衣に着替えてきたシードが相対した。
「私の名はシードと言う。よろしくな」
「ああ、アドルだ・・・です」
「私の性格上手加減と言うものはできそうにないが、よろしいか?無理ならここで引き下がっても、臆病だと
「ふふ、大丈夫さ。それに俺だって修羅場潜ってきたんだから」
「そうか、言葉は不要というわけか・・・・・・。すまなかったな。それでは私の落とすコインが地面に着いたときに始めよう。よろしいか?」
「ああ、いつでも・・・・・・」
アドルは片足を一歩後ろに下げ、両手をいわゆるボクシングスタイルをとる。この時代にボクシングがあるかどうかは分からないが。
シードが指で弾いたコインが重力に従って落下する。そして地面に着いたと同時に、剣を持って突進してきた。速さは十分・・・だが。
「ふっ・・・」
突き出された剣を紙一重で避け、胸元に潜り込むと寸勁を当てる。
「がふっ・・・」
という声を最後に数メートル転がりながら意識を失ったシードがいた。
「あっ。お、おーい。シードさん?・・・あのー気を失ったんですが・・・」
辺りは一瞬、静寂を纏ったかのように音が消えた。それから思い出したかのように、兵士らが慌ててシードを横たえて簡単な処置を加えていた。
俺は・・・・・・と言うと試験の後、豪華できらびやかな謁見の間という場所に来ていた。難しい話は分からなかったが、女王の護衛に就くことができたみたいだ。
「あなたアドルさんとおっしゃったわね?」
「はい、女王」
「年はいくつです?」
「18になったばかりです」
「そう・・・。少しばかり年が離れているけれど、いいかもしれないわね」
「??えーっと話が見えないのですが?」
思い浮かべるのは模擬戦の始まる前の事だ。女王の後ろに隠れるようにしてこちらを覗き込んでいた少女の存在。
「私の孫でね、同年代の友達がいない子がいるのよ。その子の話し相手になってくれるかしら?」
「シードさんと相対した時に女王の後ろで隠れながら見ていた子ですか?」
「ええ、どうかしら?」
「その子が俺を気に入ってくれるといいんですが・・・・・・」
「大丈夫よ。私の孫ですもの」
根拠のない断言だったが、俺も女王の言う事はすんなりと心に染み渡った。どうしてなのかな。
「・・・・・・ッ」
女王が話に出てきた彼女を呼ぶ。謁見の間に現れた子は女王を幼くしたような女の子で直立不動でこちらを見ていた。いかにも緊張しているのが目に見えた。
「え、えーっと・・・・・・」
――トテトテトテ――
擬音が聞こえてくるような可愛らしい足音が自身の元へやってきた。そして声を発した。
「私、クローディア・フォン・アウスレーゼって言います」
「お、俺いや私はアドル・マオだよ。よろしくね、クローディア?」
「どうかクローゼって呼んで下さい?私もアドルって呼びますから・・・?」
「・・・・・・いいの?分かった。クローゼ!」
「うんっ!」
・・・こんな感じだった。人を疑わないというか純真な子ってこうなのかなぁ。
「まぁ、俺は裏切らないよ。絶対に・・・・・・。相手が裏切らない限り尽くすんだから」
アドル・マオ・・・18歳。大人になりつつあった彼が出会った少女は、アドルの人生にどう影響していくのか・・・それはまだ分からない。それでも悪影響は及ぼさないであろう。
細々としたところは修正して投稿します。なろうに残されている泡泡Ⅱとハーメルンに存在している泡泡は同じ人物です。