銀の兄【修正版】※半分凍結中   作:泡泡

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 アドルは決して悪役ではありません。ただし道を間違えたんじゃない?って思うようなやり方で目的を果たそうと必死です。

 ※多少の原作バレがあります。ですが、多少ですのでわからないかもしれないです。


ウルスラ病院

 

 夕方、ウルスラ医科大学に行くためバス停に来たわけだが10分おきに出ているはずのバスが来ないせいで乗客が数十人並んで待っていた。そして市職員の話により、行ったはずのバスとも連絡が取れないということが分かる。

 

 更に不可解な事は立て続けに起こる。それはウルスラの教授の身元が怪しい証拠が揃ったということだ。

 

 「年貢の納め時が来たようだな?あいつは一人だけ浮いている存在だった。それに非人道的な実験を繰り返していた。断罪に値する」

 

 アドルも病院には早足と瞬歩をフルに使って急ぐことにした。その甲斐あってロイドたちが、病正面玄関から中に入るところを後ろから見ることができた。

 

 「あれは・・・(イン)?ははぁ、一緒に行くべきだとかロイドが提案したんだろうな・・・。生粋(きっすい)(たぶら)かし野郎め」

 

 索敵を開始すると研究棟の四階に気配を感じることが出来た。それと銀の存在も・・・。

 

 その場に佇んでいると少し寒くなってきたので、黒衣のポケットに両手を突っ込んでウルスラ病院を眺めてみる。暗がりにぼんやりと見えるその建物は、何かのシンボルのように思えた。

 

 それからすぐ研究棟四階の壁に張り付いた。それはヘイユエで話を聞いた時と同じことをやったわけだ。壁に張り付いた結果で室内の話を聞くことができた。

 

 「こちらの白いファイルも確かめてみよう」

 

 聞こえてきた声はロイドの声だった。どうやらすでにその部屋の主はいないらしい。置かれていた二冊のファイルを開いて確認しているところだった。

 

 「っ・・・・・・!」

 

 「こ、これは・・・」

 

 『ふむ、どうやら6年前の儀式の被害者か』

 

 ティオ、エリィ、銀の声が次々に聞こえてきた。ここから察するにティオは被害者の一人だったのだろうか。

 

 「外道が・・・・・・」

 

 「ごめん、ティオ。中を確認していくぞ・・・・・・?」

 

 「謝らないで下さい。どうかそのまま確認していってください・・・」

 

 震える声を隠すことなくティオがロイドに告げる。それはティオにとって一番辛い過去を皆に曝け出すことになるのだから。

 

 「(そうか、ティオは教団の被害者だったのか。だとするとあの人間の数倍の感応力を持ち、他人の気付かない音や導力波の流れ、属性の気配、人の感情や心の揺らぎを感じ取れるってのは実験のせい・・・か)」

 

 合点がいったようだ。アドルの中で、どんどんと失われていたパーツがピタッとはまってゆく。

 

  ファイルを一頁・・・また一頁・・・開く音だけがその部屋に響く。そしてどこかで見たことのあるような少女の姿が写真に写し出される・・・。

 

 「っ・・・・・・」

 

 「あはは・・・・・・この頃の表情に比べたらちょっとはマシになりましたか?」

 

 「ティオ・・・」

 

 「言うまでもないわ」

 

 「見違えるほど可愛くなったぜ・・・」

 

 自暴自棄にも取りかねないティオの言葉にロイド、エリィ、ランディが否定する言葉を出す。本当に辛いのはティオのくせにどうしてそこまで取り繕った返事をするの?と言わんばかりに・・・。

 

 「・・・お世辞でも嬉しいです。ロイドさん、どうか確認を」

 

 そしてまたその部屋には(ページ)をめくる音だけが聞こえてくる。一頁・・・そして一頁。

 

 「あ・・・・・・」

 

 「レンさん・・・・・・」

 

 「そう、やはりそう繋がるのね・・・・・・」

 

 『ふむ・・・・・・その娘もお前たちの知り合いか。当時、共和国の東方人街でも拉致事件の噂は聞いていたが・・・・・・。しかしよくもまぁ、これだけのことをしでかしたものだ』

 

 「・・・・・・」

 

 ロイドには何か考えているところがあるのか、一度目をつぶってからファイルをめくり続けた。

 

 そしてファイルの最後には真新しい写真が一枚挟まっていた。それはどこからどう見ても最近見た・・・いや、支援課のビルにいる笑顔が素敵な女の子だ。

 

 「ッ・・・!?」

 

 「キーアちゃん!!」

 

 「そんなっ・・・・・・」

 

 「野郎、まさかとは思ったが・・・・・・」

 

 ギリっとランディが奥歯を噛み締めた音が聞こえてきた。

 

 『・・・・・・例の競売会でお前たちが保護した少女か。この写真だけ新しいようだが最近撮ったと言う事か?』

 

 「ああ、多分そうだろう。クソッ、最初から知っていたのか・・・!」

 

 「俺たちがキー坊をここに連れて来た時、“ヤツ”は何食わぬ顔で検査入院を勧めてきたわけか」

 

 (イン)、ロイド、ランディの順に苛立ちを隠すことなく話す。と、そこに・・・・・・。

 

 「ふふっ、恐らくはそうでしょうね」

 

 その場にはいないはずの少女の声が聞こえてきた。

 

 『何・・・』

 

 皆が窓の方に注意を向けると、そこにはスミレ色の髪の少女が腰掛けていた。

 

 「君はいつからそこに・・・?」

 

 『気配を感じなかった。どうやら只者ではなさそうだな?』

 

 「ウフフあなたと同じぐらいにね。改めて自己紹介を・・・。見喰らう蛇(ウロボロス)の執行者No.ⅩⅤ殲滅天使(せんめつてんし)レンよ。お見知りおきを」

 

 「エステルたちから聞いたとおりか・・・。レン、これらの事について研究室の主の企てに結社も関わっているのか?」

 

 「いいえ、それはないわ。レンがこの地に留まっているのは個人的な理由によるもの。・・・ヨアヒム・ギュンター。聖ウルスラ医科大学准教授にしてD∴G教団幹部司祭。全ての儀式の成果を集めて闇に消えたグノーシスの開発者。これでやっとレンの知りたかったことが揃ったわ」

 

 「そうか・・・・・・」

 

 「あの白いファイルですか・・・」

 

 「“彼”の怪我も治ったし、お兄さんたちにも助けてもらった。この地にとどまる理由は一つだけになったわ」

 

 「えっ?」

 

 「エステルたちに会ったら伝えて頂戴。レンを捕まえられる最後のチャンスをあげるって。無駄な努力だとは思うけれど・・・・・・」

 

 「君は一体何をするつもりなんだ・・・?」

 

 「この地のレンは仔猫。気まぐれに観察するだけの存在。お兄さんたちを、邪魔するつもりも助けるつもりもないわ。でもまぁ一つだけ忠告を。あの子は多分全ての鍵。くれぐれも奪われないことね」

 

 「ひょっとしてキーアちゃんのこと?」

 

 「うふふ、それじゃあレンは行くね。皆様、良き夜を」

 

 レンはそのまま後ろ向きに窓の外へと落下する。そして轟音(ごうおん)と共に現れたのは、巨大人形兵器だった。それはレンを乗せ、みるみるうちに遠ざかってゆく。

 

 「(あら、あなたは?)」

 

 遠ざかっていくときにアドルの存在に気づいたようだ。しかしそのことはロイドたちに言う必要はないと結論づけてそのまま巨大人形兵器(パテル=マテル)に乗って空の彼方へと消えていった。

 

 それから国境警備隊が病院に到着し、銀は一時的共闘をやめそのまま立ち去った。・・・かのように見えた。しかし銀はさきほどまでいた研究室に舞い戻っていた。その理由は。

 

 『情報屋のアドル・M。やはりあなたの気配でしたか?』

 

 そこにはいるはずのないもう一人の人物がいたのだ。

 

 「(イン)か?俺は今忙しい。何しにきた?」

 

 『気配がしたので戻ってきました』

 

 「そうか・・・」

 

 それだけを言うとすぐに(あるじ)がいない部屋を見渡していた。

 

 『アドルらしくもない。どうかしたのか?』

 

 「お前には関係のないことだ。どうしてもと言うなら、煉獄の扉を開いて一緒に堕ちる所まで堕ちる決意をしてから横に立て・・・」

 

 殺気、覇気その他諸々をその部屋一杯に振りまいて(イン)を威嚇する。

 

 「っっ・・・・・・。カハッ」―ヒューヒュー―

 

 過呼吸になったのだろう、呼吸が一気に乱れその場に立てなくなり力無くその場に倒れ込んだ。いや、倒れこむその瞬間にアドルがその体を抱き寄せたがぐったりとしてしまった。

 

 「はぁ、またやっちまった。そこのソファにでも寝かせておくか?仮面・・・取ってみたいけれど、大体予想付いたし(イン)に関しては傍観貫くか。さてと・・・・・・」

 

 その部屋の本棚の裏に設置されている12桁の暗証番号を1秒もしないうちに叩き込んで秘密の部屋へと入っていく。ここはこの部屋の持ち主も知らない場所だった。知っているのはアドルと他数人だけ。

 

 そしてその扉はアドルが入ったのを確認すると、音を立てることなく閉まり本棚も元通りになった。その場には静かに息をする(イン)がいるだけとなった。

 

 ――認証中、認証中。我ガ主ヲ認証シマシタ――

 

 暗がりに自動で明かりが灯り、機械音が聞こえてきてアドルを認証した。ここは知られていない資料室とも言える場所。

 

 「今回で三度目か・・・。因果関係を操作して操作してやっとここまで来ることが出来た」

 

 ――一度目はマフィアから逃れることなく死亡――

 

 ――二度目は最終決戦でグノーシスを飲んだ相手に絞め殺されて全滅――

 

 「いよいよ・・・、パーツは揃った?ねぇ、キーア。俺は道も間違えたかもしれないけれど、キーアがしたいように手伝ってきたよ。でもっ・・・」

 

 そこで初めて表情を歪め、大粒の涙を流す。それは・・・。

 

 「キーアの記憶を、一度リセットして最初っからロイドたちと紡がなければならない記憶なんて・・・有り得ないでしょう。いや、それをキーアが望んだからそれを行なっただけ」

 

 自分の腕で体を抱き、更に辛い現実を言う。

 

 「俺はどうなる?俺はその二度の過ち、忘れてないんだよ。キーアの記憶を消した時も・・・ロイドたちが亡くなる時も・・・全部っ全部っ」

 

 そう、アドルにはキーアと同じような力があり、それを用いてキーアの心が壊れないようにいつも後始末をしていた。しかしそれはアドルにとって苦痛でしかなかった。アドルは、自分の記憶の消去ができないのだ。

 

 「ううん、俺は高望みしないんだ。キーアやそれに関係する皆が幸せになればそれでいいんだ」

 

 

 ――ねぇ、俺を育ててくれた両親、それに妹のリーシャ。俺はあなたたちと血繋がってないんだよ。知ってた?――

 

 ――それに・・・――

 

 ――この時代の人間じゃないの――





 最後のどんでん返し。あれあれ、こうなるつもりはなかったんだけどなぁ。突っ込みたい気持ちでいっぱいですが、この設定で行きたいと思います。

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