ランディ視点での話です。
その日は足どりが重く、鉛のようになっていたがロイドたちは親切に俺を迎え入れてくれた。支援課のビルに数ヶ月ぶりに帰ってきたというのに感慨深いものなんて見当たらなかった。そんな時だった。
伯父貴とシャーリィとの思いがけない再会で、戸惑う俺にロイドが話しかけてきた。
「なあ、ランディ・・・?」
「ん。どした相棒?」
「あの場ではあまり関わらなかったけど、あのアドルと言う人物についてランディは詳しく知っているのかなって思って・・・・・・。今までも謎の多い人だったけど敵になるのか、味方になるのかはっきりしておきたいんだ」
「お前・・・」
「でも、俺たちはアドルについてあまり知らないしけれど。さっきのランディとの会話からするに、アドルと言う人物について少しでも知ってそうだったら・・・教えてほしい」
「・・・分かった。俺はアドルに昔会っている。・・・と言うかそれは忘れられない遭遇だったんだ」
「忘れられない遭遇・・・?先輩それはどういうことですか?」
ロイドと話している時にノエルが加わった。
「私も詳しく聞きたいわね」
背後に般若のオーラを漂わせた
「俺が知っているアドルと言う男は一流の男だった。今もだが・・・。俺が初めて会ったときは“西風の旅団”と小競り合いをしている時だった。どこからともなく現れた青年・・・それがアドルだった」
懐かしいなと言いながら昔話を始めた俺にみんなが聞き入っていた。
「そして赤い星座の団長と互角の闘いをしながら、戸惑っているようでもあった。戦闘狂というわけでもなさそうだったが、強さは人間の限界を超えている強さだった。そして狂喜乱舞と言う二つ名を持っていた」
「狂喜乱舞・・・?」
「ああ、名前の由来ははっきりしていないが本人も嫌っているようだった。だからアドル自身が好きで付けたわけではなさそうだ」
「私も聞いているとゾッとします。私たちと同じ人間という気がしません。人外なのではないでしょうか?」
「ノ、ノエルさん?ちょっと言いすぎじゃないかなぁ?」
「ノエルやお嬢の言い分もわかるけどなァ・・・。あれっ?」
「ランディどうした・・・?」
ふと思い出したような感覚に陥り、ロイドがすかさず聞いてくる。
「あいつは誰かを探しているようだった。あとフルネームは・・・・・・」
――トゥルルルルルッ・・・トゥルルルル・・・・・・――
俺が思考の奥に眠っている記憶を思い出そうとしていると、支援課に設置されている通信器がけたたましく鳴り響いた。みんなは俺の話に聞き入っていたので、ビクっと体を震わせたヤツもいた。それにその場の雰囲気に耐えられずに、その通信が入った時に深呼吸をした。
まさか・・・。と思う気持ちはあった。確信・・・とまではいかないけれども、もしかして。
――ガチャッ・・・・・・――。
『もしもし、こちらクロスベル警察・支援課ランディです・・・』
『やぁ、ランディ。さっきぶりだねェ。元気にしているみたいで良かったよ』
『っ、アドルさんですか?』
俺の予想は当たっていた。なんだろうと後ろで見守っていた仲間にも緊張が走る。
『そう、俺ー。妙な感じがしたから連絡してみたんだけど、俺の話してなかった?』
『・・・。ええ』
『そっかぁ。じゃあ、忠告だよっ!』
――この感覚の正確さはなんだろうか。見張っている・・・?いや、その推論は間違っているだろう。証明できない――
『あーっ、見張っているとか考えた?残念だけど違うんだよなー。今は教えることができないんだけどいつかは教えるから・・・・・・ネ?』
こちらが考えていることを的中させられて心底焦った。悪いことをしているわけでないのに咎められた感じ。それを押し殺すように冷静な口調にして聞く。アドルさんには気づかれているかもしれないけれどね。
『な、なんでしょうか・・・?』
『そんなに
『やはり・・・』
『やはりって・・・。昔の自己紹介を覚えてたんだね。まぁ、厳密に言えば違うんだけどネ。変な勘ぐりされてたら消すしかなくなるからね?』
一瞬、寒気が走った。通信器越しに殺気を当てられたのだろう。頭のてっぺんから足の先までの、血液が凍ったような感覚に
『っ・・・ええ、分かってます。用件はそれだけですか?』
『もう一つ。確定しているんじゃないけど支援課は通商会議の時、警備に当たるよ?それだけ、じゃあね?』
何を言われたのかわからなかった。思わず聞き返したけれど、通信器からは何の声もしなかった。言いたいことだけ言ってあっさり切ったようだ。
「ラ、ランディ?」
「・・・・・・どした?お嬢」
振り返るとロイドたちが不安そうに見つめていた。エリィが代表して声をかけてきたみたいだ。
「ランディの服。汗でびっしょりよ・・・・・・」
「わ、ホントです。先輩の服が水をかけられたぐらいにぐっしょり濡れています!」
ノエルも駆け寄ってきて服を見、そして驚く。俺も自分の服を手で触ってみた。あぁ・・・アドルさんの覇気に当てられて知らず知らずの内に汗をかいていたのか、と納得した。
「ランディ・・・。大丈夫か?」
「おっ、ロイド心配してくれるのかぁ。いやぁ嬉しいねェ・・・・・・。ああ、大丈夫だよ」
「そうか、それならいいんだ」
最初はおちゃらけていたが、ロイドの真面目な眼差しに俺も真剣になって答えた。
「それでアドルさんは先輩に何を言ったんですか?」
「アドルの暴露話してたのがバレた。あと恥ずかしいから昔のことはサラッと流してくれ。言わないで欲しいことはこれだー。って釘を刺されたよ」
「そ、そうなんだ。ねぇ、ランディ?シャーリィって子と仲良さげに見えたけれどそこらへんはどうなの?」
「ん、お嬢気になるのか?シャーリィは強い奴に一目惚れしているだけさ。お嬢が気になっているようなことは無いさ」
よかったぁ・・・。と溜息をつくエリィを見て、本性知ったらどうなるんだろうと人知れず冷や汗を流すランディだった。
「ともかく、アドルについての情報は欠けているところもあるけど、無視できるレベルではないってことだ。テロリストではないにしても心の片隅に置いておいたほうが良さそうだ」
「まっ、そんくらいかな」
「ええ、釈然としないけど分かったわ」
「了解であります」
ロイドの締めの言葉にランディ、エリィ、ノエルの順に答える。
(それにしてもアドル・マオかぁ。リーシャとは兄妹か何かなのだろうか。ちょっと聞いてみたい気がするけれども、真相を知るのはまだ早いみたいだ。興味本位で近づいてしまうのも駄目だと言う訳か)
思案するランディを横目で見るロイドだったが、先程とは違ってとてもリラックスしている様子だったので放っておいた。
(支援課は警備に当たる?ま、まさかそんな予言みたいなこと言われても・・・ねぇ。これは分かるまで俺だけの中に秘めておこう)
アドルの能力の一つ“真実の瞳”となります。これは予言まではいきませんが予測、予告、予報ぐらいの確率で近日起こる事が視えるというものです。
アドルの強さについてですが研究レベルと戦闘レベルが超一流です