銀の兄【修正版】※半分凍結中   作:泡泡

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 アドルに対するこれまでの気持ちをクローゼ視点で纏めたものです。


閑話・姫の気持ち

 

 私が、ここまで心をかき乱された男性というのは数少ない・・・いいえ、他にはいないでしょう。そのぐらいの存在だということを最近知りました。ユリアさんも同じのようです。私とユリアさんで決めた約束にはお互いが納得できる形でアドルさんと付き合うということも含まれていた。

 

 だけど、一度ならず二度も誤解から生じる別れを経験してしまった。一度目は、アリシア女王の護衛後に私が我が儘を言った時突き放したことだ。何とも言えない表情を浮かべながら誰にも言わずに消えていった。残されていたのは私とユリアさんに贈られたネックレスだけ。

 

 二度目は再会して嬉しかった。リシャールさんたちがアドルさんを悪く言う事も分かりますが、私は純粋に楽しんでいました。そう、あの時までは・・・。アドルさんの行方を探して資料室に入ろうとしていた時ユリアさんとキスしているように思えたんです。誤解であるとアドルさんが言う事は分かりましたが、私の口は止まりませんでした。

 

 『アドルさんなんてどっかに行けばいいんだわ・・・・・・』

 

 言ったあとに自分の失敗に気がつきました。あれほど冷や汗をかいたことは無いと思います。それだけアドルさんの表情が、冷たく濁った瞳で私とユリアさんを見ているんですから。私が言った事を撤回することもできたはずです。

 

 『ア、アドルさん。殿下も本気でそう思っておられないはず。咄嗟に出た言葉でしょうから安心して下さい』

 

 ユリアさんも必死になって説得をしようとしていたが、どうにもできなかった。だって、後ろ向きに下がりながら強く握り締めた拳からは鮮血が滴り落ちていたんですから・・・。少量の血を見ることはあったとしても廊下を汚すだけの血を見たのはあまりない経験。恐れと戦慄を覚え私の体が硬直したのを覚えています。

 

 『殿下・・・。大丈夫ですよ。きっと、時間が経てばアドルさんも元に戻ってくれるはずです。ですから明日一番にアドルさんの部屋を訪れて謝ってみましょう。私も着いて行きますから・・・・・・』

 

 『ええ、そうね。そうしましょうか・・・・・・』

 

 ユリアさんと抱き合い、心の欠けた者同士で慰めあった。だけど、結果は“遅かった”の一言だった。その日の内に・・・もしくは追いかけて行って聞き入れてもらえないかもしれないけれど・・・。

 

 ――一言伝えておけばよかった――

 

 『えっ、アドルさんいらっしゃらないの?』

 

 次の日、謁見の間に着いた私たちを待っていたのは想像もできなかった言葉だった。なんでも昨晩のうちにここを出て行ったというのだ。それも私に対する拒絶とも言える言葉を残して出て行ったのだ。私はもう諦めた。ユリアさんが何かを言っていたけど、それでもアドルさんの事を自分の中から除外して公務に打ち込んだ。

 

 打ち込んでいる間は良かった。仕事をしているときは思い出さないからだ。でも・・・一息ついて自室に戻ると思い出すの。アドルさんと会話したあの夜のことを・・・。事細かに、全ての場面でのアドルさんのセリフを空で言えるぐらい思い出すことができている自分がいた。

 

 私が元通りになるまでには時間が必要でした。それだけ私の中で必要だった存在なのでしょうね。それはユリアさんにも同じでした。ふと気がつくと呆然としている様子を何度も目撃しました。一度、親衛隊を(はず)されそうになったこともありました。

 

 私もユリアさんも、これだけ依存していたんだなぁと改めて実感しました。叔母様から聞いた私の護衛という仕事に就いたと言うのは初耳でした。護衛に就くのであればまた会えるでしょうと・・・。クロスベルで開かれる通商会議というものに私は出席することになりました。

 

 ――少しの不安と大きな期待を持って・・・――。

 

 アルセイユで待っていた時に聞き慣れた声が部屋の外から聞こえてきた時には驚きました。やはりという感情と驚きと半々ぐらいで・・・。わ、私の顔は大丈夫でしょうか。なんてどうでもいいことが頭の中を駆け巡りました。そこに立っていたのは思い出の中にあるそのままの人。

 

 駆け寄って胸の中に収まりました。そして両手でアドルさんの胸を何度も何度も叩きました。軽くですけれど。『ゴメンなぁ』と繰り返すだけだったので、私も何も言えずただ泣くだけでした。それでも何も言わずに胸の中で泣かせてくれました。・・・す、少し恥ずかしいですね。ですがあの方の前では私はただの少女でいられるのです。

 

 我に返った時には、支援課の皆様を呼んでいることをド忘れするぐらいいっぱいいっぱいでした。それでも涙を流しすぎたせいで赤く染まった顔を誤魔化してくれて『可愛いクローゼの出来上がり』って言われた時にはもぅ・・・・・・。と、とにかく私はこれで元に戻れそうです。

 

 ・・・・・・でもね、アドルさん。私だけを優先して守らなくてもいいんですよ。嬉しいですがそんなに背負わなくてもいいと思います。ですから今度、アドルさんの背負っているものも教えてくださると嬉しいですよ。分かっているんでしょうか?私とユリアさんは執念深いですよ?

 

 絶対に逃しませんよ?向こうから離れようとも何十年でも恋焦がれ慕い続けますよ?

 

 ――ウフフフフフフ――

 

 





 ・・・前の話ではここまで執念深くは無かったと思いたい・・・。

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