嫌な別れ方をした次の日の早朝。アドルは女王から呼び出された。
「おはようございます、アドルさん。早朝で申し訳ありませんが、今からこちらに来ることはできますか?」
「おはようございます。ええ、大丈夫です。もしかすると私の立場が決まったのですか?」
「そんなところですが詳しい話はこちらに来てから話しましょう」
そこで通信は切れた。
「もう少しかかると思ったけど、意外に早かったな・・・」
着替えてホテルを後にしアリシア女王が待つ城へと向かう。門番は分かっている様子でそのままアドルを通した。そして謁見室へと直接赴いた。
「失礼します。アドル・マオただいま参上しました・・・」
『どうぞ、お入りになって下さい』
断りを入れて謁見室に入る。そこには同じようなメンバーが揃っていた。いないのはユリアとクローディア姫ぐらいだ。シードやリシャールは昨日のように怒り顔を見せてはいなかった。
「私についての処遇が決まったと・・・?」
一礼してから女王に尋ねる。
「ええ、ヨシュアさんやレンさんからの話を聞いて、あなたについて少し誤解していたことに気づいたのです。ご自身で言うような冷酷なことはしていないと」
「・・・買いかぶりすぎです。私はどう繕っても殺人者ですよ?」
「・・・それでもです!」
少し悲しそうな表情を浮かべながら、アドルを眺め違うと言い切った。
「昨日はアドルの事をよく知らずに悪口を言ってしまって申し訳ない」
リシャールとシードも詫びる。
「別に私は気にしていませんから」
「それでアドルさんの処遇ですが・・・・・・」
「ええ、やっと本題ですね?」
佇まいを正してアリシア女王が告げる。
「アドルさんには護衛を頼みます。クローゼの横で護衛するか、影ながら護衛するかはアドルさんに任せますが一つだけ誓って欲しいことがあります」
「なんでしょうか?」
「それは全ての危険から守って欲しい・・・。ただ一つだけです」
「分かりました。アリシア女王が、私のことを高く買って下さったのですからそれに答えたいと思います」
「そうですか。良かった・・・」
その場に漂っていた張り詰めた雰囲気が
「私はどのぐらいの立場になるのでしょうか?」
「立場・・・ですか?」
「例えばですけど、原因を作った犯人などに対してどの程度私の自由になるのか・・・と言うところです。尋問なり、拘束なりしてこちらに引き渡すような場合も想定しないといけませんし・・・」
「そうですわね・・・。ユリアには准佐を与えていますので、アドルさんには非公式に中佐の位を与えておきます。リシャールさんたちもよろしいですか?」
「構いません。そのぐらいが妥当と判断します」
「私も妥当だと思います」
リシャール、シードの順に告げてそのままアドルの地位が決定された。
「あとこれをどうぞ」
「何ですか?なになに・・・『この書状を持つ者に犯人やその疑いのある人物への尋問を許可する』って私が言いたいことは全て網羅していたというわけですか?敵いませんね、女王には」
少し笑みを浮かべて答える。
「そのほうがあなたにとっても動きやすいでしょう?」
「そうですね。あと私に仕事はありますか?」
「アルタイル市のほうに今は使われていませんが、疑わしい拠点があるそうです。早い内に搜索、もしくは壊滅をお願いしたいです」
「拠点と言うと・・・。教団関係ですか?」
「その可能性が高いです。リシャールさんからいただいた情報なので信憑性は高いと思います」
教団関係と聞いて、アドルは少し顔を歪めた。無関係ではないからだ。
「アドルさん?どうかしましたか?」
「そういえば言ってませんでしたね。ユリアさんやクローディア姫が居ない間に言っておきましょうか。私と教団は切っても切れない関係ですよ」
「「「っ・・・」」」
誰もがグっと息を呑むのが分かった。
「私は実験には関わっていませんが、教団の核とも言える人物と深い関係があることをここに告げておきます。これがこれから影響を及ぼすとしてもその子のしたいようにさせるだけです」
「アドルさん・・・」
「「・・・・・・」」
アリシア女王はアドルの名前を呟くのが精一杯。あとの二人は青ざめた表情を浮かべた。
「そんなに深刻に考えないで下さい。非人道的な事には一切関わっていないつもりですので。これからはどうなるか分かりませんが・・・」
「それで君はいいのか?」
リシャールの声が聞こえてくる。
「えっ?」
「君は人生を諦めていないか?僕には投げやりになって自暴自棄になっているようにも聞こえるのだが・・・?」
「私はただ人と人とを結ぶだけですので、投げやりであると感じることがあっても仕方のないのかもしれません。それでもあなたたちが、思い悩むことではないんですよ」
肩をすくめて三人に対して、言う。
「そう・・・ですか。何か困ったことがあればいつでもおっしゃって下さって構わないんですよ?」
「アリシア女王の心遣いに感謝を表したいと思います」
そのまま一礼して部屋を後にした。このまま話を続けてもよかったが、今は会いたくない気配が二つ近づいて来ていたからだった。
こうしてアドル・マオはクローディアの護衛を正式に引き受けることにした。アリシア女王の心温まる配慮により犯罪者と言うレッテルが貼られてもおかしくないのに、不問にしてもらった。
アドルは、リシャールからもたらされた情報を頼りにアルタイル市へと急ぐのであった。今は使われていない拠点だったとしても存在すること自体が許されない場所だからだ。
「見つけて潰さないと・・・。あれから機能していないと信じたいが、どうなっているか分からない状況で動くのは不確定要素が多すぎて怖い。聖杯騎士に頼るは最後の手段にしておくか。ルフィナに最近会わないけど何してるんだろうな?」
少ない荷物を纏めてホテルの部屋を引き払い、空港からクロスベル市へそしてアルタイル市へ向かうことに決めたアドルだった。
アドルはガイ・バニングスが亡くなったことは知っていますが、ルフィナが亡くなったことについては知りません。