銀の兄【修正版】※半分凍結中   作:泡泡

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 黒の競売会での出来事です。


勘違い

 

 ―――ワタシヲミツケテ―――

 

 「ようこそ・・・歓迎します」

 

 「こりゃあどうも・・・今日は楽しませてもらうよ?」

 

 怪しまれないように、黒服に金薔薇のカードを見せて入場する。アドルのことを知っている大物はここにはいなかったらしく、普通に、裏社会の人間と思った黒服の番人はそのまま俺を中へと入れた。

 

 今現在進行形で、金の薔薇のカードを使ってハルトマン議長邸で開かれている黒の競売会(シュバルツ・オークション)に入ることができました。ここに来たのは八割方趣味と二割の興味本位です。

 

 「俺のカンとしてはなんか、面白くなりそうなんだよなー」

 

 それもそのはず、アドルの前には挙動不審のロイドとティオがいるのだ。ロイドは中流階級の兄。ティオはそれに着いてきた妹の役を演じているのだと推測できる。

 

 しかしこの二人の本当の目的は違うはずだ。この競売会は非公式で開かれ、警察も手出し出来ない深い闇の一角に過ぎないからだ。

 

 「しばらくは傍観・・・かな。一応、議長邸には目を向けているし」

 

 これはミシュラム全体ではなく、今いる議長邸限定で“氣”を使って不審人物の有無に気を配っているからだ。【邂逅・表参照】

 

 議長邸を眺めていると、どこかで見たことのある人に遭遇した。

 

 「キリカ・・・・・・?」

 

 「あらあなたは。ア、アドルさんでしたね?」

 

 「少し忘れていましたか?」

 

 「そ、そんなわけないじゃないですかっ。アドルさんはどうしてここに?」

 

 「招待カードを偶然にも手に入れましてね・・・。それで来たわけですよ」

 

 「そうでしたか・・・・・・」

 

 「それにしても・・・・・・」

 

 失礼に当たらないように細心の注意を払って、目の前に座っているキリカをまじまじと見る。

 

 「ど、どうかしましたか?アドルさん」

 

 「数年前に見かけた時よりもお綺麗ですね。正直驚いているところです」

 

 「ふえっ・・・?」

 

 これは嘘ではない。最初に見た時は可愛い女の子と言う雰囲気だったが、今では(あで)っぽい大人の女性へと成長していたのだ。正面にいて熱情的になるのは普通のことだった。

 

 「そ、そうですか。アドルさんですから嘘をつくとは思いませんので本当なんですね。かなり嬉しいです」

 

 手を口に当てて上品に微笑むキリカはとても美しかった。呆然としているのも不審がられるかもしれないので、楽しい会話を切り上げて立ち去ることにした。

 

 「キリカは共和国にいるのかい?」

 

 「ええ、大統領の直属で仕事をしているわ。アドルさんはどう?」

 

 「俺も、仕事しているよ。クロスベルではなくリベールが中心だけどね」

 

 「そうなの?あの・・・あなたはどうしてあの時・・・。いえ、もう過ぎてしまったことに口を出すのは無粋な事だと思うわ。だけどどうしても聞きたいことが一つだけ」

 

 「心配しなくても、またいつか会えるさ。悲しそうなキリカの顔は見たくないからね?」

 

 少し塞ぎ込みそうなキリカを励ますように両肩を手で挟み、顔と顔をかなり近い位置まで近づける。

 

 「ア、アドルさんっ?」

 

 「フフッ。少し、元気になったね・・・・・・。じゃあ、また」

 

 「もぅ・・・。アドルさんはいつも私を困らせるんですね。ええ、また会いましょう」

 

 勿体無い気もしたが、立ち去ったのには訳があった。それは、階上の部屋が慌ただしくなったと言う理由があった。

 

 「この場でロイドらに会ってもいいんだが、まぁそれよりも奥の部屋で何やら不穏な気配がするんだよなぁ。って言うかこの気配って(イン)?」

 

 それから少し経ってから中庭へと来た。会いたい人が来そうな感じがしたからだ。窓ガラスが砕け散る音が聞こえてきて誰かが飛び降りてくる。

 

 「よお。会いたかったぜ。最も、あんたの方はどうか知らないが………」

 

 アドルは狐の仮面を付けて相対する。そこには思った通りに銀がいた。

 

 「っ・・・。(キョウ)か?」

 

 「せーかいっ。珍しいところで会うじゃないか?」

 

 「あんたには関係ないだろ?」

 

 さっさと、ここから立ち去りたいらしく殺気を振りまきながら話してくる。

 

 「いいや、関係あるんだよ。あんたの素顔がどうしても見たくなってね」

 

 「・・・・・・そう聞いてイイですよって言って外すと思うか?」

 

 「ああ・・・外さないだろうさ。そこで譲歩して二つの質問だ。あんたはどこから来た?あと中身変わってないか?」

 

 「ッ・・・・・・。い、言ってる意味が分からない。私はお前、(キョウ)とおなじ東方街出身だ。それしか言い様がない」

 

 少し動揺していたのだろうか、答えた口調にはかすかに気づけるだけの少しの揺らぎがあった。

 

 「へぇ・・・。まだまだだね。口調の端々に同様が見られる。まぁいいか。ここで闘っても何のメリットもないしな・・・」

 

 言いたいことは言った、あとは知らないと言わんばかりに背を向けて立ち去って行く狂喜。

 

 「ま、待て!」

 

 静かな暗闇の中に(イン)の言葉が響く。・・・が、そこに狂喜(アドル)はもういない。

 

 「雰囲気が似てる。でもいるはずがない・・・。そろそろ私も帰ろう」

 

 少し時間をかけたようだ。議長邸が何やら騒がしい。マインツで見かけた、軍用犬の強化版が人々に襲いかかっているのが見える。支援課の面々がそれを撃退しているようだ。

 

 「おいおい、あれはやり過ぎだろ。一般人巻き込んでしまうのは後手だ。ロイドらに気づかれないように守っておくか。はぁ・・・」

 

 コキコキと関節を鳴らし、今にも一般人に襲いかかろうとしている軍用犬に退出願う。一言で言うと、怖がらせないように鋼糸で犬を引っ張って見えないところで切断しているだけの簡単なお仕事だ。

 

 「ロイドたちに混じって見たことのない男性と・・・幼女?・・・あぁ、キー○か。やっとロイドも声を聞いたって事でいいのかな?」

 

 水上バスの船着場まで無事に行くことができたロイドだったが、そこにまさかの人物が・・・。

 

 「あの熊づらは・・・。赤い星座とバトった時にその場の雰囲気で潰したキリング・ベア?もっと面倒なことになりそう」

  

 「はあはあ・・・」

 

 「てこずらせてくれたね・・・」

 

 「わ、若頭・・・?」

 

 「ククク・・・・・・ハハハ。味見だけのつもりだったが随分と楽しませてくれるじゃねえの!」

 

 少しダメージが通っているのかと思いきや、普通に立ち上がるガルシア。

 

 「チッ、化け物が・・・・・・!」

 

 吐いて捨てたかのようなランディの声が聞こえてくる。

 

 「クク・・・・・・・・・何を抜かしてやがる。ランドルフ・オルランド。てめぇだって同じだろうが?」

 

 「ッ・・・・・・!」

 

 「やっぱりそうだったか。大陸西武最強の猟兵団の一つ“赤い星座”その団長の息子にしてガキの頃から大部隊を率いて敵を殺しまくった赤き死神“闘神の息子”ランドルフ・オルランド!」

 

 「・・・・・・・・・・・・」

 

 その言葉に対して無言を貫く。それは肯定の意を表すようだ。何か言いたいことをぐっと堪えるランディ。

 

 「赤い星座・・・聞いたことあります」

 

 どこで聞いたのか分からないが、ティオが話す。

 

 「まぁ、そのオッサンの言ってることは間違いじゃないな。その呼び名だけはヘドが出るぐらい気に喰わねぇが・・・・・・」

 

 「赤い星座と西風の旅団とは因縁の間柄。ここらで決着をつけてもいいんだぜ?」

 

 一触即発と言うところで、間の抜けた第三者が乱入してきた。

 

 「それもいいけど、ベア・・・俺とやらねぇか?」

 

 「・・・・・・お、お前はっ。あの時あそこにいただけで殲滅されかけた野郎!」

 

 「アドルさん・・・・・・?」

 

 エリィの声が乱入者の正体を述べる。

 

 「ハァイ~。ガルシア・ロッシ、あの時に受けた傷は癒えた?」

 

 「忘れもしねぇぜ。そう言えばあの時も赤い星座と闘っていたっけ。どうしてお前がいたんだ?」

 

 「別に深い意味はねぇよ。バルデルとバトってたらそのまま知らず知らずの内に巻き込んだだけ。はなっから眼中になしだよ。まぁ、あの時のあんたは弱かったし・・・・・・」

 

 「てめぇ、この・・・・・・」

 

 いきり立ちながら闘気を開放していくガルシア。

 

 「わっ、ビリビリするぅ・・・・・・」

 

 さっき、見た幼女がそう呟く。

 

 「こんなところで闘気解放ですかぁ?沸点低いねぇ。だけどまだまだだよっ」

 

 「なにっ!ガフッ・・・・・・」

 

 瞬地でかなりの距離を縮め、いきなりガルシアの胸元に現れ浸透勁(しんとうけい)を放つ。

 

 「はぁ・・・メンド。じゃあ、あとよろしく。もう少ししたらロイドらのお仲間が来るはずだから」

 

 「ちょ、ちょっと待ってくれ」

 

 「何か用?ロイド・バニングス?」

 

 「助かったよ。明日以降に支援課の方に来てくれるとありがたいんだけど」

 

 「はぁ?お前は相手の目的も知らないのに呼び込むなんて。どうかしてるぜ。まぁ気が向いたら・・・」

 

 ロイドらはどうやって帰るのか、少しだけ興味が沸いていたが懐から取り出した符を一枚かざし長距離転移していった。

 

 「今の、どこかで見たような・・・・・・」

 

 「あれって、(イン)と同じような符じゃなかった・・・?」

 

 「「「「あっ・・・・・・そうだっ」」」」

 

 四人は同時に同じことを思った。アドルって(イン)なのか?と。それは遠からず当たっていると言えるだろう。過去に先代の符を数枚もらっており、それを自分で量産しているアドルだったので(イン)と同じ符だとしてもおかしくなかった。

 

 





 どうして競売会にいた幼女の名前を知っていたんでしょうか。それと愛される資格が無いと嘆くアドルの過去とは・・・。

 多分これから明らかになるでしょう。

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