今回の話には碧の軌跡のネタバレがふんだんに含まれております。原作をこれからプレイされる方はお気を付け下さい。
と言っても独自解釈のところもありますので、あまり危惧しなくてもいいかもしれないです
アドルがクロスベルに着いたのは夕方になってからだった。クロスベル駅は閑散としていていたが、どこかで聞いたことのある声を聞いたのでそちらに意識を向けてみた。
「・・・・・・大丈夫?どこか怪我してない?」
見ると、記念祭中に両手に花状態でデートした姉妹が抱き合っているのを目撃した。その他にも支援課のロイドとエリィ、それとワジと呼ばれる青年を見た。これが新しい支援課のメンバーらしかった。キーアと呼ばれる支援課が保護した幼女もそこにいた。
「キーアは元気だねぇ。でも俺は・・・・・・」
関わってもネガティブな自分を吐露しそうだったので、反対側のホームに移って駅から退出することに決めた。行くところもあったしね。クロスベルを離れる前に行きたかったがそうできなかったので、早く済ませておこうと思った場所・・・・・・それはIBCだった。
「口座に不明金が入っているから呼び出すか・・・。それにしたってクロイス家か・・・」
IBCの玄関を通り、受付の女性に話しかける。
「ようこそ、いらっしゃいました。どんなご用件でしょうか?」
「こんにちは、要件は私の口座の内容について呼ばれたので参上しました」
「お名前を伺ってもよろしいでしょうか?」
カタカタと音を立てながら、端末を操作している女性を見ながら名前を伝える。
「アドルです。アドル・マオと言います」
「アドルさんですね。えっ、アドル・マオですか?少々お待ちください」
受付の女性の手が小刻みに揺れ、動揺しているのがはっきり見える。どうしたのだろうか。
「・・・。なんなんだ?」
「お待たせしました。このキーを使って16階へ登り総裁室へお通りください。ご用件はそちらで伝えられるそうです」
ポーカーフェイスに戻りきれていない女性の案内を聞きながら首を傾げるアドル。
「ああ、ありがとう」
どういう事?まぁ、会えばそこらへんの事情も分かるさ。
エレベーターの内部に設置された装置に貰ったキーを通すと、静かな音を立てて上昇を開始した。
―――ポーン―――
「ここか・・・・・・。おっ、いい眺めだなぁー」
エレベーターを登って目的の階層に着くと、クロスベル市を一望できる窓があった。少し離れたところには新しいタワーがお披露目を待つ形でベールがかけられていた。
「っと、待たせても仕方がないから早く行くとしよう・・・・・・」
――コンコン――
『どうぞ、おはいりになって・・・・・・』
少し若い女性の声がする。IBCの総裁はディータと呼ばれる人ではなかっただろうか。あっ、そう言えばあの人は市長になったもんなぁ・・・などと、考えながら部屋の中に入った。
「失礼します。アドル・マオと言います。今日はどんな要件でここまで呼ばれたのでしょうか?」
「ふふ、そう固くならないでください。受付では到底話せそうにない話でしたので、こちらまでご足労願ったというわけです。挨拶が遅れました。私はマリアベル・クロイスと申します。父が市長になりましたので仮ですが私が責任者となりました」
「そうでしたか。自分と同じぐらいか、少し年下ぐらいの年齢でしたので驚いてばかりです。してお話と言うのは?」
「ええ、アドルさんの口座に入っているミラの事です。口座が二つありまして片方が限度額の10億ミラ入っております」
「へっ?」
それは寝耳に水な状態だった。そこまで預金が存在していただろうかと不安にも思った。
「そして、もう片方には7億5000万ミラ入ってます。どのようにそれだけの額を、集めることが出来たのかに関して理由をお聞かせいただけないでしょうか?」
「・・・・・・」
開いた口が閉じられないとはこのことだ。多分情報料が積もり積もったとしか考えようがなかった。
「自分の仕事は情報屋です。一応それで納得してくれませんかね?」
「詳しくなくても大丈夫です。犯罪に利用されていなければそれで構わないのです。それにしても貯めましたね?」
「まぁ、知らぬ間に増えたとしか言いようがありませんわ」
二人して苦笑いを浮かべながら話を続けた。
「先程アドルさんは情報屋と言いましたが、どんな情報を持っているのですか?」
「それはどの程度の情報です?」
少し雰囲気が和んでいた状態から重苦しいものへと変化していたのでアドルもそれに倣う。
「お任せします」
「フム・・・。では申しましょう。マリアベルさんが返事しなくてもそれは肯定と判断しません。私が独り言を言うだけと思ってください」
「面白いですわね。私のことはベルとお呼びくださって結構です」
「ではベルさんと呼びます。ベルさんの家系、クロイス家に関してですが」
「っ・・・。どうぞ続けてくださいな」
動揺したように見えたがそれを追求せずに話す。
「クロイス家は過去数千年に渡り錬金術を扱い続けている家系ですね。目的はデミウルゴス。七つあるとされている至宝の管理者であり、その再現しようと
「面白いですね。続けてどうぞ・・・」
「ただの人間では無い。至宝再現の為の
「・・・どうしてそこまで知っているんですの?」
「私は、暴露する気はあっても脅迫するつもりはないことを伝えておきますよ。それを踏まえたうえでお答えします」
すぐにでも飛びかかってきそうなベルを横目で、見ながら落ち着かせようと和ませ言葉を紡ぐ。
「これは、ね・・・。クロイス家でも把握していないことですが、七つあるとされている至宝は実は八つあるんですよ」
「なっ、そんなはずは無いわ・・・」
「あるんですわ。そしてその持ち主がそう
「それでアドルさんは何を考えていますの?ここまでの情報を知っておきながら、何もしないということはないですよね?」
「敢えて言うなら我が君を守ることだけに使いたいですね。それと大事な大事な妹を守るために・・・ね」
「我が君?それに妹?」
「私が仕えている人ですよ。それに妹に関しては最後まで言わないつもりですが・・・」
「そうですか。では、私たちがこれからしようとしていることに気づいていると・・・・・・そう思っても差し支えはないですか?」
「大まかにこうするだろうなー。ぐらいには・・・。しかしそれでも我が君と妹の害にならない限りは中立を保ちますので・・・」
「そう・・・ですか?」
突っ張る雰囲気を
「でも情報屋としての仕事っぷりだけでここまで知り得たとは信じられないのですが?」
「・・・・・・それを告げるように出来る時まで保留ってことで」
「分かりましたわ。どうやら生半可なことではアドルさんに敵わなさそうなので、今は満足することに致します。今日はご足労くださってありがとうございます。またいつでもいらっしゃってくださいね。少しあなたに興味が湧きましたので」
立ち上がり挨拶をしようと振り返るとそこには、ウインク一つと妖艶な雰囲気を醸し出すマリアベルがいた。
「お、おぅ。また来るよ」
どもりながら返事を返すのが精一杯だった。これからこの物語はどのように転がっていくのだろうか。それはまだ誰にもわからない。
リーシャ=本当の妹・・・でなくなりました。どうしましょ・・・。