ツァオはアドルの正体を知っています。アドルもツァオと契約を結ぶときに正体をバラしています。
事態が大きく進展したのはアドルが寝ている深夜の事だった。いきなり慌ただしくなる
乱暴に押し入ってくる人物らはルバーチェ商会の黒服ら。キリング・ベアがいると思いきや、そこにいたのは下っ端のヤクザ。武装は重機関銃を乱射しながら黒月へと侵入しているが、何故か今までと違い強かった。
「くっ、このままではマズイですね。しかしこれしきの事で
決意を胸に武道派としての道を歩もうとするツァオがそこにいた。
「でも・・・・・・これが終わったら
数時間後、黒月の建物は崩壊している所もあるが幹部らに怪我という怪我は見られなかった。ツァオの強さが際立った証拠だ。
「終わったことですし、狂喜に連絡しておきますか・・・・・・」
――ブーン・・・・・・ブーン・・・・・・ブーン・・・――
アドルのエニグマが枕元で振動する。しかしアドルのエニグマは
―はい、アドルです。緊急の用事でない方はそのままお切りください。ご用件のある方はメッセージをどうぞ―
―もしもし、
―新規のメッセージは一件となりました。重要要件として保存します・・・。保存完了・・・―
~早朝~
「ふあぁぁ・・・。よく寝たー。あれ、エニグマの留守電に一件用事が入ってる・・・。朝一で
素早く着替えを済ませ、自宅を出て早朝の澄んだ空気を吸いつつ東通りを歩くが。
「なにやら全体的に騒がしくなってます。それに警察が出張ってます。何かあったのでしょうか?」
港湾区内に入るとその原因が分かった。襲撃されたかのような凹み具合が見受けられる
「なるほど。だからツァオの声の調子がおかしかったんですね。玄関付近に警察がいるのはどうしようか・・・。見つかると面倒くさいので、ツァオがいるであろう窓から入ることにしよう」
何食わぬ顔で水上バス発着場に歩いていくと、やはりそこは警察の姿などどこにもなく警戒度は低かった。そのまま何の苦もなく、壁づたいに窓までたどり着くと聞いたことのある声を確認した。
「それをふまえて、率直な本音で話をさせてもらってもいいですか?」
支援課ロイド・バニングスの声だった。
「さすが、ガイ・バニングスの弟やなぁ・・・。遠回りをしない率直な言い方。これは捜査官向きだなぁー」
「さすがはロイドさん。私の見込んだだけのことはありますね。いいでしょう。私も無意味なやり取りは好きではありません」
ツァオもロイドの事は気に入っている様子。単刀直入に話し合いを始めるようだ。
「ありがとうございます。お聞きしたいのは次の三つのことです。昨晩の襲撃者の事ですが、ルバーチェで間違いないですか?」
「フフ・・・まずその可能性を疑いますか。ラウ、答えてあげなさい」
「は。・・・襲撃者たちは覆面で顔を隠していましたが、間違いなくルバーチェの配下でしょう。武装が同じでしたし、何よりクセが似ていました。そういうものは簡単に偽装できるものではありません」
ツァオの横に控えていた
「なるほど・・・」
「少々
ランディがそこで更に質問をぶつける。
「いや、かの営業本部長は参加していないようでしたが。ルバーチェの中でも平均的な戦闘能力を持った者たちでしょう」
「だったらどうして・・・?」
「戦闘技術は並程度でしたが、力とスピードが段違いでした。重機関銃を片手で振り回して、力任せに突入してきたのです」
ラウが付け足す。
「なるほど。これがあのクスリの影響だとしたら全て原因と結果に結びつくんじゃないのか?」
室内ではツァオが支援課の面々を威嚇しているのが聞こえてくる。
「警察ごときに私の楽しみを邪魔されるつもりはありませんが・・・」
少し愕然とした様子でロイドたちは
「フフ・・・これからが楽しみですね」
「は・・・」
「それにしても情報屋アドルとやらはまだ来ませんか?」
「いや、もう来ているさ」
ガチャッとツァオ後方の窓を開けて中に入り込む。
「い、いつの間に・・・。今の話を聞いていましたか?」
「ええ、ロイドが三つの問いを投げかける時ぐらいから聞いていました。それでこれからどうするんですか?」
「まずは・・・様子見ですね。一応、ロイドさんには期待しているんですよ」
ツァオはそう言うと含み笑いを浮かべて軽く、ラウとアドルに引きつった表情をさせていた。
「それにしても・・・」
ツァオはまじまじとアドルの顔を眺める。
「な、なんです?」
「
「見せてなかったっけ?まぁ、途中まで知った情報を伝えますわ」
「お願いします。何か分かりましたか?」
少し雰囲気が真面目なものになったことを悟ったツァオは、佇まいを直してアドルと対面する。
「えーっと、ルバーチェが何かクスリらしき物を、バラ撒いているのを確認しました。クロスベルの住民がそれを懐に入れて商会内から出てくるのを見ましたが形相が普通と違っていました」
「・・・と言うと?」
「目は血走り、口を横一文字に閉じ猫背になって何やらブツブツと唱えているのを普通と言うでしょうか?言わないでしょ?総合的にふまえてジャンキーの様子と同じかもしれないです」
「そうだね」
「クスリの出処を知ろうとしていますが、支援課の後を着けようかと思ってます。何しろ、情報屋にそこまでの権限はないですから。訊問とか拷問とかは出来ますが」
「そ、そうだね。そこらへんは任せます。そして
「ええ、分かってます」
ツァオは右手を首元に持ってきて横にカッと引いた。邪魔になるなら処分しろって事を如実に伝えているのだ。
「これから、私のエニグマは音が鳴らないようにしておきます。どこかに潜入中に鳴ってしまったらバレてしまいますからね。緊急の場合は数回鳴らしたあとに切って下さい。すぐにその端末から発された周波数を頼りに戻りますので」
「やけに、慣れているね。それにアドルさんの通信器は、我々が持っているものよりも数倍高性能な気がしますね?」
「いやぁ、これぐらいしないと白いハヤブサからは逃げられないんですよ。まぁ見付けられてしまいますが・・・」
「白いハヤブサ・・・ですか。何やら秘密めいたものを感じますが聞かない方向にしましょう」
尋ねたかったが肩をガックリと落としたアドルの様子に、これ以上詳しい話は聞けないなと思ったツァオとラウだった。
「では、私はこれからロイドたちに影ながら同行します」
「よろしく頼みます」