銀の兄【修正版】※半分凍結中   作:泡泡

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 ウルスラ病院に来た新しい教授のお話です。原作6割、オリジナル4割


碧の軌跡~西ゼムリア通商会議~
新しい教授


 

 ――『西ゼムリア通商会議』各国首脳を招いた国際会議が、ディータ・クロイス新市長の提唱で開催されようとしていた。――

 

 ――同時にそれは、完成したばかりの新市庁ビルのお披露目を兼ねていた。通称『オルキスタワー』。地上40階、高さ250アージュとなる大陸史上初の超高層ビルディングは、今や大陸中の人々の関心を呼んでいた――。

 

 そして、各国首脳がクロスベル入りをし、オルキスタワーが公開される前日の事。支援課のメンバーも駆り出され、警察本部の対策会議に呼ばれていたのはアドルの知らないことだったようだ。そのアドルはどこにいるかと言うとアリシア女王と連絡を密に取っている最中だった。

 

 『それであなたは決めたんですか?』

 

 いつものように全てを知っているかのような落ち着いた口調が通信器から響いてくる。

 

 『ええ、決めました。私は姿を現してクローディアを守ろうと思います。それがどんな結果になったとしてもそうします!』

 

 『・・・・・・』

 

 通信器は少しの間、沈黙に包まれた。そして・・・。

 

 『分かりました。やっとアドルさんの気持ちも固まったようですし、私がとやかく言うような状態を乗り切ったということですね。とても喜ばしいことです・・・。ホホホ・・・・・・』

 

 『全く、アリシア女王だけにはいつまで経っても勝てませんね・・・。こうなると予想はしていたみたですし・・・・・・』

 

 『ふふふ・・・。全てが分かっていたわけではありませんが、あくまでもアドルさんの性格から分析した結果ですよ?』

 

 年の功と言うべきだろうか・・・、いややめておこう。アリシア女王と話した結果、気持ちが落ち着いたのは事実だ。その事を感謝して通信を終えた。アリシア女王のほうからクロスベルにおける護衛の追加のことは、クローディアに伝えるが誰が護衛なのかは伏せておく事にした。そのほうが面白いからと言う理由だ。

 

 

 「まったく、アリシアさんも人が悪いんだから。でも、クローゼとユリアと会う・・・のか?俺は心のどこかでまだ怖がっているんだな」

 

 

 しばしの間、目をつぶり黙想する。目を開けた時ふと用事を思い出した。それは聖ウルスラ病院に新しく着任した薬学・神経科の教授の確認だった。裏の社会にもヨアヒムの起こした事件は広まっており新しく来る教授がどんな人物なのか確かめて欲しいとの要望だった。

 

 「さて、行きますか」

 

 着いて早々、少し読みが甘かったのかもしれない。それは支援課のメンバーと鉢合わせをしてしまいそうになったからだ。支援課にも新しい教授に会う要請が来ていたのだろう。仕方がないので前回も行なったやり方で聞くことにした。

 

 聞こえてきた話は度肝を抜くものだった。

 

 「脳のリミッターですか?」

 

 ロイドの声が聞こえてきた。

 

 「よし、ここなら聞けるな・・・。ん、あれが新しい教授か。セイランド教授?知っているのが来たか」

 

 アドルの知り合いのようだ。どうして知っているのかは割愛させてもらおう。

 

 

 「そもそも人間というものは本来持っている身体能力の半分も使えないとされている。身体への負荷を減らすため、脳が引き出せる能力に無意識の制限をかけるからだ。このリミッターを外すことができるなら理論上その人間が持つ限界までの能力を、発揮できるようになるはずだ」

 

 「つまりグノーシスとは普段使われていない潜在能力を強引に引き出す薬というわけだね?」

 

 「その通り。無論、無意識にかかっていたリミッターを外せば、体への負担は相当なものだがな」

 

 ワジの質問に肯定する教授。

 

 「確かに教団事件後、警備隊のやつらは相当疲弊してたみたいだからな。しばらくは指一本も動かすのもキツイ有様だったようだし・・・・・・。まぁ、カンを取り戻すのも早かったが」

 

 「カンと言えば、高まったツキとカンを頼りにギャンブルで連勝をしていた人もいましたね。それと同時に性格や言動が豹変していたようでしたが・・・。それらもグノーシスが、脳のリミッターを外しているからで説明がつくのでしょうか?」

 

 ランディ、エリィの話が聞こえてきた。

 

 「うむ、そう考えていい。この薬には五感の働きを飛躍的に高める作用も確認されているからな。副作用として神経質になり、情緒不安定な状況になることも分かっている。それが凶暴な性格への変化につながるのだろう」

 

 「なるほど・・・」

 

 「確かに説明がつきますね・・・」

 

 ロイド、ノエルが相槌を打つ。

 

 「だが、あくまで生化学的に説明できるのはここまでだ」

 

 「え・・・・・・?」

 

 次に聞こえてきた教授の答えに一同動揺する。更に・・・。

 

 「いくつかの効能については非科学的としか言いようがない。具体的には、先ほども話に出たツキを呼び込むという効能・・・そして君たちも何度か目撃した魔人化(デモナイズ)という肉体変異現象だ」

 

 「た、確かに・・・」

 

 「そいつがあったか・・・・・・」

 

 「魔人化を引き起こすのは紅いタイプのグノーシス・・・。やはり蒼いタイプの物とは異なる成分だったんですか?」

 

 「それなんだが・・・・・・」

 

 エリィ、ランディ、ロイドの声に続いて教授は言いにくそうに言う。

 

 「実は蒼いタイプと紅いタイプのグノーシスには成分的に何ら変わりはない。少なくとも生化学的に考えてだがな」

 

 支援課とアドルを含め、6人に驚きが走る。

 

 「そ、そうなんですか?」

 

 「ああ、あの色の違いは精製時の処理の差によるものだ。主成分に何ら違いはないし、分子構成もほぼ一致している。にもかかわらず、紅いタイプは肉体変異などという説明不可能な現象を引き起こしている。正直、魔人化というのが君たちが恐怖のあまり見た“幻覚”と考えるのがしっくり来るぐらいだ」

 

 「いやそれはさすがに・・・・・・」

 

 「アーネスト秘書の魔人化はあたしも目撃していますし・・・」

 

 「判っている。だからここまでが限界なんだ。グノーシスと言う薬物の正体を生化学という分野からのみで解き明かすというアプローチではな」

 

 「なるほど・・・・・・」

 

 「最先端の近代医療の担い手にしてはずいぶん殊勝な意見だね?」

 

 ロイド、ワジが意見を述べる。

 

 「近代医療は万能ではないさ。こと心と魂の問題についてはな。そしてグノーシスはおそらく、それらと肉体を共鳴させるような何らかの働きを秘めているんだろう。多分、ヨアヒムもグノーシスの全貌は掴めていなかったに違いあるまい。教団に伝わっていた秘儀を元に試行錯誤しながら完成させ、量産化に成功しただけのはずだ」

 

 「確かに本人もそのようなことを認めていたような・・・・・・」

 

 「ああ、各地で行なわれた儀式のデータを元に、試行錯誤しながら完成させたと言っていた」

 

 「ふむ、やはりそうか。ヤツは有能で熱意もあったが天才というほどズバ抜けた発想の持ち主ではなかった。それが悪い方向に出てしまったか・・・・・・」

 

 「ひょっとして、ヨアヒムと個人的な知り合いだったりするんスか?」

 

 「ああ、ヤツがレミフェリアの医科大学で学んでいた頃の同輩さ・・・。それにもう一人の彼も・・・」

 

 最後の一言はロイドたちには聞こえなかった。しかし、アドルには聞こえていた。

 

 「彼女も覚えていたのか。ではあの時の処置は完全ではなかったということか・・・。まだまだ改良するところがありそうだ」

 

 

 部屋の中ではまだ話が続いていたがアドルは観察をやめることにした。

 

 「ここまででよさそうだ。どうやら新しい教授は知り合いだし、問題なしとしておこう。では、余った時間で病院内部を見学でも・・・・・・」

 

 これが懐かしい再会を引き起こしたのかもしれない。正面玄関のほうへ降りようとしたが、通路を間違えてしまい病院関係者の部屋へと通じる道を歩いていた。

 

 「いやはや、迷ったね。まぁ、どうにかなるでしょ・・・・・・ん?今、聞いたことのある名前を呼んでいる声がした・・・?」

 

 『ガイ・・・。どうして、どうして私を置いていったの?』

 

 「確か・・・葬式の時にロイドと一緒にいた女性・・・・・・?話をしてみよう、か」

 

 ――コンコン・・・――。

 

 控えめにノックしてみる。ハッと息を呑む音がしてほどなくしてドアが開かれた。

 

 「どちら様ですか?」

 

 「いきなりで申し訳ない。迷ってこの通路に出たとき、私の知っている知人の名前を呟いているのが聞こえて・・・ね」

 

 「・・・そうでしたか。はじめまして・・・ですよね?」

 

 「ええ、葬式の時あなたを見てはいますが直接会うのは初めてですよ。申し遅れました。俺はアドルと言います。よろしくです」

 

 「私の名はセシル・ノイエス。ここの看護師を勤めています。どうぞ入ってください」

 

 「失礼します」

 

 部屋に入ると本棚の所にセシル、ガイ、ロイドの三人で写っている写真があった。

 

 「へぇ・・・」

 

 「あなたとガイの関係って?」

 

 「私とガイは飲み友達ですよ。そうは見えないかもしれないですが」

 

 (いぶか)しむセシルにアドルは告げる。

 

 「21歳の時に仕事で知り合って、(なか)ば強引に酒を勧められたんです。あれほど楽しかったことは最初で最後だったのかもしれないですね」

 

 「そう・・・・・・」

 

 この後アドルは幾つもの思い出話をセシルに話して聞かせた。ほとんどが初めて聞くような話だったのだろう。アドルがガイの思い出を話す間ずっと、セシルは目を少し閉じたりして聞いていたことから、きっと思い出しながら楽しむことができたに違いない。

 

 少しの時間が過ぎた。部屋の外から気配がする。どうやらロイドたちがセシルの部屋にきたようだ。

 

 「っと、俺は帰るよ」

 

 「・・・楽しかったわ。また来て下さい。歓迎するわ」

 

 「ああ、またな」

 

 ドアを開けた時に鉢合わせしないように部屋の窓から外に出る。飛び降りると言ったほうが正しいかもしれにない。振り返るとセシルが手を振ってくれていた。

 

 ふとその時だった。セシルの背後にぼやけて映る女性の姿があった。

 

 「あれは・・・・・・」

 

 アドルの瞳が紅く染まる。そしてもう一度セシルを見ると・・・。

 

 「聖女ウルスラ・・・か。久しいな・・・。と言う事はセシルは聖女ウルスラ末裔か何かだろうか?」

 

 

 




 紅く染まった瞳で何を見る?【解析の瞳】

 ・効果

 物や人物の全ての有り様を見分ける。アーツであれば未確認のものであっても解析し、自分のものとする。クラフトでも同様のことを行なう

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