最近まで住んでいた旧市街の家まで戻ってきたアドル。一旦、契約を解除していたが戻ってくるような気がしていたと言う大家さんのご好意により、そのまま空部屋になっていたところにもう一度契約し直して住むことが出来た。疲れたアドルは最小限の荷物を片付けることもなくベッドに横になった。
・・・そして次の日の朝。けたたましく鳴るエニグマの音で目覚めたアドル。嫌々ながらエニグマを取るとダミ声の太い声が響いた。
「おう、アドル・マオかい?俺だ、俺だ!シグムントだ!」
うるさい声に一気に目が覚める。
「あー、シグムント・・・・・・。ってシグムント・オルランドかっ?」
「おーよ。懐かしいなぁ。元気にしていたかい?」
「あんたの声を聞いて一気に目覚めたわ!」
「ガハハハ・・・。それはそれはすまない事をした・・・・・・。で、今近くまで来ているんだが、会えないだろうか?少し話したいこともあるのでな」
豪快に笑うシグムント。だが、空元気な雰囲気を出していることに気づきアドルはそのことに不安を感じた。
「どうした?昔会った時よりも静かじゃねぇか?それも話したいことに繋がるのかい?」
「・・・・・・お、おぅ」
「フム・・・・・・。ではこれから再会でいいかい?」
「助かる。では俺は西クロスベル街道をぶらついている。・・・は、早く来るんだぞ?」
「フッ。ああ、またな」
そう言う会話をして早々にエニグマを切った。
「しかし、どうしてあんなに覇気が無いのだろうか。昔初めて会った時には覇気に溢れていたというのに・・・。会いたいなんて人間らしい事を考えるんだな」
街道に出る用意をしながらそんなことを考えもする。その答えは再会した時に判明するであろうと考えそのまま準備を続ける。
「そういやぁ、シャーリィは綺麗になっただろうか・・・?まぁ、あの胸だったら成長はしないだろうが・・・・・・」
「懐かしいなぁ。まだあの時はオドオドしていたのに・・・。俺が不機嫌で出していた覇気にビビりながら自己紹介をしていたっけなぁ・・・・・・」
「さすがにそれは忘れて欲しかったですが・・・・・・」
「おっ?シグムントじゃないかっ。久しいなぁ」
思い出し笑いをしながら一人で歩いている様子は、少し不気味だったのかもしれない。話しかけてきたシグムント・オルランドは引きつった表情を浮かべながらアドルの前方から歩いてきていた。
「ええ、元気ですよ。私とシャーリィは・・・・・・」
「って、事は元気じゃないやつもいるってことかい?」
「はい、団長が逝きました・・・・・・」
「っ。そっか・・・・・・。で、相手は?」
「西風の旅団との一騎打ちで相打ちです。多分、満足して逝ったと思います」
空を見上げて初めて死合をした時のバルデルを思い出した。あの豪快さが、もう二度と見ることは出来ないと思うと自然に涙が溢れてきた。
「ありがたいことです。兄貴をアドルが覚えていてくれて・・・・・・」
「忘れることは出来ないよ。俺と闘った相手なんだからさ」
「ええ・・・・・・」
しばらくの間、二人で上空を眺めその後思い出話や最近の情報を交換し合う。
「そう言えばどうしてシグムントがここにいるの?」
「えっ・・・・・・?」
でも、俺のこの質問は想定外だったのかもしれない。尋常じゃない脂汗がシグムントから流れてきたからだ。
「えっ・・・じゃなくてどうしてここにいるの?あんたがいるって事は他の連中もココにいるってことでしょ。さぁさぁ白状しなさい!」
逃走を阻止するために、見えないように加工された鋼糸で両足だけ拘束しておく。案の定、次の瞬間走り出そうとしたからだ。だがすぐに鋼糸に阻まれて重そうな体は地面に這い蹲る。
――ピーン、ズダッ――。(鋼糸が張りシグムントが転げる音)
「グエッ・・・・・・。こ、これはアドルの鋼糸?いつのまに・・・・・・」
コントのようにスパーンと地面に直接土下座。痛めた顔面をさすりながら、目を凝らしてみると両足にアドルの武器である鋼糸が巻かれていた。
「逃走防止にね。さぁちゃっちゃと白状しな。それとも尋問、拷問その他色々やっちゃてから口を割らせるほうが早いかもしれないだろうし・・・・・・。5,4,3,2,1・・・」
「ま、待って・・・・・・。待って下さい」
カウントダウンを始めると焦ったように口を挟んできた。
「・・・・・・」
地面にあぐらをかいているシグムントと同じ高さまで、つまりこちらもあぐらをかいて話を聞く体勢に移った。
「西ゼムリア通商会議に関連して鉄血宰相に雇われました・・・・・・」
「へぇ・・・。あの人も随分と派手なことを仕出かすもんだなぁ。で、それだけじゃないでしょ?」
「へっ?それだけはっ、それだけは・・・・・・勘弁してくださいっ」
ホッとしたのも束の間、次の追求には泣きが入ったシグムントだった。
「ふぅん。まぁ俺に敵対しなきゃいいし。あ、あと会議中にリベールの代表に傷つけなきゃ別に関与しないよ。それ以外は中立を取るから」
「それでいいのですか?」
「ぶっちゃけ、リベール命だからね。あとは・・・その時に
「アドルさんがそう言うなら。こちらもそのように団員に伝えておきます」
「お願いね。あ、あとクロスベルに来るのかい?他にもいそうな感じがするんだが?」
「ええ、総出とまではいきませんが。八割がたの連中は一緒に来ていますよ。シャーリィもここにはいませんが一緒です。会いに来てやってください」
「分かった、分かった」
「では、俺はここで・・・失礼します」
律儀にも頭を下げてからアドルの前から離れていく。行った方向はクロスベル方向だった。
「へぇ・・・。少し力ついたみたいだね。これだったら闘い?できるかもな。その前に・・・」
中途半端なところで話を切り後ろを振り向く。とそこには、大型魔獣が首をもたげていた。
「待っててくれたの?・・・そんなハズ無いのは分かってるケドさ!タイミング良さげだから言いたくなるじゃん!」
両手に鋼糸を展開し意識を集中する。
「はあぁぁぁぁ・・・」
「ギャアァァァッ!!」
とても耳障りな魔獣の激昂が煩くて両手の鋼糸計35本でぶつ切りにする。
「
「グアアアァァァァ・・・・・・」
断末魔は次第に聞こえなくなり、そのまま綺麗に真っ二つに切り裂かれる。時間が止まったかのように裂かれたあとに緑色の体液が地面を滴り落ちて汚していく。
「ま、こんなモンか?街道に出ているということはもしかして遊撃士か支援課で要請されていたりしてな・・・・・。そんなことはないと思っておくか」
展開していた鋼糸を袖に仕舞い込み、歩くことを再開する。
「これからクロスベルは難しい局面に陥ることになるだろうな。でも、俺は歩くのを止めるわけにはいかない。俺の妹の為とクローゼの為にも。あと俺に好意を抱いてくれる女性たちの為にも・・・」
その後、ノックス森林道へと進んで行ったがそこではランディがグノーシス漬けになった警備隊の連中を元に戻す手助けをしている以外は、特に変わった事はなかった。
「やれやれ、ランディも甘くなったものだ。シグが見たらどう思うだろうか。赤い星座・・・、ランディの古巣と闘わねばならぬのか。それとも回避できるのだろうか。それも未だ暗闇の中にあるな」
アドルは不思議な言葉を紡ぎながら、森林道を後にしてクロスベル市へと戻るのであった。
・断罪
鋼糸を10~40本ほど操作して針のように刺す、もしくは切り刻むなど凡庸性の高い技。
・簡単な強さ表(一般人を10とする)
アリアン・ロード220 兜割り後270
アドル200 第二形態270
シグムント170
アリオス165
シャーリィ120
ランディ117 ランドルフ140