閑話を書いて碧の軌跡へと移ります
閑話・リベールへ
俺が放心していたことと、クロスベル市にすぐ帰らなかったためか事件は終わっていた。教団幹部の死亡をもって・・・。俺はと言うと取るともの凄く嫌な予感がするエニグマを前にして硬直していたりする。
そして現在進行形で、俺の頭上遥か空高くには見覚えのある白ハヤブサが旋回している。これはもしや。
「出なきゃならない・・・・・・よね。はぁ~通信の相手が誰だか予想はついているんだよなー」
十中八九・・・リベール王国の関係者からだろう。限定的に言うならば、女王かそれに類する者の関係者だと断言できる。黙っていてもどうしようもない、意を決したようにエニグマを取り話する。
『もしもし・・・アドルです。どなたです?』
『・・・・・・アドルさん。お久しぶりですね。お変わりないですか?』
『そっ、その声はアリシア女王?ど、どうして・・・』
『どうして居場所がわかったか、もしくは通信の相手が私で驚きましたか?』
『両方です。居場所については頭上を旋回しているジークかと・・・あとはアリシア女王が私に何か用事でも?』
溜息を一つ吐きながら、自分の不幸さを嘆いていた。
『あなたに緊急な用事が出来ました。これからのリベール・・・いいえ、周辺諸国の問題に発展するかもしれません。ですからそちらでの用を済ませたら速やかに帰郷しなさい!』
『・・・・・・』
『異論は認めません。これはリベールにとっての一大事です。私は国民のためには手を汚してでも守る覚悟でいます。そしてその手段としてあなたを召喚したいとも思っているんですよ?』
『その命令は脅しに聞こえますが・・・』
『そう聞こえてもおかしくないかもしれません。空港に行くと、あなたの名前で座席を取っておりますので、その飛行艇でお早めにリベールにお戻り下さい』
『退路は絶たれたというわけですか。・・・了解です。では早いうちに』
エニグマでの通信を終えると、ドッと体中から汗が流れてきた。考えるのは嫌な別れ方をしたクローゼとユリアのこと。
「脅しに聞こえてもおかしくないぐらい、切羽詰ったアリシア女王の発言。どうやら大事が起こりそうだ。こちらの事件がひと段落ついて良かった、では済まされないようだ」
少しずつ荷物を纏めてリベールに戻る準備を始めたアドルだった。部屋の中の荷物が少なかったことも幸いして二日間で纏め終わった。近所の旧市街の方々に挨拶回りをすることも忘れずに行なったアドルだったが、その時にもリーシャには会えなかった。
「いない・・・か?まぁこれが最後の別れでもないしいつか会えるでしょ」
この時はあまり深く考えてもいなかった。この時少し歯車が狂っていったのかもしれない。
次の日の午前中に空港からリベールに戻ろうとしたアドルだった。が、そこで同じくリベールに帰国するレンと他男女二人を発見した。ロイドたちに囲まれて嬉しそうに話しているのでそのまま空港の受付を済ませようとした。
「いらっしゃいませ。どちらに行かれますか?」
「ええっと、アドルと言いますが何か聞いていますか?」
「・・・確認いたします。・・・搭乗手続きをされている方はアドル・マオさんですか?」
フルネームを聞かれたので「そうだ」と頷いた。
「聞いています。リベール王国に強制送還ですね。快適な空の旅をお楽しみください」
と、少し笑いをこらえて言われた。
「なんだかなぁ。強制送還ってあながち間違ってはいないが・・・。それにしても本当に一段落しちまったんだなぁ。ヨアヒムが犯人と聞いているが、黒幕は明らかになっていないしこれはまだまだ終わっていない・・・か」
「あら、お兄さんもどこかに行くの?」
後ろから少し幼い声が聞こえてきたので振り返った。
「ん?ああ、レンちゃんだっけ?」
「ウフフ、そうだけどお兄さんに名前教えていたっけ?」
「・・・さすがに鋭いな。実を言うとあの時病院で聞いていたんだよ」
「っ。そ、そうだったのー。そう言えば、パテル=マテルに乗って去る時に見たかもしれないわ」
ここでの腹の探り合いは無意味と考えて真実だけを伝えた。
「おや?レン知り合いかい?」
もう一人、いや男女二人組がレンの後方から話に加わってきた。
「知り合いって言うほどじゃあ無いわ。ヨシュア・・・。見たことのある人を見つけたからお話しただけよ」
「そうかい。じゃあ自己紹介を。ヨシュア・ブライトって言います。こっちはエステル・ブライトです。もしよろしかったらあなたの名前も教えてもらっても構わないですか?」
ちょいちょいと、手招きして呼んだ女性の名前も律儀に教えてきたヨシュア。
「ああ、いいとも。俺はアドルだ。一応情報屋をしていた。ブライトって事はカシウスさんの関係か?」
「うん、僕は養子なんだけど、エステルは実子だよ」
「へぇ、よろしくね。三人とも!」
「ええ、よろしくね。アドルお兄さん」
「うんっ!よろしくー」
「ところで・・・アドルはどこでレンを見たんだい?」
「んー・・・?」
「言っても大丈夫よ」
少し答えに困る質問だったので曖昧に言葉を濁していたが、大丈夫だと言われたのではっきりと言う事にした。
「実は少し前にウルスラ病院でレンと会ったんだ。と言ってもこっちが一方的に見かけた・・・・・・と言うだけだよ」
「・・・・・・。ふむ、本当のことを言ってるみたいだね。少し安心したよ」
「おいおい、ヨシュアは心配症だなぁー。仕事柄かい?」
「・・・ま、まぁそういう事だね」
「ヨシュアってば、ホントーに気を使いすぎだよー。今からそんなだったら、ハゲちゃうの早いかもよー?」
「アハハハハ・・・・・・」
「少しは気を抜いたほうがいいかもしれないな。ところでキミたちはどこに行くんだい?」
「僕たちは王都に行くんだ。クロスベルで生じた出来事について、詳しい説明を求められているからね。アドルはどこに?」
「君たちと同じ行き先だよ。はぁ~・・・・・・」
嫌々そうに呟くアドルに驚きを隠せない三人だった。
「ど、どうしたの?アドルさん?」
「いや・・・戻ったら戻ったで、絶対面倒くさい事に巻き込まれるのは目に見えているんだ」
「ふーん、そうなの?あっそうそう、話は変わるけどアドルお兄さんって何か武術はやっているの?」
レンがあまり関心の無いのか話の話題を変えてくる。
「ああ、少し嗜む程度だよ。自分の身を守るぐらい・・・」
「そう?それ以上の武力はもっていそうだけど・・・。ね、ね。今度模擬戦やってみない?」
「エステルには負けるよ。だからパス」
「むぅぅ、そんなはずないと思うんだけどなぁ。嫌って言ってるししょうがないなぁ。機会があったらお願いネっ!」
強引な娘っ子だ。少し顔が引きつったのを見られたかもしれない。
「エステル!あまり無理強いは無しだよ」
ヨシュアがエステルに歯止めをかける形でその話は終わった。
「じゃあ、さ。一緒に王都を見物しに行かない?目的地は同じなんだしもっともっと親交を深めたいなぁ~・・・」
「まったく、エステル君ときたら・・・・・・」
「ウフフ・・・お姉さん。強引なんだから・・・・・・」
ヨシュアとレンは呆れ気味ながらも止める気配は無かった。
「ま、まぁ親交を深めるぐらいのことだったら。いいよ」
「やったーっ!」
はしゃぐエステル。だけど、ここが空港の中でそこにいるほとんどの乗客の視線を受けて縮こまるエステルがいた。
「エステル・・」
「ウフフ・・・・・・」
「まぁたまにはこんな時間があっても困らないだろ・・・・・・それにしても。エステルたちよりもクローゼ達に会うのが少し億劫だなぁ」
はっきり言ってあんな別れ方をしたんだから、クローゼとユリアに良い感情はもたれていないと思っているアドルだった。
「さてさて鬼が出るか蛇が出るか。どっちもヤダなぁ」
アドルが独り言のように呟いたその言葉は、はしゃぎ気味のエステルの声にかき消されて誰にも聞かれることは無かった。ただ一人の仔猫を除いて。
「ふぅん、アドルお兄さんはクローゼ達と知り合いだったんだ。面白くなりそうだわ」
ダ○ンタ○ンDXの私服のランキングを見てたら「絶対にこんな格好でいかないでしょ!!」って言う私服が1位だった。