銀の兄【修正版】※半分凍結中   作:泡泡

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最凶最悪な強者ども・・・

 

 やっとのことで、クロスベルに帰ってくることが出来たアドルは疲れた足を引きずって家路へと向かっていた。しかしここで新たな再会が待っていた。それは・・・。

 

 「アドル(にぃ)ーっ!」

 

 後ろからどこかで聞いたことがある声で呼ばれたので振り返った。厳密に言えば振り返ろうとしたと言うのが正しいだろう。(かす)かに甘く、それでいて濃厚な血の匂いを漂わせる少女に抱きつかれたのだ。

 

 「っ・・・。シャーリィ?」

 

 「うんっ。そーだよぅ・・・。もしかして忘れちゃったのかと思ってドキドキしてたんだぁー」

 

 あどけなさが残っている表情を浮かべてくるのはシャーリィ・オルランド16歳。天真爛漫の無邪気な性格をしているが、戦闘狂で“人喰い虎”に(たと)えられている。

 

 「昔と変わっているところと、変わってないところがあったからすぐ・・・ではないけど気づいたよ」

 

 「よ、良かったぁ。エヘヘヘ・・・。でもぉ、今の発言で気になったんだけど変わってないところってどこぉ?ま、まさかむ、胸・・・・・・とか?」

 

 「・・・・・・」

 

 シャーリィの胸が昔から比べて膨らんだとか無く、胸ぺたんなままだった。それで凝視していたのかその気配を察知したシャーリィからの冷たい視線に晒された。

 

 「胸・・・・・・無いの嫌い?」

 

 「いっ、いやぁそうじゃないよ!」

 

 

 全力で否定しても泥沼のような気がする。その証拠に今、歓楽街にいるのだが通行人の視線が突き刺さる。

 

 「私もエリィみたいにおっきかったらアドル(にぃ)に見てもらえるのかなぁ・・・・・・」

 

 ぐずりだしたシャーリィを見て通行人の視線が更に痛く、そしてヒソヒソ話が始まった。

 

 『いやだわ、あんな小さな子を泣かせて・・・兄弟かしら・・・・・・?』

 

 

 ――兄弟でないです・・・――。

 

 『それがねー。さっきの仲睦まじいのを見ていると付き合っているそうよー』

 

 ――付き合ってもいません・・・――。

 

 『そうらしいわね。と言う事は仲違いをして別れ話の真っ最中かしら・・・・・・?気になるわね』

 

 ――付き合いも無いのに別れ話なんてしてませんっ・・・――。

 

 「・・・・・・」

 

 「ぐすっ・・・・・・ぐすっ・・・。アドル兄ぃ。アタシじゃダメ・・・なの?」

 

 暑くないのにダラダラと汗が滴り落ちる。尋常じゃないぐらいの重圧がのしかかってくるようだ。さっさと場所を変えないと噂話のせいでここにいられなくなる。

 

 「わ、分かったから場所を変えるよ」

 

 「ふえっ?う、うん・・・。(アドル兄の体温が間近で感じられるー)」

 

 慌てふためいてもどうしようもないので、世間一般に言うお姫様抱っこをしてその場を切り抜けようとする。後ろから聞こえてきた声は全部無視しよう。

 

 『あら、いやだわ。さっきまで喧嘩していたのにすぐに仲直りして・・・。若いっていいわねー』

 

 『痴話喧嘩かしら?タイムズ紙に投稿しようかしら?』

 

 ――止めてっ、俺のライフはゼロよっ――

 

 

 場所を変えて・・・と言っても裏通りのバーに入ったわけだが、そこはさっきと違って落ち着いた雰囲気を出していた。ジャズのような音楽が静かに流れ、やっと話をする環境が整った。

 

 アドルの正面には今まで泣いていたはずのシャーリィが笑って座っていた。無邪気と天真爛漫と言う言葉が当てはまるように、人を(もてあそ)んでいたのだろうか?

 

 「・・・で。どうしてここにいるんだ?まさかお前も通商会議絡みか?」

 

 「んー。誰から聞いたの?」

 

 「シグから直接聞いて(尋問して)・・・」

 

 「そっかぁ。うん、そーだよっ!(聞いちゃいけない単語が聞こえたような気がしたけれども聞かないほうがいいよね・・・)」

 

 身を乗り出し顔をこちらに近づけてから言う。

 

 「ったく。戦争でもおっぱじめる気ですか?と言いたいわ・・・。はぁ~メンド・・・・・・」

 

 「っ・・・・・・」

 

 戦争と言った瞬間にビクッとシャーリィの肩が動いたのは気づかないふりをしておこう。面倒くさいからな。

 

 「ここにいる間の泊まるところはあるのか?」

 

 「も、もしかして(にぃ)といれる?」

 

 「いや。ただの社交辞令だ」

 

 「ぶぅぅ・・・・・・、ケチ~。ちゃんとあるよ。アド(にぃ)が心配するようなことは一個もないよ」

 

 「そっか・・・」

 

 そしてその返事を最後にしばしの沈黙が訪れた。

 

 「あっ、忘れてた」

 

 その静けさを打ち破ったのはシャーリィだった。

 

 「どした?」

 

 「行くところがあったんだ。アドル兄にも来てもらいたいんだけど・・・。この後って暇?」

 

 「遅くならないようだったらええよ」

 

 「ほんとっ!やったぁ♪」

 

 喜ぶ仕草を見ていると、年齢相応の無邪気な少女と言う言葉はぴったり当てはまるんだがなぁ。

 

 「あのねー。近くに商会?をもったのー!」

 

 「ん?商会だって?もしかしてクリムゾン商会のことか?」

 

 「うん、そう。って、アドル兄はもう知ってたの?」

 

 「一応、これでも情報屋やってるんだぜ」

 

 「そっかぁ・・・。兄の知らないことを教えて褒めて貰おうと思ったのにぃー」

 

 ガックリ肩をうなだれてしまった正面に座る少女。

 

 「まぁ、俺に隠せることなんぞ少ないと思うよ」

 

 気休めにもならない言葉を投げかける。

 

 「そ、そうだよね。カンは鋭いし情報網も広いから隠すこと自体が出来ないし。さっ行こー」

 

 気休め程度でも少し気分は上向きになったようだ。グイグイとアドルの体を引っ張り、バーの外へと連れ出す。そして向かう先は隣のルバーチェの跡地だった。そこにはシグムントと一応、初対面の青年がなにやら話し合っていた。

 

 「アドルも来てくれたのかい?」

 

 「シグ・・・・・・。シャーリィに連れられてねー」

 

 「ええっーその言い方じゃあ無理矢理連れてきたみたいな言い方じゃないの?」

 

 「だってねぇ・・・。ほら見てよ」

 

 そう言うとアドルは、ガッチリとホールドされた自分の左腕を見せる。そこには当たり前のようにシャーリィが両手で捕まっていた。

 

 「フム・・・アドルさんは嫌ですか?」

 

 「嫌じゃないが・・・・・・。そちらの人は一応初対面だね?」

 

 「ボクかい?そうだね、はじめまして・・・だね。あなたには知られていると思いますが、レクター・アランドールと言います。よろしくですね」

 

 「ハハッ。俺はアドル・マオだ。レクター・アランドール大尉・・・と呼ぶべきかな?」

 

 少し笑いながら会話を交わす。

 

 「シグがここの跡地を所有するとは・・・。少し意外だったよ」

 

 「まぁそれなりに・・・・・・レクターには頑張ってもらいましたから・・・」

 

 「詮索はしないでおくよ。それよりもよく見知った気配がこちらに向かってくるよ。多分ランドルフあたりじゃないか?」

 

 「そうか・・・」

 

 数分後、いきり立ったランディがこちらのほうに歩いてくるのが見えた。

 

 「伯父貴、シャーリィ・・・・・・」

 

 「あはははは、久しぶりだねランディ(にい)

 

 「2年ぶりか。変わってないようだな」

 

 やっとのことでここまで来た支援課のメンバーが合流した。

 

 

 「ランディ・・・!」

 

 「き、昨日の人たち・・・・・・!」

 

 「怪しい連中が揃い踏みか・・・・・・」

 

 ロイド、ノエル、ワジの順に話す。

 

 「ハハ、やっぱりこの彼氏。このオッサンの身内だったか・・・。そっくりな髪の色だったからまさかとは思ったけどよ~」

 

 アロハシャツのような服にサンダル履き、それにサングラスを頭に乗せたレクターが言う。

 

 「レクター大尉、どうしてあなたがここに?」

 

 「今回の買収について何か関係しているんですか?」

 

 ロイド、エリィがレクターに尋ねる。

 

 「ああ、ちょいと裏工作をね。いや~何とか黒月(ヘイユエ)のメガネを出し抜けてよかったぜェ」

 

 「ふふっ、楽しみだなぁ。東方人街の時は撤退したけど、今度は思いっきり遊べそう!」

 

 「東方人街・・・」

 

 「去年カルバートでやらかした黒月(ヘイユエ)との“戦争”か。なぁ伯父貴(おじき)、どうしてクロスベルに来た?いったいなにをするつもりだ?」

 

 「クク・・・ビジネスに決まってるだろう。それよりもランドルフ、貴様に伝えておくことがある。兄貴が逝ったぞ」

 

 「・・・・・・・・・ぇ・・・・・・」

 

 ショックで何を言われたのか分からないランディ。続けてシグムントが言う。  

 

 「半年ほど前だ。西風の頭と相討ちだった」

 

 「長年の宿敵同士の【闘神】と【猟兵王】の決着!もう、ホント凄かったんだから!」

 

 「・・・はは、そうか。・・・・・・あのクソ親父。最後まで戦いながら逝ったってことか。・・・満足そうだったろ?」

 

 「うん!すっごく楽しそうだった。あの時ほどじゃあなかったけど二番目かなぁ。いいなぁシャーリィもあんな相手が欲しいよ(アドル兄とはまだムリだけどねー。闘っても1分持つか・・・本気になったら持たないだろうなぁ)」

 

 「兄貴も悔いは無いだろ。・・・どこぞで迷ってる不肖の息子のこと以外はな」

 

 「・・・・・・!」

 

 「休暇は終わりだ、ランドルフ。いずれ話があるから、身体を()けておくといい」

 

 シグムントがランディに背を向け、買い取った建物の扉の方を向いてランディに話す。

 

 「それじゃあ、お疲れさん~」

 

 「またね、ランディ兄~。アドル兄はどうする?」

 

 「帰るさ。一緒に行くような雰囲気にはならなかったしね」

 

 今まで忘れ去られていたようなアドルにシャーリィが声をかける。そこにいた支援課メンバーは今気づいたようだった。

 

 三人はそのまま建物の中に入っていく。

 

 「ランディ・・・」

 

 「ランディ先輩・・・・・・」

 

 「あの2人、ランディの・・・・・・?」

 

 ロイドたちに、背中を見せた状態で俯き黙るランディにエリィ、ノエル、ロイドが順に声をかける。

 

 「ああ・・・」

 

 振り返りランディが更に告げる。

 

 「”赤い星座”の副団長、シグムント・オルランド。その娘で部隊長の一人、シャーリィ・オルランド。俺の伯父貴と従妹(いとこ)で・・・・・・最強最悪の戦鬼どもだ」

 

 「それにしてもどうしてここに貴方がいるの?」

 

 ふと気づいたかのようにエリィがアドルのほうを向いて言う。

 

 「シャーリィに拉致られてここまで連れて来られた。・・・それだけさ。ロイドは何やら勘ぐっているようだが、別調べられてやましい事はないさ。あとのことはランディに聞いたほうが早いと思うぜ」

 

 言うことを言うとさっさと(きびす)を返してその場を後にする。その場所には支援課の面々だけが残った。

 

 そしてその話の終わりを待っていたかのように、小雨だった雨は雷を伴った大粒の雨へと変化していった。

 

 その大粒の雨の中、ランディの慟哭が裏通りに響いた。

 

 




 お気づきのとおりシャーリィもヒロイン候補の一員です。

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